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【最終章】僕の世界は、あなたでできてる
3.好きが重なって、離れられない
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お風呂から上がって、部屋着に着替える。
「レン、もう寝る?」
「うーん……まだ眠くない」
「じゃあ、少し話そうか」
「うん」
二人でベッドに腰を下ろす。
でも、少しだけあいた隙間がさみしかった。
……もうちょっと寄ろうかな。
でもそしたら肩同士がぶつかっちゃうし。
どうしよう、なんて考えている間にカナトさんの腕が伸びてきて、ぐっと引き寄せられた。
ほら、こういうところ。
「……ねえ、カナトさん」
「ん?」
「カナトさんの好きなところ、言っていい?」
少し間があって、驚いたような声が返ってくる。
「え? 急にどうしたの」
「だって……いつも、カナトさんばっかり言ってくれるから」
“好き”とか、“可愛い”とか。
それを聞くたび嬉しいのに、僕はちゃんと返せていない気がして。
「……じゃあ、聞かせて」
「うん」
胸の奥に溜まっていた気持ちを、ひとつずつ探すみたいに、息を整える。
「まず……優しいところ」
「優しい?」
「うん。いつも僕のこと気にかけてくれて、守ってくれるところ」
「……うん」
「……それから、笑顔」
「笑顔?」
「カナトさんが笑うと、僕まで嬉しくなる」
「レン……」
「声も好き。聞いてると、安心する」
言葉がどんどん溢れてくる。
「カナトさんの手も好き。大きくて、温かくて」
「……ありがとう」
「カナトさんの全部が好き」
顔を上げると、カナトさんがすごく優しい顔で笑ってる。
「……俺も、レンの全部が好きだよ」
その言葉が、胸の奥にすとんと落ちた。
「本当……?」
「ああ。レンの真面目なところも、不器用なところも、すぐ不安になるところも。甘えん坊なところも、全部だよ」
頭に優しい重み。
大きな手が、くしゃっと撫でてくる。
「レンの笑顔が一番好きだよ。レンが笑ってると、俺まで幸せになる」
「……カナトさん」
「声も好きだ。名前を呼んでくれる声が、一番好き」
こんなふうに想ってもらえるなんて、まだ信じきれない。
抱きしめられたまま、ふわりと毛布をかけられた。
「そろそろ寝ようか」
「うん……」
カナトさんの胸に頬を寄せる。
規則正しい心音が、耳の奥に響く。
――安心する。
このまま溶けてしまいそうなほど、幸せだった。
こんな日常が。
こんな夜が。
ずっと続けばいいって、本気で思ったのに――。
*
大学からの帰り道。
部屋の前に立つ、人影に気づいて、足が止まった。
「……誰?」
警戒しながら声をかけると、男はにやりと口角を上げた。
「久しぶりだな、レン」
「……え」
その顔。
忘れようとしても、忘れられなかった。
……叔父さん。
「な、何の用ですか」
「冷たいな。親族だろ?」
親族、って。
僕が家を出てから、一度も連絡してこなかったくせに。
「用がないなら、帰って」
「まあまあ。ちょっと話があってな」
叔父さんが一歩近づいてくる。
本能的に、背中が強張った。
「話すことなんてない」
「そうか? お前、最近“組織”に狙われたらしいな」
「……なんで、それを」
「噂で聞いた。半猫は、高く売れるってな」
血の気が、一気に引いた。
「……何言ってるの」
「お前を渡せば、かなりの金になる。一緒に来い、レン」
「嫌だ!」
反射的に叫ぶ。
「来ないなら、無理やりでも――」
腕を掴まれそうになった、その瞬間。
「レンから、手を離せ」
低い声が響いた。
振り向くと、カナトさんが立っていた。
「カナトさん……!」
「レン、大丈夫か?」
「うん……」
カナトさんが、迷いなく僕の前に立つ。
その背中が頼もしくて、泣きそうになる。
「あんた、誰だよ」
「レンの恋人だ」
「恋人? こいつは俺の親族だ。口を出すな」
「親族だからって、何をしてもいいわけじゃない」
カナトさんが、一歩踏み出す。
「今更、金目当てで現れて、家族面するな」
「……お前」
拳が振り上げられる。
でも、次の瞬間には――
「っ……!」
叔父さんの腕は、カナトさんに押さえ込まれていた。
「二度とレンに近づくな。次は警察に通報する」
叔父さんは舌打ちして、逃げるように去っていった。
「……カナトさん」
「怖かったな」
「……うん」
「もう大丈夫だよ」
その一言で張り詰めていたものが切れた。
部屋に入って、ソファに座る。
「レン、大事な話がある」
カナトさんの声が、少しだけ真剣になる。
「……なに?」
「実は引っ越しを考えてるんだ」
「……え」
カナトさんが、引っ越し……?
