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#27 それは罪なのだろうか
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「どういうことですか?」
思わず聞き返してしまった。
「あん人ら、夜通し歩いてきたからまずは寝かせてつってずっと寝てて、夕方くらいに起きたと思ったら二人が買い物に出かけて、すぐ帰ってきて、今から急に護衛の仕事が入ったとか言って慌てて出ていって。残っていた二人も急いで起きて、すぐに行っちゃって。まあ、あたしらからしたら何もしないで明日の朝までの分のお金もらったから大歓迎なんだけどさ」
なるほど。
ラビツたちが夜通し徒歩でってのは、夜営の危険性とストウ村からフォーリーまでの距離とを考えると十分に想定内だった。
そしてたとえ今日の午前中に着いていたとしても、馬車定期便は朝出発だから乗るのは明日の朝だろうと予測していた。だからこそ今夜一晩かけてフォーリーの街を探し回る予定だったんだし。
しかし夕方に出発か……確かここから馬車で一日の距離に砦が一つあるはず。今夜もほぼ満月みたいなものだし、夜通し移動もできなくはない。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。今の話よく聞かせてくれよ!」
誰かが俺の横を通り抜け、部屋の中へ入ってきた。
聞き覚えのある声。見覚えのある服装。獣種は羊種。
「その護衛の話はよ、俺たちが受けてたはずだったんだぜ! それもこれも全部あの犬っころのせいで」
「エルーシ! ウェスさんの前だよ! 控えな!」
エルーシ!
やっぱりこいつか。マドハトや俺たちが投獄されるきっかけになった三人組の。
「あ、ウェスさん、お世話になってま……」
振り返ったエルーシは俺と目が合った。
「なんでこいつがここに! なぁ、姉ちゃん聞いてくれよ。そもそも俺が牢にぶちこまれたのってコイ」
「エルーシッ!」
エルーシは黙り、ウェスさんの方へお辞儀をする。
両手を組んで片膝をつく、というラトウィヂ王国では一般的なお辞儀を。
「エルーシ。この方はディナ様のお客様だ。話は全部聞いてるよ。あんたのそのご無礼を許してくださった上に、牢から出してくださったのまでディナ様だよ」
「え、こい――この方がっすか」
「謝んな」
「きったねぇよ。田舎もんのフリして俺を騙したのかよ」
「エルーシ! お前、また旅人を騙そうとしたのかい!」
「俺はっ……」
エルーシは俺を睨みつつも、俺に対してもお辞儀をする。
「すみませんでした」
心のこもっていない謝罪のあと、エルーシはうつむき気味のまま立ち上がる。
その目にはうっすら涙がにじんでいるのが見える。
「すみません、できの悪い弟がとんでもないことを」
ロズさんも一度立ち上がり、お辞儀をすると、残りの四人もそれに倣ってお辞儀をする……が、他の四人は謝罪というよりも、二の腕で胸を寄せて強調しているだけのようにも見えてしまう。
「姉ちゃんたちまで謝ることねぇ。悪いのは俺だ」
「こういうのは連帯責任なんだ。そうやって皆で助け合って私らは生きてんだよ」
「違うだろ。姉ちゃんたちのは媚を売ってるだけだ」
「エルーシ!」
「俺は嫌なんだ! 媚を売るのも体を売るのも! 俺は奪われる側じゃなく奪う側になる! 媚びへつらう側じゃなく支配する側になるんだっ!」
それだけ吐き捨てるように叫ぶと、エルーシは部屋を飛び出した。
「愚かよねぇ。体を売ることと支配されることとは別なのに。技術を磨けばいくらでも支配できるのに」
ソファに座り直していたデイジさんがいやらしい手つきをさせながら鼻で笑う。
「ふーん。技術がお有りなのですねぇ。でもその割には今週、私の方がたくさん貢ぎ物いただいてますけどねぇ?」
小柄なヴァイオレさんがあごのあたりで両手を握りしめながら可愛い声を出す。
ホルトゥスではアニメ声ってなんて言うんだろ。そういう表現はリテルの記憶の中にはない。
「ま、まだ今週は終わってないわよ」
「あーら。お仕事のお休み明けはもう来週じゃないかしらぁ?」
「ヴァイオレ! デイジをからかうんじゃないよ……さて、リテルさん。身内が失礼したね。あんたの従者にも悪いことした。お詫びってわけじゃないけどね。好きな店で好きな子たちをはべらせて遊んでいっていいよ。私はここいら二十軒の元締めだ。もちろん他の店でも、私が一声かけりゃぁ」
「いえ。俺は修行中の身ですから。まだ先に学ぶべきことが」
「あーら! いろいろ学ばせてあげるわよ。どうすりゃ女が悦ぶかとかさぁ!」
リーリイさんには完全にロックオンされている感。
しかし今は本当にダメだ。パイアのことが脳裏をよぎって嫌な汗が背中をつたう。
「じゃあ、せめてものお詫びだ。こちらで馬車を手配させとくれ。ディナ様のとこのような立派なのじゃないけどさ、定期便と同じやつを。行き先は決まっているかい? 王都に向かうにせよアイシスに向かうにせよ、行き先を変えられるほうが便利だろ? 明日の朝までに用意しておくからさ」
「ありがとうございます」
ロズさんたちへお辞儀をすると、五人に笑われる。
「リテルさん、娼婦相手にお辞儀する人なんて初めて見たよ」
「いえ、でも、お世話になったので……」
「あらあらー? お世話しちゃってもよくってー?」
リーリイさんが立ち上がろうとしたのを、ラークスパさんが肘で押し戻す。
笑い声に満ちたその部屋を、ウェスさんと共に後にした。
さっきの個室駐車場まで戻る階段を上りながら、ウェスさんがぽつりとこぼす。
「明日の朝までここに居たほうが安全かもしれんぞ?」
「いえ、ディナ様には覚悟を問われていると考えておりますので」
「もしもリテル君が呪詛にかかっていなかったとしても、彼女らの誘いを断ったか?」
ルブルムとケティの顔が浮かぶ。
「多分」
「男色なのか?」
「い、いえ、違います。俺が好きなのは女性です」
「ではなぜ?」
「俺は……俺自身は……そういうことは、好きな人とだけしたいと考えています」
そう答える俺は昨日の朝、ケティと事に及ぼうとしてたよな。
ケティはリテルが好きで、リテルはケティが好きで――でも俺は? 俺自身は、ケティのことをそんなに好きなのか?
