ハズれキャラの井口くんには小悪魔な後輩が憑いている

じゃけのそん

文字の大きさ
23 / 32
第1章 修学旅行編

第22話 ただいま

しおりを挟む
「だはぁぁ……疲れだぁぁ……」

 疲労困憊ひろうこんぱい
 玄関を開けるなりドデカい息を漏らした俺は、力尽きるように玄関先に座り込んだ。すると間もなくして、家の中からパタパタという足音が近づいてくる。

「待ってましたー!」

 超が付くほどのハイテンションで登場したのは陽葵ひまり
 その天使のような、愛らしい笑みを目の当たりにした俺は。

(あ、やばい。可愛すぎてやばい)

 あまりの疲れと可愛さからうっかり失神しそうになった。約4日ぶりの陽葵、マジ尊すぎて軽く100回は死ねる。

「あらー、随分と疲れていらっしゃいますなー」

「そりゃあ疲れるだろうよ。クソほど歩いたし」

「それもそっか! でっ! 陽葵のお土産は!?」

 4日ぶりに兄が家に帰ってきたというのに。
 おかえりよりも前にその言葉が出るんですね。

「はぁ……まあいいけどさ」

 疲れすぎて突っ込む気力も起きない。
 俺は言われるがまま、土産袋に手を入れて。

「ほれ、一番可愛いやつにしてやったぞ」

 自信満々にマ〇クのぬいぐるみを渡した。

「お兄ちゃん陽葵の為に奮発しちゃいました」

 ということで、ありがとうは?
 みたいなノリで陽葵を見やれば。

「えっ、マ○ク……?」

 ぬいぐるみを受け取るなり、陽葵は顔を顰めた。
 この感じからして……もしかしてマ〇ク嫌だった!?

「もぉー、マ○クとか悠にぃマジでセンスなーい」

 やがて陽葵はがっかり顔でそう言った。

「どうせならス○ィッチかダッ○ィーがよかったー」

 追加で出たのは、お土産を渡した時に言われたら傷つく言葉ランキング堂々の第一位である『〇〇がよかった』。

 これには俺も泣くを超えていっそ死にたい気分です。

「だ、だ、だって陽葵、ぬいぐるみってしか言わなかったじゃん!」

「そこは兄妹だから察して欲しかったというか。夢の国とは程遠い場所に住んでる悠にぃが、何のぬいぐるみ買ってくるか気になったっていうか」

 何だよそれ……。
 そんなしょうもない理由で俺ディスられてんの……?

「とにかく、マ○クはないわー」

 陽葵の言葉が容赦無く俺の心に突き刺さる。
 葉月には好評だったから大丈夫だと思ったのに!

「お前のワケのわからない好奇心のために、良心と推しキャラ否定されたお兄ちゃんの身にもなってみろ。悲しすぎて一曲歌えちゃいそうだよ、マ○クだけに」

「うわー、おもしろーい」

 渾身のボケを棒読みで流され、いよいよ死にたい俺である。

「まあでも、悠にぃ無事に帰ってきてくれたし、それで良しとしますか!」

「陽葵……!?」

 辛辣から一変。唐突に向けられたその笑顔は、闇に染まった俺の心を瞬く間に浄化した。眩しさと愛らしさを兼ね備えた彼女こそが、世界一のマイエンジェル。

「陽葵みたいな可愛くて優しい子が妹で、お兄ちゃん本当幸せもんだよ!」

 あまりに神々しすぎて直視できない。
 涙だらだら、鼻水ずばずばで俺は妹への愛を告げた。

 ああ、神よ。
 こんな素敵な子と兄妹にしてくれてありがとう。
 俺は一生かけて、この天使を愛し続けることを誓——

「幸せならいつまでもそんなところ座ってないでお風呂掃除よろしくー」

「……」

 下げて、上げて、そして下げるそのスタイル。
 我が妹ながらなんて手厳しいんだ。

「あと、シャンプー切れてるから補充しておいてー」

 ぬいぐるみを片手に去ってしまう。

 もしかして俺、お土産渡したから用済み?
 聞きたかったあの言葉がまだなんですけど?

「はぁ……」

 思わず大きなため息がこぼれた。

 こんなに命削って頑張ったのに。
 お土産ディスられるし、おかえりの一言もないし。

(お兄ちゃんメンタルブレイク寸前だよ……?)
 
 なんて、独り病み散らかしていると。
 リビング手前で陽葵は立ち止まり、振り返った。

「ん、どうした?」

 俺が聞けば、やがて陽葵の真顔が崩れる。
 代わりに優しくて愛らしい笑みを浮かべた。

「おかえり、悠にぃ」

 そして陽葵が口にしたのは、俺が最も欲していた言葉だった。それを耳にしたその瞬間、俺の胸の内に様々な感情が溢れ、満ちる。

 無事我が家に帰って来たという安心感。
 そして修学旅行を終えたという達成感。

 ようやく、ようやく今実感した。

 俺は今、一つのイベントを乗り越えてここにいる。
 自分の力で、努力で、あの4日間を乗り切った。

 そう思うと――

「ああ、ただいま」

 今までとは少し違う自分になれた、そんな気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

処理中です...