【完結】悪役令息、運命を変えたら政略婚約のイケメン伯爵に溺愛されました

砂原紗藍

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7.悲劇の真実と、君の腕の中で

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「お前……何を考えてるんだ」

振り向くと、マキューシオが眉を寄せて立っていた。

「……何のことですか?」
「とぼけんなよ。今日も――前と同じで、必死にティボルトを止めようとしてただろ」

思わず息を呑んだ。

「お前が間に入らなきゃ、今日は血を見るところだった」
「だから何だというんですか」

冷静に返すと、マキューシオは苦笑しながら僕の肩を軽く叩いた。

「ふん。冷たい坊っちゃんだな。……まあいい。じゃあな」

彼が去った後、僕はその場にしばらく立ち尽くしていた。

その背中が人混みに消えていく。
僕はその場でしばらく動けずにいた。

マキューシオ。
君は、やっぱり人の心を見抜く目があるね。
そして何より、ロメオの幸せを支えられる人だ。

「頑張って。……幸せになってね」

誰にも聞こえない声で呟き、僕は静かに教室へ向かった。


――そして、その夜。

約束どおりパリス邸を訪れると、扉が開き、優しい声が迎えてくれた。

「いらっしゃい、ジュリオ君」
「お招きいただき、ありがとうございます」
「こちらこそ。さあ、こちらへ」

案内されたのは、邸の奥にある小さなダイニングルーム。
豪華すぎず、温かくてほっとする空間だった。

「今夜は、二人だけでゆっくり話したかったんだ」
「……はい」

食事が運ばれてくる。
一口食べてみると、すごく繊細な味付けだった。

……めちゃくちゃ美味しい。
前の人生じゃ絶対に味わえなかったやつだ。

「……美味しい」

パリスは嬉しそうに目を細めた。

「気に入ってもらえて嬉しいよ。君が喜んでくれるのが一番だからね」

しばらくの間、穏やかな会話が続いた。
だが、デザートが運ばれてきた頃――パリスが真剣な顔をした。

「ジュリオ君」
「はい?」
「今日、学園で何かあったと聞いたが」
「大したことでは……」
「隠さなくてもいいよ。僕にも情報網はある。君がティボルトを必死に止めたそうだね」

もうパリスの耳に入っていたとは……。

「ジュリオ。僕には、君はずっと何かを演じているように見える」

パリスは席を立ち、僕の隣に座った。

……近い。
すごく距離が近くて、ドキドキする。

「パリス様……」
「僕に、本当のことを話してくれないか?」

紫の瞳が、真っ直ぐに僕を見つめる。
この人なら……話してもいいのかもしれない。

「パリス様。もし、僕が……常識では考えられないことを言ったとしても、信じていただけますか?」
「もちろんだよ」

僕は深呼吸をした。
そして、決意する。

「実は……僕は、未来を知っています」
「未来?」
「はい。この世界は、ある物語に沿って進んでいます。そして、その物語の結末は……悲劇なんです」

パリスは驚いた顔をしたが、黙って聞いてくれた。

「ロメオと僕は、原作では恋に落ちます。でも、家同士の確執で引き裂かれ、皆も争いに巻き込まれ……最終的に二人とも死にます」
「そんな……」
「もう一つの“ゲーム”の未来では、僕は悪役として嫌われ、国外追放されて……孤独に死にます」

こみ上げる涙を、何とか必死にこらえる。

「だから決めたんです。僕は悪役を演じながら、みんなを救うって」
「ジュリオ君……」
「ロメオには、マキューシオと幸せになってほしい。ティボルト兄さんには、死んでほしくない。そして……」
「そして?」

パリスがそっと僕の言葉を待つ。

「……僕自身も、生きたいんです」

その言葉を口にした瞬間、涙がこぼれた。

「前の人生で、僕は過労で死にました」

自分でも驚くほど、声が震えていた。

「前の人生で……死んだのか……?」
「はい。誰のために生きたのかも分からないまま……気づいたら、終わっていて。だから今度こそ……」

言葉が途切れた瞬間、パリスの腕がそっと伸びてきて、僕を抱き寄せた。

「ジュリオ……」

胸に顔が押しつけられ、声が詰まる。

「すみません……。こんな、馬鹿なことを……」
「馬鹿なことなんかじゃないよ」

彼の声は優しかった。

「君は、誰よりも勇敢だ。ずっと、一人で戦ってきたんだろう? 未来を知っている恐怖も、悲劇を避けようとする焦りも、誰にも言えずに」
「でも……」
「信じるよ、ジュリオ。君の言葉ごと、まるごと」

その言葉が胸に染み込む。
転生してから張りつめていた何かが、一気に崩れ落ちた。

「ありがとうございます……パリス様……」
「パリスでいい」
「え……?」
「君に“様”なんて呼ばれたくない。距離を感じる」
「……パリス」

顔を上げると、パリスが微笑んでいた。

「君の優しい嘘に……僕は恋をしたんだよ、ジュリオ。誰にも渡したくないと思った」

そっと頬に触れる手が優しい。

「君が望む未来に、僕も関わらせてほしい。君が救おうとしている世界を、僕も一緒に支えたいんだ」
「パリス……」
「君のすべてを、僕が守る。どんな未来でも、僕は君の隣にいる」

堪えきれなくて、僕は彼の胸に顔を埋めた。

その夜、初めて本当の意味で――僕は救われた気がした。



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