草稿集

藤堂Máquina

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バラバラ

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 滑り落ちた硝子瓶はバラバラに砕けた。

 その瞬間、硝子瓶に閉じ込められていたものはあっという間に汚れた床に拡散した。

 臭いの強いものではない。 

 栓をしていたものの無くなって困るものではなかった。

 栓をしたまま、栓を抜かずに外へ出たのだからある意味よかったのかもしれない。

 わざわざ栓を抜く手間が省けたというものだ。

 味わう手間すら省けたのだ。 

 初めから無かったものだと思えるのだから最も良い結末だったのかもしれない。 

 間違えて栓に書き込んでしまった日にちも見ないで済む。

 散らばったバラバラを片付けていると、一部が指の上を走った。

 その瞬間赤い痕跡を残し、鋭い痛みが走った。

 水滴が滴る。

 一瞬怯み、そしてそのあと傷口を洗うと片付けを再開した。

 ふとワインセラーを見るとちょうど一本分のスペースがある。

 バラバラの入っていたところだ。 

 そこを埋める新しいものが必要だ。

 片付け終わるのを待たずに出かけたい衝動が私を苦しめたが、それは簡単に忘れることになった。

 飛び散ったバラバラにそれが群がる。

 強い顎を使ってバラバラに噛み付く。

 あっという間にバラバラは無くなってしまった。 

 また片付ける手間が省けるというものだ。

 だが確実にバラバラは消えてしまったのだ。
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