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【最終章】僕の世界は、あなたでできてる
1.料理下手な僕と甘々彼氏
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今日は、カナトさんと一緒に過ごせる日。
リビングでは、カナトさんがテーブルにノートパソコンを広げて仕事をしている。
背筋を伸ばして、画面を真剣に見つめる横顔。
……かっこいい。
大人っぽくて、余裕があって、でも時々僕を見るとすごく優しい目になる。
僕はソファに座ったまま、何をするでもなく、その姿をぼんやり眺めていた。
カナトさんは、いつも僕のために色々してくれる。
守ってくれて、気にかけてくれて、疲れてても抱きしめてくれる。
でも、たまには僕も何かしてあげたい。
そう思った瞬間、胸の奥で小さくスイッチが入った。
……そうだ。
せっかく一緒にいられる日なんだし。
ご飯、作ってあげようかな。
音を立てないようにキッチンへ向かう。
背中越しに見えるカナトさんは、まだ仕事に集中してるみたいだ。
よし。
キッチンのフックに掛かっていたエプロンを手に取る。
カナトさんのエプロン。
身につけてみると、やっぱり少し大きい。
裾が太ももに当たって、ドキドキなんだか落ち着かない。
「……まぁ、いっか」
小さく呟いて、深呼吸。
「よし、頑張ろう」
普段あまり料理をしない僕が、こうして気合いを入れてキッチンに立ってるなんてすごく珍しいこと。
えっと……何作ろうかな。
前に、「冷蔵庫の中のものは好きに使っていいからな」って言ってくれたっけ。
カナトさんはいつもこうやって、僕が安心できる場所を当たり前みたいに用意してくれる。
カナトさん、優しいよね。
……本当に大好き。
今日くらいは、その気持ちをちゃんと形にしたいな。
冷蔵庫の中を覗くと、玉ねぎ、人参。
じゃがいももあって、牛肉も少しだけ残っていた。
「これで何か作れるかも」
頭の中で、メニューを組み立てる。
初心者でもいけそうで、失敗しても致命傷にならなさそうで――
「……ビーフシチュー、かな」
ルーもある。よし、決定。
カレーでもよかったけど、それはちょっと芸がない。
それに、カナトさんのカレーは本当に美味しいから、僕が作ったらたぶん劣化版にしかならない気がする。
意を決して、調理開始。
スマホを立てかけて、レシピを確認する。
『じゃがいもは皮を剥いて、ひと口大に切る。玉ねぎはくし形切り、人参は乱切り……』
「……くし形? 乱切り……?」
思考が止まった、その瞬間。
ぴょこんと、猫耳が生えた。
「うわ」
また出ちゃった……。
耳をぴくぴくさせながら、再びスマホを操作して、“くし形切り”“乱切り”を検索する。
「へえ……こうやって切るのか」
動画を見ながら、見よう見まねで材料を切り始めた。
……とはいえ。
“初心者でも簡単! 定番ビーフシチュー”
簡単、って書いてあるけど。
「……嘘でしょ」
僕にとっては、普通に難しい。
じゃがいもは皮を剥きすぎて、異様に小さくなった。
玉ねぎのくし形切りは、どう見ても歪。
「うーん……」
人参の乱切りに至っては、これ本当に乱切りなのか怪しい。
牛肉も、大きさがバラバラで、統一感ゼロ。
「……ダメだ、僕、料理の才能ないかも」
その言葉に反応するみたいに、耳がぺたんと伏せる。
「はあ……」
ため息が漏れる。
でも、ここまでやって、やめるわけにはいかない。
カナトさんの顔が、ふっと頭に浮かぶ。
「美味しい」って言ってくれるかもしれない未来。
「頑張る」
フライパンに肉を入れて、火を強める。
じゅっと音がして、少しだけテンションが上がる。
そして、野菜を一気に投入。
「熱っ!」
油が跳ねて手に当たった。
反射的に手を引いた拍子に、近くに置いてあったフライ返しを落としてしまった。
ガシャン!
キッチンに大きな音が響く。
「うわ……」
……最悪。
どうしてこうなるんだろ。
拾おうとしてしゃがんだ、その瞬間。
視界の端に、スリッパを履いた足が入ってきた。
「レン、すごい音したけど大丈夫か? 何してるんだ?」
上から降ってきた声に、心臓が跳ねる。
顔を上げると、そこにはカナトさんが立っていた。
「えっと……料理してたんだけど」
「料理? レンが?」
カナトさんの視線が、キッチン全体を一周する。
切り損ねた野菜が転がっていて、使ったボウルや皿はシンクに溢れている。
まな板の上には、大きさがバラバラの具材。
「……すごいことになってるな」
苦笑い。
わかってたけど、やっぱり恥ずかしい。
「僕、普段あんまり料理しないから……」
「うん……それは、まあ」
言葉を濁されるのが、逆に刺さる。
カナトさんは袖をまくって、シンクの前に立った。
何も言わずに、洗い物を始める。
……怒ってる?
それとも呆れてる?
