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脱出
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幸村一行は抜け穴をくぐって行く。
三人のうち真田親子は小柄なのだが、秀頼の身長は六尺五寸(約197cm)ある。この雄大な体格が家康を恐怖させ豊臣を滅ぼすことを決意させたと言われているが、狭い地下の道を通るには些か持て余し気味である。
「上様、今しばらくご辛抱を」
「良い、気にするでない」
幾度かこんなやり取りをした後、先頭の幸村が急に立ち止まり、左側の壁をそろそろ探っていたがある場所でピタリと止まると
三回壁を叩いた。
驚いたことに中から声がした。
「主の証は」
幸村が応える
「金瓢なり」
ゴリゴリゴリ…
なんと岩壁と思われた箇所が口を開け、別の抜け道が姿を現した。
中には好々爺が一人佇んでいる。
「おこしやす」
緊迫した場面にそぐわない間の抜けた声がした。
秀頼は思わず声をかけた「道頓!」
「シーーーー」
道頓と呼ばれた老人はおどけた仕草で声を出さないように示した後、三人を中に招き入れた。そして開けた入り口を丹念に閉め、後ろに石を積み上げて開かないようにしてから枝分かれした道を先に進む。
最後尾を追撃者がいないかどうか警戒しながら歩いていた真田大助は不思議だった。
いきなり現れた人の良さそうな老人を父は信頼しているようだが、上様まで親しげにしているのである。その訝しげな雰囲気が幸村に届いたのであろう。
「大助ははじめてであったな、この方は安井道頓という御人じゃ。太閤殿下も親しくされていた浪花は平野の大商人よ」
「いやいや天下の真田様にこないにお褒めいただくと何やら背中がこちょばぁなりますな」道頓はひとしきり照れた後に
「大助様でございますな、事が事だけにご挨拶が遅れましてホンマ申し訳のないことでございます。すんまへん」「わては安井道頓と申します、どうぞ以後よろしゅうお願いします」
名前でお気付きの方がいるかも知れないが、彼は大阪ミナミの繁華街を流れる「道頓堀」の名前の由来になった人物である。
「生前の太閤はんのご命令をいただきまして、新しい川を掘っとったんですわ」「ほしたらある晩、わての家へ太閤はんがお忍びで来はりまして」「もうそん時ゃ口の中から心臓飛び出して盆踊りでも踊りだすかと思いましたわ」
道頓の話は長いので要約するとー
大坂城の地下にはいざという時に脱出できるように抜け穴が掘られているのだが、その秘密が漏れている可能性があるので途中から枝分かれした新しい道を掘ってほしいとの依頼だった。
城の奉行に命ずれば良いのだが、機密保持のため外部の人間に依頼したそうだ。普通は逆なのだろうが、今の城内は秀吉と家康のどちらにつくか迷っている者が少なからずいるらしい。
三人のうち真田親子は小柄なのだが、秀頼の身長は六尺五寸(約197cm)ある。この雄大な体格が家康を恐怖させ豊臣を滅ぼすことを決意させたと言われているが、狭い地下の道を通るには些か持て余し気味である。
「上様、今しばらくご辛抱を」
「良い、気にするでない」
幾度かこんなやり取りをした後、先頭の幸村が急に立ち止まり、左側の壁をそろそろ探っていたがある場所でピタリと止まると
三回壁を叩いた。
驚いたことに中から声がした。
「主の証は」
幸村が応える
「金瓢なり」
ゴリゴリゴリ…
なんと岩壁と思われた箇所が口を開け、別の抜け道が姿を現した。
中には好々爺が一人佇んでいる。
「おこしやす」
緊迫した場面にそぐわない間の抜けた声がした。
秀頼は思わず声をかけた「道頓!」
「シーーーー」
道頓と呼ばれた老人はおどけた仕草で声を出さないように示した後、三人を中に招き入れた。そして開けた入り口を丹念に閉め、後ろに石を積み上げて開かないようにしてから枝分かれした道を先に進む。
最後尾を追撃者がいないかどうか警戒しながら歩いていた真田大助は不思議だった。
いきなり現れた人の良さそうな老人を父は信頼しているようだが、上様まで親しげにしているのである。その訝しげな雰囲気が幸村に届いたのであろう。
「大助ははじめてであったな、この方は安井道頓という御人じゃ。太閤殿下も親しくされていた浪花は平野の大商人よ」
「いやいや天下の真田様にこないにお褒めいただくと何やら背中がこちょばぁなりますな」道頓はひとしきり照れた後に
「大助様でございますな、事が事だけにご挨拶が遅れましてホンマ申し訳のないことでございます。すんまへん」「わては安井道頓と申します、どうぞ以後よろしゅうお願いします」
名前でお気付きの方がいるかも知れないが、彼は大阪ミナミの繁華街を流れる「道頓堀」の名前の由来になった人物である。
「生前の太閤はんのご命令をいただきまして、新しい川を掘っとったんですわ」「ほしたらある晩、わての家へ太閤はんがお忍びで来はりまして」「もうそん時ゃ口の中から心臓飛び出して盆踊りでも踊りだすかと思いましたわ」
道頓の話は長いので要約するとー
大坂城の地下にはいざという時に脱出できるように抜け穴が掘られているのだが、その秘密が漏れている可能性があるので途中から枝分かれした新しい道を掘ってほしいとの依頼だった。
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