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お歌は急いで旅支度を整え始めた。
両親は「いきなりどないしたん?」と尋ねてきたが、お歌は「伊勢参宮へお参りしてくる」と言うだけである。
今の時代では考えられないことだが、この当時にお伊勢さん参りをするということは究極の善行であり、周りの者は支援こそすれ、止めることなどあり得なかったのである。
そして阿国一座が出立の日、お歌はウキウキしながら「私だけが海野様を追いかけていけるのよ」と北叟笑みながら一座の宿泊する寺に駆けつけたが…
そこには二~三十人ばかりの娘達か同じような旅姿で集まっていた。
「あんたら何やのん!」
「何やのんて、阿国はんのお伊勢参りのお手伝いに来ましたんや。あんたこそそんな大声上げはって、何ですのん?」
お歌は愕然としながら「ああ、誰しも考えることは一緒やなぁ、出遅れたわ」と嘆きながらも「こんな事くらいで負けへんわ、最後に笑うんは私やもん!」と闘志をメラメラと燃やす。
そこへ阿国が奥から出て来たからたまらない。娘らがみっしり集まって団子になってしまった。
「ちょ、ちょっとアンタ達いったいぜんたい何だい!」「お伊勢参りお手伝いさして!」「私が一番お役に立ちます!」「何言うてんの!私の方が!」
娘らの余りの熱気に青くなりながら阿国が叫ぶ!「海野信濃守なら清水寺にお参りに行ったわよ!」
聞くやいなや娘達は「清水寺やて!」「清水寺!」「キャーーーー!」と喚きながら山門を出ていった。
やれやれ、今のうちに出立と思ったところ、何とお歌だけが残っていてニヤ~~~っと笑っている。
「どうしたのさ?皆清水へ行ったわよ」イヤな予感がするがとりあえず聞いてみる。
するとお歌は「ウソどすなぁ」とニヤニヤ笑いながら言うのである。
阿国は「あのねえ、私ら一座は手伝いなんか要らないのよ。一緒にお伊勢参りをすると言うなら止めはしないけど、そうでないならお家へお帰りなさいな」
それを聞くやお歌は「皆さんのお邪魔はいたしまへん、どうか連れてっておくれやす」と土下座でもする勢いで懇願した。
阿国もこれには根負けである。「わかったわ。荷物運びでもよければついて来なさいな」
どうせ山道にへこたれてすごすご帰るでしょと高を括りながら出立の最後の用意を終えた。
この当時、諸街道は整い始めてはいるがまだまだ荷車やらが通れるのは都市周辺部のみであり、旅の荷物は背負って運ぶのが当たり前なのである。
大道具は現地で作るとして太鼓や笛などの鳴り物は担いで運ぶしか無い。お歌も容赦なく荷物を一つ割り当てられる。
「あれっ!?」きっちり梱包されて中身は見えないが、何か抱え心地に覚えがある。
「阿国はん、これ三味線どす?」
「あら良く知ってるわね、最近流行りだしたから買ってみたんだけどね。弾ける人が辞めちゃったから今は置物になっちゃってるわね」
お歌は顔を紅潮させて叫ぶ「私これ弾けます!!!!!」
両親は「いきなりどないしたん?」と尋ねてきたが、お歌は「伊勢参宮へお参りしてくる」と言うだけである。
今の時代では考えられないことだが、この当時にお伊勢さん参りをするということは究極の善行であり、周りの者は支援こそすれ、止めることなどあり得なかったのである。
そして阿国一座が出立の日、お歌はウキウキしながら「私だけが海野様を追いかけていけるのよ」と北叟笑みながら一座の宿泊する寺に駆けつけたが…
そこには二~三十人ばかりの娘達か同じような旅姿で集まっていた。
「あんたら何やのん!」
「何やのんて、阿国はんのお伊勢参りのお手伝いに来ましたんや。あんたこそそんな大声上げはって、何ですのん?」
お歌は愕然としながら「ああ、誰しも考えることは一緒やなぁ、出遅れたわ」と嘆きながらも「こんな事くらいで負けへんわ、最後に笑うんは私やもん!」と闘志をメラメラと燃やす。
そこへ阿国が奥から出て来たからたまらない。娘らがみっしり集まって団子になってしまった。
「ちょ、ちょっとアンタ達いったいぜんたい何だい!」「お伊勢参りお手伝いさして!」「私が一番お役に立ちます!」「何言うてんの!私の方が!」
娘らの余りの熱気に青くなりながら阿国が叫ぶ!「海野信濃守なら清水寺にお参りに行ったわよ!」
聞くやいなや娘達は「清水寺やて!」「清水寺!」「キャーーーー!」と喚きながら山門を出ていった。
やれやれ、今のうちに出立と思ったところ、何とお歌だけが残っていてニヤ~~~っと笑っている。
「どうしたのさ?皆清水へ行ったわよ」イヤな予感がするがとりあえず聞いてみる。
するとお歌は「ウソどすなぁ」とニヤニヤ笑いながら言うのである。
阿国は「あのねえ、私ら一座は手伝いなんか要らないのよ。一緒にお伊勢参りをすると言うなら止めはしないけど、そうでないならお家へお帰りなさいな」
それを聞くやお歌は「皆さんのお邪魔はいたしまへん、どうか連れてっておくれやす」と土下座でもする勢いで懇願した。
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「あれっ!?」きっちり梱包されて中身は見えないが、何か抱え心地に覚えがある。
「阿国はん、これ三味線どす?」
「あら良く知ってるわね、最近流行りだしたから買ってみたんだけどね。弾ける人が辞めちゃったから今は置物になっちゃってるわね」
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