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【第一章】優しい隣人と半猫の僕
4.猫耳が出るほど好きな人
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あれから数日が経った。
もう20時。
さっきお風呂にも入ったし、あとはのんびり――その前に洗濯だけ済ませよう。
着替えを洗濯機に放り込み、スタートボタンを押す。
……あれ?
全然動かない。
もう一度押しても無反応。
電源を切って入れ直しても沈黙したままだ。
「え、ちょっと、なんで……?」
コンセントもブレーカーも問題なし。
それでも、微動だにしない。
「嘘……壊れた……?」
最悪だ。洗濯できないのは本当に困る……。
仕方なく、近くの24時間コインランドリーに向かった。
新しい店内は明るくて、洗剤の優しい匂いが広がっている。
洗濯物を機械に放り込み、スタートボタンを押す。
残り時間――50分。
「長……」
……一回マンションに戻ろうかな。
そう思いながらポケットに手を入れた瞬間、心臓が止まりかけた。
「あれ……鍵……?」
ない。
部屋の鍵がどこにもない。
「えっ……落とした……!?」
どうしよう……。
暗い外で落とし物探すなんて無理だし、管理会社はもう閉まってる。
合鍵は部屋の中だ。
財布はあるけど現金ほぼなし。カードも身分証も部屋。どこにも行けない。
……てことは、
コインランドリーで一晩……?
いやいや、無理。
どうしよう。
まず、浮かんだのはカナトさんの顔。
――頼っていいのかな。
迷惑かもしれない。イヤな顔されたらどうしよう。
でも、誰にも頼れないし……。
震えながらメッセージを送った。
『カナトさん助けて……。鍵なくしちゃって部屋入れない。お金もほとんどなくて……カナトさんの部屋、行っていい……?』
自分でも驚くくらい情けない頼り方だった。
でも返事は、すぐに来た。
『いいよ。遠慮すんな』
……え、本当に?
慌てて返信する。
『ありがとう……ほんと助かる……』
『レン、今どこ?』
『マンション近くのコインランドリー。洗濯終わるの待ってる』
『わかった。じゃあまた後で』
……よかった。
洗濯が終わるまでスマホをいじりつつ、だんだん眠くなってきた頃――自動ドアが開く音がした。
顔を上げると、そこに立っていたのはカナトさんだった。
「カナトさん! なんで……?」
「残業帰り。連絡見て即来た。レンを一人にしたくなかったから」
……ほんとに?
ふいに胸がぎゅっと締めつけられた。
そんな理由で駆けつけてくれるなんて、思ってもみなかった。
そうこうしているうちに、洗濯機が終了の音を鳴らした。
洗濯物を持ち、二人でマンションへ向かう。
冬の風が肌に刺さって、思わず身を縮めた。
「寒い……」
「猫だもんな、お前」
「ちがう、半猫!」
「ほら、こっち来い」
そう言うなり、カナトさんが僕を腕の中に引き寄せた。
「……っ」
耳が熱くなる。
温かい。近い。心臓が暴れてうるさい。
そのせいで――
「や、やば……出……!」
頭の上で猫耳がぴょこんと飛び出した。
「はは。寒いから、緊張してるんだろ」
カナトさんの胸元に顔を埋められた瞬間、また“好き”が増えてしまった。
……止められないくらいに。
*
「レン、お腹空いてるか?」
「……空いてる」
素っ気なく答えたのに、しっぽは嬉しそうに大きく揺れていた。
「じゃあ、一緒にご飯でも食べようか」
カナトさんは笑いながら、キッチンで料理を始めた。
「レン、好きな食べ物は?」
「……何でもいい」
「じゃあ、魚にしようか」
えっ……魚?
