【完結】メゾン漆黒〜この町の鐘が鳴る時、誰かが死ぬ。

大杉巨樹

文字の大きさ
47 / 144
第4章 炎上

5 マークすべき住人

しおりを挟む
 7月27日

 弓削ゆげは次の日、まずは置いてある荷物を取りに山神やまがみ駅の公民館に向かった。私鉄電車でK駅まで行き、そこでローカル線に乗り換える。電車がK駅に入る時、エレベーターで高層から一気に下まで降りる時のようなズンと沈む感覚があり、後頭部あたりがズキズキと疼いた。

 この目眩のような感覚は以前は禍津町に入る時によく感じていた。K市からみなもと鳥居とりい駅に入る際に短いトンネルがあり、そこに入ると決まって沈むような感覚におそわれる。それはトンネルの気圧が変わるか何かの加減だと思っていた。なのに今日はK市に入る時に感じている。頭痛に関してはそれまでに感じたことはなく、これはきっと昨夜のピタ止めチャレンジの影響なのだと思った。そのチャレンジをやると呪われるという前情報が暗示となって症状に出たのではないか。弓削に医学の知識はないが、一種の催眠状態に陥っていたのだと自分を納得させていた。


 公民館に着いたのは朝の8時前だった。食堂兼会議室には朝霧あさぎりを始め、弓削班の酒井田さかいだ真美まみ番場ばんば文雄ふみお、そして浦安うらやす係長も顔を揃えていた。

「弓削、特殊な任務となるが、頼むぞ」

 浦安が弓削に頭を下げる。浦安は謹慎処分となったきのうから独自の捜査を始めていたが、今日はわざわざ弓削の激励に来てくれたのだろうか。

「はい、任せて下さい。でも、シェアハウスの中にずっといるだけでいいんでしょうか?昼間はあたしも別の捜査に加わった方がよくありません?」
「いや、シェアハウスに住んでいる連中はほとんど家から出ないらしい。なので昼間も中にいる必要があるんだよ」
「でも警察官がずっと側にいたらかえって警戒心を煽るんじゃ…」
「そうかもしらんが、まあまずはそれで様子を見てみよう。住人の動向は外からもマークしている。もし弓削が入居することで逃げ出すようならそれは自分から怪しいと言っているようなものだ。すぐに確保できるよう、室町むろまち室長が手配してくれている」

 五人がテーブルに着き、まずは浦安が大まかな計画内容を説明する。真美がそれを聞いて口を挟んだ。

「ええ~主任、面白そうでいいなあ。何ならあたしと代わりません?あたし、ずっと車の中なんてもう飽きちゃいましたあ」

 真美はK署強行犯係の中でも25歳と一番若く、今年の春から配属されたばかりだ。ロングの髪を後ろでひっつめているが、全体的にまだ学生の延長にいるようなフワフワした雰囲気がある。同じ女だからという理由で弓削の班に入ったが、弓削は彼女のことが好きになれないでいた。それは弓削とは対照的にいつも男に媚びを売っているような態度や喋り方が気に食わないからだし、

『わあ~大っきいお胸、羨ましいですぅ~。あたしなんて小さすぎて』

 と、初対面で胸のことに言及し、推定Cカップのスタイルのいい胸を絶対自分でも気に入っているだろうに、弓削におべんちゃらを言うためだけに卑下してみせるその根性にも吐き気がしたからだった。また、そんな真美が早々に刑事課に抜擢された裏には、刑事課長である岩永いわながとデキているからだと囁かれていることも気に食わない。それが本当だとすると岩永は結婚しているので不倫ということになるが、真美を見ているとあながち根も葉もないことに思えないのだ。

「遊びじゃないのよ。あなたはあなたのやるべきことをちゃんとやって」

 上司らしいことを言ってみるが、弓削もきのうまではずっと同じことを思っていたので心の中で舌を出す。

「はあ~い、わっかりましたあ~」

 真美がおどけた敬礼で返したのにはイラッとした。

「おー真美ちゃん、かあ~わいい!僕ちんファンになるなあ」
「え~嬉しいですぅ~」

 朝霧とのチャラついたやり取りにさらにイラッとする。それを我関せずという目で見ている番場にもイラッとした。

 番場は定年間近のベテラン刑事なのだが、とにかくやる気が無く、昇進試験も受けずに階級も巡査長止まりだ。常に魚の腐ったような目をしていて覇気がなく、定年まで無事に勤めさえすればいいという射幸心が透けて見える。一番若い真美に一番年寄りの番場と、一見バランスを考えている班員構成に見えるが、その実弓削班には掃き溜めだが集められたと弓削自身は捉えていた。

