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#32 真っ黒い人影
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落雷は「ピリリたち」を直撃した、ように見えた。
しかしpotentiaで上昇した心を持つ俺には、はっきりととらえることができた。
刹那、「ピリリたち」が発した電撃が落雷を迎えに伸び、そのまま近くの地面まで誘導したのを。
姉貴はすぐさま次の攻撃に移ろうとした――それも感知できたから、俺は前へと大きく跳んだ。
「ピリリたち」と姉貴たちとの間へ。
「姉貴! こいつは敵じゃない!」
「ピリリたち」をかばうように大きく手を広げ、姉貴たちへ向かって立ちはだかる。
それと同時に「ピリリたち」へは、『会えて嬉しい』や『俺が守る』や『敵じゃない』なんかの想いを矢継ぎ早に『送信』した。
幾つも送った感情込みの意思のうち、唯一「ピリリたち」から『わからない』が返信されたのは、『誤解なんだ』という送信イメージのみ。
確かに『交信』で会話する彼らにとっては、理解できない概念かもしれない。
そして新たに送られてきたイメージが『見つけた』と『俺と同じ種族が倒れている』イメージ。
しづさんを見つけて教えてくれたときと同じ――だた違うのは、そのイメージの人型が真っ黒いモノに覆われていたこと。
その黒い人影は、薄暗くて距離もあるが、それでもやはり人の形に見えた。
「ピリリ、その倒れている人のところへ連れて行ってくれ」
あえて口にした。「ピリリたち」へ『送信』した内容と同じことを。
すると「ピリリたち」は俺のケツの下へと鼻先を突っ込み、軽く持ち上げる。
俺の体は宙に舞う。ブランコで立ち漕ぎしてそのままジャンプしたときみたいに。
「ピリリたち」が何をしたいのかはすぐに伝わったので俺は自身の身体をひねって回転を加え、「ピリリたち」の首のあたりへストンとフライング着席した。
「この子が案内してくれるから、行ってくる」
「わ、私も」
姉貴はそう言いかけて、口をつぐんだ。
たった今、「ピリリたち」へ攻撃してしまったことを気に病んだのだろう。姉貴は責任感が強いから。
「安心して。遠そうだから、時間かかるかもだけど」
言葉を選ぶ――俺が、姉貴を気遣うなんてな。
「詩真くん、気を付けて!」
ハッと気がついた表情の椰子間比嘉さんが慌てて『了承』をくれる。
俺は「ピリリたち」へ『案内してくれ』と送信した。
「ピリリたち」は驚くほど揺れなかった。
六本足で走っているのだが、空中を滑空しているように感じる。
しかし風圧はとんでもないので、身を低くして「ピリリたち」の首へしがみついた。
視界の端に映るシーンは次々と変わる。
森の中を、平原を、荒れ地を、ぐんぐん進んでゆく。
体感で数時間は過ぎた。
クソ珠のやつ、全く迷惑かけやがって――という考えはそろそろ改め始めていた。
遠すぎる。
いくらなんでも、珠の身体能力がpotentiaで上昇していたとしてもだ。
それに「ピリリたち」から送られてきたあのイメージを落ち着いて思い返すと、闇をまとっているというよりは、黒焦げの焼死体っぽくもあった。
無駄足かも、という考えも浮かんでいる――「ピリリたち」には伝わってしまわないよう気をつけているが。
かといってここまで来て確認しないで戻るってのはない。
確実に人型だし。
俺はとにかく周囲とここまでのルートの観察を重視し、余計なことは考えないように努めた。
それからさらに数時間。日も暮れてきた。
坂道を登っているようで、スピードが少し落ちた。
ようやく揺れだす。指の力が試される。「ピリリたち」に鱗があって良かった。
