【完結】メゾン漆黒〜この町の鐘が鳴る時、誰かが死ぬ。

大杉巨樹

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第5章 懐疑

6 首無し事件の共通点

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 四條畷しじょうなわての物言いに、ゾワリと心臓を撫でられるような感覚が走った。医学でカテゴライズされる病気ではない?だから警察は症状が出た者を片っ端から銃で撃っている?あまりにも突拍子もないことだが、実際にあり得ない状況で二人の被疑者が撃たれている。そしてそのうちの聖蓮せいれん女子の一件は完全に隠匿されているのだ。四條畷の言うことを当てはめれば妙に符号するのが引っかかった。

「ちょっと待ってくれ。症状が出た者を撃ちまくるとは何のことだ?一体君は何のことを言っている?」
「今自分で言っただろう?目から血を流す症例が多数報告されているって」

 四條畷はまた鼻からフンと息を吐き、グラスの琥珀色の液体を口に含んだ。

「なあ、警部補さん、あんたはいつから今回の事件が始まってるって思ってるんだ?」

 今度は一乗寺いちじょうじが聞いてきた。これではまるで、潜入している自分の方が尋問されているみたいだ。だがここの住人たちは明らかに所轄の刑事である自分よりも詳しく情報を把握しているように思える。ここはある程度、彼らの考えを聞いてみようと思う。

「いつから、というのがこの禍津町まがつちょうでのことを言っているなら、まさにそこの青井あおい君が遺体を発見した時からだろう」

 そうだ、あの遺体発見を皮切りにK署管内のマンションでの女子高生の不審死とその交際相手の飛び降り自殺、そして聴取に赴いた聖蓮女子での生徒の校長刺殺(警察庁では事件はないと発表しているが)、さらに今日、工場の爆破事件まで起こった。これらは単発で起こっているように見え、それぞれの関係者には繋がりがある。もちろん狭い町で起こっていることなのである程度住人が繋がるのは仕方ないが、逆に言えば狭い町だからこそ事件が頻発すること自体が異常と言える。もしここに何らかの病理学的な繫がりがあったならば、かなりの数の警察庁の人間や病院関係者も動いているのだ。それに我が国を始め世界中で起こったパンデミックは三年の月日をかけてやっと収束に向かっている。当然病原菌への対応技術も向上しているだろうし、厚生労働省から何のお達しもないなんてあり得ない。

 そう考える一方で、警察庁の対応の仕方が明らかにおかしいのは確かだ。聖蓮女子で起こった事件については完全に封殺されているし、今日のことにしても被疑者がいきなり射殺されるのは常軌を逸している。長年の刑事の勘からも、異常なことが起こっているという警鐘は鳴りっぱなしだ。だがここは全てを語るべきではない、そんな警戒心も働き、取り敢えずそこで浦安は口を噤んだ。すると、一乗寺は鼻で笑う。

「おいおい警部補さん、草太そうたが発見した遺体には首が無かっただろ?だから連続殺人の四軒目に数えられたんじゃないのかい?俺はね、そういうのも含めていつから事件は起こってるって聞いてんだ」

 なるほど、一乗寺の言いたいことは分かった。こういう時、警察組織の縄張り意識が邪魔をする。現場の刑事たちは自分の管轄の事件に翻弄するあまり、他府県に渡って展開させる捜査には無頓着になりがちだ。今回も警察庁と警視庁との特別合同捜査本部がT都に設けられている。その見方でいうなら、最初の事件はC県であり、次にT都、そしてA県だった。

「C県の事件のことを言ってるのか?」

 浦安の言葉に、一乗寺は大きく頷く。

「そう、それだ!じゃあ聞くがね、どうしてC県で最初に起こったと思う?そして四軒の首無し事件の関連性は?」

 その質問には皆目検討がつかなかった。捜査本部でもそれぞれの被害者の間には何の繫がりもなかったと公式発表されているはずだ。だが首無し遺体の切断面を分析した結果から、被疑者に関しては同一人物の可能性が極めて高い。公式には遺体に首が無いという情報は伏せられている。たがそこは完全に人の口を封殺できず、噂レベルの話はすでに巷に出回っている。ではその噂を元にして模倣犯が出たのかというと、それは完全にあり得ない。首の切断状況まではどうやっても簡単に真似のできるレベルではないのだ。なので、四つの首無し事件は連続殺人と認定されている。ただ犯人は単独でなく、複数いる犯人が分散して起こしている可能性は否定しきれない。

