1 / 23
プロローグ
一夜のトラブルは運命の始まり
しおりを挟む
帰り道。
夜風は冷たいのに、背中だけがじっとり汗ばんで、気持ち悪い。
俺は瀬戸京介、29歳。
業界最大手レコード会社「ステラ」の専務だ。
音楽で世界を変えたい――そんな夢を抱えて音大に入り、バンドも組んでいた。
毎日が楽しくて、音楽に夢中だった。
でも卒業後、父に呼ばれてこう言われた。
「お前は瀬戸家の長男だ。ステラを継ぐ責任がある」
拒否権なし。言われるまま、ステラに入社。
結局、夢は諦めた。
それから10年。なんとか専務にまで上り詰めたけど、心のどこかにぽっかり穴が空いたままだ。
来週月曜には、日本最大級の音楽フェス「SONIC WAVE-ソニックウェーブ-」の独占配信権を巡るプレゼンが待っている。
動員数10万人、経済効果100億円。
各社が虎視眈々と狙っている中で、どう戦うか――考えるだけで頭が重い。
……でも、今日の悩みはそれじゃない。
一週間前、職場の部下・中川に告白されたんだ。
相手は男性で、あまりに真剣すぎて返事は保留。
そして今日、その中川と二人で飲みに行った。
あわやホテルに誘われそうになって、ギリギリで断ったけど、周りの視線や妙な期待に疲れ切って、正直頭の中はぐちゃぐちゃだった。
なんでかわからないけど、俺は昔から妙に男にモテる。
ノンケだって言っても、なかなか信じてもらえない。
別に女性にモテたいわけじゃない。
でも、男にばっかり寄ってこられるのは、正直ちょっと面倒くさい。
――そんなことを考えながら繁華街を歩いていたら、腕をぐっと掴まれた。
「お兄さん、綺麗な顔してるじゃん。ちょっと飲みに行こうよ、ね?」
若い男が二人、距離を詰めてくる。
もちろん知り合いなんかじゃない。
酔っているのか、目が据わっていて怖い。
「いや、帰ります」
「いいじゃん。マジで可愛いな」
は? 可愛いってなんだよ、可愛いって。
「俺、29だけど」
「へぇ、29? 見えねぇ。お兄さんなら全然あり。抱けるわ」
まさかの返答に絶句した瞬間、もう一人の声が被さる。
「俺もいける。なぁ、俺達と遊ばね?」
「あの! やめてください!」
力の差がありすぎて振り払えない。
やばい――。
そう思ったその瞬間、スッと現れたのが一人の男だった。
「何してんの」
長身、黒髪、端正な顔立ちのイケメン。
そいつが俺の腕を掴み、自分の側に引き寄せた。
「悪い。この人、俺の連れなんだけど。離してくんない?」
低く、落ち着いた声。
……マジでかっこいい。テレビに出てる俳優みたいだ。
「誰だよ、テメェ」
「彼氏って言ったら、帰してくれる?」
冗談っぽく言っているのに、目は笑っていない。
その圧に押され、男たちは舌打ちひとつで去っていった。
助かった……。
「あ、ありがとな。ただ、彼氏ってさ……」
「咄嗟だから許して? でも怪我がなくてよかった」
イケメンはふっと笑う。
……幸いこの人に助けられたわけだけど、結局また男絡みかよ、俺。
そう思うと、軽くため息が漏れた。
「なぁ、もしかして何か悩んでる?」
「え……?」
「よかったら、話聞くよ?」
「いや、別に……」
「そっか。ちょっと気になっただけ。余計なお世話だったらごめん」
街灯の明かりの下、俺の顔を覗き込むイケメン。
「でも、なんか浮かない顔してるじゃん」
「あんたには関係ないだろ」
「たしかに関係ないかも。でも君には、そんな顔してほしくないな」
「……何言ってんだよ、キザか」
握った手は離してくれない。
その手の温度に、胸がどきっと跳ねた。
彼は少し間を置いて、口を開いた。
「じゃあ、俺の話、聞いてくれない?」
「まあ……別にいいけど」
「あのさ……恋人と別れたの、今日」
「え、別れた?」
「うん。今日俺の誕生日でさ、恋人と会ってご飯食べる予定だったんだけど……別れた」
「……そっか」
「他に“好きな人”ができたんだって」
――へえ、このイケメン、今日誕生日なのに恋人に振られたのか。
それなのに、見知らぬ俺を助けて、悩んでるか聞いてくるなんて……変わった人だよな。
「君、名前は?」
「はぁ?」
「俺の誕生日に出会ったんだし、記念に名前くらい教えて?」
「いや、何言ってんだよ、あんた」
彼はふっと笑った。
「俺は慧。君は?」
ため息をひとつ吐いて、俺は答える。
「……瀬戸」
「下の名前は?」
「……京介。瀬戸京介」
「じゃあ、京介って呼ぶよ」
名前を呼ばれただけで、胸が少しドキンと跳ねた。
――なんだこれ、俺、なんでこんなに動揺してるんだろ。
「で、君の方は? 何に悩んでるの?」