上半身を起こしてバランスを保とうとする。
起伏の少なくない斜面。
草木は全く見当たらず、赤茶けた石がゴロゴロと転がっている荒れ地。
火星の地表の写真を見たことがあるが、あれに近い。
見上げた稜線に見覚えがある。その頂上付近から立ち上がる噴煙にも。
仮拠点付近から木に登って確認したあの山脈、その手前に一つ、小さな火山のようなものがあった。
この斜面のずっと先にある山頂の印象がその火山によく似ている。
風にさらされて冷え切っていた体が、今は暑さを感じている。
ずっと居心地の良い森の中でばかり暮らしていたので忘れかけていたが、これが「自然」なのだなと気を引き締める。
しかしもうかなり暗くなってきた。
これで見つけることなど――「ピリリたち」が立ち止まり『送信』する――なるほど、これは広範囲に対するソナーのようなものか。音波じゃなく電波だけど。
俺も真似てみる。
何度か試すうちにコツがつかめてきた。
しかもこれ、地形もある程度は把握できるんだな。
「ピリリたち」が向かおうとしている洞窟の位置も、着く前に知ることができた。
その洞窟は天井がそんなに高くないため、「ピリリたち」から降りて一緒に歩くことにする。
熱気が増してゆく。
支給品の足袋もどきの布地ごしに足の裏へ伝わる熱も感じる。
そのまましばらく進むと、次第に洞窟自体が広がってゆく。しかも向こうがほんのり明るい。
さらに進むと見えてきたのは、まるで映画のセットみたいな溶岩池。
ふと「ピリリたち」が立ち止まる。
「ピリリたち」から送ってもらった『倒れている真っ黒な人のイメージ』は、あの溶岩池のすぐ近くっぽかった。
なるほど。
「ピリリたち」が俺のためにちょっと無理してここまで来てくれたのだと感じる。
『ピリリたち、ありがとうな。教えてくれて。連れてきてくれて』
『嬉しい』
『俺も嬉しいよ。ここからは俺一人で行くから、無理しないで外へ出てて』
『交信』のみの会話を終えると、「ピリリたち」は俺の鼻先へ、自分の鼻先をゴンっとぶつけた。
これは「ピリリたち」の挨拶の一つ。昔はちっちゃかったから気にならなかったけど。
入口の方へと引き返す「ピリリたち」を見送った後、俺は溶岩池へと近づく。
さっきの『電波ソナー』みたいな広範囲なやつじゃなくとも感じとれる。
人間のネガティブな感情の混ざりあったものがあの岩の陰からダダ漏れている――ってことは、生きている?
あの黒焦げ状態で?
まさか死体になっても活動できるゾンビ系vis?
もしそんなんだったら、逃げよう。戦いたくないし。
「イリヤケルキャン?」
さすがに足音に気付いたのか、そんな声が岩陰から飛んできた。
同時に漏れているのは『誰かいるの?』という疑心や不安の感情。
女性っぽい声だがクソ珠ではないし、ヨツデグレイっぽくもない。
そして生きている確定。
もしかして、塔内には、ヨツデグレイさんたち以外にも知的種族が居るのかな? 人間の黒焦げ死体に似た外観の。
「イリヤケルキャン?」
さっきより大きな声。『不安』と『恐怖』が増えている――これは、早く反応した方がいいな。
「います」
と、ついとっさに出たのが日本語。
「I'm here」
続けて英語を添えたのは、「ピリリたち」が『俺と同じ種族』と伝えてくれていたから。
もしかして、地球の他の塔から、この塔へ空間移動的なvisを持っている地球人かもしれないし。
それに俺が使える日本語以外って英語だけだし。
「イトゥヴジャポネ? イトゥヴアメリキャン?」
ジャポネ? アメリキャン? これ、日本語や英語を認識しているよね?
「日本人です」
試しにそう答えてみた。
「……ジャア、スキナ、マンガ、タイトル、オシエテ」
たどたどしい日本語が返ってきた――マンガのタイトル?