胸が、きゅっと縮む。
「……やっぱり、僕が邪魔だった?」
「え?」
「僕がいるから、カナトさんも危ない目に遭うし……」
声が震える。
「……僕、また置いていかれるんだね」
「は?」
カナトさんが目を丸くした。
「何言ってるんだよ、レン」
「だって……カナトさん、引っ越すって……」
「レンと一緒に、だよ」
「え……?」
「親族も組織も見つけられない新しい場所で、お前と一緒に暮らすんだ」
カナトさんが僕の顔を両手で包んだ。
「お前を置いていくわけないだろ」
「本当……?」
「ああ。今は隣同士だけど、もっと広い部屋を借りて、二人で暮らそう」
カナトさんの目は真剣だった。
「でも、僕……半猫だよ?」
「知ってる」
「勝手に耳としっぽが出るし、面倒くさいよ?」
「それも含めて、レンが好きなんだ」
僕が考えていることも、迷いも、弱さも、全部カナトさんには見透かされてる。
「レン、俺はお前と一緒に暮らしたい。毎日、お前の顔を見て、お前と過ごしたいんだ」
「……嬉しい」
「よかった。じゃあ、答えは?」
「……うん」
僕は小さく頷いた。
「一緒に暮らす。僕も、カナトさんと一緒にいたい」
「ありがとう、レン」
「こちらこそ……ありがと」
「これから、もっと幸せにしてあげる」
「……もう十分幸せだよ」
「いや、まだ足りないかな」
カナトさんが優しく笑った。
ぎゅっと抱きしめられる。
この腕の中が、世界で一番安全だ。
――数日後。
また、あの男が現れるまでは。
「レン、もう寝る?」
「うーん……まだ眠くない」
「じゃあ、少し話そうか」
「うん」
二人でベッドに腰を下ろす。
でも、少しだけあいた隙間がさみしかった。
……もうちょっと寄ろうかな。
でもそしたら肩同士がぶつかっちゃうし。
どうしよう、なんて考えている間にカナトさんの腕が伸びてきて、ぐっと引き寄せられた。
ほら、こういうところ。
「……ねえ、カナトさん」
「ん?」
「カナトさんの好きなところ、言っていい?」
少し間があって、驚いたような声が返ってくる。
「え? 急にどうしたの」
「だって……いつも、カナトさんばっかり言ってくれるから」
“好き”とか、“可愛い”とか。
それを聞くたび嬉しいのに、僕はちゃんと返せていない気がして。
「……じゃあ、聞かせて」
「うん」
胸の奥に溜まっていた気持ちを、ひとつずつ探すみたいに、息を整える。
「まず……優しいところ」
「優しい?」
「うん。いつも僕のこと気にかけてくれて、守ってくれるところ」
「……うん」
「……それから、笑顔」
「笑顔?」
「カナトさんが笑うと、僕まで嬉しくなる」
「レン……」
「声も好き。聞いてると、安心する」
言葉がどんどん溢れてくる。
「カナトさんの手も好き。大きくて、温かくて」
「……ありがとう」
「カナトさんの全部が好き」
顔を上げると、カナトさんがすごく優しい顔で笑ってる。
「……俺も、レンの全部が好きだよ」
その言葉が、胸の奥にすとんと落ちた。
「本当……?」
「ああ。レンの真面目なところも、不器用なところも、すぐ不安になるところも。甘えん坊なところも、全部だよ」
頭に優しい重み。
大きな手が、くしゃっと撫でてくる。
「レンの笑顔が一番好きだよ。レンが笑ってると、俺まで幸せになる」
「……カナトさん」
「声も好きだ。名前を呼んでくれる声が、一番好き」
こんなふうに想ってもらえるなんて、まだ信じきれない。
抱きしめられたまま、ふわりと毛布をかけられた。
「そろそろ寝ようか」
「うん……」
カナトさんの胸に頬を寄せる。
規則正しい心音が、耳の奥に響く。
――安心する。
このまま溶けてしまいそうなほど、幸せだった。
こんな日常が。
こんな夜が。
ずっと続けばいいって、本気で思ったのに――。
