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第9章 終焉
7 ノワール封鎖
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二週間続いた晴天を巻き返すように激しく降り続いた雨は、夕方には上がっていた。禍津町の西の空を夕焼けが焼け爛れた皮膚のように染め上げている。羽が濡れて気を悪くしたのか、ひぐらしの鳴く声にも元気がなかった。
浦安は朝霧と合流すべく自分の車でK署から禍津町へ向かったが、K市へと続く禍津町の南端の道路は自衛隊によって物々しくバリケードが張られていた。通行する際は免許証を提示し、外部の者は通ることが許されない。禍津町に住む者も、入ることは許されても出ることは出来ないのだった。
(もはや起こったことへの事後処理の段階は終わり、これから起こることを未然に防ぐ段階に入ったと言えます)
室町の言葉を思い出す。事後処理とは警察の捜査のことを言ったのだろう。未然に防ぐ…それには武力行使も厭わないということなのだ。浦安には公安調査庁から発行された通行許可証が渡されていた。社員証のように首から下げたそれを提示し、浦安の車は通された。浦安は朝霧と落ち合う前に宇根野駅に寄った。駅前には自衛隊員に町から出してくれと訴えかける数人の町民の姿があった。駅にも配備された自衛隊員が強固に拒否する。自衛隊員たちは皆一様に顎の両横に丸い通気孔の付いた防塵マスクを付けている。住民たちに体裁を保つために付けているのだろう。浦安にはあんなもので妖化を防げるとは思えなかった。
四條畷は言っていた。妖化現象にはウイルスよりももっと微小な物質が関与していると。四條畷はそれを確か「エクソソーム」の元になる物質と言っていたが、天冥は「気」と言っていた。高校の物理で微小な物質には粒子と波動の二面性があると教師が言っていたの思い出し、もっと真面目に授業を受けていたら良かったと後悔する。が、まあどちらにせよ、首相の諮問機関に集まった権威ある科学者の面々にも検知出来ないような代物なのだろう。もしそれが出来ていれば病状の特定もされるだろうし、こんなに物々しいバリケードが作られることもなかったのだ。
浦安は駅前の小競り合いを横目に見ながら、アーケードを左に折れてバーku-onの前に立った。店長とオーナーを失ったその店のシャッターは下りたままで、「一身上の都合によりしばらく閉店します」という張り紙がポツンと貼られていた。おそらくそれはお焚き上げ供養の準備のために朱美が張った物なのだろう、まだ二人が亡くなったことを知らせるものは何も見当たらなかった。浦安は買ってきた花束を店の前に置いた。
こんな田舎には珍しい、垢抜けたファッションに身を包み、コロコロとよく笑う朱美の笑顔を思い出す。二年前の七星一家惨殺事件で捜査に赴いた折にはよくここで飲ませてもらった。朱美は接客のスキルが高く、浦安の子どもの頃の話題などにもよく乗ってくれた。凄惨な事件だったが、ここでのひとときは一服の清涼剤となってくれた。今回ももし事件がこんな特殊なものでなかったなら、部下たちを連れて何度も飲みに訪れていただろう。弓削と一緒に来たのもまだほんの十日ほど前のことだ。今となってはもうかなり昔のことに思える。きのう、朱美も弓削も多くの部下たちも逝ってしまった。喪失感、孤独感、虚無感、寂寥感、そんなものたちが渦となって心の奥底から湧き上がる。浦安は首を振り、それらの感情を打ち払った。まだそんな想いに浸るわけにはいかない。みんなの敵を取るまでは。シャッターに向かって頭を下げ、車へと戻った。
いつもの空き地に乗り入れると、特務調査室の白いワゴンがすでに停まっていた。ドアをノックすると、朝霧が寝惚け眼を擦りながら顔を出す。
「おっせーよまこっちゃん」
寝起き不機嫌男に付いて坂を下り、ノワールの庭に入る。門を抜けた時に浦安は目を見開いた。玄関前に自衛隊員が十名ほども立っていたのだ。朝霧が通行許可証を見せると、自衛官たちは踵を鳴らして敬礼した。二階のテラスから数羽のカラスが濁声を振りかけた。
「ういっすういっす!君たちは取り敢えずここで待機ね」
鶏のように首をコクコクしながら朝霧が玄関に入り、浦安がそれに続く。
「たのもー!」