「好きじゃない相手とすることは、お前の中では罪なのか?」
俺の考えを読んでいたみたいなウェスさんの言葉は不意打ちだったこともあり、心に深く突き刺さった。
罪、なのかな。
あのときは童貞がゆえの興奮で歯止めがきかなくて盛り上がってしまったのもあったけど、そもそもはリテルが回答を保留したら、ケティがエクシあんちゃんの想いに応えざるを得なくなる危険があったから。
俺はリテルの想いを守ろうとしたんだ――でも呪詛がなかったら、立ち止まれただろうか。
わからない――でも今だったら、きっと。俺は我慢できる気がする。
だってケティはリテルの想い人で、ケティもリテルのことが好きなんだから。
俺はリテルの体を借りているだけだから。
魂はつながっているけれど、リテルはリテルで、俺は利照で、やっぱり別々だから。
「罪……という言い方はしたくないです。それだと罪だからしないみたいじゃないですか。違うんです。自分が相手にされたら嫌なことはしたくない……ああ、これもいけない言い方ですね。また、自分の考えを押し付ける所でした。将来、自分の好きな相手ができたときに取り返しがつくように、というのが近いですかね。こんな俺なんかと、付き合ってくれる人がいたとしたら、その人とたくさん話しあって、何が嫌なことなのか、何が嬉しいことなのか、ちゃんと向き合って二人で一緒に決めていきたいです……えっと、なんか話が変わっちゃいました。すみません。今は相手が居ない状態ですから、俺一人だけの気持ちで決めるのは……」
パイアに抵抗していたときのことが脳裏を一瞬よぎる。
「怖い、です。心を許せない相手に、体を許すことが、怖い、です」
俺は何を言っているんだろうか。
答えになっているんだろうか。
ウェスさんの沈黙が気になる。
二人の足音だけが暗い階段に響く。
長々と自分語りみたいなことしちゃったから、呆れられてしまっただろうか。
ウェスさんが突然、立ち止まった――ああ、馬車のある場所まで戻ったのか。
「そうか」
ウェスさんは灯り箱を御者台近くに取り付けてから、御者台へとひらりと飛び乗る。
「リテル君、早く乗りたまえ」
そう言ったときのウェスさんの口元は、少しだけ微笑んでいるように見えた。
その後は特に会話もなくディナ先輩の屋敷へと戻ってきた。
棘だらけの門をくぐるとき、戻ってきて良かったのかなと今更ながらに不安が増殖したが、出迎えてくれたディナ先輩とルブルムは二人とも笑顔でホッとした。
ルブルムの笑った顔は可愛い。
ディナ先輩も、笑うと本当に美少女だ。
先輩とはいうけれど、俺やルブルムよりも年下なんじゃないかと感じるくらいに幼さを感じる顔立ち。
夕食には白パンと、カボチャのポタージュ、それからゆで卵が出てきた。
ウェスさんの手作りというが、贅沢なメニューであることを差し引いても、とても美味しい。
そのウェスさんの獣種が蝙蝠種だと言うことも教えてもらった。
食後、俺は二階の部屋へと案内された……地下牢じゃなく!
