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「実のところ阿国の一座に隠れて、地の果ての薩摩まで行こうと思っておったのじゃが、その必要が無くなったやも知れぬ」
夜が明けて朝餉(朝御飯)を取ったあと、秀頼を除く一同を集めて幸村が話し出す。
果心は「肝心のお世継ぎが女子では薩摩の後ろ盾でお家再興という訳にもいくまいの」と独り言のようにつぶやく。
「まあ薩摩行きはとりあえず無しとして、話だけでも旅立ってもらったほうが良いかもね」
「阿国、それはどういう事じゃ?」
「名将真田幸村が秀頼様をお連れして薩摩まで落ち延びたと言う噂を流せば、江戸狸の家来もそっちの方ばっかり見るでしょうよ」
「なるほどそれは良いかも知れぬ。で、どのような噂をまく?」
一同呻吟していると、大助がふっと歌うように口ずさむ。
「花のようなる秀頼様を 鬼のようなる真田が連れて 退きも退いたり加護島(鹿児島)へ」
「うまい!」阿国が大声でほめる。
幸村が「ならばこれを広めるのじゃが…」すると果心が「それはわしがやろう。噂をまくには人が要る、わしなら十二人に分かれて仕事をする故、二~三日もすれば京大阪の童がこれを口ずさみながら手毬をつくであろうよ」
言った瞬間果心の体はかき消すように見えなくなった。
幸村は自らも乱破透破(忍者)を用いたこともあるが、さすがにここまでの手練は見たことも無い。
そこへちょうど朝餉を済ませた秀頼がふらっと入って来る。一同と朝の挨拶を交わしたところで幸村が「秀頼様をはじめ三名、行く先の目処がつくまで阿国の一座で世話になりまするが、その前に名前を変えねばなりませぬ」
それはそうだろう。本名晒して歩いていれば、討ち取ってくださいと言っているようなものだ。
「わしは幼い頃『源次郎』と名乗っておった。ゆえに此度は『源二』と名乗ろうと思う」幸村が自らの名を決めた。
大助は「私の諱(本名)は幸昌ですが、皆大助と呼ぶのでこれからも大助で良いと思います」
「うむ、大助はよくある名前ゆえ問題無いであろう」
「それで秀頼様でごさりまするが…」
「わしは父上様からいただいた『秀』の字を大事にしたい」
「それは良いお考えかと。ならばこれからは『おひで』と呼ばさせていただきます。ただし名を書く時の漢字は変えたほうが良いと思われますゆえ、『お日出』とされればいかがでございましょう」
「良い、"秀"の字にはこだわりあれど致し方あるまい」
阿国が「良うございましょう、お日出さんは着物も女物で仕立てなければなりませぬなぁ。さぁて布地は何反いるのやら」
阿国の軽口に思わず笑い出す一同だった。
夜が明けて朝餉(朝御飯)を取ったあと、秀頼を除く一同を集めて幸村が話し出す。
果心は「肝心のお世継ぎが女子では薩摩の後ろ盾でお家再興という訳にもいくまいの」と独り言のようにつぶやく。
「まあ薩摩行きはとりあえず無しとして、話だけでも旅立ってもらったほうが良いかもね」
「阿国、それはどういう事じゃ?」
「名将真田幸村が秀頼様をお連れして薩摩まで落ち延びたと言う噂を流せば、江戸狸の家来もそっちの方ばっかり見るでしょうよ」
「なるほどそれは良いかも知れぬ。で、どのような噂をまく?」
一同呻吟していると、大助がふっと歌うように口ずさむ。
「花のようなる秀頼様を 鬼のようなる真田が連れて 退きも退いたり加護島(鹿児島)へ」
「うまい!」阿国が大声でほめる。
幸村が「ならばこれを広めるのじゃが…」すると果心が「それはわしがやろう。噂をまくには人が要る、わしなら十二人に分かれて仕事をする故、二~三日もすれば京大阪の童がこれを口ずさみながら手毬をつくであろうよ」
言った瞬間果心の体はかき消すように見えなくなった。
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