【完結】俺の教育係は、甘くて意地悪なエリート【α】――未熟御曹司【Ω】の恋レッスン

砂原紗藍

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【第二章】距離が縮まる日々

3.眠るΩに触れる罪

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side 桐生 冬馬

律が、俺の膝の上で静かに眠っている。
体温がじんわりと伝わってきて、呼吸のたびに胸元がかすかに上下する。

肩の力が抜け、幼い頃の面影が少し戻る。
普段の彼からは想像できないほど無防備で、思わず見とれてしまう。

「……可愛いな」

独り言のつもりだったのに、声に出た。

指先でそっと髪を梳いた。
ふわりと揺れた髪が光を拾い、肌の白さを際立たせる。

「律……」

名前を呼ぶと、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

小さく唇を尖らせたり、顔をそむけて誤魔化したり。
そんな些細な反応のひとつひとつに、心が揺れる。

――教育係として線を越えるな。

それは何度も自分に言い聞かせている。
わかっていても……近くにいられると理性の方が揺らぐ。

「……駄目だな、俺」

苦笑した瞬間、膝の上の律が小さく身じろぎした。

「……冬馬」
「……っ」

胸が跳ねた。
俺の名前を、夢の中で呼ぶなんて。

……期待したくなるだろ。

「律、起こすぞ」

そっと肩に手を置く。温かくて、細い。
触れるたびに、守りたいという感情ばかりが積み重なっていく。

まぶたがゆっくり開いて、眠たげな瞳が俺を見た。

「……冬馬?」
「起きたか。三十分も寝てたぞ」
「……そんなに?」
「疲れてたんだろ」

髪を軽く整えるように撫でると、律がすぐに顔をそむけた。

「……顔、赤いな」
「赤くない」
「赤い」

むっとした表情。
ほんの少しだけ、耳の端まで色づいている。

……やっぱり可愛いな。

──どうするんだ。
こんなに惹かれてしまって。

律が身を起こすと、膝の上の重みが消えた。
けれど、そのぬくもりだけが残っていて、妙に落ち着かない。

指先で額に触れると、律がぴくりと肩を揺らした。

「……何してるの」
「熱、あるのかと思って」
「ない」

即答。
けれど、少し早い呼吸と、肌にうっすら浮いた赤みが気になった。

オメガは、ときどきこういう“揺らぐ”瞬間がある。
発情期ではないが、香りがほんのわずかに変わり、甘さが増す。
それを感じ取ってしまうのは、アルファとしての本能だ。

「律。さっきの寝言……俺の名前呼んだ」
「……知らない。覚えてない」
「そっか。でも……嬉しかったよ」

言った瞬間、律は一度だけ瞬きをして、わずかに俯いた。

「律」

名前を呼ぶと、律の肩が震えた。
逃げない。拒まない。ただ、呼吸が少し乱れている。
本能が俺をくすぐる。
顔をそっと傾けて、律の頬に触れた。

「……触られるの、嫌か?」

小さな沈黙が落ちた。
律は、ゆっくりと目を伏せ、それからかすかな声で返す。

「……べつに、嫌じゃない」

その一言で、胸の奥が熱くなる。

――もう少しだけ触れたい。 

手のひらでそっと頬を包むと、律は微かに息を飲んだ。
その香りがはっきりと甘くなる。
抱き寄せたくなる衝動を、爪が食い込むほど拳を握って抑えた。

律は俺を信じて無防備でいる。その境界を越えるわけにはいかない。

「おーい、夕飯だぞー!」

誠の声がリビングから響いた。
張り詰めた空気が一気に緩む。

……助かった。

俺は律からそっと手を離し、深く息を吐いた。


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