待遇がここまで変わると逆に不安になるくらい。
ルブルムの部屋とは階段を挟んで反対側だけど、こちらは書物がたくさんある書斎のような素敵な部屋だった。
ベッドの類は見当たらないけれど、窓際にはすごい立派で大きな椅子があり、その前にあるシックで重厚な机には皿が置かれ、クッキーのようなものが幾つも乗っている。
「労いの気持ちをこめてな、焼き菓子を用意してみた。食後に一つどうかな?」
なんか温泉旅館みたい。
「いただきます」
一つつまんで口へ運ぼうとすると、甘い香りが鼻を刺激する。
こんなことにまで反応してしまうなんて、甘い匂い自体もトラウマになってしまったのかもな。
でもあれだけ嫌悪の嵐だったディナ先輩が、笑顔で勧めてくれたクッキーなんだよ。食べないわけにはいかないじゃないか。
甘い香りと味を、俺は噛み砕いて飲み込んだ。
「味はどうかな?」
「はい……美味しいです」
リテル的には焼き菓子を食べるのは人生で数えるほどしかない。
ただ、匂いのせいで俺はちゃんと味わえていない。
「もっと食べるか」
もう一枚いただこうと手を伸ばそうとしたが、何か変だ。
思ったように動かない。
「は……」
手にも、舌にも、全身にも、力が入らない。
皮膚が鳥肌みたいにざわつく。
「やっぱり、お前、死ね」
ディナ先輩は満面の笑みのままでそう言った。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
呪詛に感染中の身で、呪詛の原因たるラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。熱を出したリテルを一晩中看病してくれていた。リテルが腰紐を失くしたのを目ざとく見つけた。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、とうとう犬種の体を取り戻した。
リテルに恩を感じついてきている。元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。街中で魔法を使い捕まった。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。リテルが悩みを聞いたことで笑うようになり、二人の距離もかなり縮まった。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌いっぽいが、感情にまかせて動いているわけではなさげ。
カエルレウムより連絡を受けた直後から娼館街へラビツたちを探すよう依頼していた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
リテルに対して貧民街での最低限の知識やマナーを教えてくれた。
・エルーシ
リテルたちにちょっかいを出してきて投獄の原因を作った。羊種。娼館街の元締めロズは姉。
猿種と鼠種の仲間がいる。奪われる側よりも奪う側になりたい。
・ロズ
羊種の綺麗なお姉さん。娼館街の元締め。エルーシの姉。
・リーリイ
牛種の色っぽいお姉さん。リテルは好みのタイプっぽい。
・デイジ
猿種の色っぽいお姉さん。ラビツたちを客として引き受けたが、何もしていないと言い出した。
・ヴァイオレ
鼠種のリス亜種の色っぽい少女。客からのプレゼントはデイジよりも多い。
・ラークスパ
猪種の色っぽい少女。けだるそう。
■ はみ出しコラム【遊具】
ホルトゥスはラトウィヂ王国で遊ばれている遊具について説明する。
・アルマ
ラトウィヂ王国ではとても流行っているカード遊び。
三種類の絵柄にそれぞれ一から十《ラスタ》(十進数だと十二)までの数字が描かれた三十枚(十進数だと三十六枚)で一組のカード。
絵柄は棍棒と盾と矢。
棍棒は盾に勝ち、矢 に負ける。
矢は棍棒に勝ち、盾 に負ける。
盾は矢 に勝ち、棍棒に負ける。
開始時の手札は六枚で、基本的には一対一で遊ぶ。
まず、同時に手札を一枚出す。
絵柄で勝敗が決まり、同じ絵柄の場合だけ数字が多いほうが勝ち。
ただし同じ絵柄であれば追加で何枚でも後出ししてよく、合計して十(十進数だと十二)だと「挟み撃ち」といって絵柄を無視して勝つことができる。
もちろん相手も「挟み撃ち」は可能だが、両者「挟み撃ち」の場合、枚数が多い方が勝ち。枚数が同じ場合は、最も大きな数字のある方が勝ち。最も大きな数字も一緒の場合、改めて絵柄で勝敗が決まる。
勝った場合、負かした相手のカードを「戦利品」として得られる。
手札がない場合は無条件で負け。その場合、勝者は出したカードの数字に等しい枚数、山札から「戦利品」として得られる。
両方とも手札がなくなったら終了で、「戦利品」の枚数が最終的な勝敗となる。
※ 指アルマ
絵柄のみを指で表現し、ジャンケンのようにして勝敗を決めるもの。
棍棒:握り拳。ジャンケンのグーと同じ。
盾 :手のひら。ジャンケンのパーと同じ。
矢 :指を一本だけ出してあとは握り込む。人差し指だけ出すのが一般的。
※ 庶民の子供たちの間では「アルマ」とはこの「指アルマ」のことを指し、本来の「アルマ」は「本物アルマ」と呼ばれることが多い。
・カラハ
ゲーム盤は、六つのくぼみがある二列ある左右に、縦長のくぼみが一つずつある「カラハ板」と呼ばれるもの。
∩○○○○○○∩
∪○○○○○○∪
このカラハ板以外に、主に小石を多数用意する。
六つずつあるくぼみは穴、縦長のくぼみは貯蔵庫、小石を種と呼ぶ。
これは一対一で遊ぶゲームであり、ゲームを始める前に、各穴に種を三つずつ入れる。
手前の一列六つの穴が自分の陣地であり、さらに左側の貯蔵庫も自分のものである。
自分の手番が来たら、自陣の穴から一つを選び、そこにある種を全て手に持つ。
手に持った種は、その穴から「右手から左手の方向へ」いわゆる時計回りに一つずつ、穴へ入れてゆく。この行為を種まきと呼ぶ。
種まきは自陣にのみ行い、自陣の穴に全て種まきしても余った種は相手陣地へはまかず、全て貯蔵庫へとまく。
このとき、貯蔵庫にまいた種が手の中の最後の一つであった場合、再び自陣の好きな穴から種を全て取り、種まきを行える。
もしも種まきの最後の一つが、自分の陣地の空き穴で終わった場合、その最後にまいた種と、その向かいにある相手の穴の種すべてを自分の貯蔵庫へと移動できる。
この手順を交互に繰り返し、どちらかの列の穴がすべて空になった時点でゲームは終了する。
ゲームの勝敗としては、自陣の穴を先にすべて空にしたほうが勝ちの場合と、貯蔵庫に蓄えた種の数で競う場合があり、後者の場合、先に空にした方が相手陣地に残る種を全て手に入れられるルールを用いる場合もある。
※ 種と精子は同じ単語であるため、性交の隠語として「カラハ」が用いられることもある。
・すごろく
木製、石製、骨や角製、ガラス製などの各種サイコロが存在し、それを用いたすごろくもよく遊ばれている。
サイコロについては、六面体が一般的。
すごろくの盤面については、様々なものが製品版として富裕層向けに販売されているが、庶民に限らず自作する者も少なくない。
・チェス
現在、地球で普及しているチェスとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されており、庶民が遊ぶことはない。