道場破りのような朝霧の声が奥の廊下で反響するが、少し待ってもしーんとするだけで誰も出て来ない。
「たのもー!ってんだろ、たのもー!」
「ああ、管理人の青井ならセフィロトにまだいるのかもしれませんね。今朝方、負傷した五月山天冥を送って行きましたから」
「いや、それは分かってんだけどさ、こっちの調べでは今この建物には三人の住人がいるはずなんだよな」
言いながら朝霧は廊下を歩いていく。
「あ、靴脱がないと!」
「あえ?ああ、いんだよ、どうせここは今日、封鎖すっから」
「え、封鎖?」
言いながらも浦安は靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。封鎖とはどういうことかと問う間もなく、朝霧は一番北奥の部屋の扉を開けた。部屋の中からカタカタと何かを叩く音が聞こえる。朝霧の肩越しに中を見ると、太った男と丸顔の女が2台のデスクトップパソコンの前でキーボードを忙しなく叩く姿があった。部屋の中からプウンとすえた匂いが廊下へ広がる。
「くっせーなあ!お前ら、呼んでんだから出て来いよな」
朝霧が鼻をつまみながら声をかけると、
「ほらー!やっぱり臭いんじゃん!ボク、ずっとここにいるから鼻がおかしくなってもう匂わなくなってるんだよ」
「いや、匂わないんならそれはもう乃愛たんの匂いなんでつー」
「ええ?嫌なんですけど」
「おい!こっちも嫌なんですけど~!無視して会話してんじゃねーよ」
そこにいたのは二本松駿佑と九郎原乃愛で、いきなり現れたこっちの二人のことを全く意に介することなく作業を続ける。さすがの朝霧もそのマイペース加減に突っ込んだ。
「普通さあ、手を止めないかなあ?こんな怪しいやつがいきなり扉を開けたんだよ?」
どうやら朝霧も怪しいという自覚はあるようだ。六畳の部屋にはプリントアウトされた漫画らしきカット割りされた絵が所狭しとばら撒かれている。これで2台のパソコンを置けば足の踏み場もない。扉横の壁と扉の向いの壁、背中合わせに座っていた二人はやっと手を止め、隈のきつい目をこちらに向けた。
「およ?乃愛たん乃愛たん、指名してる場末のホストが来てるでつよ」
「いやボク、ホスト遊びしないし。してもこんな場末のホスト指名しないし」
「いや場末場末言うな!泣くよ?」
さすがの朝霧も型なしのようだ。朝霧は仕切り直しをするようにパンパンと手を叩く。
「はいはーい!もう作業止めてね。この建物は今日から封鎖されることになりましたー!だから、速やかに退去して下さーい!おーい自衛隊さんたちー!この二人、ここから追い出してー!」
朝霧の大声に反応し、玄関にいた自衛官たちがドヤドヤと入ってくる。さすがの二人もその事態には青ざめた。
「ええー!?聞いてないでつ!困るでつ困るでつ!そんなことされたらコミケに間に合わなくなってしまうでつよ~ぉ!」
なるほど、そういえば久遠寺で青井に他の住人の動向を聞いた際、二本松は8月中旬にT都で行われるイベントに出展するコミックの執筆に追われ、九郎原はその手伝いをしていると言っていた。にしても…浦安は二人が朱美が亡くなったことを嘆く様子もなく平然としていることに違和感を覚えた。
「君たち、ひょっとして朱美ちゃんが亡くなったこと、まだ知らない?」
もし知らないのなら自分がこの場で教えることになる。恐る恐るそう聞くと、
「知ってるでつよ。悲しい出来事だったんでつ」
「うん、悲しい。ボク、泣いちゃったもん」
と、あっけらかんと言う。おそらくは青井が連絡を入れたのだろう。悲しいと言ってはいるが、同じ屋根の下で暮らす者が亡くなったばかりなのだ、普通もっと気落ちするものじゃないだろうか?どうもここの住人はそういったことに淡白に思える。今の若い者はみんなそうなのか?心では悲しんでいるのかもしれないが、表情に出さないことがトレンドとか?もしそうなら、昭和生まれの浦安には薄情に思えた。
「さあ、立つんだ!」
自衛官たちが部屋にドヤドヤと入って来て動こうとしない二人の腕を掴む。
「わあ~何なんでつか~!怖いでつ怖いでつ、怖いんでつよ~!」
「ちょっと!ボクに触らないで!」
二人はテーブルにしがみついて頑として留まろうとする。あげくに、
「うわあ~ん!僕らが何をしたって言うんでつか~!こんなことされたらもう、コミケに間に合わないんでつ~!」
