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お題【金色絨毯】
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よく迷子になる子どもだった。
好奇心が旺盛過ぎて気になったもののあとを追いかけていたら、いつの間にか。
でも途方に暮れたことはない。
夕暮れには必ずマシュが迎えに来てくれたから。
「おんっ!」
マシュの声を聞くと安心できた。
逆にマシュが絶対に迎えに来てくれると信じているからこそ、どこまでだって気になるものを追いかけていけたってのまである。
マシュはかっこよくて、頭が良くて、頼りになって、それから可愛い。
真っ白なグレートピレニーズ。私のお兄ちゃん。
ちいちゃな頃はマシュマロって名前だったらしいけど、私の妹として拾われた猫がマロ眉だったせいで、その子に「マロ」をあげて「マシュ」だけになったんだって。
私が物心ついたときにはもうマシュ&マロだった。
「おんっ!」
これはマシュの背中へ乗れって合図。
降りるときにも同じように吠えて教えてくれる。「着いたよ」って。
本当にマシュはすごい。
そのふかふかの背中も大好きだった。
夕陽色に染まったマシュの背中はまるで金色の魔法の絨毯みたいで、まぎれもなく私の宝物だった。
ほんと、好きだったんだ――胸が苦しくなる。
もっと長生きしてほしかったのに。
いまでもはっきりと思い出せる。あのふわふわの背中。
そう。
こんな――私はマシュの背中にしがみつく。
頭のどこかではわかってる。きっとこれは夢だって。
でも夢でもいい。
現実の嫌なこと全部忘れて、いまはマシュと一緒に帰りたい。
このマシュのにおいに埋もれていたい。
できればもう少し。もうちょっとだけでも。
「おんっ!」
体が急にガクッとなって、目が覚めた。
恥ずかしい。周りの人に見られなかったかな――と見回して、思考が現実に追いつくまでに数秒かかった。
私、なんで地面に座り込んでいるの?
それよりも辺りが夕陽に照らされたように真っ赤で、それがバスで、さっきまで自分が高速バスに乗っていたことを思い出して、慌てて立ち上がった。
慌ただしく到着した救急車に押し込められるように乗せられて、私はわけもわからず病院へと連れて行かれた。
後で知ったんだけど、私以外に生存者は居なかったみたい。だからバスが事故を起こしたタイミングで私だけ外に投げ出されたんだろうって言われた。
なのに、驚いたことに私には擦り傷一つなかった。
きっと誰も信じてくれないだろう。
私がマシュに助けてもらったことを。
自分でも信じられない。そんなことがあり得るのかって。
でもあのとき、私は確かにマシュの背中にしがみついた。幼い頃のように。
金色に輝いて見えたのは夕陽のせいじゃなかったかもだけど。
『ありがとう、マシュ』
私が心の中でそう思った直後、マシュの吠え声が耳の奥に響いた気がした。
<終>
好奇心が旺盛過ぎて気になったもののあとを追いかけていたら、いつの間にか。
でも途方に暮れたことはない。
夕暮れには必ずマシュが迎えに来てくれたから。
「おんっ!」
マシュの声を聞くと安心できた。
逆にマシュが絶対に迎えに来てくれると信じているからこそ、どこまでだって気になるものを追いかけていけたってのまである。
マシュはかっこよくて、頭が良くて、頼りになって、それから可愛い。
真っ白なグレートピレニーズ。私のお兄ちゃん。
ちいちゃな頃はマシュマロって名前だったらしいけど、私の妹として拾われた猫がマロ眉だったせいで、その子に「マロ」をあげて「マシュ」だけになったんだって。
私が物心ついたときにはもうマシュ&マロだった。
「おんっ!」
これはマシュの背中へ乗れって合図。
降りるときにも同じように吠えて教えてくれる。「着いたよ」って。
本当にマシュはすごい。
そのふかふかの背中も大好きだった。
夕陽色に染まったマシュの背中はまるで金色の魔法の絨毯みたいで、まぎれもなく私の宝物だった。
ほんと、好きだったんだ――胸が苦しくなる。
もっと長生きしてほしかったのに。
いまでもはっきりと思い出せる。あのふわふわの背中。
そう。
こんな――私はマシュの背中にしがみつく。
頭のどこかではわかってる。きっとこれは夢だって。
でも夢でもいい。
現実の嫌なこと全部忘れて、いまはマシュと一緒に帰りたい。
このマシュのにおいに埋もれていたい。
できればもう少し。もうちょっとだけでも。
「おんっ!」
体が急にガクッとなって、目が覚めた。
恥ずかしい。周りの人に見られなかったかな――と見回して、思考が現実に追いつくまでに数秒かかった。
私、なんで地面に座り込んでいるの?
それよりも辺りが夕陽に照らされたように真っ赤で、それがバスで、さっきまで自分が高速バスに乗っていたことを思い出して、慌てて立ち上がった。
慌ただしく到着した救急車に押し込められるように乗せられて、私はわけもわからず病院へと連れて行かれた。
後で知ったんだけど、私以外に生存者は居なかったみたい。だからバスが事故を起こしたタイミングで私だけ外に投げ出されたんだろうって言われた。
なのに、驚いたことに私には擦り傷一つなかった。
きっと誰も信じてくれないだろう。
私がマシュに助けてもらったことを。
自分でも信じられない。そんなことがあり得るのかって。
でもあのとき、私は確かにマシュの背中にしがみついた。幼い頃のように。
金色に輝いて見えたのは夕陽のせいじゃなかったかもだけど。
『ありがとう、マシュ』
私が心の中でそう思った直後、マシュの吠え声が耳の奥に響いた気がした。
<終>
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