リスタート・ショコラ―拾われた俺、溺愛されてます―世界でいちばん甘い場所は、あなたの隣。

砂原紗藍

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新婚旅行のドキドキ

2.新婚旅行は三人?で

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翌日、俺たちはタクシーに揺られていた。

「ちょっと寄りたいところがあるんだ」

拓実はそう言いながら窓の外を眺めている。
タクシーはマンハッタンの喧騒を抜け、静かな住宅街へと向かう。

「どこに行くんだ?」
「ちょっと頼まれごとがあってね」

意味ありげな笑みに、俺は少し嫌な予感を覚えた。
やがてタクシーは一軒の家の前で停まる。
拓実は手慣れた手つきで鍵を開け、俺を中へ招き入れた。

「さあ、入って」
「うん……」

リビングに足を踏み入れた瞬間——

「ワン!」

鳴き声と共に、金色の大きな犬が飛び出してきた。思わず後ずさる俺。

「ちょ、どういうこと……?」
「ここ、俺の知人の別荘なんだ。出張が長引いて、犬だけしばらく預かってほしいって頼まれて」

拓実は平然と言う。

「……預かるって、まさか俺たちが?」
「そう、明日まで」
「えぇぇ……!」

俺が声を上げると、犬はびくっとしてこちらを見た。
くりくりの大きな目が、不安そうに俺を見つめている。

「可愛いだろ?」

拓実の落ち着いた声に、犬は尻尾を振りながら寄り添う。

「いや、確かに可愛いけどさ……」
「名前はマックス。三歳だって」

拓実が犬の頭を優しく撫でる。自然な手つきに、マックスも嬉しそうに顔を擦り寄せる。

「マックス……か」

俺も恐る恐る手を伸ばす。

「怖くないよ、ほら」

拓実が俺の手を取り、マックスの頭に添える。
ふわふわの毛並みが手に触れて、思わず笑ってしまう。

「おお、あったかい」
「だろ?」
「……かわいいな」

マックスが鼻先を押し付けてきて、くすぐったい。
拓実は笑いながら言う。

「嫉妬してるのかな」
「嫉妬って……?」
「俺が遥にばっかり構ってるから」

マックスは満足げに尻尾を振る。
俺は苦笑しながらも、心が温かくなる。

「なんか、賑やかな新婚旅行になりそうだな」
「三人だしな」
「三人って言うなよ……」
「でも、悪くないだろ?」

拓実の笑い声が広いリビングに響く。
窓の外では、ニューヨークの午後の日差しが静かに傾き始めていた。

「じゃあ、今日はここに泊まろう」
「え、ホテルじゃなくて?」
「マックスも一緒の方がいいだろ。それに広いし」
「たしかに」

マックスが尻尾を振りながら俺を見上げる。

「お前も、俺たちと一緒がいいんだな」

拓実が嬉しそうに笑った。

「じゃあ、散歩に行こうか」
「今から?」
「ああ、夕暮れのニューヨーク、綺麗だぞ」

三人で外に出ると、ビルの隙間から夕日が差し込む。
マックスは先を歩き、時々振り返って俺たちを確認する。

「綺麗……」
「だろ?」

拓実が俺の手を取り、そっと握る。

「なんか、家族みたいだな」
「そうだな。俺たち、家族だから」

その言葉に胸が温かくなる。
新婚旅行で犬の世話をすることになるなんて思わなかったけど、これも二人の大切な思い出になる――そう感じた夕暮れだった。

夜。静かなニューヨークの街の灯りが、カーテン越しに淡く差し込む。

散歩から帰り、夕食を済ませたあと、マックスにもご飯をあげた。
嬉しそうに食べ終えたマックスは、クッションの上で丸くなり、眠そうに目を細めている。

「マックス、ここで寝そうだな」
「ああ」
「俺たちはあっちに行こうか」

拓実は笑いながら俺の手を取り、寝室へと誘う。

俺がベッドに腰を下ろすと、廊下から「カチャッ」という音がして──

「……ん?」
「わっ!? うそ、来た!」

ドアを器用に開け、マックスがのっそり入ってきた。
大きな体を揺らしながら、まっすぐ俺たちへ向かってくる。

「マックス、お前のベッドはあっちだよ!」

寝室に置かれた犬用ベッドを指さして言うが、マックスはお構いなしに俺達がいるベッドに飛び乗る。
マットレスが沈み、思わず体勢を崩す。

「うわ……!」
「はは、力強いよな。完全に自分も一緒に寝ると思ってる」

拓実は笑いながらマックスの頭を撫でる。

「笑ってないで、止めろよな」
「でも、可愛いじゃん」
「可愛いけど……!」

マックスは俺の膝に顎を乗せ、尻尾を振る。

「……ああもう、しょうがないな」

俺も諦めて頭を撫でると、拓実が嬉しそうに言った。

「遥、優しいな」
「そりゃマックスが可愛いからね……」

拓実は隣に座り、俺に寄り添う。

「……顔赤い」
「マックスのせいだよ。重いし、暑いし……」
「ふうん。俺のせいじゃないんだ?」

拓実が意味深な笑みを浮かべる。

「……な、何その言い方」


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