最弱攻撃力スキルが実は最兇だったところで俺が戦いたくないのは変わらない

だんぞう

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#33 精神的全裸

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 多分向こうも気付いたと思う。俺が彼女を「あの聖女」だと気付いてしまったことに。
 俺の表情を見た途端、笑顔が消えたから。
「ヤッパリ、シッテル、ダヨネ」
 うつむいた彼女から再び漏れ始める感情――『不安』、『羞恥』、『後悔』、『男に対する恐怖』――さっき作った女性の股間画像を削除して回る義ウイルスがうまく動いてくれてるといいけど。
 本当は「もう心配ないよ」と言ってあげたい。
 でも、ちゃんと動いてくれてなかったらと思うと、ぬか喜びはさせたくないし。
 いやそれよりも「知っている」ということで俺も「見た」みたいに思われるのがなんだか嫌だった。
 俺がSNSでフォローしているアカウントには田平ただいらみたいな下世話なアカウントはいないし。
「失踪したというニュースでお顔を拝見しました」
 だから表現を濁した。
「ハイケン?」
「見ました、の敬語です」
 正確には謙譲語だけど、そこまで説明すると話がそれる。
「ケイゴ……ウィ、アイテ、ウヤマウ、ヒョウゲン。ニホンゴ、ムズカシイ、ダケド、ステキ」
 彼女のこわばっていた表情は少しだけ和らぐ。
「ワタシ、ハッケン、オネガイ、シラセル、ナイ、ホシイ」
 知らせないでほしいということかな。
 まあ気持ちはわかる。
「……ワタシ、ハズカシイ、オモイ、シタ」
 だよな。
「わかった。誰にも知らせない」
「アリガトウ。ワタシ、ウレシイ」
 そう言う割には、彼女の表情はくもったまま。
「そうだ。ご家族にも知らせないでいいの?」
 家族をほっぽらかして散々ジェノラン探索を満喫していた俺が、どの口で言うんだよって自覚はある。
「カゾク、シラセル、ソレナラバ、ミンナ、バレル」
 本当は家族には知らせたいって感じだよなぁ。
 俺の『送信』が、ジェノラン聖域サンクチュアリウムの外側まで届いたとしても、彼女の家族を特定して送るのは――あっ、メールならいけるのか?
「例えば、君がご家族宛ての手紙の内容を俺に伝えて、俺がジェノランの外へ戻ってから、メールを書いて、送信する、なんて作戦とかはどうだろう?」
「ワタシ、カゾク、ニホンゴ、ワカラナイ。フランス、ゴ、ダケ」
「確かに俺もフランス語は今はまだ知らないけれど、potentiaポテンティアシンがたくさん開いているから、記憶力も上がったし、覚えられると思う」
 彼女は俺の手を強く握る。
 『嬉しい』、『お母さんに会いたい』、『家族に心配かけていることを後悔している』、そんな感情が漏れ伝わってくる。
 今まであんまり気にしてなかったけれど、触れていると伝わってくる情報がより鮮明になりやすいかも。
「アリガトウ……アナタ……ナマエ、マダ、ジコショウカイ、シテナイ、デシタ。ワタシ、シャルロット」
「あっ、そうだね。俺の名前は詩真シマ
「シマ。カンジ、シリタイ」
「詩は、ポエム。真は、トゥルー」
 周囲から適当に小石を拾い、滑らかな地面に書いてみようとしたが、この暗さでも分かるような文字は書けないっぽい。
「……後で、外に出たら、書いてあげる」
「ソト、デル、ワタシ、ナイ」
「出たくないの?」
「ウィ」
 彼女は――シャルロットは、死を選ぼうとしたくらいだ。人に会いたくないのは理解できる。
「ここへは人間は俺だけで来たよ。このジェノランの中の生き物……大きなトカゲみたいな子にね、俺の荷物を預けてあるんだ。その荷物には食べ物も入っていて、この洞窟の中が暑すぎて食べ物持ち込んで悪くなったら困るから、念のため」
「タベモノ?」
「川で採れた魚を葉っぱで包んで蒸し焼きにしたもの」
「サカナ? ソンナノ、ドコ、イル、デスカ? カワ……」
 『溶岩の池』というイメージが彼女から伝わってくる。
 もしかして。
「ここは日本のジェノランの中だよ。もしかしてこの洞窟って、フランスのジェノランと繋がっているってこと?」
 時空の歪みがある謎空間。そういうことがあってもおかしくない。
 いや、だとしたら、このジェノランを設置した存在は、何を企んでいるのだろう。
 繋がっているということからすぐに連想できるのは「協力」もしくは「競わせる」ってあたり。
 もしくは各ジェノラン内で強くなったり、集めたアイテムを揃えないと、このジェノランを設置した存在に会いに行けない、とか?
「……ニホン? ココ、ニホン?」
 シャルロットは日本のジェノラン内であることを認識していなかったのか。
「そうだよ。入口からはけっこう離れているし、来たのは始めてだけど、ここは確かに日本のジェノラン内だよ。そして俺を連れてきてくれた大きなトカゲみたいな子は、ここは暑すぎるって言って外で待っててくれてる」
「シマ、visウィース、テイマー? ドラゴン・テイマー?」
「違うよ」
「ゴメンナサイ」
「謝ることないよ」
 彼女が謝った理由はすぐに伝わってきた。どうやらフランスでは『自分のvisウィースを他人に知られることを避ける』という風潮があるからっぽかった。
visウィース、ダイジ、ヒミツ。ヒトニ、イワナイ、ダヨネ?」
 まあ俺だって最初は警戒して自衛隊の人たちには秘密にしてたな。
 というか能力の本質的な部分については今でも秘密にしているわけだが。
「日本では、ジェノランを探索するために、皆で協力しあっている。だからお互いに、visウィースも教え合ったりしているんだ。ちなみに君に渡した着物も、俺じゃなく、布を出すvisウィースを持つ人が居て、その人が入塔者イスカーチェリ全員分の着物とかリュックサックとか靴とかを用意してくれてるんだ。そのリュックサックの中に日本の女子が下着がわりに胸に巻いているサラシと同じ布や、予備の靴なんかもあるから、外に出たらそれもあげられるよ」