駒のデザインや名前までほぼ同じであるため、転生者が持ち込んだと思われる。
ただし、ビショップの駒だけは「ウィザード」という呼び名であり、手番を一回消費すると、ウィザードに隣接する自分の駒を一つ、一段回だけ昇格させることができる。ただし、この昇格が行えるのは昇格後の駒が盤上から取り除かれている場合のみであり、ゲーム中に昇格を使える回数はゲーム前に予め決められている場合が多い。
昇格は右記の通り:ポーン→ルーク→ナイト→クイーン
・リバーシ
現在、地球で普及しているリバーシとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されているが、板を切り抜いて片側に色を塗っただけのモノが、庶民の間ではこっそりと作られ、遊ばれている。
ちなみに、リバーシの盤面の裏側には、地球で普及しているナイン・メンズ・モリスの盤面が用意されている場合が少なくない。
・バックギャモン
現在、地球で普及しているバックギャモンとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されているが、板を切り抜いて色を塗っただけのモノが、庶民の間ではこっそりと作られ、遊ばれている。
・カード
現在、地球で普及しているトランプとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されている。
一番良く遊ばれている「ポーカー」という名前で呼ばれることもある。庶民においてはアルマが一般流通しているため、カードの方で遊ぶ者は少ない。
ちなみに、数字札はもちろん一から十まで(十進数換算で)十二枚ある。それ以外に、ジャック、クイーン、キングがあり、スートもスペード、ハート、ダイヤ、クラブと地球同様で、基本カードは(十進数換算で)六十枚ある。
・キタヤマ
現在、地球で普及しているダイヤモンドゲームとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されている。
販売されてからまだそれほど経っておらず知名度はまだ高くないが、とても人気が出ている。
チェス、リバーシ、バックギャモン、カードは地球と同じ呼称で呼ばれているが、このゲームに限っては地球とは異なる名称で呼ばれている。
・魔法対決
三角形の平べったい駒の裏に以下の種類のいずれかが書かれており、自分の陣地にいったん配置した後、交互に一つの駒を隣接する一マスへ動かして遊ぶ。
自分の駒があるマスへは移動することができないが、隣接する自分の駒同士であれば位置の入れ替えが可能。
相手の駒があるマスに移動した場合は「判定」が発生する。駒自身に設定された強さにより「判定」の勝敗が決まる。
システムとしては地球の軍人将棋に近いが、勝利条件である「魔術師または使い魔が宝物庫へたどり着く」には、その前に「鍵」を入手しなければならない。また、魔術師が死亡した場合、その時点で魔術師を失った側が負けとなる。
通常はプレイヤー二人と、どちらの駒が強いかの判定役一人の計三人で遊ぶが、判定役が居ない場合、「判定」の瞬間だけ互いに駒を見せ合うルールが一般的。
●ゲーム盤
□ 宝物庫 □
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□ □ ←橋
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□ 宝物庫 □
●駒
最初の配置時、また位置の入れ替えにおいて、橋マスや橋に隣接するマスへ動けない駒を置いてはいけない。
同じ駒同士で「判定」となった場合は相打ち。
魔術師(一個):毒、傭兵にのみ負ける。爆発罠、魔術師とは相打ち。
虹魔石ゴーレム(一個):魔術師と鍵の番人にのみ負ける。爆発罠とは相打ち。
紅魔石ゴーレム(一個):魔術師と鍵の番人、自分よりも上位のゴーレムにのみ負ける。爆発罠とは相打ち。
白魔石ゴーレム(一個):魔術師と鍵の番人、自分よりも上位のゴーレムにのみ負ける。爆発罠とは相打ち。
紫魔石ゴーレム(二個):魔術師と鍵の番人、自分よりも上位のゴーレムにのみ負ける。爆発罠とは相打ち。
濁り魔石ゴーレム(二個):魔術師と鍵の番人、自分よりも上位のゴーレム、使い魔に負ける。爆発罠とは相打ち。
使い魔(二個):毒薬、鍵の番人、濁り魔石ゴーレムにだけ勝てる。爆発罠とは相打ち。
魔法代償切れ(二個):動けない。ゴーレムにのみ勝てる。
爆発罠(二個):動けない。「判定」相手もろとも盤上より取り除かれる。
毒薬(二個):動けない。魔術師にのみ勝てる。
傭兵(一個):魔術師にのみ勝てる。動けるが、宝物庫へは入れない。
鍵の番人(一個):自陣からは出られない。ゴーレムには全勝。魔術師か使い魔に負けると「鍵」となる。
ローカルルールとして、「すり抜け」というルールがある。「すり抜け」を用いると、自陣の宝物庫に隣接する任意の一マスからまた別の一マスへ移動が可能となる。これは、通常の駒を一つ動かす代わりに行うことができる。「すり抜け」が可能なのは、毒薬、爆発罠、傭兵以外。「すり抜け」を許可しないゲームにおいては、宝物庫への立ち入りは禁止される。
※ こちらもキタヤマと同じ販売者が最近になって販売し始めたもの。
・ヌームム・シアクターレ
ヌームムとは鋳造貨のことで、ヌームム・シアクターレとはいわゆるコイン投げのこと。
銅貨、銀貨、金貨、大金貨など、使用するのはどの鋳造貨でもよい。
ラトウィヂ王国の鋳造貨においては、表には王の顔、裏には王の獣種を表す動物の図柄が刻まれている。王が変わった場合、先代と同じ獣種であっても図柄は変わる。
思わず聞き返してしまった。
「あん人ら、夜通し歩いてきたからまずは寝かせてつってずっと寝てて、夕方くらいに起きたと思ったら二人が買い物に出かけて、すぐ帰ってきて、今から急に護衛の仕事が入ったとか言って慌てて出ていって。残っていた二人も急いで起きて、すぐに行っちゃって。まあ、あたしらからしたら何もしないで明日の朝までの分のお金もらったから大歓迎なんだけどさ」
なるほど。
ラビツたちが夜通し徒歩でってのは、夜営の危険性とストウ村からフォーリーまでの距離とを考えると十分に想定内だった。
そしてたとえ今日の午前中に着いていたとしても、馬車定期便は朝出発だから乗るのは明日の朝だろうと予測していた。だからこそ今夜一晩かけてフォーリーの街を探し回る予定だったんだし。
しかし夕方に出発か……確かここから馬車で一日の距離に砦が一つあるはず。今夜もほぼ満月みたいなものだし、夜通し移動もできなくはない。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。今の話よく聞かせてくれよ!」
誰かが俺の横を通り抜け、部屋の中へ入ってきた。
聞き覚えのある声。見覚えのある服装。獣種は羊種。
「その護衛の話はよ、俺たちが受けてたはずだったんだぜ! それもこれも全部あの犬っころのせいで」
「エルーシ! ウェスさんの前だよ! 控えな!」
エルーシ!