「……魚、好き」
小さく答えると、カナトさんはまた笑った。
「やっぱり猫だな」
「猫じゃないって! 半猫!」
「同じようなもんだろ」
「全然違う!」
そんな軽いやり取りが、妙に心地よかった。
料理ができて、二人でテーブルにつく。
「いただきます」
「いただきます」
カナトさんの作った焼き魚は、本当に美味しかった。
ふっくらとしていて、塩加減も絶妙。
「美味しい……」
「よかった」
カナトさんが優しく笑う。その笑顔を見ていると、胸が暖かくなる。
……でも、きっといつか飽きられる。
「レン?」
「……なに」
「また何か考えてるだろ」
「考えてない」
「嘘ついてる顔」
カナトさんが僕の頬をつついて、目を覗き込んでくる。
「何考えてた?」
「……別に」
「レン」
声のトーンが少しだけ真剣になった。
「俺はお前に飽きたりしない。絶対に」
「……なんで僕の考えてること分かるの」
「お前、全部顔に出るから」
そう言って笑うカナトさんは、本当に優しい。
「レン、不安になったら言えよ。何度でも安心させてやるから」
「……うん」
食事を終えて、二人でソファに座った。
「レン、こっち」
「え……」
カナトさんが僕の腰に手を伸ばし、そっと引き寄せた。
そして、そのまま僕の頭を自分の膝の上へ。
「ちょっ……」
「いいから」
髪を梳くように撫でられ、猫耳まで優しく触られる。
「……ん……」
気持ちよすぎて、声が漏れてしまった。
「ほら、もっと力抜け」
「抜けてる……」
「まだ硬いな」
背中を撫でられ、身体の力がふっと抜けていく。
しっぽもだらんと垂れて、完全にリラックスしている。
「可愛いな、レン」
その声が心地よくて、僕は目を閉じた。
喉の奥から自然にゴロゴロと音が漏れる。
「可愛くない……」
そう言いながら、僕はカナトさんの膝の上で眠りに落ちていった。
けれど、その夜見た夢は最悪だった。
カナトさんが、遠くへ行ってしまう夢。
「待って……置いていかないで」
どれだけ叫んでも、カナトさんは振り返らない。
距離はどんどん離れていく。
「カナトさん!」
――誰かが僕を揺さぶった。
「レン! 起きろ」
「……ん……?」
目を開けると、心配そうな顔のカナトさんがいた。
もう20時。
さっきお風呂にも入ったし、あとはのんびり――その前に洗濯だけ済ませよう。
着替えを洗濯機に放り込み、スタートボタンを押す。
……あれ?
全然動かない。
もう一度押しても無反応。
電源を切って入れ直しても沈黙したままだ。
「え、ちょっと、なんで……?」
コンセントもブレーカーも問題なし。
それでも、微動だにしない。
「嘘……壊れた……?」
最悪だ。洗濯できないのは本当に困る……。
仕方なく、近くの24時間コインランドリーに向かった。
新しい店内は明るくて、洗剤の優しい匂いが広がっている。
洗濯物を機械に放り込み、スタートボタンを押す。
残り時間――50分。
「長……」
……一回マンションに戻ろうかな。
そう思いながらポケットに手を入れた瞬間、心臓が止まりかけた。
「あれ……鍵……?」
ない。
部屋の鍵がどこにもない。
「えっ……落とした……!?」
どうしよう……。
暗い外で落とし物探すなんて無理だし、管理会社はもう閉まってる。
合鍵は部屋の中だ。
財布はあるけど現金ほぼなし。カードも身分証も部屋。どこにも行けない。
……てことは、
コインランドリーで一晩……?
いやいや、無理。
どうしよう。
まず、浮かんだのはカナトさんの顔。
――頼っていいのかな。
迷惑かもしれない。イヤな顔されたらどうしよう。
でも、誰にも頼れないし……。
震えながらメッセージを送った。
『カナトさん助けて……。鍵なくしちゃって部屋入れない。お金もほとんどなくて……カナトさんの部屋、行っていい……?』
自分でも驚くくらい情けない頼り方だった。
でも返事は、すぐに来た。
『いいよ。遠慮すんな』
……え、本当に?