マジか。
何の試練なのかはわからないが、ここは答えるべきと判断した。
海外にも届いてそうなマンガを幾つか思い浮かべてから首を振った。
好きな、って言ってただろ。
じゃあ、これしかない。俺が中学の引きこもり時代に一番読み返したお気に入り作品を。
「ダンジョンご飯」
「ワタシ、サクルシル、ダイスキ!」
人差し指を立てながら笑顔で岩陰から飛び出してきたのは、全裸の金髪美少女だった。
とっさに横を向き、視界から美少女を外す。
「アアアアアアアアアッ!」
美少女が岩陰に再び隠れたのを感じる。
俺は自分の腰紐をほどき、支給浴衣もどきも脱ぎ、その二つを岩陰のすぐ横へと置いた。
「着てください。俺の着ていたやつで申し訳ないけど。あと俺はずっと目をそらしてますから」
「……カタジケナイ」
衣擦れの音がしばらく続き、それから「イイヨ」という声がした。
そこそこちゃんと着れてはいる。
しかし、日本の女性陣が下着がわりに胸に巻いていたサラシがないのと、この熱気で汗ばんでいるのとで、真っ白い浴衣もどきは美少女の肌に張り付いて体のラインをしっかり際立たせてしまっている。
自分の股間へ『平静を保つ』よう一生懸命『送信』する。
「キモノ、アリガトウ、ゴザイマス」
「いえいえ、こちらこそ」
「アナタ、ドウヤッテ、ココ、キタ?」
あ、脅かしちゃマズいよな。「ピリリたち」のことも説明しておかなきゃ。
「俺は塔の中に友達がいるんです。塔の中の生き物で、かなり大きなトカゲみたいな子。その友達が、倒れている人がいるって教えてくれて、俺をここまで運んでくれたんだ」
「トモダチ、ステキ……ニンゲン、ヒトリ?」
「うん。ここへ来たのは俺と、そのトカゲの友達だけ。そして、ここは日本の塔の中だけど、君はどうやってここへ?」
「……シヌ、ツモリ、ダッタ。デモ、シヌ、デキナカッタ」
会話をしながら気付いた。
この金髪美少女、フランスの塔で失踪したっていうフランスの聖女様によく似ている。田平が局所画像を集めていた、あの事件の。
### 簡易人物紹介 ###
・国館川 詩真
主人公。現実より塔の方が居心地が良い。visは公的には『異世界通訳』だが微細な電気の流れを送受信できる。伊薙探索特別班。支給浴衣を謎の美少女に与えたので、現在フンドシとサラシ、足袋のみ。
・国館川 亜貴
姉。羞恥心<探究心な姉。ご立派(推定G)。visは『雷』。責任感が強く嘘が苦手。伊薙探索特別班。
・椰子間比嘉 良夢
自衛隊員。男性。探索隊B→Aチーム入り。色黒で元野球部キャッチャー。既婚者。伊薙探索特別班。
・伏猿 晶乃
自衛隊員。女性。マッチョ自慢で腹筋を触らせようとしてくる。伊薙探索特別班。
・伊薙 珠
元幼馴染(推定D)。話が通じない。visは『闇』。詩真への恋慕と暴言を爆発させ塔内へ逃走。
・田平 己輝
詩真の拉致に加担した、顔のパーツが中央に寄っている丸顔の自衛隊員。26歳男性。無類のおっぱい好き(特技はカップ推定)。情報通。
・謎の全裸金髪美少女
なぜか日本の塔の奥地に居た。日本語が少しできる。マンガ好きっぽく、詩真と好きな作品がかぶった。
・フランスの聖女
身体部位を再生するvisを持つ。厳密には「再生」ではなく自身の肉体で「置き換え」ているっぽい。そのため下半身を失った男性に女性の下半身が再生された。その男性は医師である身内に見せるため局部画像を撮ったが、最終的にSNSへ流出して自殺。聖女自身も、本人のものではないにも関わらず「聖女の局部」としてバズったデジタル・タトゥーのせいで塔内へ失踪していた。
・デンキトカゲ
