社長に拾われた貧困女子、契約なのに溺愛されてます―現代シンデレラの逆転劇―

砂原紗藍

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【第二章】偽りの契約

2.決意

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私は、『まんぷく亭』の外のベンチで桐島さんを待っていた。

手には、契約書。
心臓がバクバクしてる。

「深月さん」

顔を上げると、桐島さんがゆっくり歩いてきた。

「桐島さん……」

二人でベンチに腰かける。
でも、言うことがまとまらない。

――沈黙。
私は、意を決して口を開いた。

「あの……契約、受けさせてください」

桐島さんの目が、少し見開かれた。

「……本当に、いいのか?」
「はい」

私は、桐島さんを見つめた。

「はい。いろいろ理由はありますけど……決めました」

桐島さんは、私が続きを言うのを待っている。

「竹中さんのことも不安だし、生活のこともあります。でも――」

本当は、あなたのそばにいたいから。
そんな本音は飲み込んだ。

「……シンちゃんに、安心できる場所を用意してあげたいんです」

桐島さんは、しばらく黙って私を見ていた。
その表情が少しだけ柔らかくなる。

「……優しいな」
「えっ?」
「承諾してくれて、ありがとう」

桐島さんは、私の手を取った。すごく温かかった。

「それと――サインの前に言おうと思ってたことがあるんだが」
「なんですか?」

ほんの一瞬だけ、言いにくそうに目を伏せたあと――
桐島さんは、ふっと微笑んだ。

「……いや。今はいい。これから頼む、パートナー」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」

そう言いながら冷静を装ったけれど、胸の奥がずっとドキドキしてた。



契約書にサインしてから三日。
私は、引っ越しの準備をしていた。

「シンちゃん、今日から新しいお家だよ」

ケージの中で、シンちゃんが元気よくぴょんぴょん跳ねる。
小さなその姿に、少しだけ緊張がほどけた。

荷物といっても、そんなに多くない。
服と本と、シンちゃんのグッズと、お母さんの写真。

「お母さん、私……大丈夫かな」

写真の中のお母さんは、優しく笑っていた。

ピンポーン。
インターホンが鳴った。

「はい!」

ドアを開けると、桐島さんが立っていた。
白いシャツに黒のパンツというシンプルな格好なのに、どうしてこんなに絵になるんだろう。

「準備できたか?」
「はい、全部まとまりました」
「よし。じゃあ行こう」

桐島さんは、大きな荷物をひょいと持ち上げた。

「あ、重くないですか……?」
「これくらい平気だ」

軽く笑った横顔が、大人っぽくてどきっとする。

「君の荷物、思ったより少ないな」
「……あんまり物持ってなくて」

ちょっと恥ずかしいけれど、桐島さんは気にした様子もなく部屋を見渡す。

「綺麗にしてたんだな」
「えっ、あ……はい」
「必要なものは、これから全部揃えよう」
「え、でも……お金、かかっちゃいますし……」
「契約のうちだ。気にしなくていい」

その言い方が優しくて、胸が温かくなる。

桐島さんが車へ荷物を運び出すのを見送りながら、私は最後にもう一度部屋を見渡した。

三年間住んだ、小さくて古い部屋。
でも、逃げてきた私を受け止めてくれた唯一の場所だった。

「……ありがとう」

小さく呟いて、ドアを静かに閉めた。

こうして、私と桐島さんの――
偽りの恋人生活が始まった。


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