やっぱりこいつか。マドハトや俺たちが投獄されるきっかけになった三人組の。
「あ、ウェスさん、お世話になってま……」
振り返ったエルーシは俺と目が合った。
「なんでこいつがここに! なぁ、姉ちゃん聞いてくれよ。そもそも俺が牢にぶちこまれたのってコイ」
「エルーシッ!」
エルーシは黙り、ウェスさんの方へお辞儀をする。
両手を組んで片膝をつく、というラトウィヂ王国では一般的なお辞儀を。
「エルーシ。この方はディナ様のお客様だ。話は全部聞いてるよ。あんたのそのご無礼を許してくださった上に、牢から出してくださったのまでディナ様だよ」
「え、こい――この方がっすか」
「謝んな」
「きったねぇよ。田舎もんのフリして俺を騙したのかよ」
「エルーシ! お前、また旅人を騙そうとしたのかい!」
「俺はっ……」
エルーシは俺を睨みつつも、俺に対してもお辞儀をする。
「すみませんでした」
心のこもっていない謝罪のあと、エルーシはうつむき気味のまま立ち上がる。
その目にはうっすら涙がにじんでいるのが見える。
「すみません、できの悪い弟がとんでもないことを」
ロズさんも一度立ち上がり、お辞儀をすると、残りの四人もそれに倣ってお辞儀をする……が、他の四人は謝罪というよりも、二の腕で胸を寄せて強調しているだけのようにも見えてしまう。
「姉ちゃんたちまで謝ることねぇ。悪いのは俺だ」
「こういうのは連帯責任なんだ。そうやって皆で助け合って私らは生きてんだよ」
「違うだろ。姉ちゃんたちのは媚を売ってるだけだ」
「エルーシ!」
「俺は嫌なんだ! 媚を売るのも体を売るのも! 俺は奪われる側じゃなく奪う側になる! 媚びへつらう側じゃなく支配する側になるんだっ!」
それだけ吐き捨てるように叫ぶと、エルーシは部屋を飛び出した。
「愚かよねぇ。体を売ることと支配されることとは別なのに。技術を磨けばいくらでも支配できるのに」
ソファに座り直していたデイジさんがいやらしい手つきをさせながら鼻で笑う。
「ふーん。技術がお有りなのですねぇ。でもその割には今週、私の方がたくさん貢ぎ物いただいてますけどねぇ?」
小柄なヴァイオレさんがあごのあたりで両手を握りしめながら可愛い声を出す。
ホルトゥスではアニメ声ってなんて言うんだろ。そういう表現はリテルの記憶の中にはない。
「ま、まだ今週は終わってないわよ」
「あーら。お仕事のお休み明けはもう来週じゃないかしらぁ?」
「ヴァイオレ! デイジをからかうんじゃないよ……さて、リテルさん。身内が失礼したね。あんたの従者にも悪いことした。お詫びってわけじゃないけどね。好きな店で好きな子たちをはべらせて遊んでいっていいよ。私はここいら二十軒の元締めだ。もちろん他の店でも、私が一声かけりゃぁ」
「いえ。俺は修行中の身ですから。まだ先に学ぶべきことが」
「あーら! いろいろ学ばせてあげるわよ。どうすりゃ女が悦ぶかとかさぁ!」
リーリイさんには完全にロックオンされている感。
しかし今は本当にダメだ。パイアのことが脳裏をよぎって嫌な汗が背中をつたう。
「じゃあ、せめてものお詫びだ。こちらで馬車を手配させとくれ。ディナ様のとこのような立派なのじゃないけどさ、定期便と同じやつを。行き先は決まっているかい? 王都に向かうにせよアイシスに向かうにせよ、行き先を変えられるほうが便利だろ? 明日の朝までに用意しておくからさ」
「ありがとうございます」
ロズさんたちへお辞儀をすると、五人に笑われる。
「リテルさん、娼婦相手にお辞儀する人なんて初めて見たよ」
「いえ、でも、お世話になったので……」
「あらあらー? お世話しちゃってもよくってー?」
リーリイさんが立ち上がろうとしたのを、ラークスパさんが肘で押し戻す。
笑い声に満ちたその部屋を、ウェスさんと共に後にした。
さっきの個室駐車場まで戻る階段を上りながら、ウェスさんがぽつりとこぼす。
「明日の朝までここに居たほうが安全かもしれんぞ?」
「いえ、ディナ様には覚悟を問われていると考えておりますので」
「もしもリテル君が呪詛にかかっていなかったとしても、彼女らの誘いを断ったか?」
ルブルムとケティの顔が浮かぶ。
「多分」
「男色なのか?」
「い、いえ、違います。俺が好きなのは女性です」
「ではなぜ?」
「俺は……俺自身は……そういうことは、好きな人とだけしたいと考えています」
そう答える俺は昨日の朝、ケティと事に及ぼうとしてたよな。
ケティはリテルが好きで、リテルはケティが好きで――でも俺は? 俺自身は、ケティのことをそんなに好きなのか?