「ニホン、ヤサシイ」
 優しい、か。でもこれは、個人主義的な欧米と、集団主義というか同調圧力なベースの違いなんじゃないかとは、個人的に思いもする。
 ただこの流れで否定するのもなんだから、俺は一言、「ありがとう」と相槌を打った。
「ワタシ、visウィース、リジェネレイト。デモ、ナオス、ワタシ、カラダ、ダケ」
 なるほど。田平から聞いていた「ネットでの推測」のうちの一つが当たってたっぽい。
 「自分の体だけを治せる」というのは、他人の体でも「自分の体として再生する」って意味なんだろうな。
 というかこの流れだと、俺のvisウィースも説明しなきゃだな。
 いまだに俺の手を握りしめているシャルロットからは、『信用されたい』という気持ちと、それでもまだ俺というか男全般に対する『不信感』とが伝わってきている。
 ここは俺のvisウィースを伝えるべきタイミングだろうな――引かれたり怖がられたりしなければいいけど。
 シャルロットを見つめる。
 いや、彼女が理解してくれるまで説明するべきだよな。
 そもそも俺が皆に能力内容をごく一部しか伝えていないのは、中途半端に誤解されることを恐れて、なので。
 不特定多数ではなくサシで説明できるのであれば、大丈夫だと信じたい。
「俺のvisウィースは、ここの生き物のコミュニケーション能力と同じ、電気信号を出したり察知したりする力だよ」
「デンキシンゴウ?」
「エレクトリカル・シグナル。電話みたいなものなんだ」
「ジーコンプリー」
 ジーコンプリーの意味はわからなかったが『理解』という感情が伝わってきた。
「試しに送ってみていい?」
「ウィ」
 シャルロットは彼女の方からつかんでいた俺の手をいったん放し、俺の手のひらに自分の手のひらを重ねて握りしめた。
 俺もつられて握りしめる。
 ふと思ったのが、今後、シャルロット以外にも俺のvisウィースの詳細を話す必要がでてきたとき、「触れていることが条件」みたいなニセ条件を設定しておくのは悪くないかもしれない――というのは置いといて。
 何を『送信』するかちょっと迷ったが、結局シャルロットが楽しい気持ちになってくれそうなものを選んだ。
 俺たちが最初に盛り上がったマンガの、アニメ化されたときのオープニングテーマを。
「ワオ! オープニング! インフィディオエテエギャレモワンクリーズ!」
 彼女の興奮が伝わってきた。『映像がついている!』と感動しているっぽい。
「コンド、ワタシ、オクル。ワカル?」
 伝わってきた。
 『エンディングテーマ』だ。
「エンディングテーマだね。しかもフランス語の字幕が入った映像付きだった」
「パーティションコンプレート!」
 正解のようだ。
「オクル、シナイ、カンガエル、ダケ、ワカル?」
 だよね。それ、気になるとこだよな。
 自分の思考を見透かされてしまうというのは、精神的な全裸のようなもの。
 例え心にやましいことがないつもりでも、不安ったらない。
 何かのタイミングでとっさに嘘をついてしまうかもしれない。それを暴かれたら、って考えただけで気が休まらない。
 うまく言葉を費やせたとしても、シャルロットの日本語読解能力で曲解されても困るし。
 ただ、自分の裸同然の画像を勝手にネットにバラまかれるというデジタル・タトゥーで傷ついているシャルロットに、精神的にも全裸になるかもという恐れを一瞬でも抱かせたくはない。
「表情とかに出ちゃうほど強い思考の場合だけ、漏れてくるのが伝わってくることはあるみたい。大声で電話している人が居たら、電話の相手じゃなくとも話の内容が聞こえるでしょ? あんな感じだと思って」
「ウィ、ジーコンプリー」
 シャルロットからは『信じる』という気持ちが伝わってくる。
「信じてくれるの、嬉しい、シャルロットには、全部知ってもらいたいから、これから大量に送るよ。俺が体験したことなんかも交えて」
「ウィ」
 俺の手を握るシャルロットの指に力が入る。
 『信じる』という意思が改めて送られてきた。
 俺は、最初から送ることにした。
 ジェノランに入ったきっかけ、最初のピリリたちとの出会い、そこで手に入れた静電気のような俺のvisウィース
 ピリリたちをはじめとした現地の生物たちが、この静電気のようなものでコミュニケーションをしていたこと。そしてヨツデグレイさんたちとの出会いを経て、感情や意思を相手に伝える方法を学んだこと。
 最初は発するだけだと思っていた『交信』能力に、周囲の電気信号をキャッチする能力もあったと気付いたこと。そのおかげで、周囲の生物が強く念じた感情や意思が、まるで大声の独り言のようにある種「音漏れ」して、聞こえてくることに気付いたこと。
 ジェノランを出て、自衛隊に保護されたこと。
 殺されかけたこと。そして気付いたのが、相手の筋肉や神経へ「自分の筋肉や神経へ送られる電気信号」を直接『送信』して、相手の筋肉や神経をニセの信号で騙せること、まで全部『送信』した。
 本当はここまで送るつもりはなかったけれど、世界から決別するという覚悟を決めて独りジェノランへ逃げ込んだシャルロットに対しては全部知らせておきたいと思ったから。
「アリガトウ。理解デキタ」
 シャルロットの言葉から、たどたどしさが減った?
「日本語に慣れた?」
「オカゲサマデ、日本語ヘノ理解モ、少シ深マッタ」
 シャルロットからも同じ様に送ってもらえたならば、俺もフランス語に詳しくなったりするのかな。
 そしたら、シャルロットの家族へのメールを書く時なんかもあまり困らずに済むかも。
「それは良かった」
 そしてありがたいことに、シャルロットは俺の手を握りしめたまま。
 精神的全裸への不安を、彼女は乗り越えてくれたのだろうか。
 残念ながら、シャルロットが強く送ろうとしてくれないと、そこまでは伝わってこない。