 ではなぜC県が最初だったのか?そして殺害方法以外に関連性はあるのか?浦安は一乗寺に聞かれたことを今一度考えてみようとスラックスのポケットから使い古した手帳を取り出した。若い連中はスマホのメモ機能を使いこなして重要な事柄を書き込んだりしているが、浦安にはそれが心許なく感じられ、今だに手帳に書き込んでいる。そしてその該当箇所を繰る。

「えーと…第一の事件がC県の国臥台こくふだい女子学園の生徒、第二の事件はT都の叡明えいめい女子高、第三の事件ではA県の光の園女学園と……ん?そういえば全て名門女子高の生徒を狙っているな」

 口ではそう言ったが、四軒目の聖蓮女子も並べ、それくらいのことは素人目にも分かる。もし犯行が同一人物の仕業とするならば、そういうお嬢様学校に何らかの性癖を感じるやつなのかもしれない。そこまでは改めて考えるまでもなく容易に推察されることだ。

「そうだよ、お嬢様ばかりが狙われているわけだ。だがそれだけじゃないぜ?注目すべきなのは、それらの学校が全寮制もしくはそれに近い状態にあること、そして男子禁制であること、さらにはどの学校も校風に宗教色が強いこと。どうだ?結構偏った条件が揃ってるとは思わないか?」

 そう言われてみればその通りだ。だがそれを認めたことろで何だというのか?日本には他にもお嬢様学校は複数ある。この程度の共通点で犯人が割り出せるなら苦労はしない。

「だから何だ?その程度のプロファイリングは本部の専門の刑事もやっているだろう。俺たちは犯人を捕まえるために捜査している。そのための情報は君たちが思っている以上に取得してるんだよ」

 素人が得意げに語るのに腹が立ち、浦安の一人称が私から俺に変わった。少し大人気ないことを言ってしまったが、所詮素人が興味本位に飲みの話題に興じている場に、少しでも期待した自分がバカらしくなってきた。

「三国君には職場の仲間が痛ましいことになったとこには同情する。こんなこと言っても何の足しにもならないと思うが、俺も今回、犯人を射殺したことには憤りを感じている。だから断罪すべきことは断罪しようと、例え捜査一課の動きから外れたとしても、俺はそのために動こうと思ってるんだ。だから何か有用な情報があればいつでも連絡してくれ」

 浦安は項垂れている三国を見やり、名刺入れから一枚抜いてテーブルの上に置いた。残念ながら全員に渡す枚数を入れていなかったし、そこまでの必要性も感じなかった。そして腰を上げかけたとき、

「いいねえ、いいよー!浦安さん、あんた気に入った!どうせ捜査からは外されてんだろ?今日はアキさんと一緒に工場仲間の追悼してやってくれよ」

 一乗寺がそう言ってグラスを掲げる。

「さっきも気になったんだが、どうして俺が捜査から外れてると知ってるんだ?」
「それはそれ、俺たちにも情報提供者はいるってことだ」
「情報提供者?て、誰だ?まさか弓削がしゃべったのか?」
「フーミンはあんたに忠実に動いてるさ。あ、そうそう、これ返しとくぜ」

 一乗寺が首元から銀色の細いものを取って渡した。濃い花柄のシャツに紛れて分からなかったが、一乗寺がシャツの首元に刺していたのは朝霧あさぎりが弓削に渡していた盗撮カメラ付きのペンだった。

「こんなことしなくてもさあ、俺たち、あんたに協力するぜ?」

 一乗寺の差し出すペンをおずおずと受け取る。このペンの存在がバレているということは、どうやらこのシェアハウスに情報提供者がいるというのは本当のようだ。

「一体…君等はどんな繫がりでここに集まってるんだ?」

 烏合の衆と思っていたシェアハウスの住人たちが急に組織立った存在に思え、そんな質問が自然と口をついた。

「ボクたちは、呪いに惹かれて集まってきたんだよ」

 今まで大人しかった九郎原くろうばる乃愛のあが、急に口を開いてそんなことを言った。呪い……その言葉でまず思いついたのは須田すだの言っていた恐怖のピタ止めチャレンジというやつだ。そういえばそのKikTokのチャンネル名から乃愛がそれを撒き散らしているという疑惑があった。それを調べるのは弓削の役目の一つだったが、丁度いい機会なので自分が聞いてみようかと思う。乃愛は呪いという言葉を発してから、ずっと虚ろな目を浦安に向けている。その両隣りからも茫洋とした視線が集まる。二本松と青井だ。青井は初めて会った日から考えるとどうも元気を無くしているように思える。ふと、一乗寺も三国も、すぐ隣りの四條畷さえも、浦安をじっと見ていることに気づく。それらの目からは感情が無く、ただ、自分が融解してこの部屋の空気に侵食されてしまったような、そんな所在の無さを感じさせた。
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