「え……いや、俺はその……」
「仕事のこと?」
「いや……」
「じゃあ、恋愛関係かな」
図星。しばらく沈黙が続いた。
じっと見つめられて、逃げられそうにない。
「あのさ……」
「ん?」
「職場の部下から告白されてさ」
「へぇ……うん?」
「……相手は男で」
「男?」
慧は少し目を見開いた。
まあ普通はそういう反応になるだろうな。
でも思ったより驚いてないのかもしれない。
「……京介も、そっちなの?」
「いや、俺はノーマル。でも相手は本気で……」
「付き合ったの?」
「だから迷ってるんだよ」
「……そっか」
一瞬、空気が静まる。
「さっき、その部下と飲んでさ……その流れでホテルに誘われて」
「え……行ったの?」
「違ぇよ。断って、逃げてきたんだよ」
思わず食い気味に言うと、慧はふっと小さく笑った。
俺からすれば、まったく笑い事じゃない。
「付き合うにしても男同士だし……正直、不安でさ。どうしたらいいのか分かんなくて」
「うん……わかるよ」
「……こんな話して悪いな」
「いや。聞くって言ったの、俺だから」
低くて穏やかな声。
なんで会ったばかりの相手に、こんなに心を開けるんだろう。
「……寒いし、そろそろ帰るわ」
「なぁ、よかったら――俺んち来ない?」
「……は?」
「うちで飲もうよ。京介の話、もう少し聞きたいし……恋人に振られたばっかで、正直寂しくてさ」
少し冗談めかした言い方だけど、目は真剣だ。
「……慧がいいなら、行く」
「じゃあ決まり」
慧が嬉しそうに笑った。
イケメンの笑顔の破壊力、やばい。
「今日、京介に会えたのさ。結構嬉しい誕生日プレゼントだと思ってる」
そう言って、彼は俺の手首をそっと掴んだ。
これは、ただの親切なんだよな。
そう自分に言い聞かせながら、俺はその手を振り払えずにいた。
夜風は冷たいのに、背中だけがじっとり汗ばんで、気持ち悪い。
俺は瀬戸京介、29歳。
業界最大手レコード会社「ステラ」の専務だ。
音楽で世界を変えたい――そんな夢を抱えて音大に入り、バンドも組んでいた。
毎日が楽しくて、音楽に夢中だった。
でも卒業後、父に呼ばれてこう言われた。
「お前は瀬戸家の長男だ。ステラを継ぐ責任がある」
拒否権なし。言われるまま、ステラに入社。
結局、夢は諦めた。
それから10年。なんとか専務にまで上り詰めたけど、心のどこかにぽっかり穴が空いたままだ。
来週月曜には、日本最大級の音楽フェス「SONIC WAVE-ソニックウェーブ-」の独占配信権を巡るプレゼンが待っている。
動員数10万人、経済効果100億円。
各社が虎視眈々と狙っている中で、どう戦うか――考えるだけで頭が重い。
……でも、今日の悩みはそれじゃない。
一週間前、職場の部下・中川に告白されたんだ。
相手は男性で、あまりに真剣すぎて返事は保留。
そして今日、その中川と二人で飲みに行った。
あわやホテルに誘われそうになって、ギリギリで断ったけど、周りの視線や妙な期待に疲れ切って、正直頭の中はぐちゃぐちゃだった。
なんでかわからないけど、俺は昔から妙に男にモテる。
ノンケだって言っても、なかなか信じてもらえない。
別に女性にモテたいわけじゃない。
でも、男にばっかり寄ってこられるのは、正直ちょっと面倒くさい。
――そんなことを考えながら繁華街を歩いていたら、腕をぐっと掴まれた。
「お兄さん、綺麗な顔してるじゃん。ちょっと飲みに行こうよ、ね?」
若い男が二人、距離を詰めてくる。
もちろん知り合いなんかじゃない。
酔っているのか、目が据わっていて怖い。
「いや、帰ります」
「いいじゃん。マジで可愛いな」
は? 可愛いってなんだよ、可愛いって。
「俺、29だけど」
「へぇ、29? 見えねぇ。お兄さんなら全然あり。抱けるわ」
まさかの返答に絶句した瞬間、もう一人の声が被さる。
「俺もいける。なぁ、俺達と遊ばね?」
「あの! やめてください!」
力の差がありすぎて振り払えない。
やばい――。
そう思ったその瞬間、スッと現れたのが一人の男だった。
「何してんの」
長身、黒髪、端正な顔立ちのイケメン。
そいつが俺の腕を掴み、自分の側に引き寄せた。
「悪い。この人、俺の連れなんだけど。離してくんない?」
低く、落ち着いた声。
……マジでかっこいい。テレビに出てる俳優みたいだ。
「誰だよ、テメェ」
「彼氏って言ったら、帰してくれる?」
冗談っぽく言っているのに、目は笑っていない。
その圧に押され、男たちは舌打ちひとつで去っていった。
助かった……。
「あ、ありがとな。ただ、彼氏ってさ……」
「咄嗟だから許して? でも怪我がなくてよかった」