と言って泣き出した。見兼ねた浦安は朝霧にさっき湧いた質問をする。
「ここを封鎖するって、それは必要なことなんですか?」
「必要なんでつ…あ、いや、必要なんだよ!三国や四條畷、五月山といった怪しいやつらが根城にしてる場所なんだよ?どこに何を隠してるか分かったもんじゃない。室長も言ってたろ?少々手荒なことも厭わないってさあ」
暗に自分が手ぬるいと言われているようで浦安は閉口した。そして何かいい手立ては無いかと思い巡らし、朝霧にちょっと待って下さいと言って充電したての携帯を手にする。そして町長からもらった名刺を出し、電話をかけた。町長にノワールでの事情を伝え、公民館をしばらく借りられないかと願い出る。弓削班が全滅した今、公民館で寝泊まりする者はいなくなり、部屋は空いているはずだ。そして町長と会合した際、ノワールは禍津町に張られた北斗七星の結界の一つだと教えられた。ならばここは手を貸してくれるはずだと思った。電話に出た町長と久遠寺でのお焚き上げ供養が失敗に終わったことを嘆き合い、遵法住職や朱美が亡くなり、天冥が重傷に陥ったことを一通り悲しみ合った後、今ノワールで行われてようとしていることを告げた。町長も今回のロックダウンには不穏なものを感じているようで、公民館の件は快く承諾してくれた。そして後日、今後のことについて時間を取る約束をし、電話を切った。
「ここが調査されている間、公民館に住めばいい。町長の許可は得たから」
浦安がそう伝えると、二本松と九郎原は跳び上がって喜んだ。
「おっさんありがとう!同人誌が出来たらおっさんにも一冊進呈するでつよー!」
「おっさんおっさん、ボクもおっさんの言うこと一つ何でも聞くよ!あ、身体以外。身体以外なら何でも聞くから!あーこれでやっとこの臭さから脱出できるよ」
「臭くないでつよ!」
「いや臭いもん!」
一緒に飲んで以来おっさん呼びされていることには若干の抵抗はあるが、本気で喜ぶ二人に少し気が緩む。
「分かった分かった、じゃあ早く必要な荷物をまとめて。朝霧調査員、二人を公民館まで送るくらいはしてやってくれますか?」
「ああ?まあ、それくらいはしゃあないか」
朝霧はその旨を自衛官に頼み、彼らを一旦引き上げさせた。と、そこで、向かいの部屋の扉がバタンと開かれる。
「ああ~煩くて眠れねーわ!何をわちゃわちゃ騒いでんだ?」
一乗寺弾正が大きな伸びをし、頭をボリボリ掻きながら部屋から出てくる。彼は無事ここに帰って来ていたのだ。
浦安は朝霧と合流すべく自分の車でK署から禍津町へ向かったが、K市へと続く禍津町の南端の道路は自衛隊によって物々しくバリケードが張られていた。通行する際は免許証を提示し、外部の者は通ることが許されない。禍津町に住む者も、入ることは許されても出ることは出来ないのだった。
(もはや起こったことへの事後処理の段階は終わり、これから起こることを未然に防ぐ段階に入ったと言えます)
室町の言葉を思い出す。事後処理とは警察の捜査のことを言ったのだろう。未然に防ぐ…それには武力行使も厭わないということなのだ。浦安には公安調査庁から発行された通行許可証が渡されていた。社員証のように首から下げたそれを提示し、浦安の車は通された。浦安は朝霧と落ち合う前に宇根野駅に寄った。駅前には自衛隊員に町から出してくれと訴えかける数人の町民の姿があった。駅にも配備された自衛隊員が強固に拒否する。自衛隊員たちは皆一様に顎の両横に丸い通気孔の付いた防塵マスクを付けている。住民たちに体裁を保つために付けているのだろう。浦安にはあんなもので妖化を防げるとは思えなかった。
四條畷は言っていた。妖化現象にはウイルスよりももっと微小な物質が関与していると。四條畷はそれを確か「エクソソーム」の元になる物質と言っていたが、天冥は「気」と言っていた。高校の物理で微小な物質には粒子と波動の二面性があると教師が言っていたの思い出し、もっと真面目に授業を受けていたら良かったと後悔する。が、まあどちらにせよ、首相の諮問機関に集まった権威ある科学者の面々にも検知出来ないような代物なのだろう。もしそれが出来ていれば病状の特定もされるだろうし、こんなに物々しいバリケードが作られることもなかったのだ。
