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【最終章】選ばれる未来、選ぶ覚悟
3.世界が敵でも、君がいれば
その夜、俺は慧のマンションにいた。
リビングのソファに並んで座る。
慧が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「京介……大丈夫?」
「……ああ。なんとか」
正直、まだ実感が湧かない。
今日一日で、何度電話がかかってきたことか。
「業界紙の記事、見た。ごめん、俺のせいだね」
「慧のせいじゃない」
俺は首を振った。
俺自身も、抱き合った段階で隠すつもりは失せてたから。
「後悔してない。むしろ、スッキリした」
「京介……」
「もう隠さなくていいな。堂々と慧の恋人でいられる」
「……ありがとう」
固まった俺を蕩かすように、ゆっくりと唇が降りてきた。
「でも、これから大変だと思う」
慧が真剣な顔で続けた。
「業界からの反発もある。取引先との関係も、社内の空気も……きっと、全部変わる」
一つひとつ噛みしめるように告げられて、俺は小さく息を吐いた。
「……ああ」
覚悟はしていた。
けれど、改めて言葉にされると、その重さが胸に沈む。
「だから、俺がちゃんと支える。京介を守る。一緒に乗り越えよう。何があっても、俺は京介の味方だから」
その声音に、揺らぎはなかった。
度量の大きさが見えるっていうか、悔しいけど、さすがだと思う。
「……頼りにしてる」
そう言うと、慧がふっと表情を緩めた。
*
それから数日――本当に、大変だった。
まず最初に動いたのは、主要アーティストの一組だった。
「ステラの体制に、疑問を感じます」
そして、所属15年のベテラン歌手が契約更新を拒否すると通告してきた。
「瀬戸専務が、経営判断を私情で歪めるのではないかと……不安なんです」
丁寧な言葉だったが、内容は厳しかった。
僅かな期間に、そんな思惑や利害、金の話も垣間見えて。
今さらながらに『手のひら返しはきついな』と思ってしまった。
業界の懇親会でも空気が変わった。
「瀬戸専務」
顔見知りのプロデューサーが近づいてきたが、その表情は硬い。
「ビジネスの話は、また今度ということで」
それだけ言い残し、足早に去っていく。
露骨すぎるほどの距離の取り方だった。
「瀬戸専務とは、仕事をしたくないんですよ」
別のディレクターにもはっきりそう言われた。
……はあ。
胸の奥で、何かが静かに沈んでいく。
覚悟はしていたはずなのに、現実は想像以上だった。
こんなにも、あっさり孤立するものなのか。
苦笑しそうになって、視線を落とす。
ほんの一瞬、感傷に浸りかけた、まさにその時だった。
「京介」
――心臓が、跳ねた。
聞き間違えるはずがない。
世界で一番、俺の奥に届く声。
顔を上げると、やっぱりそこに立っていたのは、慧だった。
「慧……」
「迎えに来たよ」
慧は当たり前みたいにそう言って、俺の手を包んだ。
「ほら、一緒に帰ろう。今日はもう十分頑張った」
そのぬくもりに、沈みかけていたものが静かに引き上げられていく。
……救われる。
慧の手を、俺はぎゅっと握り返した。
世界中が敵に見えても、少なくとも、ここに一人味方がいる。
でも――
全てが敵、というわけじゃなかった。
懇親会の出口に向かう途中、一人の若手プロデューサーが、周囲を気にしながら近づいてきた。
「……瀬戸専務、名波社長」
声は小さく、ほとんど囁くように。
思わず足を止める。
「俺も、業界を変えたいと思ってるんです。瀬戸専務や名波社長みたいな人が前に立ってくれると……正直、勇気が出ます。俺は、お二人を応援します」
こんな言葉を貰えたのは慧と一緒にいるからだということに気づいて、なんだか照れくさくなった。
「ありがとう……」
そのまま会場を抜け出したところで、慧が口を開いた。
「今日はお疲れ様。京介、ずっと無理してたよね」
「……いや、大丈夫」
「大丈夫じゃないでしょ。顔に出てる」
慧が俺の頬に手を添えた。
無意識のうちに張り巡らせていたバリアが消えていく。
「俺が何とかする。京介は、自分の仕事に集中して」
「何とかするって……」
「ECHOとステラの共同案件、いくつか動かしてる。それが形になれば、業界の見方も変わる」
慧の両腕が俺に向かってのびてきた。
力強く抱きしめられる。
やばい。本当に息ができなくなりそう。
「京介のために、結果を出す。俺にできることは、それだから」
「……ありがとう」
「お礼なんていらない。俺たち、恋人でしょ?」
「ああ」
「京介、大好きだよ。愛してる」
それは頭の奥まで麻痺させる、世界で一番甘い言葉だった。
*
翌週。慧から連絡が入った。
「京介、時間ある? いい知らせがあるんだ」
慧のオフィスに行くと、資料が並べられていた。
「見て。新規契約、3件取れたよ」
「3件?」
「全部、ステラとECHOの共同案件。俺が直接交渉してまとめた。これを業界に示すんだ。俺たちが組めば、こんなに結果が出るって」
資料を見ると、どれも大型案件だった。
「すごいな……」
「京介が頑張ってるから、俺も頑張れる」
「ありがとう、慧……」
それが限界だった。
堰を切った涙は止まるところを知らず、俺は肩をふるわせて泣いた。
――その夜。
スマホを開くと、SNSにも少しずつ声が増えていた。
『恋愛は自由だろ。仕事で結果出してるんだから問題ないじゃん』
『むしろ、業界を変えようとしてるのがすごい』
『ステラの株、買おうかな。応援の意味も込めて』
数は多くないが、確実に味方がいる。
