リスタート・ショコラ―拾われた俺、溺愛されてます―世界でいちばん甘い場所は、あなたの隣。

砂原紗藍

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新婚旅行のドキドキ

4.ふたりと一匹、青い空

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カーテンの隙間から朝の光が差し込む。
まぶしさに目を細めながら、ゆっくりと目を覚ました。

「……ん」

体が少し重い。目をこすっていると、顔に温かい鼻先が触れた。

「わっ、マックス!?」

犬用ベッドで寝ていたはずのマックスが、俺の顔をくんくんと嗅いでいる。
ふさふさの毛がくすぐったく、思わず笑ってしまった。

「ちょ、こら、重いって……」

それでもマックスはお構いなしに、尻尾をぶんぶん振って嬉しそうだ。
その隣で、拓実がベッドに腰かけ、微笑んでいた。

「おはよう。マックスが起こしてくれたみたいだな」
「……そうみたい。やっぱり、重いよ……」

俺がぼやくと、拓実が手を伸ばして髪をくしゃっと撫でた。
その指先の優しさに、昨夜のことが一瞬よぎって顔が熱くなる。

「どうした? 顔、赤いな」
「……なんでもないし」

拓実が意地悪そうに笑う。
マックスは俺の腕に顔を押しつけ、甘えるように見上げてきた。

「お前、ほんと甘えん坊だな」

俺が撫でると、マックスは気持ちよさそうに目を細める。
拓実が少し真面目な声で尋ねた。

「遥、昨日の疲れは大丈夫か?」
「あ、ああ……大丈夫だよ」

照れくさくて、つい視線を逸らす。拓実の手がそっと肩に触れた。

「無理してないか?」
「大丈夫。むしろ、幸せすぎて、まだ夢みたいだ」
「……そっか。なら良かった」

拓実は優しく微笑む。

「今日は何する?」
「マックスのお世話して、のんびりかな」
「いいね。じゃあ、朝ごはん作るよ」
「ありがとう」

拓実が立ち上がると、マックスもついていこうとした。俺はその姿に思わず笑う。

「お前も、拓実のこと好きなんだな」

そう呟くと、マックスが小さく鳴いて、俺の膝に顎を乗せる。

「俺も、拓実のこと大好きだよ」

その言葉が自然にこぼれ、心がじんと温かくなる。

「いい子だな」

マックスを撫でると、尻尾がぱたぱたと音を立てた。
その温もりと朝の光が混ざって、胸の奥が穏やかに満たされていく。

「遥、コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「コーヒーで」
「了解」

朝食を済ませ、マックスの散歩に出かけた。
空は雲ひとつなく、秋の風が心地いい。

「いい天気だ」

拓実が空を見上げる。
マックスは嬉しそうに尻尾を振り、公園を駆け回る。
俺たちはベンチに座り、その姿を見守った。

「楽しそうだな」
「うん。……でも、今日でお別れか」

拓実がぽつりと呟く。

「そうだね。寂しいな」
「なぁ、またどこかで会えたらいいな」

拓実の声は穏やかで、少しだけ切ない。
マックスがボールを咥えて戻ってくる。拓実が投げると、勢いよく走り出す。

「拓実、投げるの上手いね」
「昔、実家の犬とよく遊んでたから」
「そうなんだ……意外と、動物好きなんだな」
「まぁな。お前とマックスが仲良くしてるの見てたら、また飼いたくなったよ」

その言葉に、自然と笑みがこぼれた。
夕方、別荘のチャイムが鳴った。
拓実が玄関に向かいドアを開けると、スーツ姿の男性が立っていた。

「久しぶり、拓実」
「お疲れ。出張、無事に終わったか?」
「おかげさまで」

男性はマックスを見るなり、顔をほころばせる。

「マックス!」

マックスは嬉しそうに尻尾を振って駆け寄った。

「お世話になりました」
「いえ、こちらこそ楽しかったです」

俺が答えると、男性は深々と頭を下げ、マックスのリードを手渡した。
マックスは一度こちらを振り返り、再び拓実と俺のもとへ戻った。

「……バイバイ、マックス」
「また会おうな」

ドアが閉まると、部屋に静けさが戻った。

「……寂しいな」
俺が呟くと、拓実がそっと肩を抱く。

「そうだな。でも、いい思い出になった」
「うん」

マックスのいないリビングが、やけに広く感じる。

「元気でな、マックス」

小さく呟いた俺の言葉に、拓実が優しく微笑んだ。

「いつか、また会えるよ。きっと」
「……うん」

拓実が俺の手を握る。

「じゃあ、そろそろホテルに戻ろうか」
「ああ、そうしよう」

荷物をまとめ、二人で別荘を後にする。
新婚旅行で犬の世話をするなんて思わなかったけれど、それもまた俺たちらしい思い出だ。



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