「好きじゃない相手とすることは、お前の中では罪なのか?」
俺の考えを読んでいたみたいなウェスさんの言葉は不意打ちだったこともあり、心に深く突き刺さった。
罪、なのかな。
あのときは童貞がゆえの興奮で歯止めがきかなくて盛り上がってしまったのもあったけど、そもそもはリテルが回答を保留したら、ケティがエクシあんちゃんの想いに応えざるを得なくなる危険があったから。
俺はリテルの想いを守ろうとしたんだ――でも呪詛がなかったら、立ち止まれただろうか。
わからない――でも今だったら、きっと。俺は我慢できる気がする。
だってケティはリテルの想い人で、ケティもリテルのことが好きなんだから。
俺はリテルの体を借りているだけだから。
魂はつながっているけれど、リテルはリテルで、俺は利照で、やっぱり別々だから。
「罪……という言い方はしたくないです。それだと罪だからしないみたいじゃないですか。違うんです。自分が相手にされたら嫌なことはしたくない……ああ、これもいけない言い方ですね。また、自分の考えを押し付ける所でした。将来、自分の好きな相手ができたときに取り返しがつくように、というのが近いですかね。こんな俺なんかと、付き合ってくれる人がいたとしたら、その人とたくさん話しあって、何が嫌なことなのか、何が嬉しいことなのか、ちゃんと向き合って二人で一緒に決めていきたいです……えっと、なんか話が変わっちゃいました。すみません。今は相手が居ない状態ですから、俺一人だけの気持ちで決めるのは……」
パイアに抵抗していたときのことが脳裏を一瞬よぎる。
「怖い、です。心を許せない相手に、体を許すことが、怖い、です」
俺は何を言っているんだろうか。
答えになっているんだろうか。
ウェスさんの沈黙が気になる。
二人の足音だけが暗い階段に響く。
長々と自分語りみたいなことしちゃったから、呆れられてしまっただろうか。
ウェスさんが突然、立ち止まった――ああ、馬車のある場所まで戻ったのか。
「そうか」
ウェスさんは灯り箱を御者台近くに取り付けてから、御者台へとひらりと飛び乗る。
「リテル君、早く乗りたまえ」
そう言ったときのウェスさんの口元は、少しだけ微笑んでいるように見えた。
その後は特に会話もなくディナ先輩の屋敷へと戻ってきた。
棘だらけの門をくぐるとき、戻ってきて良かったのかなと今更ながらに不安が増殖したが、出迎えてくれたディナ先輩とルブルムは二人とも笑顔でホッとした。
ルブルムの笑った顔は可愛い。
ディナ先輩も、笑うと本当に美少女だ。
先輩とはいうけれど、俺やルブルムよりも年下なんじゃないかと感じるくらいに幼さを感じる顔立ち。
夕食には白パンと、カボチャのポタージュ、それからゆで卵が出てきた。
ウェスさんの手作りというが、贅沢なメニューであることを差し引いても、とても美味しい。
そのウェスさんの獣種が蝙蝠種だと言うことも教えてもらった。
食後、俺は二階の部屋へと案内された……地下牢じゃなく!