*
大学からの帰り道。
部屋の前に立つ、人影に気づいて、足が止まった。
「……誰?」
警戒しながら声をかけると、男はにやりと口角を上げた。
「久しぶりだな、レン」
「……え」
その顔。
忘れようとしても、忘れられなかった。
……叔父さん。
「な、何の用ですか」
「冷たいな。親族だろ?」
親族、って。
僕が家を出てから、一度も連絡してこなかったくせに。
「用がないなら、帰って」
「まあまあ。ちょっと話があってな」
叔父さんが一歩近づいてくる。
本能的に、背中が強張った。
「話すことなんてない」
「そうか? お前、最近“組織”に狙われたらしいな」
「……なんで、それを」
「噂で聞いた。半猫は、高く売れるってな」
血の気が、一気に引いた。
「……何言ってるの」
「お前を渡せば、かなりの金になる。一緒に来い、レン」
「嫌だ!」
反射的に叫ぶ。
「来ないなら、無理やりでも――」
腕を掴まれそうになった、その瞬間。
「レンから、手を離せ」
低い声が響いた。
振り向くと、カナトさんが立っていた。
「カナトさん……!」
「レン、大丈夫か?」
「うん……」
カナトさんが、迷いなく僕の前に立つ。
その背中が頼もしくて、泣きそうになる。
「あんた、誰だよ」
「レンの恋人だ」
「恋人? こいつは俺の親族だ。口を出すな」
「親族だからって、何をしてもいいわけじゃない」
カナトさんが、一歩踏み出す。
「今更、金目当てで現れて、家族面するな」
「……お前」
拳が振り上げられる。
でも、次の瞬間には――
「っ……!」
叔父さんの腕は、カナトさんに押さえ込まれていた。
「二度とレンに近づくな。次は警察に通報する」
叔父さんは舌打ちして、逃げるように去っていった。
「……カナトさん」
「怖かったな」
「……うん」
「もう大丈夫だよ」
その一言で張り詰めていたものが切れた。
部屋に入って、ソファに座る。
「レン、大事な話がある」
カナトさんの声が、少しだけ真剣になる。
「……なに?」
「実は引っ越しを考えてるんだ」
「……え」
カナトさんが、引っ越し……?
胸が、きゅっと縮む。
「……やっぱり、僕が邪魔だった?」
「え?」
「僕がいるから、カナトさんも危ない目に遭うし……」
声が震える。
「……僕、また置いていかれるんだね」
「は?」
カナトさんが目を丸くした。
「何言ってるんだよ、レン」
「だって……カナトさん、引っ越すって……」
「レンと一緒に、だよ」
「え……?」
「親族も組織も見つけられない新しい場所で、お前と一緒に暮らすんだ」
カナトさんが僕の顔を両手で包んだ。
「お前を置いていくわけないだろ」
「本当……?」
「ああ。今は隣同士だけど、もっと広い部屋を借りて、二人で暮らそう」
カナトさんの目は真剣だった。
「でも、僕……半猫だよ?」
「知ってる」
「勝手に耳としっぽが出るし、面倒くさいよ?」
「それも含めて、レンが好きなんだ」
僕が考えていることも、迷いも、弱さも、全部カナトさんには見透かされてる。
「レン、俺はお前と一緒に暮らしたい。毎日、お前の顔を見て、お前と過ごしたいんだ」
「……嬉しい」
「よかった。じゃあ、答えは?」
「……うん」
僕は小さく頷いた。
「一緒に暮らす。僕も、カナトさんと一緒にいたい」
「ありがとう、レン」
「こちらこそ……ありがと」
「これから、もっと幸せにしてあげる」
「……もう十分幸せだよ」
「いや、まだ足りないかな」
カナトさんが優しく笑った。
ぎゅっと抱きしめられる。
この腕の中が、世界で一番安全だ。
――数日後。
また、あの男が現れるまでは。
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