慌てて返信する。
『ありがとう……ほんと助かる……』
『レン、今どこ?』
『マンション近くのコインランドリー。洗濯終わるの待ってる』
『わかった。じゃあまた後で』
……よかった。
洗濯が終わるまでスマホをいじりつつ、だんだん眠くなってきた頃――自動ドアが開く音がした。
顔を上げると、そこに立っていたのはカナトさんだった。
「カナトさん! なんで……?」
「残業帰り。連絡見て即来た。レンを一人にしたくなかったから」
……ほんとに?
ふいに胸がぎゅっと締めつけられた。
そんな理由で駆けつけてくれるなんて、思ってもみなかった。
そうこうしているうちに、洗濯機が終了の音を鳴らした。
洗濯物を持ち、二人でマンションへ向かう。
冬の風が肌に刺さって、思わず身を縮めた。
「寒い……」
「猫だもんな、お前」
「ちがう、半猫!」
「ほら、こっち来い」
そう言うなり、カナトさんが僕を腕の中に引き寄せた。
「……っ」
耳が熱くなる。
温かい。近い。心臓が暴れてうるさい。
そのせいで――
「や、やば……出……!」
頭の上で猫耳がぴょこんと飛び出した。
「はは。寒いから、緊張してるんだろ」
カナトさんの胸元に顔を埋められた瞬間、また“好き”が増えてしまった。
……止められないくらいに。
*
「レン、お腹空いてるか?」
「……空いてる」
素っ気なく答えたのに、しっぽは嬉しそうに大きく揺れていた。
「じゃあ、一緒にご飯でも食べようか」
カナトさんは笑いながら、キッチンで料理を始めた。
「レン、好きな食べ物は?」
「……何でもいい」
「じゃあ、魚にしようか」
えっ……魚?
「……魚、好き」
小さく答えると、カナトさんはまた笑った。
「やっぱり猫だな」
「猫じゃないって! 半猫!」
「同じようなもんだろ」
「全然違う!」
そんな軽いやり取りが、妙に心地よかった。
料理ができて、二人でテーブルにつく。
「いただきます」
「いただきます」
カナトさんの作った焼き魚は、本当に美味しかった。
ふっくらとしていて、塩加減も絶妙。
「美味しい……」
「よかった」
カナトさんが優しく笑う。その笑顔を見ていると、胸が暖かくなる。
……でも、きっといつか飽きられる。
「レン?」
「……なに」
「また何か考えてるだろ」
「考えてない」
「嘘ついてる顔」
カナトさんが僕の頬をつついて、目を覗き込んでくる。
「何考えてた?」
「……別に」
「レン」
声のトーンが少しだけ真剣になった。
「俺はお前に飽きたりしない。絶対に」
「……なんで僕の考えてること分かるの」
「お前、全部顔に出るから」
そう言って笑うカナトさんは、本当に優しい。
「レン、不安になったら言えよ。何度でも安心させてやるから」
「……うん」
食事を終えて、二人でソファに座った。
「レン、こっち」
「え……」
カナトさんが僕の腰に手を伸ばし、そっと引き寄せた。
そして、そのまま僕の頭を自分の膝の上へ。
「ちょっ……」
「いいから」
髪を梳くように撫でられ、猫耳まで優しく触られる。
「……ん……」
気持ちよすぎて、声が漏れてしまった。
「ほら、もっと力抜け」
「抜けてる……」
「まだ硬いな」
背中を撫でられ、身体の力がふっと抜けていく。
しっぽもだらんと垂れて、完全にリラックスしている。
「可愛いな、レン」
その声が心地よくて、僕は目を閉じた。
喉の奥から自然にゴロゴロと音が漏れる。
「可愛くない……」
そう言いながら、僕はカナトさんの膝の上で眠りに落ちていった。
けれど、その夜見た夢は最悪だった。
カナトさんが、遠くへ行ってしまう夢。
「待って……置いていかないで」
どれだけ叫んでも、カナトさんは振り返らない。
距離はどんどん離れていく。
「カナトさん!」
――誰かが僕を揺さぶった。
「レン! 起きろ」
「……ん……?」
目を開けると、心配そうな顔のカナトさんがいた。
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