待遇がここまで変わると逆に不安になるくらい。
ルブルムの部屋とは階段を挟んで反対側だけど、こちらは書物がたくさんある書斎のような素敵な部屋だった。
ベッドの類は見当たらないけれど、窓際にはすごい立派で大きな椅子があり、その前にあるシックで重厚な机には皿が置かれ、クッキーのようなものが幾つも乗っている。
「労いの気持ちをこめてな、焼き菓子を用意してみた。食後に一つどうかな?」
なんか温泉旅館みたい。
「いただきます」
一つつまんで口へ運ぼうとすると、甘い香りが鼻を刺激する。
こんなことにまで反応してしまうなんて、甘い匂い自体もトラウマになってしまったのかもな。
でもあれだけ嫌悪の嵐だったディナ先輩が、笑顔で勧めてくれたクッキーなんだよ。食べないわけにはいかないじゃないか。
甘い香りと味を、俺は噛み砕いて飲み込んだ。
「味はどうかな?」
「はい……美味しいです」
リテル的には焼き菓子を食べるのは人生で数えるほどしかない。
ただ、匂いのせいで俺はちゃんと味わえていない。
「もっと食べるか」
もう一枚いただこうと手を伸ばそうとしたが、何か変だ。
思ったように動かない。
「は……」
手にも、舌にも、全身にも、力が入らない。
皮膚が鳥肌みたいにざわつく。
「やっぱり、お前、死ね」
ディナ先輩は満面の笑みのままでそう言った。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
呪詛に感染中の身で、呪詛の原因たるラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。熱を出したリテルを一晩中看病してくれていた。リテルが腰紐を失くしたのを目ざとく見つけた。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、とうとう犬種の体を取り戻した。
リテルに恩を感じついてきている。元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。街中で魔法を使い捕まった。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。リテルが悩みを聞いたことで笑うようになり、二人の距離もかなり縮まった。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌いっぽいが、感情にまかせて動いているわけではなさげ。
カエルレウムより連絡を受けた直後から娼館街へラビツたちを探すよう依頼していた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
リテルに対して貧民街での最低限の知識やマナーを教えてくれた。
・エルーシ
リテルたちにちょっかいを出してきて投獄の原因を作った。羊種。娼館街の元締めロズは姉。
猿種と鼠種の仲間がいる。奪われる側よりも奪う側になりたい。
・ロズ
羊種の綺麗なお姉さん。娼館街の元締め。エルーシの姉。
・リーリイ
牛種の色っぽいお姉さん。リテルは好みのタイプっぽい。
・デイジ
猿種の色っぽいお姉さん。ラビツたちを客として引き受けたが、何もしていないと言い出した。
・ヴァイオレ
鼠種のリス亜種の色っぽい少女。客からのプレゼントはデイジよりも多い。
・ラークスパ
猪種の色っぽい少女。けだるそう。
■ はみ出しコラム【遊具】
ホルトゥスはラトウィヂ王国で遊ばれている遊具について説明する。
・アルマ
ラトウィヂ王国ではとても流行っているカード遊び。
三種類の絵柄にそれぞれ一から十《ラスタ》(十進数だと十二)までの数字が描かれた三十枚(十進数だと三十六枚)で一組のカード。
絵柄は棍棒と盾と矢。
棍棒は盾に勝ち、矢 に負ける。
矢は棍棒に勝ち、盾 に負ける。
盾は矢 に勝ち、棍棒に負ける。
開始時の手札は六枚で、基本的には一対一で遊ぶ。
まず、同時に手札を一枚出す。
絵柄で勝敗が決まり、同じ絵柄の場合だけ数字が多いほうが勝ち。
ただし同じ絵柄であれば追加で何枚でも後出ししてよく、合計して十(十進数だと十二)だと「挟み撃ち」といって絵柄を無視して勝つことができる。
もちろん相手も「挟み撃ち」は可能だが、両者「挟み撃ち」の場合、枚数が多い方が勝ち。枚数が同じ場合は、最も大きな数字のある方が勝ち。最も大きな数字も一緒の場合、改めて絵柄で勝敗が決まる。
勝った場合、負かした相手のカードを「戦利品」として得られる。
手札がない場合は無条件で負け。その場合、勝者は出したカードの数字に等しい枚数、山札から「戦利品」として得られる。
両方とも手札がなくなったら終了で、「戦利品」の枚数が最終的な勝敗となる。
※ 指アルマ
絵柄のみを指で表現し、ジャンケンのようにして勝敗を決めるもの。
棍棒:握り拳。ジャンケンのグーと同じ。
盾 :手のひら。ジャンケンのパーと同じ。
矢 :指を一本だけ出してあとは握り込む。人差し指だけ出すのが一般的。
※ 庶民の子供たちの間では「アルマ」とはこの「指アルマ」のことを指し、本来の「アルマ」は「本物アルマ」と呼ばれることが多い。
・カラハ
ゲーム盤は、六つのくぼみがある二列ある左右に、縦長のくぼみが一つずつある「カラハ板」と呼ばれるもの。
∩○○○○○○∩
∪○○○○○○∪
このカラハ板以外に、主に小石を多数用意する。
六つずつあるくぼみは穴、縦長のくぼみは貯蔵庫、小石を種と呼ぶ。
これは一対一で遊ぶゲームであり、ゲームを始める前に、各穴に種を三つずつ入れる。
手前の一列六つの穴が自分の陣地であり、さらに左側の貯蔵庫も自分のものである。
自分の手番が来たら、自陣の穴から一つを選び、そこにある種を全て手に持つ。
手に持った種は、その穴から「右手から左手の方向へ」いわゆる時計回りに一つずつ、穴へ入れてゆく。この行為を種まきと呼ぶ。
種まきは自陣にのみ行い、自陣の穴に全て種まきしても余った種は相手陣地へはまかず、全て貯蔵庫へとまく。
このとき、貯蔵庫にまいた種が手の中の最後の一つであった場合、再び自陣の好きな穴から種を全て取り、種まきを行える。
もしも種まきの最後の一つが、自分の陣地の空き穴で終わった場合、その最後にまいた種と、その向かいにある相手の穴の種すべてを自分の貯蔵庫へと移動できる。
この手順を交互に繰り返し、どちらかの列の穴がすべて空になった時点でゲームは終了する。
