最弱攻撃力スキルが実は最兇だったところで俺が戦いたくないのは変わらない

だんぞう

文字の大きさ
9 / 38

#9 森の中の村

しおりを挟む
 ヨツデグレイさんたちの村へはすんなり到着できた。
 妊婦が一人で歩ける距離なので、道すがら何かに遭遇することもなく。
 というか前回の探索時に気付かなかったのが不思議なくらい近かった。
 まあ妊婦や病人や怪我人が利用するというのであれば、村は近くにあってしかるべきだよね。
 そして村では普通に迎え入れてもらえた。
 村では、静電気コミュニケーション――「交信」でまず、癒やしの樹を勝手に利用してしまったことを謝罪し、その妊婦さんに紹介されて来た旨を説明した。
 その後、自分がこの空間へ迷い込んだ経緯などの説明へと移る。
 彼らは口を普段は食物の摂取にしか使用しないらしく、説明中に俺が時折漏らしてしまった声を、子供たちが面白がって真似してた。
 不本意ながらヨツデグレイさんたちの村に「えーっと」を流行らせてしまった。
 彼らへの説明を通じて、脳内の言葉を送るのではなく、脳内のイメージや概念、記憶などをまるっと送る方法になんとなく慣れていった。
 つーかよくよく考えたらピリリたちとの会話も、自分の脳内で言葉に翻訳していただけで、今思えば実際にやり取りしていたのはもっと感情とか欲求とかそういう原初的な衝動だった。
 イメージそのものを送れるということで、彼らは仲間やモノに名前を付けない、ということもわかった。ピリリたちもそうだったな。
 その姿を思い浮かべるだけで個人まで特定できるのだから、もちろん指示代名詞とか人称代名詞なんかもない。
 誰かの顔とか道順とか、うろ覚えになったらどうしようというのも杞憂だ。彼らは記憶を定着させたり、その記憶を薄くするための脳内電気信号の操作に長けているからだ。
 こうやって言語化するとなんだかすごいことのように感じるが、歩くことや自転車に乗ることと一緒で、自分の身体の複数の様々な動きについてそれぞれをコントロールするのではなく「こういう感じ」とまるっとまとめた認識でふわっと操作する感じでいけた。
 なので姉貴たちの裸については、自分の記憶を薄れさせておいた。
 クソたまなんかの裸をふと思い出して反応する自分が腹立たしくて。
「えーっと!」
 おっと。呼ばれた。
 実は「名前」というものについて色々と説明したんだけど、なぜか「えーっと」が俺のあだ名になってしまった。
『油を採るが、見るか?』
『見る』
 ヨツデグレイさんたちはデンキトカゲを大事にしている。崇拝に近い感じ。なのでデンキトカゲの大好物であるハネイモムシが寄ってくる樹液を出す樹を村の近くに植えている。
 あくまでも養殖ではなく、集まりやすい環境を作っている感じ。
 ただ彼らがハネイモムシを集めるのは、デンキトカゲへの贈り物的な理由ばかりでなく、彼ら自身が利用するためだ。
 ハネイモムシは木製のローラーで体液を絞る。この体液を一晩、明かりを当てずに置いておくと、上澄み層と沈殿層とに分離する。上澄みは食用油として使い、沈殿物は煤の出ない燃料となる。
 ローラーで潰したほうのハネイモムシは、日にさらしておくと白っぽく変色する。これを上澄み油でカラッと揚げると海老せんべいみたいになる。食べさせてもらったが、けっこう好き。
 呼ばれたのは、油を採るのは夜に行うため。
 そう。まさに今が夜。
 時間の概念を伝えるのにはけっこう苦労したけれど、恐らくこちらの一日は32時間ほどと推測できる。
 計算では、俺が「壁」の中に入っている間に一度、夜が訪れているっぽいのだが、俺にはその記憶がない。
 ということは、俺が地球側でトイレに行ったり、コーンフレーク食べたりしている間に「壁」の向こうあっちでは夜が来て朝が来ちゃってた……ということっぽい。
『排泄に行きたいの?』
 村の子供たちに話しかけられた。
 さっき互いの文化についてやり取りしてたとき、トイレの中は落ち着くのでよく考え事をする、みたいなことを伝えちゃったせいで、それ以降、俺が思索にふけってボーっとすると、すぐに排泄に行きたいかどうかを尋ねてくれるようになってしまった。
『いや、今はいい』
「塩! いるか?」
 今度は発声で話しかけられた。声はちっちゃいけれど、しっかり聞き取れた。
 実は、日本語を教えている。
 俺がたくさんの情報を送るうちに、彼らのうち若い人たちが発声言語に興味を持ったのだが、数時間でそこそこの会話ができるまでに習熟した。
 俺は彼らと交信できるけど、姉貴たちがそうだったようにこの「壁」の中へ入ってきた他の人たちが同じコミュニケーション能力を手に入れるかというと、そんでもない気がしたっから。
 見た目がグレイな彼らが不要な争いを回避できたらいいなって。
「いる!」
 と言っても本物の塩ではない。
 彼らが使っている塩っぱい調味料をそう呼んだだけ。
 実際にはニジカナブン(仮)が葉っぱの裏に産み付けた卵を保護するために大量に出す泡を乾燥させて砕いたもの。
 ニジカナブンはカラーバリエーションの多いカナブンに似た虫。
 あのゴムガエルの体色が様々だったのは、ニジカナブンをよく食べるから、らしい。
 なんでもゴムガエルは、珍しい色をしているオスがよりモテるらしく、その体色を出すためにゴムガエルが色んな色のニジカナブンを食べて調整するそうだ。
 ちなみに、ゴムガエルも食べさせてもらった。
 ゴムガエルの皮部分はイカフライのイカに近い感じで、塩で美味しくいただいた。
 身の部分、つまり肉は乾燥させたビーフジャーキーみたいな感じ。作る過程でゴムガエルの内臓と何種類かの草とで煮込んだ汁で煮られているため、その独特のクセのある味がついている。食感はいいんだけど味は苦手。
 ゴムガエルの狩り方も教えてもらった。
 ゴムガエルは「交信による生命のやり取り」ができない生き物なので、体の大きい者で追い込み猟をするらしい。
 ピリリたちがハネイモムシに「空腹」を伝えて、それに呼応してくれた個体の命をいただく方法みたいに、ヨツデグレイさんたちも交信だけで他の生命をいただくときがあるとのこと。
 なんというか、帝釈天を助けたウサギを彷彿ほうふつとさせる。
『空腹』
 ほら、考えたそばからピリリたちから交信が来た。
『空腹』『仲間』
 え?
 俺に似た生き物が、空腹で倒れてるって?



