ハズれキャラの井口くんには小悪魔な後輩が憑いている

じゃけのそん

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第2章 期末テスト編

第25話 ぜんぶはぜんぶ

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 正面から感じる圧。
 席に着いてからずっと葉月に睨まれている。

「むぅぅ~」

 って、頬を丸めているせいか、まるでリスにでも威嚇されている気分だった。丸めた頬を薄っすらと赤く染めるその様が、無駄に可愛くてウザったい。

「な、なんだよ」

「べつにー」

「別にって……じゃあ睨むのやめてよ」

「そりゃ睨みますよ。あんなことされたんですから」

 あんなこと。
 という単語を聞いて自然と眉間に力が入る。

 冷静な今だからこそ思う。
 流石にあれはやり過ぎだったと。

「悪いとは思ってる、けど仕方なかったんだよ」

「仕方ないで許されたら警察いらないんですよ」

「警察って……犯罪みたいな言い方しないでよ」

「言い方も何も。セクハラは立派な犯罪ですよ」

「セクハラ……」

 あなたの中で俺のあの行動はセクハラになるんですね……思い返せば確かに、自衛のためとはいえ、気安く口とか肩とかに触れちゃいましたけども。

「急にああいうことされると、その……」

 すると葉月は、何やら視線をテーブルに伏せて口ごもった。そのまま妙な沈黙が数秒ほど続いた後、トンッ! とテーブルを叩き、前のめりになって言う。

「と、とにかく! わたしだって女の子なんですからね!」

「え、あ、うん。それは知ってるけど」

「知ってるなら気安くああいうことしない!」

 次いで葉月は、ビシッと俺を指差してくる。

「例え相手が陰キャ代表のセンパイでも、ドキッとするんです!」

「陰キャ代表は余計じゃね……?」

 ……って、ちょっと待った。
 今こいつ、ドキッとするって言ったよね?

「しっかりと肝に銘じておいてください!」

「え、あ、はい。そうさせていただきます」

 ふすんっ! と鼻を鳴らした葉月。
 この感じ、どうやら俺を許してくれるっぽいけど。会話の流れからするに、さっきの密着で、葉月も少なからず俺を意識してたってことだよな。

(となると、あの時身体が妙に熱かったのは……)



「で、注文は」

 すぐ横で声がしたので、ふと顔をあげる。
 するとそこにはハンディーを手にした古賀が。

「まさか何も頼まないわけじゃないでしょ」

「あ、ああ。じゃあとりあえずドリンクバー二つで」

 反射的にそう言えば、古賀は慣れた手つきでハンディーを叩いた。そして少し離れたドリンクバーコーナーを指さすと。

「あそこにあるから、あとは勝手にやって」

 そう言い残して、颯爽と去って行く。
 相手が俺だからか、かなり素っ気ない接客だった。

「なーんかあの人感じ悪くないですか?」

 これには葉月も不満そうに一言。
 まあお前からすればそう見えるんだろうけど。俺と古賀のやり取りとしては、これと言っておかしい点はない。いつも通りの古賀である。

「もうちょっと愛想良くてもいいと思うんですよね」

「そういう属性なんだよ。ツンデレっていうんだツンデレって」

「聞こえてんだけど」

 こそこそ話しているつもりが……しっかり聞こえてしまったよう。古賀が振り返ったのに合わせて、俺と葉月は反射的に顔を逸らした。

「適当なこと言ってるとマジでしめるから」

 視界の外から感じる凄まじい圧。見なくても今のあいつが、どんな顔をしてるのかが、容易に想像できてしまうのが恐ろしい。てかマジ圧やばい。
 
「勉強するのはいいけど、あんまり長居しないでよね」

 それでも滞在を許してくれるその優しさ。
 やはり古賀にはツンデレの才能があると確信する俺であった。


 * * *


 ドリンクを用意し、早速勉強を開始する。

「で、何がわからないって?」

「ぜんぶです」

 ……は?

「すまん、もう一回」

「だからぜんぶです」

 全部……なるほど、全部ね。

「全部ってのはあれか。全部の全部か」

「ぜんぶはぜんぶです」

 一切の焦りを感じさせない、堂々としたその口調。期末テストまであと一週間だというのに、全部わからないとか。こんな奴に割ける時間はない。

「ちょちょ、どこ行くんですか!」

 呆れた俺は無言で席を立った。
 そのまま立ち去ろうとすると、葉月に背中を引っ張られる。

「決まってんだろ。帰るんだよ」

「帰るって、まだ何も教えてもらってませんよ?」

「あいにくと俺から教えられることはない。テスト頑張れ! 以上! 解散!」

「以上じゃないです!」

 無理やり前に進もうとしたが、それ以上の力で引き戻されてしまう。込み上げてくるイライラと共に振り返れば、葉月は縋るような表情で俺を見上げていた。

「このままだとわたし補習になっちゃいますって!」

「それで済むなら万々歳だろ」

 甘い考えの葉月に、俺は人差し指を突き立てる。

「むしろお前は補修しろ! その溶けた脳みそごとな!」

「さっきは教えてくれるって言ったじゃないですか!」

「知らん! 自分で何とかしろ!」

 そして背中に伸びた腕を、無理やり振り払おうとした……のだが。

「もしかしてアレですか? あそこにいるピンクの先輩に、あの写真見せちゃってもいいってことですか?」

「……」

 この一言で俺の苛立ちは即鎮静化された。
 そういえば、そんな爆弾がありましたね。

「苦手な教科だけでいいんで、ねっ?」

「んん……」

 小首を傾げ、口角を上げてそう言う葉月。
 その切り札を使われては、教える以外の道がない。

 俺は仕方なく席へと戻り。
 ニマニマ緩んだ顔の葉月に尋ねる。

「で、苦手な教科って」

「数学? いや世界史? じゃなくて現代文?」

 こいつ……マジでいい加減にしろよ。

「それと理科も苦手だし、英語もぜんぜんわからな――」

「おーけーわかった数学をやろう」

 こいつのペースに合わせていては、とてもじゃないが期末には間に合わん。良くて半分、最悪全教科赤点で、この勉強会自体が全くの無駄に終わる。

「暗記系は後に回す。まずは死ぬまで計算だ」

「でも他にも苦手な科目はたくさんありますよ?」

「お前の場合は科目というより、勉強そのものが苦手なだけだろ」

「それはそうなんですけど」

 数学なら俺の得意科目なので比較的楽に教えられるし。何より早めに公式やらに慣れて、少しでも問題を解く力を身につけておいた方がいい。

「あとわたし計算あまり好きじゃ――」

「うるせぇやるぞ」
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