【完結】俺の教育係は、甘くて意地悪なエリート【α】――未熟御曹司【Ω】の恋レッスン

砂原紗藍

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【第三章】本能と理性の狭間

2.理性ごと、引き寄せられていく

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side 朝比奈 律

その日は、朝から身体の調子がおかしかった。

部屋の空気が、いつもより重く感じた。
喉の奥が熱くて、呼吸するたびに胸が苦しい。
寒くもないのに、震えが止まらない。

「……っ、……」

――ヒートだ。
前回よりも、症状が重い。

抑制剤は飲んだのに効かない。
身体が、熱い。頭がぼんやりする。

「……っ」

冬馬の匂いが欲しい。
冬馬に、触れたい。
理性が、どんどん溶けていく。

「……冬馬」

冬馬が貸してくれたジャケット。
αの……冬馬の香り。

身体の熱をジャケットに押し付ける。
直接ではないけれど、布越しのαの香りが呼吸を整えてくれる。
それだけで少し落ち着くのが、腹立たしい。

でも、身体の火照りは治まらない。

「……暑い」

着ている服が、肌に張り付いて不快だ。
服を脱ぐと肌に触れる空気が少し冷たくて、でも熱はすぐに戻ってくる。
ベッドに倒れ込んで、冬馬のジャケットを抱きしめる。

「……冬馬」

冬馬の香り。
安心する。でも、もっと欲しい。
本物の、冬馬が欲しい。

冬馬がそばにいたときの方が……呼吸が、楽だった。

目を閉じると、冬馬の声が浮かぶ。

“律、大丈夫か?”

思い出しただけで、胸が跳ねる。
ヒートだからだ……そう言い聞かせる。

それでも――

「……冬馬……」

掠れた声で名前を呼ぶ。

「……たすけて」

身体は正直だ。
熱くて、苦しくて。

コンコン。

「律」

冬馬の声。 

「あ……」

返事をしようとするけど、声が出ない。
掠れた声で名前を呼ぼうとする。
ドアが開いた。

「……律」

冬馬の視線が、俺を捉える。
毛布とクッションに埋まり、冬馬のジャケットを抱きしめている、裸の俺。

冬馬がベッドの横にしゃがむ。
その匂いに包まれた瞬間、頭の奥まで痺れた。

「冬馬の……これ」

抱きしめているジャケットを見せる。

「俺の匂い、落ち着くか?」
「……うん」

正直に答えると、冬馬の表情が複雑に歪んだ。

触れたい。
でも、触れたら戻れなくなる。
それをわかっていながら、手が勝手に動いていた。

「冬馬……」

腕を伸ばした。
触れた指先から、彼の体温が伝わる。

俺の髪を撫でる冬馬の手が、少し震えている。

「冬馬……」
「ん」
「……熱い」

冬馬が、俺の額に手を当てる。

「熱いな」

心配そうな顔。でも、その瞳の奥に、何か別の色が混ざっている。

「律」
「……なに」
「……俺が、そばにいた方がいいか?」

冬馬の声が、少し掠れている。

「……いて、ほしい」

小さく答えると、冬馬が苦しそうに目を閉じた。

「……わかった。でも、律」
「ん……」
「俺も……αだから」

冬馬が何を言おうとしているのか、わかる。
でも、もう頭が働かない。

「……しってる」

そう言って、冬馬のシャツを強く掴んだ。
冬馬が、ベッドに上がってくる。
苦しそうに息を吐く俺を、冬馬は抱き寄せた。

「……っ」

冬馬の体温。香り。鼓動。
全部が、俺を包み込む。

肌と肌のあいだの距離がなくなり、熱が混ざった。
たったそれだけで、心臓が悲鳴を上げた。

「っ……律」

冬馬の声が震えている。

優しく背中を撫でられると、少し落ち着いた。
でも、身体の火照りは治まらない。
むしろ――冬馬の全てが、俺のΩをもっと刺激する。

「冬馬……」

上目遣いに見つめると、冬馬が息を呑んだ。

「だめだ、律。そんな顔すんな……」

かすれた声。
普段の冬馬なら絶対見せない、危うい色が混じっている。

「……本気で我慢、きかなくなる」

胸がきゅっと熱くなり、思わず指先が冬馬の服をつまんだ。

「……冬馬」

呼ぶだけで、冬馬の喉がまた鳴る。

「……触って」

そう言った瞬間、冬馬の瞳が大きく揺れた。


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