草稿集

藤堂Máquina

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悲しいかな

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 『痛々しい』という言葉は本人にはわからないようだ。

 私が彼に声をかけるまで彼は自分の胸の傷口に気がつかなかったらしい。

 幸いにして心臓というものは正常に機能している。

 「君は少し休んだ方がいい」

 そう声をかけると彼は不思議そうな顔をして、そして渋々了解した。

 悲しいかな、まだ彼は死ねないのだ。
 
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