浦安は駅前の小競り合いを横目に見ながら、アーケードを左に折れてバーku-onの前に立った。店長とオーナーを失ったその店のシャッターは下りたままで、「一身上の都合によりしばらく閉店します」という張り紙がポツンと貼られていた。おそらくそれはお焚き上げ供養の準備のために朱美が張った物なのだろう、まだ二人が亡くなったことを知らせるものは何も見当たらなかった。浦安は買ってきた花束を店の前に置いた。
こんな田舎には珍しい、垢抜けたファッションに身を包み、コロコロとよく笑う朱美の笑顔を思い出す。二年前の七星一家惨殺事件で捜査に赴いた折にはよくここで飲ませてもらった。朱美は接客のスキルが高く、浦安の子どもの頃の話題などにもよく乗ってくれた。凄惨な事件だったが、ここでのひとときは一服の清涼剤となってくれた。今回ももし事件がこんな特殊なものでなかったなら、部下たちを連れて何度も飲みに訪れていただろう。弓削と一緒に来たのもまだほんの十日ほど前のことだ。今となってはもうかなり昔のことに思える。きのう、朱美も弓削も多くの部下たちも逝ってしまった。喪失感、孤独感、虚無感、寂寥感、そんなものたちが渦となって心の奥底から湧き上がる。浦安は首を振り、それらの感情を打ち払った。まだそんな想いに浸るわけにはいかない。みんなの敵を取るまでは。シャッターに向かって頭を下げ、車へと戻った。
いつもの空き地に乗り入れると、特務調査室の白いワゴンがすでに停まっていた。ドアをノックすると、朝霧が寝惚け眼を擦りながら顔を出す。
「おっせーよまこっちゃん」
寝起き不機嫌男に付いて坂を下り、ノワールの庭に入る。門を抜けた時に浦安は目を見開いた。玄関前に自衛隊員が十名ほども立っていたのだ。朝霧が通行許可証を見せると、自衛官たちは踵を鳴らして敬礼した。二階のテラスから数羽のカラスが濁声を振りかけた。
「ういっすういっす!君たちは取り敢えずここで待機ね」
鶏のように首をコクコクしながら朝霧が玄関に入り、浦安がそれに続く。
「たのもー!」
道場破りのような朝霧の声が奥の廊下で反響するが、少し待ってもしーんとするだけで誰も出て来ない。
「たのもー!ってんだろ、たのもー!」
「ああ、管理人の青井ならセフィロトにまだいるのかもしれませんね。今朝方、負傷した五月山天冥を送って行きましたから」
「いや、それは分かってんだけどさ、こっちの調べでは今この建物には三人の住人がいるはずなんだよな」
言いながら朝霧は廊下を歩いていく。
「あ、靴脱がないと!」
「あえ?ああ、いんだよ、どうせここは今日、封鎖すっから」
「え、封鎖?」
言いながらも浦安は靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。封鎖とはどういうことかと問う間もなく、朝霧は一番北奥の部屋の扉を開けた。部屋の中からカタカタと何かを叩く音が聞こえる。朝霧の肩越しに中を見ると、太った男と丸顔の女が2台のデスクトップパソコンの前でキーボードを忙しなく叩く姿があった。部屋の中からプウンとすえた匂いが廊下へ広がる。
「くっせーなあ!お前ら、呼んでんだから出て来いよな」
朝霧が鼻をつまみながら声をかけると、
「ほらー!やっぱり臭いんじゃん!ボク、ずっとここにいるから鼻がおかしくなってもう匂わなくなってるんだよ」
「いや、匂わないんならそれはもう乃愛たんの匂いなんでつー」
「ええ?嫌なんですけど」
「おい!こっちも嫌なんですけど~!無視して会話してんじゃねーよ」
そこにいたのは二本松駿佑と九郎原乃愛で、いきなり現れたこっちの二人のことを全く意に介することなく作業を続ける。さすがの朝霧もそのマイペース加減に突っ込んだ。
「普通さあ、手を止めないかなあ?こんな怪しいやつがいきなり扉を開けたんだよ?」
どうやら朝霧も怪しいという自覚はあるようだ。六畳の部屋にはプリントアウトされた漫画らしきカット割りされた絵が所狭しとばら撒かれている。これで2台のパソコンを置けば足の踏み場もない。扉横の壁と扉の向いの壁、背中合わせに座っていた二人はやっと手を止め、隈のきつい目をこちらに向けた。
「およ?乃愛たん乃愛たん、指名してる場末のホストが来てるでつよ」
「いやボク、ホスト遊びしないし。してもこんな場末のホスト指名しないし」
「いや場末場末言うな!泣くよ?」
さすがの朝霧も型なしのようだ。朝霧は仕切り直しをするようにパンパンと手を叩く。
「はいはーい!もう作業止めてね。この建物は今日から封鎖されることになりましたー!だから、速やかに退去して下さーい!おーい自衛隊さんたちー!この二人、ここから追い出してー!」
朝霧の大声に反応し、玄関にいた自衛官たちがドヤドヤと入ってくる。さすがの二人もその事態には青ざめた。
「ええー!?聞いてないでつ!困るでつ困るでつ!そんなことされたらコミケに間に合わなくなってしまうでつよ~ぉ!」
なるほど、そういえば久遠寺で青井に他の住人の動向を聞いた際、二本松は8月中旬にT都で行われるイベントに出展するコミックの執筆に追われ、九郎原はその手伝いをしていると言っていた。にしても…浦安は二人が朱美が亡くなったことを嘆く様子もなく平然としていることに違和感を覚えた。
「君たち、ひょっとして朱美ちゃんが亡くなったこと、まだ知らない?」
もし知らないのなら自分がこの場で教えることになる。恐る恐るそう聞くと、
「知ってるでつよ。悲しい出来事だったんでつ」
「うん、悲しい。ボク、泣いちゃったもん」
と、あっけらかんと言う。おそらくは青井が連絡を入れたのだろう。悲しいと言ってはいるが、同じ屋根の下で暮らす者が亡くなったばかりなのだ、普通もっと気落ちするものじゃないだろうか?どうもここの住人はそういったことに淡白に思える。今の若い者はみんなそうなのか?心では悲しんでいるのかもしれないが、表情に出さないことがトレンドとか?もしそうなら、昭和生まれの浦安には薄情に思えた。
「さあ、立つんだ!」
自衛官たちが部屋にドヤドヤと入って来て動こうとしない二人の腕を掴む。
「わあ~何なんでつか~!怖いでつ怖いでつ、怖いんでつよ~!」
「ちょっと!ボクに触らないで!」
二人はテーブルにしがみついて頑として留まろうとする。あげくに、
「うわあ~ん!僕らが何をしたって言うんでつか~!こんなことされたらもう、コミケに間に合わないんでつ~!」
と言って泣き出した。見兼ねた浦安は朝霧にさっき湧いた質問をする。
「ここを封鎖するって、それは必要なことなんですか?」
「必要なんでつ…あ、いや、必要なんだよ!三国や四條畷、五月山といった怪しいやつらが根城にしてる場所なんだよ?どこに何を隠してるか分かったもんじゃない。室長も言ってたろ?少々手荒なことも厭わないってさあ」
暗に自分が手ぬるいと言われているようで浦安は閉口した。そして何かいい手立ては無いかと思い巡らし、朝霧にちょっと待って下さいと言って充電したての携帯を手にする。そして町長からもらった名刺を出し、電話をかけた。町長にノワールでの事情を伝え、公民館をしばらく借りられないかと願い出る。弓削班が全滅した今、公民館で寝泊まりする者はいなくなり、部屋は空いているはずだ。そして町長と会合した際、ノワールは禍津町に張られた北斗七星の結界の一つだと教えられた。ならばここは手を貸してくれるはずだと思った。電話に出た町長と久遠寺でのお焚き上げ供養が失敗に終わったことを嘆き合い、遵法住職や朱美が亡くなり、天冥が重傷に陥ったことを一通り悲しみ合った後、今ノワールで行われてようとしていることを告げた。町長も今回のロックダウンには不穏なものを感じているようで、公民館の件は快く承諾してくれた。そして後日、今後のことについて時間を取る約束をし、電話を切った。
「ここが調査されている間、公民館に住めばいい。町長の許可は得たから」
浦安がそう伝えると、二本松と九郎原は跳び上がって喜んだ。
「おっさんありがとう!同人誌が出来たらおっさんにも一冊進呈するでつよー!」
「おっさんおっさん、ボクもおっさんの言うこと一つ何でも聞くよ!あ、身体以外。身体以外なら何でも聞くから!あーこれでやっとこの臭さから脱出できるよ」
「臭くないでつよ!」
「いや臭いもん!」
一緒に飲んで以来おっさん呼びされていることには若干の抵抗はあるが、本気で喜ぶ二人に少し気が緩む。
「分かった分かった、じゃあ早く必要な荷物をまとめて。朝霧調査員、二人を公民館まで送るくらいはしてやってくれますか?」
「ああ?まあ、それくらいはしゃあないか」
朝霧はその旨を自衛官に頼み、彼らを一旦引き上げさせた。と、そこで、向かいの部屋の扉がバタンと開かれる。
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