交信能力を持つ六足トカゲ。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けたが、群れが蛹を経て一個の生物に。蛹化終了後、巨大化して再会。
・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た四腕の人型種族。交信能力を持ち、平和的で親切。子供には母乳ではなく素嚢で整えた甘い液を与える。
しかしpotentiaで上昇した心を持つ俺には、はっきりととらえることができた。
刹那、「ピリリたち」が発した電撃が落雷を迎えに伸び、そのまま近くの地面まで誘導したのを。
姉貴はすぐさま次の攻撃に移ろうとした――それも感知できたから、俺は前へと大きく跳んだ。
「ピリリたち」と姉貴たちとの間へ。
「姉貴! こいつは敵じゃない!」
「ピリリたち」をかばうように大きく手を広げ、姉貴たちへ向かって立ちはだかる。
それと同時に「ピリリたち」へは、『会えて嬉しい』や『俺が守る』や『敵じゃない』なんかの想いを矢継ぎ早に『送信』した。
幾つも送った感情込みの意思のうち、唯一「ピリリたち」から『わからない』が返信されたのは、『誤解なんだ』という送信イメージのみ。
確かに『交信』で会話する彼らにとっては、理解できない概念かもしれない。
そして新たに送られてきたイメージが『見つけた』と『俺と同じ種族が倒れている』イメージ。
しづさんを見つけて教えてくれたときと同じ――だた違うのは、そのイメージの人型が真っ黒いモノに覆われていたこと。
その黒い人影は、薄暗くて距離もあるが、それでもやはり人の形に見えた。
「ピリリ、その倒れている人のところへ連れて行ってくれ」
あえて口にした。「ピリリたち」へ『送信』した内容と同じことを。
すると「ピリリたち」は俺のケツの下へと鼻先を突っ込み、軽く持ち上げる。
俺の体は宙に舞う。ブランコで立ち漕ぎしてそのままジャンプしたときみたいに。
「ピリリたち」が何をしたいのかはすぐに伝わったので俺は自身の身体をひねって回転を加え、「ピリリたち」の首のあたりへストンとフライング着席した。
「この子が案内してくれるから、行ってくる」
「わ、私も」
姉貴はそう言いかけて、口をつぐんだ。
たった今、「ピリリたち」へ攻撃してしまったことを気に病んだのだろう。姉貴は責任感が強いから。
「安心して。遠そうだから、時間かかるかもだけど」
言葉を選ぶ――俺が、姉貴を気遣うなんてな。
「詩真くん、気を付けて!」
ハッと気がついた表情の椰子間比嘉さんが慌てて『了承』をくれる。
俺は「ピリリたち」へ『案内してくれ』と送信した。
「ピリリたち」は驚くほど揺れなかった。
六本足で走っているのだが、空中を滑空しているように感じる。
しかし風圧はとんでもないので、身を低くして「ピリリたち」の首へしがみついた。
視界の端に映るシーンは次々と変わる。
森の中を、平原を、荒れ地を、ぐんぐん進んでゆく。
体感で数時間は過ぎた。
クソ珠のやつ、全く迷惑かけやがって――という考えはそろそろ改め始めていた。
遠すぎる。
いくらなんでも、珠の身体能力がpotentiaで上昇していたとしてもだ。
それに「ピリリたち」から送られてきたあのイメージを落ち着いて思い返すと、闇をまとっているというよりは、黒焦げの焼死体っぽくもあった。
無駄足かも、という考えも浮かんでいる――「ピリリたち」には伝わってしまわないよう気をつけているが。
かといってここまで来て確認しないで戻るってのはない。
確実に人型だし。
俺はとにかく周囲とここまでのルートの観察を重視し、余計なことは考えないように努めた。
それからさらに数時間。日も暮れてきた。
坂道を登っているようで、スピードが少し落ちた。
