草稿集

藤堂Máquina

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シャルロッテ

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 親愛なるシャルロッテ

 こんにちは、我が愛するシャルロッテ。

 私の手紙を書く三十分がどれほどの価値があるかおそらく君は知らないのだろう。

 君宛の手紙を書いている時の私がいかに幸福であるかは文字に起こしたところでその片鱗すら伝わらないのだろうが、君がこの手紙に目を通した瞬間にその僅かな時間は他に替えの効かない唯一無二のものになるのだ。

 君へ贈る言葉の一つ一つを見返し、一つの作品として君の元へ届けるまでの過程といふものは、それはもはや地上にある限りの幸運が一斉に私の元へ訪れることに相違ないのだ。

 そして私もまた、君からのほんの数行の手紙を何時間にも渡り読み直し少しでも君の真心を読み解こうと努めるのだ。

 だが一つ、もっとも残念なことは君に他意が全くないことを私が理解してしまっているということだ。

 そういうわけでこの手紙を書く時間というものは必要以上の価値は持ち合わせないのだ。

 要するにこの手紙は君の元へ届くことはないのだ。

 だからといってこの手紙を書いている今現在の時間が無駄になるということもない。

 いつもなら綴ることのできない想いといふものが、この手紙に吸い取られるように現れているのだ。

 もし何かの拍子にこの手紙を君が見てしまったとしても心の中に留めるだけにしてほしい。

 君の生活を壊すこともしてはならないのだから。
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