そう思えた瞬間、胸の奥に残っていた不安がほんの少しだけ軽くなった。
リビングのソファに並んで座る。
慧が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「京介……大丈夫?」
「……ああ。なんとか」
正直、まだ実感が湧かない。
今日一日で、何度電話がかかってきたことか。
「業界紙の記事、見た。ごめん、俺のせいだね」
「慧のせいじゃない」
俺は首を振った。
俺自身も、抱き合った段階で隠すつもりは失せてたから。
「後悔してない。むしろ、スッキリした」
「京介……」
「もう隠さなくていいな。堂々と慧の恋人でいられる」
「……ありがとう」
固まった俺を蕩かすように、ゆっくりと唇が降りてきた。
「でも、これから大変だと思う」
慧が真剣な顔で続けた。
「業界からの反発もある。取引先との関係も、社内の空気も……きっと、全部変わる」
一つひとつ噛みしめるように告げられて、俺は小さく息を吐いた。
「……ああ」
覚悟はしていた。
けれど、改めて言葉にされると、その重さが胸に沈む。
「だから、俺がちゃんと支える。京介を守る。一緒に乗り越えよう。何があっても、俺は京介の味方だから」
その声音に、揺らぎはなかった。
度量の大きさが見えるっていうか、悔しいけど、さすがだと思う。
「……頼りにしてる」
そう言うと、慧がふっと表情を緩めた。
*
それから数日――本当に、大変だった。
まず最初に動いたのは、主要アーティストの一組だった。
「ステラの体制に、疑問を感じます」
そして、所属15年のベテラン歌手が契約更新を拒否すると通告してきた。
「瀬戸専務が、経営判断を私情で歪めるのではないかと……不安なんです」
丁寧な言葉だったが、内容は厳しかった。
僅かな期間に、そんな思惑や利害、金の話も垣間見えて。
今さらながらに『手のひら返しはきついな』と思ってしまった。
業界の懇親会でも空気が変わった。
「瀬戸専務」
顔見知りのプロデューサーが近づいてきたが、その表情は硬い。
「ビジネスの話は、また今度ということで」
それだけ言い残し、足早に去っていく。
露骨すぎるほどの距離の取り方だった。
「瀬戸専務とは、仕事をしたくないんですよ」
別のディレクターにもはっきりそう言われた。
……はあ。
胸の奥で、何かが静かに沈んでいく。
覚悟はしていたはずなのに、現実は想像以上だった。
こんなにも、あっさり孤立するものなのか。
苦笑しそうになって、視線を落とす。
ほんの一瞬、感傷に浸りかけた、まさにその時だった。
「京介」
――心臓が、跳ねた。
聞き間違えるはずがない。
世界で一番、俺の奥に届く声。
顔を上げると、やっぱりそこに立っていたのは、慧だった。
「慧……」
「迎えに来たよ」
慧は当たり前みたいにそう言って、俺の手を包んだ。
「ほら、一緒に帰ろう。今日はもう十分頑張った」
そのぬくもりに、沈みかけていたものが静かに引き上げられていく。
……救われる。
慧の手を、俺はぎゅっと握り返した。
世界中が敵に見えても、少なくとも、ここに一人味方がいる。
でも――
全てが敵、というわけじゃなかった。
懇親会の出口に向かう途中、一人の若手プロデューサーが、周囲を気にしながら近づいてきた。
「……瀬戸専務、名波社長」
声は小さく、ほとんど囁くように。
思わず足を止める。
「俺も、業界を変えたいと思ってるんです。瀬戸専務や名波社長みたいな人が前に立ってくれると……正直、勇気が出ます。俺は、お二人を応援します」
こんな言葉を貰えたのは慧と一緒にいるからだということに気づいて、なんだか照れくさくなった。
「ありがとう……」
そのまま会場を抜け出したところで、慧が口を開いた。
「今日はお疲れ様。京介、ずっと無理してたよね」
「……いや、大丈夫」
「大丈夫じゃないでしょ。顔に出てる」
慧が俺の頬に手を添えた。
無意識のうちに張り巡らせていたバリアが消えていく。
「俺が何とかする。京介は、自分の仕事に集中して」
「何とかするって……」
「ECHOとステラの共同案件、いくつか動かしてる。それが形になれば、業界の見方も変わる」
慧の両腕が俺に向かってのびてきた。
力強く抱きしめられる。
やばい。本当に息ができなくなりそう。
「京介のために、結果を出す。俺にできることは、それだから」
「……ありがとう」
「お礼なんていらない。俺たち、恋人でしょ?」
「ああ」
「京介、大好きだよ。愛してる」
それは頭の奥まで麻痺させる、世界で一番甘い言葉だった。
*
翌週。慧から連絡が入った。
「京介、時間ある? いい知らせがあるんだ」
慧のオフィスに行くと、資料が並べられていた。
「見て。新規契約、3件取れたよ」
「3件?」
「全部、ステラとECHOの共同案件。俺が直接交渉してまとめた。これを業界に示すんだ。俺たちが組めば、こんなに結果が出るって」
資料を見ると、どれも大型案件だった。
「すごいな……」
「京介が頑張ってるから、俺も頑張れる」
「ありがとう、慧……」
それが限界だった。
堰を切った涙は止まるところを知らず、俺は肩をふるわせて泣いた。
――その夜。
スマホを開くと、SNSにも少しずつ声が増えていた。
『恋愛は自由だろ。仕事で結果出してるんだから問題ないじゃん』
『むしろ、業界を変えようとしてるのがすごい』
『ステラの株、買おうかな。応援の意味も込めて』
数は多くないが、確実に味方がいる。
そう思えた瞬間、胸の奥に残っていた不安がほんの少しだけ軽くなった。
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