花のようなる天下のあるじ 鬼のようなるつわもの連れて

選抜

　さて京から伊勢までの道程みちのりだが、まず東海道で関宿せきじゅくまで行き、そこから伊勢別街道で津まで出たあと伊勢街道で伊勢神宮まで歩む形になる。

　ざっくり言うと現在の国道一号線から三重県道十号線を経由して国道二十三号線で南下する事になる。

　京を出てから三泊目に草津宿に宿泊する事になった。ここで十日程滞在して歌舞伎興行をしようというものだ。

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　さて阿国らが興行の準備をしていると、清水寺きよみずでらへ追い払われた娘らが三々五々さんさんごご追いついて来ていた。

　三十人ほどいた娘らは七人に減っている。他の娘らは清水参りをした後に、お寺の周辺で美味しいものを食べて家に帰ったとのこと。

「あんなイケズな人ら私うち知らん！」とか何とか言っていたそうな。

　その子らにとっては芝居の男役よりお団子だんごや、お汁粉しるこの方が魅力的なんだろう。


　そんなこんなで、ようやく七人の娘らが一座を探し当てたら！まあなんと言うことでしょう！！

　お歌が甲斐甲斐かいがいしく役者の世話や、荷物運びをしているではありませんか！！。

「あんた何してますの！」「あとから来たクセに抜け駆けしはるやなんて！」「ズルいズルいズルい！！」

　犬の群れに猿を放り込んだようにキャンキャンキャンキャンそりゃもう大騒ぎ。

　奥から敦堂どうとんが出てきて仲裁しようと「おまはんら、何をギャアギャア…」と言うや否いなや
「あんたはんは関係有あらしまへん！」「私うちらとこの子の問題どす！」「ぶぶ漬けでも食べときなはれ！」と機関銃のような集中砲火を浴び、心をズタズタにされてあえなく退場。

　こうなると男衆おとこしは情けない。この中で一番の剛勇ごうゆう真田幸村げんじでさえ「わしが得意なのは家康タヌキ狩りじゃ」とか何とか呟つぶやいて消えてしまう。

　お歌はしれっと「何なんもズルしてまへん、私うちの三味線の腕を見込まれただけどすえ」

　お歌がそう自慢げに言うやいなや「私うちかて三味線ぐらい弾けます！！」「私うちは鼓つづみが得意えてで！！」「篳篥ひちりきの笛なら私うちが！！！」

　ワライカワセミが百羽程集まったらこうなるのかというぐらいの音量で詰め寄った時に、運悪く阿国が出てくる。

　途端とたんに揉みくちゃにされる阿国。

「な、な！海野様なら…」
「何言うてはりますの！もう騙されまへん！！」「よくも私うちらを謀たばからはって！！！」「今度やったら許しまへんえ！！！！！」

　まずい！今度ばかりは…と阿国が覚悟を決めようとした時に、お日出ひでよりが出てきて「ん？騒さわがしいな。如何致いかがいたした？」

　その瞬間阿国は終わったと絶望したが、娘ら全員の瞳ひとみが心臓印ハートマークに変わった！

　科しなを作りながら娘らは自分が如何いかに楽器の演奏が得意かを訴えかける。


　お日出ひでよりは感心する。
　応仁おうにんの乱で京が灰燼かいじんに帰きしてから、さほど年月は経たっていないのに、これだけの娘が芸事げいごとに通じている。都みやことは大したものであると。

　お日出ひでよりは阿国に「ならばこの娘こらがどの鳴り物が行けそうか選抜オーディションしようではないか！」

　阿国は「はああああ～！？」と叫んだ。