ハズれキャラの井口くんには小悪魔な後輩が憑いている

じゃけのそん

文字の大きさ
17 / 32
第1章 修学旅行編

第16話 夢の国の始まり

しおりを挟む
 ついにこの日が来た。
 ……というと、なんだか期待していたようにも聞こえるが。俺は全くもって本日の東京散策、『ギャルと行く東京ディ〇ニーシーの旅』を楽しみになどしていない。

「最初何から攻める?」

「やっぱトイ〇ニジャン?」

「それなー」

 乗り換え待ちの駅のホームにて。
 すっかりディ〇ニー気分の古賀たちの会話を、俺は少し離れたところから聞いていた。というのも出発してからここまで、俺は既にいない者扱いである。

「でもタワ〇ラも捨てがたくない?」

「それはそうかもだケド、百トイ〇ニ優先っショ」

「それなー」

 でも今日に限ってはこれでいい。
 なぜなら俺はNPCなのだから。本日の主人公である奴らに行動や選択は任せて、脇役の俺はそのサポートに徹底すればいいのだ。

「それより、電車こな過ぎだシ」

「それなー」

「でもあと2分で来るっぽいよ」

「えぇー、長すぎ遅すぎマジやばスギー」

 ディ〇ニーが楽しみ過ぎる故か、駄々をこね始めたのは安達。「遊ぶ時間減っちゃうシー」とか不満げに言いながら、落ち着きなく身体を揺すっていた。

 短く折られたスカートがユラユラ揺れる。
 ちなみにパンツは……ギリギリ見えない。

「これじゃ田舎と変わんないジャン」

 やがてそんな不満をぶちまけた安達。
 それをマジっぽく言っちゃうあたり、奴は間違いなく東京をなめている。ガキじゃねぇんだから、10分弱の乗り換え待ちぐらい我慢しやがれこの田舎者が。

「てかサー」
 
 と、ここで急に安達の視線は俺に。
 それに続くようにして古賀や加瀬もこちらを見る。

(え、何、もしかして俺の心読んだ?)

 なんて一度は背筋が凍り付いた俺だったが。
 安達から出たのは、それとは全く別の話題で。

「そういやあいつ、前に色々あったくネ」

「色々って?」

「ほらあれ、”自殺”しようとしたってヤツ」

 随分と懐かしいそんな話だった。

「ああー、そういえばあったね、それ」

「線路に飛び込んだらしいジャン?」

「しかも電車来たタイミングでだっけ」

「そうそう。マジ意味わかんな過ぎてキモイ」

 嫌悪感丸出しで語る安達に、相槌をうつ古賀。そんな二人のやり取りを前に、すっかり忘れてしまっていたはずの記憶が蘇ってくる。

 思い返せばそんなこともあった。

 あれは確か……入学式の時。
 当時の俺は、初めて着たブレザーに興奮していて。鏡に映った自分を見るなり、「俺は大人になったんだ」なんて、クッサイ台詞を漏らしたっけ。

 ネクタイを付けた。
 たったそれだけのことなのに、『今なら何でも出来るんじゃないか』って、『”あの日の失敗”を取り戻せるんじゃないか』って、俺は本気で勘違いをしていた。

 そんな痛々しい妄想に浸っていたからこそ、俺は選択を誤り、クラスカーストの最下位に位置する脇役モブとして、高校生活をスタートすることになった。

 全てはあの時の事件がきっかけで。

「マジウチらの前で血迷うのだけは勘弁だかラ」

 怪訝な視線で俺を睨んだ安達は、もはや命令と言わんばかりにそう言った。そんな怖い顔で身構えなくとも、わざわざ東京まで来て線路ダイブする気はねぇよ。


 まもなく電車が参ります。黄色い線の内側まで――


 やがてホームにアナウンスが流れ、電車の音が近づいてきた。が、残念ながら俺たちが乗るのはこれではなく、この後に来る電車である。

 ゴーッという轟音を鳴らしながら、ホームに飛び込んでくる電車。その先頭車両が目の前を過ぎ去ったその瞬間――

 巻き起こった風が『もふっ』と古賀たちのスカートをめくりあげた。ひらりと揺らいだそのスカートの裏から現れたのは、男の夢が詰まった計三枚の布。

「ちょ、スカートやばいシ」

 今更抑えてももう遅い。
 俺はこの目でバッチリそれを捉えたぞ。

(右から黒! ピンク! 白!)

 まさかまさかの古賀がピンク。
 安達が黒で加瀬が白はわかるけど……古賀がピンクて!

「意外過ぎやろがいっ!」

 俺が放ったその声も、電車の音にかき消され奴らには届かない。思わぬラッキーが起こった今この瞬間だけは、こいつらの班でよかったと心から思う。

「やっと来たシ。早く乗ろ」

「ちょっと待って安達。これ……」

「ナニ、これに乗ればディ〇ニー着くんショ?」

「うーん、なんか違う気がしなくもないような……」

 まあいっか、とかなんとか言いながら、電車に乗り込もうとする古賀たち。慌てて俺が呼び止めると、交通担当の古賀さんは、頬を赤く染めながら言った。

「し、知ってたし」


 * * *


 ディ〇ニーに到着するや否や。

「いえぇぇぇぇーい!!」

 などと言いながら、バカ丸出しのポーズをとる御三方。ぐるぐる回る地球のようなオブジェクトをバックに、なぜか俺は自分のスマホで古賀たちを撮影していた。

(こういう時は透明人間扱いしないんですね)

 どうせなら誰かのスマホを借りたかったが。どうやら古賀たちの中で、俺という存在は生き物界の底辺に位置するらしく。

「あんたにスマホ触られたくないシー」

 という確定汚物認定を頂き、このような状況になった。ちなみに撮った写真を送信後、即消さなかった場合、俺がこの世界から消されるらしい。

 ちょっと怖すぎて笑えないよね、この人たち。

「じゃそれ、クラスのグループに送信ヨロー」

 撮影を終え、安達は投げやりにそう言うが。
 案の定俺はクラスのグループとやらを知らない。

「俺、グループとか入ってないんだけど」

「えっマジ!? グループに入ってない奴とかいんノ!?」

 そんな目ん玉飛び出る勢いで驚かれましても。グループ以前に、誰一人としてクラスの奴の連絡先知らないからね、俺。

「どうする? グループ入れる?」

「でも誘うには友達登録いるくネ? ウチ無理なんですケドー」

 やがて古賀たちによる謎会議が勃発。
 俺がグループに入る上での懸念材料を挙げながら、真剣に話し合う二人。それとは裏腹に、それなbotの加瀬さんは、相変わらずの「それなー」を連発していた。

(てかそれで会話成り立つのかよ。どういう理屈だよ)

 そもそも話し合うくらいなら、誰か一人スマホ貸してくれさえすれば済むんですけど……なんて思ってたら、険しい顔の古賀が俺にスマホを差し向けてきた。

「じゃああたしのスマホ貸すから、もう一回これで撮って」

 結局こうなるのかよ。
 何だったんだよ、今までの時間は。

「アルバム見たらぶっ殺すから」

 そんな脅し付きで俺はスマホを受け取る。
 前から思ってたけど、この人ダントツで口悪いよね?

「じゃあ、撮るぞー」

「いえぇぇぇぇい!!」

 こうして俺の夢の国の旅は幕を開けた。
 夢の国とは名ばかりの殺伐とした空気と共に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

処理中です...