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芝居
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大阪脱出から三月余り経った。
果心が鹿児島行きの噂を広めてくれた甲斐もあってか、豊臣残党狩りも落ち着きを見せだした頃、阿国一座は、京都四条の河原に芝居小屋を建てて常打ちの興行を始めていた。
だが、今演じている「かぶき踊り」も飽きられてきているのか入りが悪くなっており、何とかテコ入れをしなければならないと阿国は考えていた。
何かないかと考え事をしながら歩いていたところに、どこからとも無く妙なる歌声が聞こえてきた。
驚きつつも歌声の主を探していると、それは掃き掃除をしているお日出が阿国歌舞伎の一場面を諳んじて歌っていたのであった。
阿国は天啓の如く閃いた『この子を主役にして歌舞伎を作れば大入り満員間違いなし!』
問題なのはお日出を主役にできるような筋書きが思いつかないことである。とつおいつ考えながら今日の興行を終え、夕餉にしようと考えていたところに懐かしい人物が現れた。
「おこんばんわ~」
大阪城脱出の際活躍してくれた安井道頓が、何とも気の抜ける挨拶をしながら現れた。
そう、道頓も大阪方の一員として討ち取られたことになっているので名前を変えている。
その名も「高井敦堂」・・・いや隠す気が有るのだか無いのだか。
小屋の奥から果心が出てきて吐き捨てる。「今までどこをほっつき歩いておったか!役立たずは何処へなりと去ぬるが良い」
どうも果心は道頓を見ると悪罵を浴びせなければ気が済まぬようである。
「まあまあそない言わんと、久しぶりやさかい歓迎してえな」
さらっと流せるあたり道頓の方が大人である。
「果心はんも言うてはったやないですか、川堀りせえって。せやさかい私が居らんでもあんじょう行くように川を掘る段取りしてましたんや。だれかさんと違て頭脳労働っちゅうやつをね」
道頓と果心の悪意のこもったやり取りをかいくぐり、阿国はそれとなく聞いてみる。
「今世の中で一番関心を引いている事って何でしょうね?」
「そら大阪城の一件でっしゃろ、老いも若きも江戸のやり方にそれは無いやろってムカついてまっせ!」
そこで阿国は今悩んでいることを打ち明ける。
「豊臣家の後始末を芝居にしたら大評判になるでしょうねぇ。ただそれをすると私ら打首獄門間違い無しね」
「ああ、そういう事やったら見た目違う話にすり替えるんですわ」
「どういう事?」
「今は江戸幕府なんやけど、以前には鎌倉幕府や足利幕府っちゅうのがありましてな。今の豊臣徳川の顚末を昔の話っちゅう事にするんですわ」
「意味がわからんな、貴様の話は」果心が否定する。
「ほんなら一度わての考えてるお話を知り合いに書いてもらいますわ。それ見て決めたらよろしおまっしゃろ?」
ここで源二が口を挟む。
「秘密を漏らす気か?」
「そんな訳ありませんやん、その人も今回の一件には腹に据えかねるところがあるようで、面白い話を書いてくれますやろ」
「その御仁とは?」
「小瀬甫庵っちゅう方ですわ」
果心が鹿児島行きの噂を広めてくれた甲斐もあってか、豊臣残党狩りも落ち着きを見せだした頃、阿国一座は、京都四条の河原に芝居小屋を建てて常打ちの興行を始めていた。
だが、今演じている「かぶき踊り」も飽きられてきているのか入りが悪くなっており、何とかテコ入れをしなければならないと阿国は考えていた。
何かないかと考え事をしながら歩いていたところに、どこからとも無く妙なる歌声が聞こえてきた。
驚きつつも歌声の主を探していると、それは掃き掃除をしているお日出が阿国歌舞伎の一場面を諳んじて歌っていたのであった。
阿国は天啓の如く閃いた『この子を主役にして歌舞伎を作れば大入り満員間違いなし!』
問題なのはお日出を主役にできるような筋書きが思いつかないことである。とつおいつ考えながら今日の興行を終え、夕餉にしようと考えていたところに懐かしい人物が現れた。
「おこんばんわ~」
大阪城脱出の際活躍してくれた安井道頓が、何とも気の抜ける挨拶をしながら現れた。
そう、道頓も大阪方の一員として討ち取られたことになっているので名前を変えている。
その名も「高井敦堂」・・・いや隠す気が有るのだか無いのだか。
小屋の奥から果心が出てきて吐き捨てる。「今までどこをほっつき歩いておったか!役立たずは何処へなりと去ぬるが良い」
どうも果心は道頓を見ると悪罵を浴びせなければ気が済まぬようである。
「まあまあそない言わんと、久しぶりやさかい歓迎してえな」
さらっと流せるあたり道頓の方が大人である。
「果心はんも言うてはったやないですか、川堀りせえって。せやさかい私が居らんでもあんじょう行くように川を掘る段取りしてましたんや。だれかさんと違て頭脳労働っちゅうやつをね」
道頓と果心の悪意のこもったやり取りをかいくぐり、阿国はそれとなく聞いてみる。
「今世の中で一番関心を引いている事って何でしょうね?」
「そら大阪城の一件でっしゃろ、老いも若きも江戸のやり方にそれは無いやろってムカついてまっせ!」
そこで阿国は今悩んでいることを打ち明ける。
「豊臣家の後始末を芝居にしたら大評判になるでしょうねぇ。ただそれをすると私ら打首獄門間違い無しね」
「ああ、そういう事やったら見た目違う話にすり替えるんですわ」
「どういう事?」
「今は江戸幕府なんやけど、以前には鎌倉幕府や足利幕府っちゅうのがありましてな。今の豊臣徳川の顚末を昔の話っちゅう事にするんですわ」
「意味がわからんな、貴様の話は」果心が否定する。
「ほんなら一度わての考えてるお話を知り合いに書いてもらいますわ。それ見て決めたらよろしおまっしゃろ?」
ここで源二が口を挟む。
「秘密を漏らす気か?」
「そんな訳ありませんやん、その人も今回の一件には腹に据えかねるところがあるようで、面白い話を書いてくれますやろ」
「その御仁とは?」
「小瀬甫庵っちゅう方ですわ」
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