### 簡易人物紹介 ###

国館川くにたちかわ 詩真しま
主人公。現実よりジェノランの方が居心地が良い。visウィースは公的には『異世界通訳』だが微細な電気の流れを送受信できる。伊薙探索特別班。支給浴衣を謎の美少女に与えたので、現在フンドシとサラシ、足袋のみ。

・国館川 亜貴あき
姉。羞恥心<探究心な姉。ご立派(推定G)。visウィースは『雷』。責任感が強く嘘が苦手。伊薙探索特別班。

椰子間比嘉やしまひが 良夢らむ
自衛隊員。男性。探索隊B→Aチーム入り。色黒で元野球部キャッチャー。既婚者。伊薙探索特別班。

伏猿ふっさる 晶乃あきの
自衛隊員。女性。マッチョ自慢で腹筋を触らせようとしてくる。伊薙探索特別班。

伊薙いなぎ たま
元幼馴染(推定D)。話が通じない。visウィースは『闇』。詩真への恋慕と暴言を爆発させジェノラン内へ逃走。

田平ただいら 己輝こき
詩真の拉致に加担した、顔のパーツが中央に寄っている丸顔の自衛隊員。26歳男性。無類のおっぱい好き(特技はカップ推定)。情報通。

・シャルロット
 なぜか日本のジェノランの奥地に居たフランスの「聖女」。マンガ好きで詩真と好きな作品がかぶった。身体部位を自身の肉体で再生するvisウィースを持つが、男性の下半身を治療したために(厳密には自身のではない)股間画像がネット流出し、ジェノラン内へ失踪していた。

・デンキトカゲ
交信能力を持つ六足トカゲ。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けたが、群れが蛹を経て一個の生物に。蛹化終了後、巨大化して再会。

・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た四腕の人型種族。交信能力を持ち、平和的で親切。子供には母乳ではなく素嚢そのうで整えた甘い液を与える。
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