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16 ローゼリアの失敗
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王都への短い滞在期間のうち中日に当たる3日目に、ローゼリアはターニャ・ヘストン男爵令嬢を屋敷に招待した。
「お久し振りでございます。オルコット夫人」
ターニャと会うのは数カ月ぶりだが、公爵令嬢だった頃はフォレスター家の寄り子の家門の令嬢たちとはお互いに名前で呼び合っていた。なのでローゼリアはターニャのよそよそしく刺々しい雰囲気に、再会して早々に違和感を持っていた。
「ターニャ様はお元気になさっていらして?」
「ええ、あのような事がありましても当家は父も兄も王宮の騎士として勤めていますわ。フォレスター家の方々は爵位も返上されてしまったとか……領地運営が大変だったそうですわね」
そう言いながらターニャは目を三日月のように細めて薄らと笑った。
フォレスター家の爵位返上の件は王都に戻ってきてからローゼリアの耳に入っていた。ローゼリアの中では予定通りに事が進んでいるのだが、貴族たちにとっては名門貴族家の凋落は格好の話のタネになるのだろう。
ローゼリアは彼女を招いて失敗したと思った。
自分が公爵令嬢だった時のターニャは、大人しくてしおらしい騎士の家門の真面目な令嬢というイメージだったので、あのイアンにも辛抱強く付き合ってくれそうだと思ったから選んだ。しかし今のターニャはローゼリアが思っていた以上に自分からよく話し、会話の主導権を握ろうとする。しかも会話に嫌味を混ぜて話すような棘のある喋り方をする令嬢だった。
おそらく彼女がこのお茶会に来てくれたのは落ちぶれたローゼリアを見る為であって、不幸に見舞われたローゼリアを慰めようなんていう優しい気持ちは少しも感じられなかった。
「伯爵さまは確か30歳ほど年上の方でしたわよね。年上の男性ですと甘えさせて下さるから、夫人とはお似合いですわね。私は兄から同僚の騎士さまを紹介していただこうかと思っているところですの。兄の同僚ですから我が家と同じ男爵や子爵家のご令息もいらっしゃるってお話ですのよ」
「まあ、そうでしたの。良いご縁に恵まれていらっしゃるのね」
ターニャの自慢話に合わせてローゼリアはにっこりと笑う。
「ええ、私の兄は5歳年上なのですが、兄には私より7歳以上の年上の方は絶対に紹介しないでねって言っておりますのよ。一生を共に過ごすお相手は近い年齢の方がよろしいでしょう、ふふふ」
「………」
ターニャの年齢は16歳で、家令に聞いてみたらイアンの年齢は25歳だと聞いている。次期伯爵と男爵令嬢という点を考えればターニャとは充分につり合うはずだし、イアンだったら多少年上でもターニャは納得するのだろうが、彼女からの嫌味の応酬にローゼリアはターニャをイアンに紹介したくなくなっていた。
しかし、侍女にはお茶会の途中にイアンを呼ぶように伝えてある。お手洗いへ行くフリをして侍女に指示をし直そうと思っているところに、応接間のドアをノックする音がしてイアンが入室してきた。
今日のイアンは珍しく彼にとっての外行きの格好、つまり護衛騎士のような服を着ていた。
「失礼します。――奥様、こちらをお持ちしました」
そう言ってイアンはローゼリアに紅茶の入った包みを差し出すと護衛騎士のように、椅子に座るローゼリアの後ろへ控えた。
「ターニャ様、こちらは先日私が取り寄せましたお茶ですの。よろしかったらお土産にいかがかしらと思って」
「あら、そちらの方は伯爵家の騎士さまですの?」
ターニャはローゼリアが用意した茶葉よりも、突然現れたイアンの方が気になるようだった。
「こちらはイアン様とおっしゃって……」
「一年ほど前からこちらでお世話になっています」
伯爵令息を蔑ろにする事は出来ないと思い、ローゼリアはイアンを正直に紹介しようとしたのだが、言葉の途中でイアンに遮られてしまった。
「まあ、そうですの。どちらのお家の方ですの?」
「オルコット家に縁がある家ですが、父は騎士爵をしております」
「あら……騎士爵ですと土地無しで一代限りですわね。伯爵家程度の騎士さまではあなたまで騎士爵を頂くのも難しそうだわ。実は私の父と兄は王宮勤めをしておりますの。もしよろしかったら王宮でのお仕事をご紹介できましてよ」
「申し訳ございませんが、今はこちらでの仕事を覚えるのに手いっぱいですので、ご遠慮させていただきます」
イアンの幾分穏やかに受け答えする様子は、普段の彼を知っているローゼリアには慇懃に見えた。しかし、そんな事に少しも気付かないターニャの言葉は止まらない。
「そうですの。王宮勤めでしたらいずれは騎士爵を頂ける方も多いのに残念ですわ」
イアンは笑顔を張りつけたままターニャの言葉は聞き流す。そしてドアの前まで進むと振り返ってローゼリアとターニャに軽く会釈をする。
「奥様、私はこれで失礼致します。ご友人とごゆっくりご歓談下さい」
そう言い残してイアンは応接間を去って行った。
「あの護衛、素敵な方ですのに残念ですわね。我が家は貴族である事に誇りを持っておりますの。騎士爵の子でいずれは平民ではきっと私のお父様も許して下さいませんわ。素敵な方なのに本当に残念」