ようやく揺れだす。指の力が試される。「ピリリたち」に鱗があって良かった。
上半身を起こしてバランスを保とうとする。
起伏の少なくない斜面。
草木は全く見当たらず、赤茶けた石がゴロゴロと転がっている荒れ地。
火星の地表の写真を見たことがあるが、あれに近い。
見上げた稜線に見覚えがある。その頂上付近から立ち上がる噴煙にも。
仮拠点付近から木に登って確認したあの山脈、その手前に一つ、小さな火山のようなものがあった。
この斜面のずっと先にある山頂の印象がその火山によく似ている。
風にさらされて冷え切っていた体が、今は暑さを感じている。
ずっと居心地の良い森の中でばかり暮らしていたので忘れかけていたが、これが「自然」なのだなと気を引き締める。
しかしもうかなり暗くなってきた。
これで見つけることなど――「ピリリたち」が立ち止まり『送信』する――なるほど、これは広範囲に対するソナーのようなものか。音波じゃなく電波だけど。
俺も真似てみる。
何度か試すうちにコツがつかめてきた。
しかもこれ、地形もある程度は把握できるんだな。
「ピリリたち」が向かおうとしている洞窟の位置も、着く前に知ることができた。
その洞窟は天井がそんなに高くないため、「ピリリたち」から降りて一緒に歩くことにする。
熱気が増してゆく。
支給品の足袋もどきの布地ごしに足の裏へ伝わる熱も感じる。
そのまましばらく進むと、次第に洞窟自体が広がってゆく。しかも向こうがほんのり明るい。
さらに進むと見えてきたのは、まるで映画のセットみたいな溶岩池。
ふと「ピリリたち」が立ち止まる。
「ピリリたち」から送ってもらった『倒れている真っ黒な人のイメージ』は、あの溶岩池のすぐ近くっぽかった。
なるほど。
「ピリリたち」が俺のためにちょっと無理してここまで来てくれたのだと感じる。
『ピリリたち、ありがとうな。教えてくれて。連れてきてくれて』
『嬉しい』
『俺も嬉しいよ。ここからは俺一人で行くから、無理しないで外へ出てて』
『交信』のみの会話を終えると、「ピリリたち」は俺の鼻先へ、自分の鼻先をゴンっとぶつけた。
これは「ピリリたち」の挨拶の一つ。昔はちっちゃかったから気にならなかったけど。
入口の方へと引き返す「ピリリたち」を見送った後、俺は溶岩池へと近づく。
さっきの『電波ソナー』みたいな広範囲なやつじゃなくとも感じとれる。
人間のネガティブな感情の混ざりあったものがあの岩の陰からダダ漏れている――ってことは、生きている?
あの黒焦げ状態で?
まさか死体になっても活動できるゾンビ系vis?
もしそんなんだったら、逃げよう。戦いたくないし。
「イリヤケルキャン?」
さすがに足音に気付いたのか、そんな声が岩陰から飛んできた。
同時に漏れているのは『誰かいるの?』という疑心や不安の感情。
女性っぽい声だがクソ珠ではないし、ヨツデグレイっぽくもない。
そして生きている確定。
もしかして、塔内には、ヨツデグレイさんたち以外にも知的種族が居るのかな? 人間の黒焦げ死体に似た外観の。
「イリヤケルキャン?」
さっきより大きな声。『不安』と『恐怖』が増えている――これは、早く反応した方がいいな。
「います」
と、ついとっさに出たのが日本語。
「I'm here」
続けて英語を添えたのは、「ピリリたち」が『俺と同じ種族』と伝えてくれていたから。
もしかして、地球の他の塔から、この塔へ空間移動的なvisを持っている地球人かもしれないし。
それに俺が使える日本語以外って英語だけだし。
「イトゥヴジャポネ? イトゥヴアメリキャン?」
ジャポネ? アメリキャン? これ、日本語や英語を認識しているよね?
「日本人です」
試しにそう答えてみた。
「……ジャア、スキナ、マンガ、タイトル、オシエテ」
たどたどしい日本語が返ってきた――マンガのタイトル?
マジか。
何の試練なのかはわからないが、ここは答えるべきと判断した。
海外にも届いてそうなマンガを幾つか思い浮かべてから首を振った。
好きな、って言ってただろ。
じゃあ、これしかない。俺が中学の引きこもり時代に一番読み返したお気に入り作品を。
「ダンジョンご飯」
「ワタシ、サクルシル、ダイスキ!」
人差し指を立てながら笑顔で岩陰から飛び出してきたのは、全裸の金髪美少女だった。
とっさに横を向き、視界から美少女を外す。
「アアアアアアアアアッ!」
美少女が岩陰に再び隠れたのを感じる。
俺は自分の腰紐をほどき、支給浴衣もどきも脱ぎ、その二つを岩陰のすぐ横へと置いた。
「着てください。俺の着ていたやつで申し訳ないけど。あと俺はずっと目をそらしてますから」
「……カタジケナイ」
衣擦れの音がしばらく続き、それから「イイヨ」という声がした。
そこそこちゃんと着れてはいる。
しかし、日本の女性陣が下着がわりに胸に巻いていたサラシがないのと、この熱気で汗ばんでいるのとで、真っ白い浴衣もどきは美少女の肌に張り付いて体のラインをしっかり際立たせてしまっている。
自分の股間へ『平静を保つ』よう一生懸命『送信』する。
「キモノ、アリガトウ、ゴザイマス」
「いえいえ、こちらこそ」
「アナタ、ドウヤッテ、ココ、キタ?」
あ、脅かしちゃマズいよな。「ピリリたち」のことも説明しておかなきゃ。
「俺は塔の中に友達がいるんです。塔の中の生き物で、かなり大きなトカゲみたいな子。その友達が、倒れている人がいるって教えてくれて、俺をここまで運んでくれたんだ」
「トモダチ、ステキ……ニンゲン、ヒトリ?」
「うん。ここへ来たのは俺と、そのトカゲの友達だけ。そして、ここは日本の塔の中だけど、君はどうやってここへ?」
「……シヌ、ツモリ、ダッタ。デモ、シヌ、デキナカッタ」
会話をしながら気付いた。
この金髪美少女、フランスの塔で失踪したっていうフランスの聖女様によく似ている。田平が局所画像を集めていた、あの事件の。
### 簡易人物紹介 ###
・国館川 詩真
主人公。現実より塔の方が居心地が良い。visは公的には『異世界通訳』だが微細な電気の流れを送受信できる。伊薙探索特別班。支給浴衣を謎の美少女に与えたので、現在フンドシとサラシ、足袋のみ。
・国館川 亜貴
姉。羞恥心<探究心な姉。ご立派(推定G)。visは『雷』。責任感が強く嘘が苦手。伊薙探索特別班。
・椰子間比嘉 良夢
自衛隊員。男性。探索隊B→Aチーム入り。色黒で元野球部キャッチャー。既婚者。伊薙探索特別班。
・伏猿 晶乃
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身体部位を再生するvisを持つ。厳密には「再生」ではなく自身の肉体で「置き換え」ているっぽい。そのため下半身を失った男性に女性の下半身が再生された。その男性は医師である身内に見せるため局部画像を撮ったが、最終的にSNSへ流出して自殺。聖女自身も、本人のものではないにも関わらず「聖女の局部」としてバズったデジタル・タトゥーのせいで塔内へ失踪していた。
・デンキトカゲ
交信能力を持つ六足トカゲ。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けたが、群れが蛹を経て一個の生物に。蛹化終了後、巨大化して再会。
・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た四腕の人型種族。交信能力を持ち、平和的で親切。子供には母乳ではなく素嚢で整えた甘い液を与える。
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これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
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