【完結】俺の教育係は、甘くて意地悪なエリート【α】――未熟御曹司【Ω】の恋レッスン

砂原紗藍

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【第二章】距離が縮まる日々

4.信頼と欲望の間で

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食卓には、彩り豊かな洋食が並んでいた。
ソテーの香り、焼きたてのパンの香ばしさ。

律は黙って席につき、ナイフとフォークを手に取る。
俺は何も言わずに律の動きを見守った。

――お、ちゃんと覚えてる。

律は先ほど教えた通りにナイフを持ち、フォークで食べ物を切る。
背筋も自然に伸びていて、手元の動きも滑らか。口元に運ぶ仕草も完璧だ。

「……律、いい感じだ」

軽く声をかけると、律はちらっとこちらを見ただけで、すぐ視線を逸らした。

――可愛い。ほんとに。

言葉にはしないが、律の成長も、その奥にある信頼も、全部が愛しくてたまらない。

食事が終わり、律が最後の一口を静かに口へ運ぶのを見届けてから、俺は立ち上がる。

「よし、片付けて部屋に戻ろうか」

律は黙ってうなずく。
動作ひとつひとつに、俺への信頼がにじんでいるようだった。

二人でリビングを出て、自室へ戻る。
ひと息つこうと椅子に腰掛けた、その瞬間だった。
ノックもなく、勢いよくドアが開く。

「冬馬」

誠だ。

「なんだよ」
「お前ら、もう付き合ってんじゃねぇの?」
「……は?」

思わず椅子からずり落ちそうになる。

「だってさ、お前ら距離感おかしいだろ。今日のマナー指導、俺見てたぞ?」
「そんなことない」
「嘘つけ。律のこと見る目、完全に“惚れてる男”の目だったからな」
「……そんな目してねえよ」
「してるって」

軽口なのに、誠の目だけは妙に鋭い。

「律もさ、お前のこと好きだと思うけどな」

その一言に、喉が詰まる。

律の体温。
そばにいたときに、ふわっと甘くなるΩの匂い。
眠るときの小さな呼吸音。
俺の名前を寝言で呼んだ声。

全部が、鮮明に蘇る。

「律、嫌がってるようで、全然嫌がってないじゃん。お前に懐いてるし」
「……それは、信頼関係だ」
「へぇ。信頼って呼ぶんだ、あれを」
「……誠」
「冗談だよ」

そう言いながらも、誠の表情は急に真面目なものへ変わる。

――たしかに。
律は無意識に、俺というαを受け入れ始めている。
俺の匂いにも、触れる距離にも、戸惑いながらも拒まない。

「なぁ、冬馬。お前が律を守りたいのはわかるけど……守るって、距離を取ることじゃねぇだろ」

軽く肩を叩かれて、俺は黙り込む。

「好きなら、ちゃんと認めろ。お前ら、変に我慢してても見てる方がしんどい」

理性と本能の間でぐちゃぐちゃになっていた部分を、全部見透かされている気がした。

「まあ、焦んなくていいけどさ。律を泣かせんなよ」

そう言って、誠は出て行った。
静かになった部屋に、時計の針の音だけが響く。

――素直に、か。

誠の言葉が胸に刺さったまま抜けない。

律の笑った顔が浮かぶ。
眠るときの穏やかな表情。
昨日、軽く触れた唇のやわらかさ。

あれで何も感じるわけがない。

「……好きだ」

思わず、声が漏れる。

教育係と生徒。
αとΩ。
簡単には越えられない境界線。

一度踏み越えたら、もう戻れない。

デスクの明かりを落とすと、部屋は静かな暗さに包まれた。
胸にはまだ消えきらない熱が残っていて、俺はしばらくそれを抱えたまま座り込んでいた。

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