【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍

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【第二章】無自覚メンヘラ発動中

1.“平気なふり”が限界だった夜

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それから一週間が経った。
今日も大学からの帰り道、カナトさんの帰りを待っていた。

空はオレンジ色に染まり始めている。
……風が冷たい。

そろそろかな。

時計を見ると、19時5分。
いつもなら、もう帰ってくる時間だ。

「……遅いな」

少し不安になって、駅の方を眺める。
するとカナトさんの姿が見えた。

「え……?」

でも、一人じゃない。
隣には、黒いスーツを着たスラッとした綺麗な女性が歩いていた。

僕の胸に、嫌な感覚が広がった。

「……誰……」

カナトさんと女性は楽しそうに話している。女性が何か言うと、カナトさんも笑った。
僕のしっぽが、不機嫌そうにバタバタと揺れた。

……気になる。すごく気になる。

二人はマンションの前で立ち止まった。
僕は慌てて物陰に隠れた。
建物の角から、そっと様子を伺う。

「じゃあ橘さん、また明日」
「ああ、お疲れ様。気をつけて帰れよ」
「はい。橘さんも、ゆっくり休んでくださいね」

女性が笑顔で手を振って去っていく。
カナトさんはマンションに入ってきた。
僕はそっとカナトさんの後をつけた。

エレベーターには乗らず、階段で先に3階に上がる。
カナトさんが部屋のドアを開けようとしたとき、僕は声をかけた。

「……カナトさん」
「レン? どうしたんだ、そんなところに」

カナトさんが驚いた顔でこちらを見る。

「別に……」

僕は素っ気なく答えた。
でも、しっぽは不機嫌そうに左右に振れていた。

「入るか?」
「……ううん。今日は帰る」
「そうか? 珍しいな」

カナトさんが少し驚いた顔をした。

「僕だって予定くらいあるし」
「そうか。じゃあ、また明日な」
「……明日は来ないかも」

そう言って、僕は自分の部屋に入った。
ドアを閉めて壁に背中を預ける。

……何だろう、この気持ち……。

胸が苦しい。モヤモヤする。
重い石が胸に乗っているような感覚。
しっぽが不機嫌そうに跳ねている。

「もう……勝手に動くなって……!」

文句を言っても仕方ないのに。
でも、止まらない。
しっぽは正直だ。僕の本当の気持ちを表してしまう。

「……嫉妬、なのかな」

認めたくないけど、たぶんそうだ。
カナトさんが他の女性と楽しそうに話している姿を見て、僕は嫉妬している。

「ばかみたい……」

枕に顔を埋めた。

だって、僕は半猫だ。普通の人間じゃない。
カナトさんだって、僕みたいな面倒くさい存在より、普通の人と付き合った方が幸せなんじゃないか。

「……やっぱり、期待しちゃダメだったんだ」

涙がじわっと滲んだ。


次の日、僕は大学から帰ってきても、カナトさんの部屋には行かなかった。

自分の部屋で、一人でカップ麺を食べる。
味がしない。

「……おいしくない」

カナトさんと一緒にご飯を食べる方が、ずっと美味しかったのに。

その時、スマホが鳴った。
カナトさんからのメッセージだ。

『レン、今日は来ないのか?』
『忙しい』
『そうか。無理しなくていいからな』

それだけだった。

もっと、しつこく誘ってきてほしかったのに。
でも、それは僕のわがままだ。

その次の日も、僕はカナトさんの部屋に行かなかった。

図書館で勉強してから帰って、一人で過ごす。

「……寂しくなんかない」

嘘だ。
寂しかった。すごく、寂しかった。


――三日目の夜、僕の部屋のドアがノックされた。

「レン? いるか?」

カナトさんの声だ。
僕は少し迷った後、ドアを開けた。

「……何?」

カナトさんが心配そうな顔で立っていた。
いつもの優しい笑顔じゃなく、少し困ったような表情。

「最近、来ないな。何かあったのか?」
「別に……忙しかっただけ」
「そうか」

カナトさんは僕の顔をじっと見た。

「嘘だな」
「嘘じゃない」
「じゃあ、なんでそんな不機嫌そうな顔してるんだ?」
「してないから!」

でも、僕のしっぽはまた不機嫌そうに揺れていた。

「……レン、俺の部屋に来い」
「嫌」
「いいから来い」

カナトさんが僕の手を掴んだ。
その手は温かくて、力強かった。

「ちょ、ちょっと……!」

僕は引きずられるようにして、カナトさんの部屋に連れて行かれた。




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