ゲームの勝敗としては、自陣の穴を先にすべて空にしたほうが勝ちの場合と、貯蔵庫に蓄えた種の数で競う場合があり、後者の場合、先に空にした方が相手陣地に残る種を全て手に入れられるルールを用いる場合もある。
※ 種と精子は同じ単語であるため、性交の隠語として「カラハ」が用いられることもある。
・すごろく
木製、石製、骨や角製、ガラス製などの各種サイコロが存在し、それを用いたすごろくもよく遊ばれている。
サイコロについては、六面体が一般的。
すごろくの盤面については、様々なものが製品版として富裕層向けに販売されているが、庶民に限らず自作する者も少なくない。
・チェス
現在、地球で普及しているチェスとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されており、庶民が遊ぶことはない。
駒のデザインや名前までほぼ同じであるため、転生者が持ち込んだと思われる。
ただし、ビショップの駒だけは「ウィザード」という呼び名であり、手番を一回消費すると、ウィザードに隣接する自分の駒を一つ、一段回だけ昇格させることができる。ただし、この昇格が行えるのは昇格後の駒が盤上から取り除かれている場合のみであり、ゲーム中に昇格を使える回数はゲーム前に予め決められている場合が多い。
昇格は右記の通り:ポーン→ルーク→ナイト→クイーン
・リバーシ
現在、地球で普及しているリバーシとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されているが、板を切り抜いて片側に色を塗っただけのモノが、庶民の間ではこっそりと作られ、遊ばれている。
ちなみに、リバーシの盤面の裏側には、地球で普及しているナイン・メンズ・モリスの盤面が用意されている場合が少なくない。
・バックギャモン
現在、地球で普及しているバックギャモンとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されているが、板を切り抜いて色を塗っただけのモノが、庶民の間ではこっそりと作られ、遊ばれている。
・カード
現在、地球で普及しているトランプとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されている。
一番良く遊ばれている「ポーカー」という名前で呼ばれることもある。庶民においてはアルマが一般流通しているため、カードの方で遊ぶ者は少ない。
ちなみに、数字札はもちろん一から十まで(十進数換算で)十二枚ある。それ以外に、ジャック、クイーン、キングがあり、スートもスペード、ハート、ダイヤ、クラブと地球同様で、基本カードは(十進数換算で)六十枚ある。
・キタヤマ
現在、地球で普及しているダイヤモンドゲームとほぼ同じデザインのものが富裕層向けに販売されている。
販売されてからまだそれほど経っておらず知名度はまだ高くないが、とても人気が出ている。
チェス、リバーシ、バックギャモン、カードは地球と同じ呼称で呼ばれているが、このゲームに限っては地球とは異なる名称で呼ばれている。
・魔法対決
三角形の平べったい駒の裏に以下の種類のいずれかが書かれており、自分の陣地にいったん配置した後、交互に一つの駒を隣接する一マスへ動かして遊ぶ。
自分の駒があるマスへは移動することができないが、隣接する自分の駒同士であれば位置の入れ替えが可能。
相手の駒があるマスに移動した場合は「判定」が発生する。駒自身に設定された強さにより「判定」の勝敗が決まる。
システムとしては地球の軍人将棋に近いが、勝利条件である「魔術師または使い魔が宝物庫へたどり着く」には、その前に「鍵」を入手しなければならない。また、魔術師が死亡した場合、その時点で魔術師を失った側が負けとなる。
通常はプレイヤー二人と、どちらの駒が強いかの判定役一人の計三人で遊ぶが、判定役が居ない場合、「判定」の瞬間だけ互いに駒を見せ合うルールが一般的。
●ゲーム盤
□ 宝物庫 □
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□ □ ←橋
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□ 宝物庫 □
●駒
最初の配置時、また位置の入れ替えにおいて、橋マスや橋に隣接するマスへ動けない駒を置いてはいけない。
同じ駒同士で「判定」となった場合は相打ち。
魔術師(一個):毒、傭兵にのみ負ける。爆発罠、魔術師とは相打ち。
虹魔石ゴーレム(一個):魔術師と鍵の番人にのみ負ける。爆発罠とは相打ち。
紅魔石ゴーレム(一個):魔術師と鍵の番人、自分よりも上位のゴーレムにのみ負ける。爆発罠とは相打ち。
白魔石ゴーレム(一個):魔術師と鍵の番人、自分よりも上位のゴーレムにのみ負ける。爆発罠とは相打ち。
紫魔石ゴーレム(二個):魔術師と鍵の番人、自分よりも上位のゴーレムにのみ負ける。爆発罠とは相打ち。
濁り魔石ゴーレム(二個):魔術師と鍵の番人、自分よりも上位のゴーレム、使い魔に負ける。爆発罠とは相打ち。
使い魔(二個):毒薬、鍵の番人、濁り魔石ゴーレムにだけ勝てる。爆発罠とは相打ち。
魔法代償切れ(二個):動けない。ゴーレムにのみ勝てる。
爆発罠(二個):動けない。「判定」相手もろとも盤上より取り除かれる。
毒薬(二個):動けない。魔術師にのみ勝てる。
傭兵(一個):魔術師にのみ勝てる。動けるが、宝物庫へは入れない。
鍵の番人(一個):自陣からは出られない。ゴーレムには全勝。魔術師か使い魔に負けると「鍵」となる。
ローカルルールとして、「すり抜け」というルールがある。「すり抜け」を用いると、自陣の宝物庫に隣接する任意の一マスからまた別の一マスへ移動が可能となる。これは、通常の駒を一つ動かす代わりに行うことができる。「すり抜け」が可能なのは、毒薬、爆発罠、傭兵以外。「すり抜け」を許可しないゲームにおいては、宝物庫への立ち入りは禁止される。
※ こちらもキタヤマと同じ販売者が最近になって販売し始めたもの。
・ヌームム・シアクターレ
ヌームムとは鋳造貨のことで、ヌームム・シアクターレとはいわゆるコイン投げのこと。
銅貨、銀貨、金貨、大金貨など、使用するのはどの鋳造貨でもよい。
ラトウィヂ王国の鋳造貨においては、表には王の顔、裏には王の獣種を表す動物の図柄が刻まれている。王が変わった場合、先代と同じ獣種であっても図柄は変わる。
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