裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都

文字の大きさ
11 / 70

11 ローゼリアは考える

しおりを挟む
 あれからローゼリアは、オルコット領の事が書かれた本や商売に関係する本を読む為に屋敷内にある図書室で熱心に読書をして過ごした。

 伯爵とイアンとは食事の時だけは顔を合わせていたので、その時に領地について直接教えてもらっていた。

 ローゼリアのこれまでの知識でオルコット領と言われて思い浮かべるのは製紙業だった。オルコット産の紙は王宮内でも使われていた事を記憶している。伯爵の話では紙以外の特産品は特に無いが、小麦以外の食糧自給率は高く、ジャガイモ等のイモ類やトマト等のよく食べる野菜を自分の家の分だけ作っている領民は多いという事だった。

 領内を実際に見てみたいと伯爵に言ってみたら、イアンと一緒に領内を回るように言われたので、領主教育の空いた時間にイアンに領内の案内をしてもらうことになった。



  ◆◆◆



 カタカタとゆっくり走る馬車の中、ローゼリアはイアンと向かい合って座っていた。

「………」

 馬車が動き出してしばらく経つというのに、腕と長い足を組んで座るイアンは不機嫌そうな様子で、ひと言も喋らずに外の景色を見ている。

 自分は馬で行くと言ってきかないイアンを馬車に乗せるだけでも苦労をしたのだから、一緒に馬車に乗ってくれただけでも合格点だろうか。まあ、無理やり馬車に乗せたから機嫌が悪いのだろう。

 ローゼリアは馬車の窓から外を見つめる。オルコット領は紙の原料となる麻の葉の栽培が盛んで、麦畑よりも麻畑の方がずっと多い。夏頃にくれば青々とした麻の葉畑を見れたのだろうが、夏が終わった今の時期は全てではないが粗方刈り取った後だった。

「イアン様、あちらに見える畑には何が植えられていらしたのかしら?」

 オルコット領の事を学んでいたローゼリアはあれがまだ刈り取っていない麻の葉という事は知っていたのだが、イアンとの会話のきっかけにならないかと思い聞いてみた。

「麻の葉です」

「…………」

「麻の葉を刈り取った後は、どのようにされているのでしょうか?」

「紙を作っています」

「オルコット領の紙は王宮の文官たちも使っていますのよ」

「そのようですね」

「…………」

 会話が途切れると、イアンはローゼリアを拒絶するかのように腕を組んだままの姿勢で目を閉じてしまった。

(会話には一応答えてくださるけれど、私ったら嫌われているのかしら?)

 イアンは馬車の乗り降りを手伝ってくれるし、何かを聞けば答えてくれるが、それだけだ。彼が結婚をするまでの義理の親子関係なので、このままでも良いのだがローゼリアには伯爵との契約がある。

 社交の面でイアンを支え、伯爵令息らしく貴族女性をエスコート出来るようにさせる事。

 その一環としてイアンがどの程度会話が出来るのかを見たかったのだが、元々会話が苦手なのか、ローゼリアを嫌っているのか分からないくらい反応が悪い。イアンが契約のことを伯爵からどの程度聞いているのか分からないが、知っていてこれではかなりの朴念仁だ。

(これは手ごわいわ)

 ローゼリアは会話を辞めてイアンを観察することにした。

 イアンの顔立ちは貴族としては平凡だが、漆黒の髪色とエメラルドのような美しい緑色の瞳、騎士団にいたので体格も姿勢も良い。似合っていない色の服や髪形を少しいじってあげれば見た目は充分だが、これから婚約者を探すには年齢が高すぎる。

 彼の年齢はまだ聞いていないがおそらく20代半ばくらい。婚約者のいない令嬢の中から探すとするなら10歳以上は離れてしまう。それにイアンの見た目が若く見えるだけで実は年齢が予想よりもっと上という可能性だってある。年齢の高い独身の貴族令嬢は家か本人に問題のある令嬢しか残っていないのが社交界の現状だから、イアンの選べる相手はかなり少ない。

 それに彼は騎士爵の家で生まれて育った。伯爵はイアンの妻に上位の貴族女性を望んでいるようだが、おそらく上手くいって子爵令嬢がせいぜいだろう。養子であっても政略婚によほど旨みがなければ上位貴族は庶子でもなければイアンに自分の娘を嫁がせようとは考えない。しかし庶子では伯爵が納得するとは思えない。

(イアン様がせめてお兄様くらいのお歳でしたら、若い令嬢を探して私が育てて差し上げますのに。オルコット家は伯爵でも低位ですからそれほど魅力的な家でもございませんし、目立つ産業でもあればいいのですが……)

 ローゼリアはイアンと合いそうな令嬢がいないかを頭の中でグルグルと考えるが、良さそうな令嬢が浮かばない。良さそうな令嬢がいたらイアンの事は任せて自分はさっさと離婚してエルランドへ行きたかった。

 イアンがそれなりの令嬢と恋愛をしてくれれば話は簡単なのだが、彼の好みが全く分からないし、ローゼリア自身恋愛経験が無いので、恋愛面でイアンを手助けするのは難しそうだ。

(困ったわ……)

 ローゼリアがひとりで悩んでいるうちに馬車が停まって目的地に着いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄されたけれど、どうぞ勝手に没落してくださいませ。私は辺境で第二の人生を満喫しますわ

鍛高譚
恋愛
「白い結婚でいい。 平凡で、静かな生活が送れれば――それだけで幸せでしたのに。」 婚約破棄され、行き場を失った伯爵令嬢アナスタシア。 彼女を救ったのは“冷徹”と噂される公爵・ルキウスだった。 二人の結婚は、互いに干渉しない 『白い結婚』――ただの契約のはずだった。 ……はずなのに。 邸内で起きる不可解な襲撃。 操られた侍女が放つ言葉。 浮かび上がる“白の一族”の血――そしてアナスタシアの身体に眠る 浄化の魔力。 「白の娘よ。いずれ迎えに行く」 影の王から届いた脅迫状が、運命の刻を告げる。 守るために剣を握る公爵。 守られるだけで終わらせないと誓う令嬢。 契約から始まったはずの二人の関係は、 いつしか互いに手放せない 真実の愛 へと変わってゆく。 「君を奪わせはしない」 「わたくしも……あなたを守りたいのです」 これは―― 白い結婚から始まり、影の王を巡る大いなる戦いへ踏み出す、 覚醒令嬢と冷徹公爵の“運命の恋と陰謀”の物語。 ---

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
【書籍化決定】 フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます! ※書籍化決定しております! 皆様に温かく見守っていただいたおかげです。ありがとうございます(*・ω・)*_ _)ペコリ 詳細は追々ご報告いたします。 アルファさんでは書籍情報解禁のち発売となった際にはサイトの規定でいずれ作品取り下げとなりますが、 今作の初投稿はアルファさんでその時にたくさん応援いただいたため、もう少し時間ありますので皆様に読んでいただけたらと第二部更新いたします。 第二部に合わせて、『これからの私たち』以降修正しております。 転生関係の謎にも触れてますので、ぜひぜひ更新の際はお付き合いいただけたら幸いです。 2025.9.9追記

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...