捻くれ者

藤堂Máquina

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ひねくれもの7

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到着してから二週間後である。
その週は「セマナサンタ」であった。
セマナサンタとは日本で言うゴールデンウィークのようなもので一週間休みであった。
もう少し詳しく言うと、宗教的な休みであり、コロンビアはキリスト教の国なのだ。
もちろん「世間では」の話である。
私たちは仕事をするように言われていた。
生徒は来ないのだが、教科書を作るように命じられていたのだ。
教科書作成を補助するようには予め言われていた。
しかし生徒の来ない日にわざわざ仕事をする必要性もわからない。
しかもわざわざ祝日に、各日午前だけの出勤である。
契約では祝日は休みと聞いていただけに納得いかない。
きっと誰も納得はしていないだろう。
誰も逆らえないのだろう。
出勤するならするで、一日にまとめるとか、事前に目標を決めておくとか、何かしら負担を軽減する方法があっただろう。
おそらく給料の額が一定のため、使いたいのだろう。
それにしてもやり方がよくない。
そもそも私はそんな時間があるなら仕事の用意とこれまでの授業の成果をノートにまとめたかった。
私の授業の準備はまだまだ早くはない。
周りの人たちの言う「そのうち慣れる」ためにはノートに教案をまとめる必要がある。
まだ全ての文型を指導したわけではなかったが、少しでも作っておけば後々のためにはなる。
しかしそんな時間はなかった。
その上授業以外の仕事が次々に来る。
そのためこの休みの間に片付けたかったのだが、そんな時間は与えられなかった。
その週は仕事を除いては殆ど自室に籠っていた。
「殆ど」とは言っても、外出した時間が無かった訳ではない。
予定通り昼過ぎまでの仕事をした後だ。
その日は先輩のNさんに連れられて街へ出た。
私が連れて行かれたところは「ウサケン」と呼ばれる商業地区である。
ウサケンは現地の言葉で「湿った土地」という意味があるようだ。
標高の高さから雨の多い地であり、昔から地面が湿っていたようだ。
職場からウサケンまではバスとタクシーで移動した。
バスには初めて乗った。
日本で電車に乗る時に使われているようなICカードを使った。
コロンビア人と話すと彼らは「コロンビアは日本より遅れているでしょ」と言われることがあるが、必ずしもそうではないようだ。
ICカードは銀行の講座から即刻引き落としも可能だし、バスの中には防犯カメラがついている。
カメラに関しては、日本が比較的平和だから設置が遅れているという解釈もできるが、必要だと言われる以上遅れているのは明らかだろう。
私はそれまでICカードを持っていなかったために購入する必要があった。
日本円に換算すると、カード自体は料金にして100円ほどだ。
そしてバスを利用する際の料金も日本よりずっと安かった。
しかも東京都と同じように、乗る際に一度払えばどこまででも乗ることができた。
日本円にして100円程であり、タクシーや配車アプリも高くはないのだが、それらを使うよりもさらにずっと安かった。
日本人だけでタクシーに乗ると、こちらがわからないと思い、料金を多く請求されるような目に遭うリスクもあった。
金銭的な意味全般ではバスはとても便利なものであった。
注意が必要な点で言えば、スリ等だけである。
もちろんバスは決まった道を行くだけであるため、タクシーに比べると自由は少ない。
そういう訳でそれを用いてある程度の所へは移動したが、タクシーへの乗り換えも要した。
乗り換えと言ってもある程度近づいてからのため大してかからなかった。
ここの街並みは古い市街とは違い、端正な建物の群の中にいくつもの店が入っていた。
ショッピングモールに近い形式だ。
そこには絵画やバッグ、チョコレート、お酒など、お洒落なものが数多く並んでいた。
気になるものもたくさん売っていたが、まだはじめの給料すらもらっていなかったため買うのは諦めた。
物価の感覚もまだわかっていなかったためにリスクのようにも思えたのだ。
買うにはまだ早い、帰国するときにでも買いに来ようと思った。
その後、夕食もその近くでとった。
正直メニュー表を見ても何があるか分からなかった。
そのためNさんに何があるかを聞いた。
一通りの説明を聞いた上で私が選んだのはリゾットだった。
しばらくの間米を食べていなかったからである。
日本の米とは違うとは言え、それはそれで美味しかった。
そしてそれを選んだ理由はエビが入っていたからである。
山の上の街だ。
エビを食べる機会が少なかった。
私はそれが好物だ。
魚介類はやはり少し高かったのだがとても美味しかった。
学校以外で日本人と話す機会も少なかったため、その時間はとても有意義だったように感じられた。
帰りは配車アプリを利用した。
時刻は夜の九時を過ぎていた。
携帯を契約した時からそうだったのだが、私の携帯はなぜが殆ど使えなかった。
それを社長に訴えたが、私の使い過ぎで通信制限に引っかかったのではないかと疑われた。
契約したのが社長だったためにこちらのせいにしたかったのだろう。
人を疑う前に自分のしたことを顧みるべきだ。
私がいたのはWi-Fiのあるホームステイ先と学校だけであるため、時折接続を切ってしまっている時があるものの、それ以外では殆ど使わなかった。
それ故まだそれほど困ってはいなかった。
現に設定から使用したデータ量のページを開いてもその量は無いに等しい。
そのことを訴えたが、あとで対処すると言われるばかりでその後二週間が過ぎる頃まで、Wi-Fi環境下でしか携帯を使用することはできなかった。

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