一応、僕なりに精一杯頑張ったんだけど……。
気づいたら、僕は無意識にカナトさんの裾を掴んでいた。
リビングでは、カナトさんがテーブルにノートパソコンを広げて仕事をしている。
背筋を伸ばして、画面を真剣に見つめる横顔。
……かっこいい。
大人っぽくて、余裕があって、でも時々僕を見るとすごく優しい目になる。
僕はソファに座ったまま、何をするでもなく、その姿をぼんやり眺めていた。
カナトさんは、いつも僕のために色々してくれる。
守ってくれて、気にかけてくれて、疲れてても抱きしめてくれる。
でも、たまには僕も何かしてあげたい。
そう思った瞬間、胸の奥で小さくスイッチが入った。
……そうだ。
せっかく一緒にいられる日なんだし。
ご飯、作ってあげようかな。
音を立てないようにキッチンへ向かう。
背中越しに見えるカナトさんは、まだ仕事に集中してるみたいだ。
よし。
キッチンのフックに掛かっていたエプロンを手に取る。
カナトさんのエプロン。
身につけてみると、やっぱり少し大きい。
裾が太ももに当たって、ドキドキなんだか落ち着かない。
「……まぁ、いっか」
小さく呟いて、深呼吸。
「よし、頑張ろう」
普段あまり料理をしない僕が、こうして気合いを入れてキッチンに立ってるなんてすごく珍しいこと。
えっと……何作ろうかな。
前に、「冷蔵庫の中のものは好きに使っていいからな」って言ってくれたっけ。
カナトさんはいつもこうやって、僕が安心できる場所を当たり前みたいに用意してくれる。
カナトさん、優しいよね。
……本当に大好き。
今日くらいは、その気持ちをちゃんと形にしたいな。
冷蔵庫の中を覗くと、玉ねぎ、人参。
じゃがいももあって、牛肉も少しだけ残っていた。
「これで何か作れるかも」
頭の中で、メニューを組み立てる。
初心者でもいけそうで、失敗しても致命傷にならなさそうで――
「……ビーフシチュー、かな」
ルーもある。よし、決定。
カレーでもよかったけど、それはちょっと芸がない。
それに、カナトさんのカレーは本当に美味しいから、僕が作ったらたぶん劣化版にしかならない気がする。
意を決して、調理開始。
スマホを立てかけて、レシピを確認する。
『じゃがいもは皮を剥いて、ひと口大に切る。玉ねぎはくし形切り、人参は乱切り……』
「……くし形? 乱切り……?」
思考が止まった、その瞬間。
ぴょこんと、猫耳が生えた。
「うわ」
また出ちゃった……。
耳をぴくぴくさせながら、再びスマホを操作して、“くし形切り”“乱切り”を検索する。
「へえ……こうやって切るのか」
動画を見ながら、見よう見まねで材料を切り始めた。
……とはいえ。
“初心者でも簡単! 定番ビーフシチュー”
簡単、って書いてあるけど。
「……嘘でしょ」
僕にとっては、普通に難しい。
じゃがいもは皮を剥きすぎて、異様に小さくなった。
玉ねぎのくし形切りは、どう見ても歪。
「うーん……」
人参の乱切りに至っては、これ本当に乱切りなのか怪しい。
牛肉も、大きさがバラバラで、統一感ゼロ。
「……ダメだ、僕、料理の才能ないかも」
その言葉に反応するみたいに、耳がぺたんと伏せる。
「はあ……」
ため息が漏れる。
でも、ここまでやって、やめるわけにはいかない。
カナトさんの顔が、ふっと頭に浮かぶ。
「美味しい」って言ってくれるかもしれない未来。
「頑張る」
フライパンに肉を入れて、火を強める。
じゅっと音がして、少しだけテンションが上がる。
そして、野菜を一気に投入。
「熱っ!」
油が跳ねて手に当たった。
反射的に手を引いた拍子に、近くに置いてあったフライ返しを落としてしまった。
ガシャン!
キッチンに大きな音が響く。
「うわ……」
……最悪。
どうしてこうなるんだろ。
拾おうとしてしゃがんだ、その瞬間。
視界の端に、スリッパを履いた足が入ってきた。
「レン、すごい音したけど大丈夫か? 何してるんだ?」
上から降ってきた声に、心臓が跳ねる。
顔を上げると、そこにはカナトさんが立っていた。
「えっと……料理してたんだけど」
「料理? レンが?」
カナトさんの視線が、キッチン全体を一周する。
切り損ねた野菜が転がっていて、使ったボウルや皿はシンクに溢れている。
まな板の上には、大きさがバラバラの具材。
「……すごいことになってるな」
苦笑い。
わかってたけど、やっぱり恥ずかしい。
「僕、普段あんまり料理しないから……」
「うん……それは、まあ」
言葉を濁されるのが、逆に刺さる。
カナトさんは袖をまくって、シンクの前に立った。
何も言わずに、洗い物を始める。
……怒ってる?
それとも呆れてる?
一応、僕なりに精一杯頑張ったんだけど……。
気づいたら、僕は無意識にカナトさんの裾を掴んでいた。
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