### 簡易人物紹介 ###

詩真しま
主人公。姉と珠に辟易し「壁」の中あちらに家出を決意。交信能力を手に入れた。ヨツデグレイに「えーっと」と呼ばれる。

・姉貴
羞恥心<探究心な姉。ご立派。凄まじい雷の力を入手したっぽい。

たま
元幼馴染。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。視界を奪う黒い玉を作れるようになったっぽい。

・眼鏡さん
姉貴の学校の人っぽい。良識も考察力もありそう。

・デンキトカゲ
交信能力を持つ六足トカゲ。ヌノススキの穂やハネイモムシを食べる。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けた。

・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た人型種族。ただし腕は四本。交信能力を持ち、平和的で親切。若い個体は好奇心が旺盛。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

裏切り者達に復讐を…S級ハンターによる最恐育成計画

みっちゃん
ファンタジー
100年前、異世界の扉が開き、ハンターと呼ばれる者達が魔物達と戦う近未来日本 そんな世界で暮らすS級ハンターの 真田優斗(さなだゆうと)は異世界の地にて、仲間に裏切られ、見捨てられた 少女の名はE級ハンターの"ハルナ•ネネ"を拾う。 昔の自分と重なった真田優斗はハルナ•ネネを拾って彼女に問いかける。 「俺達のギルドに入りませんか?」 この物語は最弱のE級が最強のS級になり、裏切った者達に復讐物語である。

最強のチート『不死』は理想とはかけ離れていました ~ 人と関わりたくないので史上最強の家族と引きこもりを目指したいと思います

涅夢 - くろむ
ファンタジー
何をやってもうまくいかなかった前世。人間不信になってしまった超ネガティブ中年。そんなおっさんが転生時に見つけてしまった「不死」という能力。これで悠々自適なスローライフが確実なものに……。だがしかし、最強のチート能力であるはずの「不死」は理想とはかけ離れていた。 『え!?なんでワカメ!?』 うっかり人外に身を落としてしまった主人公。謎の海藻から始まる異世界生活。目的からかけ離れた波乱万丈の毎日が始まる……。 いくら強くなっても不安で仕方ない。完璧なスローライフには憂いがあってはならないのだ!「創造魔法」や「寄生」を駆使して生き残れ! なるべく人と関わりたくない主人公が目指すは「史上最強の引きこもり」 と、その道連れに史上最強になっていく家族の心温まるほっこり生活もお送りします。 いや、そっちがメインのはず…… (小説家になろうでも同時掲載中です)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり
ファンタジー
長い銀髪を風に揺らしながら、ただ1人で整備されていない道を歩く少女がいた。 彼女は今日もクレア=モルダナティスと名乗り、旅を続ける。 その旅で自分の死が待ち受けていると知っていながら、クレアは今日も旅を続ける。 これは風のようにさまようクレアと旅で出会う人々のお話。 頑張って書こうと思います。 飽き性なので、完結まで書けたら嬉しいです。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

処理中です...