【完結】ノンケだった俺が、敵対企業の年下イケメンCEOに堕とされました

砂原紗藍

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プロローグ

一夜のトラブルは運命の始まり

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帰り道。
夜風は冷たいのに、背中だけがじっとり汗ばんで、気持ち悪い。

俺は瀬戸京介、29歳。
業界最大手レコード会社「ステラ」の専務だ。

音楽で世界を変えたい――そんな夢を抱えて音大に入り、バンドも組んでいた。
毎日が楽しくて、音楽に夢中だった。

でも卒業後、父に呼ばれてこう言われた。

「お前は瀬戸家の長男だ。ステラを継ぐ責任がある」

拒否権なし。言われるまま、ステラに入社。
結局、夢は諦めた。

それから10年。なんとか専務にまで上り詰めたけど、心のどこかにぽっかり穴が空いたままだ。

来週月曜には、日本最大級の音楽フェス「SONIC WAVE-ソニックウェーブ-」の独占配信権を巡るプレゼンが待っている。

動員数10万人、経済効果100億円。
各社が虎視眈々と狙っている中で、どう戦うか――考えるだけで頭が重い。

……でも、今日の悩みはそれじゃない。

一週間前、職場の部下・中川に告白されたんだ。
相手は男性で、あまりに真剣すぎて返事は保留。

そして今日、その中川と二人で飲みに行った。
あわやホテルに誘われそうになって、ギリギリで断ったけど、周りの視線や妙な期待に疲れ切って、正直頭の中はぐちゃぐちゃだった。

なんでかわからないけど、俺は昔から妙に男にモテる。
ノンケだって言っても、なかなか信じてもらえない。

別に女性にモテたいわけじゃない。
でも、男にばっかり寄ってこられるのは、正直ちょっと面倒くさい。

――そんなことを考えながら繁華街を歩いていたら、腕をぐっと掴まれた。

「お兄さん、綺麗な顔してるじゃん。ちょっと飲みに行こうよ、ね?」

若い男が二人、距離を詰めてくる。
もちろん知り合いなんかじゃない。
酔っているのか、目が据わっていて怖い。

「いや、帰ります」
「いいじゃん。マジで可愛いな」

は? 可愛いってなんだよ、可愛いって。

「俺、29だけど」
「へぇ、29? 見えねぇ。お兄さんなら全然あり。抱けるわ」

まさかの返答に絶句した瞬間、もう一人の声が被さる。

「俺もいける。なぁ、俺達と遊ばね?」
「あの! やめてください!」

力の差がありすぎて振り払えない。

やばい――。

そう思ったその瞬間、スッと現れたのが一人の男だった。

「何してんの」

長身、黒髪、端正な顔立ちのイケメン。
そいつが俺の腕を掴み、自分の側に引き寄せた。

「悪い。この人、俺の連れなんだけど。離してくんない?」

低く、落ち着いた声。
……マジでかっこいい。テレビに出てる俳優みたいだ。

「誰だよ、テメェ」
「彼氏って言ったら、帰してくれる?」

冗談っぽく言っているのに、目は笑っていない。
その圧に押され、男たちは舌打ちひとつで去っていった。

助かった……。

「あ、ありがとな。ただ、彼氏ってさ……」
「咄嗟だから許して? でも怪我がなくてよかった」

イケメンはふっと笑う。
……幸いこの人に助けられたわけだけど、結局また男絡みかよ、俺。

そう思うと、軽くため息が漏れた。

「なぁ、もしかして何か悩んでる?」
「え……?」
「よかったら、話聞くよ?」
「いや、別に……」
「そっか。ちょっと気になっただけ。余計なお世話だったらごめん」

街灯の明かりの下、俺の顔を覗き込むイケメン。

「でも、なんか浮かない顔してるじゃん」
「あんたには関係ないだろ」
「たしかに関係ないかも。でも君には、そんな顔してほしくないな」
「……何言ってんだよ、キザか」

握った手は離してくれない。
その手の温度に、胸がどきっと跳ねた。
彼は少し間を置いて、口を開いた。

「じゃあ、俺の話、聞いてくれない?」
「まあ……別にいいけど」
「あのさ……恋人と別れたの、今日」
「え、別れた?」
「うん。今日俺の誕生日でさ、恋人と会ってご飯食べる予定だったんだけど……別れた」
「……そっか」
「他に“好きな人”ができたんだって」

――へえ、このイケメン、今日誕生日なのに恋人に振られたのか。

それなのに、見知らぬ俺を助けて、悩んでるか聞いてくるなんて……変わった人だよな。

「君、名前は?」
「はぁ?」
「俺の誕生日に出会ったんだし、記念に名前くらい教えて?」
「いや、何言ってんだよ、あんた」

彼はふっと笑った。

「俺は慧。君は?」

ため息をひとつ吐いて、俺は答える。

「……瀬戸」
「下の名前は?」
「……京介。瀬戸京介」
「じゃあ、京介って呼ぶよ」

名前を呼ばれただけで、胸が少しドキンと跳ねた。

――なんだこれ、俺、なんでこんなに動揺してるんだろ。

「で、君の方は? 何に悩んでるの?」
「え……いや、俺はその……」
「仕事のこと?」
「いや……」
「じゃあ、恋愛関係かな」

図星。しばらく沈黙が続いた。
じっと見つめられて、逃げられそうにない。

「あのさ……」
「ん?」
「職場の部下から告白されてさ」
「へぇ……うん?」
「……相手は男で」
「男?」

慧は少し目を見開いた。
まあ普通はそういう反応になるだろうな。
でも思ったより驚いてないのかもしれない。

「……京介も、そっちなの?」
「いや、俺はノーマル。でも相手は本気で……」
「付き合ったの?」
「だから迷ってるんだよ」
「……そっか」

一瞬、空気が静まる。

「さっき、その部下と飲んでさ……その流れでホテルに誘われて」
「え……行ったの?」
「違ぇよ。断って、逃げてきたんだよ」

思わず食い気味に言うと、慧はふっと小さく笑った。
俺からすれば、まったく笑い事じゃない。

「付き合うにしても男同士だし……正直、不安でさ。どうしたらいいのか分かんなくて」
「うん……わかるよ」
「……こんな話して悪いな」
「いや。聞くって言ったの、俺だから」

低くて穏やかな声。
なんで会ったばかりの相手に、こんなに心を開けるんだろう。

「……寒いし、そろそろ帰るわ」
「なぁ、よかったら――俺んち来ない?」
「……は?」
「うちで飲もうよ。京介の話、もう少し聞きたいし……恋人に振られたばっかで、正直寂しくてさ」

少し冗談めかした言い方だけど、目は真剣だ。

「……慧がいいなら、行く」
「じゃあ決まり」

慧が嬉しそうに笑った。
イケメンの笑顔の破壊力、やばい。

「今日、京介に会えたのさ。結構嬉しい誕生日プレゼントだと思ってる」

そう言って、彼は俺の手首をそっと掴んだ。

これは、ただの親切なんだよな。

そう自分に言い聞かせながら、俺はその手を振り払えずにいた。

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