「じゃあ、出発前に誰をマークすればいいか整理しておくよ?」

 朝霧が事前に調べた情報を教えてくれる。一体どうやって調べたのか、情報元は教えないという約束だった。

「まずは四條畷しじょうなわてすぐる。身長175cmで30歳。宇根野うねの駅前にある個別指導の塾で講師をしているんだけど、実はこの塾に事件の被害者、佐倉さくら心晴こはるも通っていたことが分かってる。さらに心晴の死体が発見された当日、現場付近で四條畷らしき人物がウロウロしていたのを目撃されているんだ。なので、一番怪しい人物と見て間違いないね」

 朝霧が淡々と語った内容に、弓削は目を丸くした。

「え、ちょっと待って下さい!そこまで分かってるんならもう被疑者として引っ張ったらいいんじゃないですか?」

 弓削の言葉に、浦安が渋い顔をする。

「う~ん、そうなんだが、こちらの情報としては現場でウロウロしていた人物という情報は上がってないんだよ。なので四條畷を直接事件に結び付けられないんだ。それと朝霧調査員の報告のように佐倉心晴は星光せいこう塾という個人経営の塾に中学三年生まで通っていて確かに四條畷とも面識はあるんだが、橋爪の班がそこに周辺聞き込みという体で訪れて一応従業員のアリバイも確認した際、四條畷は当日、昼過ぎからずっと塾にいて教材を作っていたってそこの室長が言うんだな」
「え、アリバイあるんですか?ちょっと朝霧さん!いい加減なこと言わないで下さい」

 弓削に睨まれ、朝霧は口をへの字に曲げる。

「そーんなの、その室長が嘘を言ってるかもしれないじゃない?」

 それには浦安も同調する。

「うーん、確かに。でもこちらでは他に目撃者が見つからないわけだしな、塾で面識があるってだけじゃ容疑としては薄過ぎるんだな。いくらなんでもそれだけの情報じゃしょっ引けないよ」

 浦安はそう言うと朝霧を恨めしそうに見た。今のところ重要なのは、四條畷が現場で本当にうろついていたかどうかだ。だがその情報の出所を朝霧が教えない限りどうしようもない。そして朝霧はそれは秘匿情報なのだと言う。

「そこでぇ、フーミンの出番なんじゃない。これで分かったでしょ?フーミンの役割の重大さが」

 なるほど、それで自分が潜入して四條畷の動向を調べるわけか…。

「で、他には誰をマークすべきなんです?さっき、まずはって言いましたよね?」
「うん、そうだね。うちとしては次の人物の方を重点的にマークして欲しいんだけどね。その人物は五月山さつきやま天冥てんめいといって、いつも全身黒装束をしてる怪しい女なんだ。自称占い師で、宇根野駅とかで日中は路上占いなんかもしてる。彼女は普段、黒いベールで顔を見られないようにしてるんだけどね、シェアハウスに潜入したらまず、彼女の顔を写真に収めて欲しいんだ」

 黒いベールの占い師…弓削の頭にその輪郭がぼんやり浮かぶ。そうだ、確か浦安と一緒に宇根野駅前のバーに行った時、そんな女がカウンターにいた。その女はあの時自分を見て、死相が出ていると言ったんだった。

 四條畷に五月山…ノワールの住人は本当に曲者揃いのようだ。弓削はそこに管理人の青井あおい草太そうたも加えようと思っている。禍津町の最初の事件で遺体第一発見者として聴取した際、その言動は明らかにおかしかった。青井はノワールにある探偵事務所に依頼に来た少女に付き添って現場の家を訪れたと言っていたが、そんな少女の情報は現場周辺の聞き込みでは上がっていない。その少女は現場である鮫島さめじま家の惨殺された長女とそっくりで、しかもその長女の名前を名乗ったと言うが、鮫島家の親族にはその長女に似ている人間はおらず、リストアップされた聖蓮せいれん女子にもそんな生徒は見当たらなかった。

 あからさまに怪しいのに、なぜか警察庁の行確対象に青井は入っていない。刑事の勘というほどのものでもないが、青井が犯人と言わないまでも、彼は間違いなく事件に関わっていると弓削は見ている。しかも浦安と遠藤えんどうの情報によると、青井はK市の方の事件現場にも現れている。被害者である池田いけだなぎさの彼氏が飛び降り自殺を図ったその瞬間にだ。その現場に居合わせた他の二名もノワールの住人だと確認が取れている。須田すだによると、うち一人はあのピタ止めチャレンジのチャンネル主の可能性もあるらしい。ノワールはもう怪しい連中の巣窟なのだ。警察庁がマークしていないのならば、逆にそれは自分のチャンスかもしれない。

「必ず、重要な証拠を上げてみせます!」

 弓削は鼻息荒く宣言した。

「主任、鼻水出てます」

 そして、間の抜けたことを言う真美を睨んだ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

処理中です...