イケメンはふっと笑う。
……幸いこの人に助けられたわけだけど、結局また男絡みかよ、俺。
そう思うと、軽くため息が漏れた。
「なぁ、もしかして何か悩んでる?」
「え……?」
「よかったら、話聞くよ?」
「いや、別に……」
「そっか。ちょっと気になっただけ。余計なお世話だったらごめん」
街灯の明かりの下、俺の顔を覗き込むイケメン。
「でも、なんか浮かない顔してるじゃん」
「あんたには関係ないだろ」
「たしかに関係ないかも。でも君には、そんな顔してほしくないな」
「……何言ってんだよ、キザか」
握った手は離してくれない。
その手の温度に、胸がどきっと跳ねた。
彼は少し間を置いて、口を開いた。
「じゃあ、俺の話、聞いてくれない?」
「まあ……別にいいけど」
「あのさ……恋人と別れたの、今日」
「え、別れた?」
「うん。今日俺の誕生日でさ、恋人と会ってご飯食べる予定だったんだけど……別れた」
「……そっか」
「他に“好きな人”ができたんだって」
――へえ、このイケメン、今日誕生日なのに恋人に振られたのか。
それなのに、見知らぬ俺を助けて、悩んでるか聞いてくるなんて……変わった人だよな。
「君、名前は?」
「はぁ?」
「俺の誕生日に出会ったんだし、記念に名前くらい教えて?」
「いや、何言ってんだよ、あんた」
彼はふっと笑った。
「俺は慧。君は?」
ため息をひとつ吐いて、俺は答える。
「……瀬戸」
「下の名前は?」
「……京介。瀬戸京介」
「じゃあ、京介って呼ぶよ」
名前を呼ばれただけで、胸が少しドキンと跳ねた。
――なんだこれ、俺、なんでこんなに動揺してるんだろ。
「で、君の方は? 何に悩んでるの?」
「え……いや、俺はその……」
「仕事のこと?」
「いや……」
「じゃあ、恋愛関係かな」
図星。しばらく沈黙が続いた。
じっと見つめられて、逃げられそうにない。
「あのさ……」
「ん?」
「職場の部下から告白されてさ」
「へぇ……うん?」
「……相手は男で」
「男?」
慧は少し目を見開いた。
まあ普通はそういう反応になるだろうな。
でも思ったより驚いてないのかもしれない。
「……京介も、そっちなの?」
「いや、俺はノーマル。でも相手は本気で……」
「付き合ったの?」
「だから迷ってるんだよ」
「……そっか」
一瞬、空気が静まる。
「さっき、その部下と飲んでさ……その流れでホテルに誘われて」
「え……行ったの?」
「違ぇよ。断って、逃げてきたんだよ」
思わず食い気味に言うと、慧はふっと小さく笑った。
俺からすれば、まったく笑い事じゃない。
「付き合うにしても男同士だし……正直、不安でさ。どうしたらいいのか分かんなくて」
「うん……わかるよ」
「……こんな話して悪いな」
「いや。聞くって言ったの、俺だから」
低くて穏やかな声。
なんで会ったばかりの相手に、こんなに心を開けるんだろう。
「……寒いし、そろそろ帰るわ」
「なぁ、よかったら――俺んち来ない?」
「……は?」
「うちで飲もうよ。京介の話、もう少し聞きたいし……恋人に振られたばっかで、正直寂しくてさ」
少し冗談めかした言い方だけど、目は真剣だ。
「……慧がいいなら、行く」
「じゃあ決まり」
慧が嬉しそうに笑った。
イケメンの笑顔の破壊力、やばい。
「今日、京介に会えたのさ。結構嬉しい誕生日プレゼントだと思ってる」
そう言って、彼は俺の手首をそっと掴んだ。
これは、ただの親切なんだよな。
そう自分に言い聞かせながら、俺はその手を振り払えずにいた。
60
あなたにおすすめの小説
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています
大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。
冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。
※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ワンナイトした男がハイスペ弁護士だったので付き合ってみることにした
おもちDX
BL
弁護士なのに未成年とシちゃった……!?と焦りつつ好きになったので突き進む攻めと、嘘をついて付き合ってみたら本気になっちゃってこじれる受けのお話。
初めてワンナイトした相手に即落ちした純情男 × 誰とも深い関係にならない遊び人の大学生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる