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【第二章】無自覚メンヘラ発動中
3.カフェより甘い練習時間
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そうして翌日。
いつもの日常が戻ってきた……はずなのに、なんか胸の奥だけまだふわふわしてる。
カナトさんにあんなふうに抱きしめられたせいだ。
……絶対そうだ。
大学では、僕の所属するイベントサークルがカフェを出店することになった。
「緊張する……」
接客、うまくできるかな。
知らない人を相手に笑うのって、案外むずかしい。
ちゃんとできるかな。考えるだけでお腹痛くなる。
……でも、そこでふと思いついた。
カナトさんで練習すればいいじゃん、って。
そうと決めた僕は、仕事が終わっているであろう時間を見計らってスマホを開き、メッセージを送った。
『カナトさん、今日ちょっと来てほしい……用事、ある?』
本当は、“会いたい”だけかも。
でもそんな言葉を送る勇気は、まだ持てなかった。
既読がついて、すぐに返事が返ってくる。
『行く。10分で着くよ』
即答だった。嬉しくて、胸の奥がきゅっとなった。
数分後、インターホンが鳴った。
「……カナトさんだ……!」
玄関へ向かいながら、心臓の鼓動が早くなっていく。
ドアを開けた瞬間――スーツ姿のカナトさんが、少し息を弾ませて立っていた。
「レン、来たよ。どうした?」
「あの、カナトさん。ちょっと……練習、してほしいことがあって」
「練習? なんの?」
「……接客。イベントでやるカフェの」
「俺が客役ってことか?」
「……うん」
言った途端、カナトさんがふっと笑う。
優しくて、甘くて、少しだけ意地悪そうな顔。
「いいよ。じゃ、客ってことで座るな」
脚を組んでこちらを見る目が、妙に期待していて心臓がドキドキする。
僕は深呼吸して、サークルのマニュアルを思い出しながらカナトさんの前に立つ。
「――い、いらっしゃいませ……っ」
声が震えた。
思っていたよりも恥ずかしいな。
カナトさんは一瞬きょとんとして、それからゆっくり口元をほころばせた。
「……なんだそれ。可愛すぎだね」
は!?
いや、可愛いわけないし。
「か、可愛くない! 練習なんだから!」
「はいはい。じゃあ……コーヒーをください」
落ち着いた低音が耳に響く。
その言い方がやけに優しくて、胸がまたきゅっとなる。
僕は頑張ってにこっと笑ってみる。
「かしこまりました……!」
カナトさんの目が見開かれる。
そして――
「レン」
「な、なに……?」
「今の笑顔、反則。……好きすぎる」
「っ……!?」
一瞬で顔が熱くなる。
恥ずかしすぎて耳がぴょこっと飛び出た。
「ひゃっ……!? なんで出て……!」
慌てて両手で耳を押さえると、カナトさんが吹き出すように笑った。
「いや、そんなに照れると出てくるのか……可愛いにも程があるだろ」
「ち、ちがう! これはその……勝手に……!」
「知ってるよ。だから可愛いって言ってるんだ」
そう言って、ソファから立ち上がり、僕の方へゆっくり歩いてくる。
カナトさんが近づくたびに、鼓動がどんどん大きくなる。
「れ、練習中……だから……」
「練習はあとでいいよ。今は――」
そっと頭に手が伸びて、ぴんと立った猫耳を優しく包み込む。
「……この耳、俺の前だけこうして出してくれるの、嬉しいな」
「~~っ……!」
「レン。好きだよ」
低い声でそう囁かれた瞬間、膝が崩れそうになった。
カナトさんの手が猫耳に触れたまま、ゆっくりと撫でてくる。
指先が耳の付け根をなぞるたび、体が小さく震えた。
「練習したいって言ったのはレンだろ?」
「だ、だからって……こういう触り方は……反則……」
「そうか?」
低く落とされた声がすぐ近くにある。
耳を撫でられるの、くすぐったい。
「レン、ちょっとこっち向いて」
「やだ! 恥ずかしい……」
「大丈夫だから」
頬に触れる手があたたかい。
そっと添えられただけなのに、自然と顔を向けさせられてしまう。
視線が合った瞬間、胸がきゅっと縮んだ。
「そんな顔されると、余計に意地悪したくなるんだけど」
「……しないで」
小さく言い返すと、カナトさんはほんの少し笑った。
「じゃあ、ひとつだけ」
え、ひとつだけって――
唇が触れた。
ほんの一瞬。
それだけのはずなのに、息が止まった。
「……レン」
名前を呼ばれるだけで、頭が熱くなる。
「もう一回、していいか」
「……うん」
次に落ちてきたキスは、さっきより少し深い。
でも、強引じゃなくて、丁寧で。
「……っ、カナトさん……」
背中に回された手にそっと引き寄せられる。
抱きしめられた温度が心地よくて、胸がドキドキした。
「泣きそうな顔するなよ」
「泣いてない……ただ、ちょっと……嬉しいだけ」
