画面の向こうの君に、恋をした。

一ノ瀬玲央×綾瀬灯花

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第3奏パート2:傘の下、あと15センチの距離

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傘の中は、思っていたよりも狭かった。

西園寺と肩が触れそうな距離で歩くなんて、これまで一度もなかった。

いや、そもそも、こんなに近くで“女の子の匂い”を感じたことなんて──あっただろうか。

甘いシャンプーの香りが、濡れた制服からふわりと漂う。

その匂いが、雨の湿気と混じり合って、妙に現実感を曖昧にしていた。

(……ドキドキする)

そんな風に思ってしまった自分を、どこかで必死にごまかしながら。

僕は視線を前に向けたまま、なるべく彼女の気配に触れないように歩いた。

でも──

「……ねぇ、さっきさ」

隣から、不意に声が落ちてくる。

「私の制服、透けてたでしょ?」

「──えっ!?」

反射的に振り返りそうになるのを、なんとか堪える。

顔が熱くなるのを、誤魔化す言葉も出てこなかった。

「ふふ。見てないフリ、上手かったけどね」

西園寺は、いたずらっぽく笑っていた。

その声に、ツインテールの揺れが重なって見える。

「……ご、ごめん」

「んー……謝るくらいなら、ちゃんと見ればよかったのに」

「な、なに言って──!」

「冗談だよ」

にやっと笑ったその顔は、いつもの西園寺そのものだったけれど──

どこか、違って見えた。

「……まったくもう、結菜はさぁ……」

「ん?」

「いや、なんでもない……」

その名前を、思わず自然に口にしていた。

“結菜”と、そう呼んだ自分に、少しだけ戸惑いながら。

ふたりの足音が、濡れたアスファルトに吸い込まれていく。

そして、また少しの沈黙。

そのときだった。

ポケットの中の携帯が、微かに震えた。

画面を覗くと、そこにはノゾミのアイコンがそっと浮かんでいた。

《──湊、今、少しだけ話せる?》

画面越しの彼女は、どこか言葉を探すような、曖昧な表情をしていた。

その一瞬の“空気”に──僕の胸が、なぜか少しだけ、痛んだ。 

---

**『第3奏パート2:傘の下、あと15センチの距離』をお読みいただきありがとうございました。**

濡れた制服、雨の匂い、そして、誰にも触れられない“声”。

このわずか数分の出来事が、奏の心に波紋を広げていきます──

ふたりの距離が、少しだけ縮まった雨の日。

でも、その傘の外では、もう一人の“彼女”が──。

次回、『第3奏パート3』では、

**"繋がらない通信"と"言葉にできない感情"**が、

静かにふたりの心を揺らしていきます。
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