「なら、よかった」
額同士が軽く触れる。
短いキスがもう一度、そっと落ちた。
いつもの日常が戻ってきた……はずなのに、なんか胸の奥だけまだふわふわしてる。
カナトさんにあんなふうに抱きしめられたせいだ。
……絶対そうだ。
大学では、僕の所属するイベントサークルがカフェを出店することになった。
「緊張する……」
接客、うまくできるかな。
知らない人を相手に笑うのって、案外むずかしい。
ちゃんとできるかな。考えるだけでお腹痛くなる。
……でも、そこでふと思いついた。
カナトさんで練習すればいいじゃん、って。
そうと決めた僕は、仕事が終わっているであろう時間を見計らってスマホを開き、メッセージを送った。
『カナトさん、今日ちょっと来てほしい……用事、ある?』
本当は、“会いたい”だけかも。
でもそんな言葉を送る勇気は、まだ持てなかった。
既読がついて、すぐに返事が返ってくる。
『行く。10分で着くよ』
即答だった。嬉しくて、胸の奥がきゅっとなった。
数分後、インターホンが鳴った。
「……カナトさんだ……!」
玄関へ向かいながら、心臓の鼓動が早くなっていく。
ドアを開けた瞬間――スーツ姿のカナトさんが、少し息を弾ませて立っていた。
「レン、来たよ。どうした?」
「あの、カナトさん。ちょっと……練習、してほしいことがあって」
「練習? なんの?」
「……接客。イベントでやるカフェの」
「俺が客役ってことか?」
「……うん」
言った途端、カナトさんがふっと笑う。
優しくて、甘くて、少しだけ意地悪そうな顔。
「いいよ。じゃ、客ってことで座るな」
脚を組んでこちらを見る目が、妙に期待していて心臓がドキドキする。
僕は深呼吸して、サークルのマニュアルを思い出しながらカナトさんの前に立つ。
「――い、いらっしゃいませ……っ」
声が震えた。
思っていたよりも恥ずかしいな。
カナトさんは一瞬きょとんとして、それからゆっくり口元をほころばせた。
「……なんだそれ。可愛すぎだね」
は!?
いや、可愛いわけないし。
「か、可愛くない! 練習なんだから!」
「はいはい。じゃあ……コーヒーをください」
落ち着いた低音が耳に響く。
その言い方がやけに優しくて、胸がまたきゅっとなる。
僕は頑張ってにこっと笑ってみる。
「かしこまりました……!」
カナトさんの目が見開かれる。
そして――
「レン」
「な、なに……?」
「今の笑顔、反則。……好きすぎる」
「っ……!?」
一瞬で顔が熱くなる。
恥ずかしすぎて耳がぴょこっと飛び出た。
「ひゃっ……!? なんで出て……!」
慌てて両手で耳を押さえると、カナトさんが吹き出すように笑った。
「いや、そんなに照れると出てくるのか……可愛いにも程があるだろ」
「ち、ちがう! これはその……勝手に……!」
「知ってるよ。だから可愛いって言ってるんだ」
そう言って、ソファから立ち上がり、僕の方へゆっくり歩いてくる。
カナトさんが近づくたびに、鼓動がどんどん大きくなる。
「れ、練習中……だから……」
「練習はあとでいいよ。今は――」
そっと頭に手が伸びて、ぴんと立った猫耳を優しく包み込む。
「……この耳、俺の前だけこうして出してくれるの、嬉しいな」
「~~っ……!」
「レン。好きだよ」
低い声でそう囁かれた瞬間、膝が崩れそうになった。
カナトさんの手が猫耳に触れたまま、ゆっくりと撫でてくる。
指先が耳の付け根をなぞるたび、体が小さく震えた。
「練習したいって言ったのはレンだろ?」
「だ、だからって……こういう触り方は……反則……」
「そうか?」
低く落とされた声がすぐ近くにある。
耳を撫でられるの、くすぐったい。
「レン、ちょっとこっち向いて」
「やだ! 恥ずかしい……」
「大丈夫だから」
頬に触れる手があたたかい。
そっと添えられただけなのに、自然と顔を向けさせられてしまう。
視線が合った瞬間、胸がきゅっと縮んだ。
「そんな顔されると、余計に意地悪したくなるんだけど」
「……しないで」
小さく言い返すと、カナトさんはほんの少し笑った。
「じゃあ、ひとつだけ」
え、ひとつだけって――
唇が触れた。
ほんの一瞬。
それだけのはずなのに、息が止まった。
「……レン」
名前を呼ばれるだけで、頭が熱くなる。
「もう一回、していいか」
「……うん」
次に落ちてきたキスは、さっきより少し深い。
でも、強引じゃなくて、丁寧で。
「……っ、カナトさん……」
背中に回された手にそっと引き寄せられる。
抱きしめられた温度が心地よくて、胸がドキドキした。
「泣きそうな顔するなよ」
「泣いてない……ただ、ちょっと……嬉しいだけ」
「なら、よかった」
額同士が軽く触れる。
短いキスがもう一度、そっと落ちた。
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