紹介もしていないのに自分から食らいついていくターニャの様子にローゼリアは驚いていた。生まれた時から王太子の婚約者候補であったローゼリアは、自分から結婚相手を探した事がなかったし、令嬢たちが令息たちの噂話をしているのを聞いているだけだったから、政略としても旨みの無い低位貴族令嬢たちの結婚相手を探す苦労を知らずにいたのだった。
イアンが伯爵家に雇われている騎士のフリをしてくれたから、ターニャは勘違いしたままだが、ここでイアンを次期当主だと紹介したならどんな事になっていたか、考えただけでも恐ろしかった。
ターニャは貴族令嬢としてのマナーも悪かったし、平民落ちしたフォレスター家出身のローゼリアをすっかり下に見ているから、これではローゼリアがターニャに高位貴族としての礼儀やマナー、この家での家政を教えようとしても話を聞こうとしないだろう。
(ターニャ様では伯爵様に反対されますわね。私もこの方に何かを教えて差し上げるのは嫌ですわ)
自分の立場が変わってしまうと人とはこうも変わってしまうのだとローゼリアは痛感してお茶会は短時間でお開きとなった。
ローゼリアはターニャが帰ってから、侍女にどうしてイアンが服を着替えてから応接間に現れたのかを聞いてみた。
お茶会が始まってすぐに侍女から応接間に行くように言われたイアンは、自分がローゼリアの客へ挨拶に行くのはおかしいと言い、どうしてだと問い詰められた結果、このお茶会がイアンの見合いを兼ねたものだったと話してしまったと聞いたのだった。
「奥様、イアン様には話すなと言われておりましたのに申し訳ありませんでした」
「いいのよ、ターニャ様は私が思っていたような方ではなかったら話してくれて良かったわ。でもイアン様はきっと怒っていらっしゃるわよね?」
ローゼリアの問いに三人並んでいる侍女たちは顔を見合わせて気まずそうに苦笑いを浮かべるのだった。
そして、その日の夕食の時にローゼリアは今回の事でイアンがかなり怒っている事を悟った。
いつもなら伯爵が話しかければそれなりに答えていたのに、その日は相槌程度の返事しかせず、夕食をさっさと食べてしまうと自室へ戻ってしまったからだった。
「うまくいかなかったようだな」
メインの肉を切り分けながら伯爵がローゼリアに聞いてくる。
「はい、申し訳ありません。ご指摘頂いた通り、うまくいきませんでしたわ」
作戦が失敗に終わり、食の進まないローゼリアはスプーンでスープを掬う。
「イアンは弟に似て頑固だからな。最初の見合い相手はウエルチ子爵家の次女との見合いだった。そこで何かあったようなのだが、あいつは破談になった理由を話さない。先方の屋敷での顔合わせを一人で行かせたから何があったかのかは分からないんだ。以後は令嬢を当家に呼び、近くに侍女を控えさせて様子を報告させているのだが、イアンに好意的な令嬢が相手でもあいつはほとんど話さないらしい」
ウエルチ子爵といえば子爵家の中でも上位の家で、確か母親が侯爵家出身だったはずだ。ローゼリアよりも少し年上だが気位が高い事で有名で、本人は高位貴族でないと嫁がないと言っていたと令嬢たちが噂をしていた。
オルコット家に社交をしている女性がいれば事前に分かった事だったのだろうが、伯爵もイアンもほとんど社交をしていないので、釣書だけで判断をしたのだろう。
「なかなか良い方がいらっしゃらないですわね」
ローゼリアとイアンの信頼関係が築けないのならば、イアンの婚約者に任せてしまう事も考えていたローゼリアはイアンの婚約者探しも難航している事にため息をついた。
地位と容姿が多少良くても、高位貴族令嬢を探すとなるとやはりイアンの年齢がネックだ。せめて彼がギリギリ10代ならば、10代前半の気立ての良さそうな令嬢に話を持っていけるのだが、イアンの年齢とオルコット家の伯爵家の中では下位に当たる貴族の中での立ち位置を考えると、10歳以上の年の差では裕福な平民の娘くらいしか受け入れてもらえないだろう。高位貴族をオルコット家に迎えるなんて、とてもではないが現実的ではない。
成人している令嬢で、本人や家に問題が無く婚約者のいない令嬢はほとんどいない。タイミング良く婚約者が亡くなってしまうとか、不当な理由で家が没落するなんて事は滅多に無いのだから。
「はあ……」
食事時のマナーとしては減点ものだが、先行き不安なイアンの結婚の事を考えてローゼリアは、またため息を漏らしてしまった。
「一日でも早くイアン様に結婚していただかないと、私の離婚が遠のきますわ」
「ローゼリア、王都にいられるのもあと2日ほどだし、明日は気晴らしに買い物に出かけてみるか?」
「買い物……ですか。持参金も持てずに来てしまいましたので、買い物をしたくてもお金を持っていませんのよ」
「ワシを馬鹿にしているのか?公爵家のようにはいかないが、配偶者用の予算内であれば服や宝飾品を買っても良いのだぞ。こちらも支度金を渡さなかった上に、披露目のパーティーも行わなかった。この結婚には金がかからなかったからな」
沈み気味のローゼリアの瞳が輝く。
「よろしいの?お許しを頂けるのでしたら、ぜひ行きたいお店がありますの!」
ローゼリアは結婚して初めて満面の笑顔を浮かべた。
「お久し振りでございます。オルコット夫人」
ターニャと会うのは数カ月ぶりだが、公爵令嬢だった頃はフォレスター家の寄り子の家門の令嬢たちとはお互いに名前で呼び合っていた。なのでローゼリアはターニャのよそよそしく刺々しい雰囲気に、再会して早々に違和感を持っていた。
「ターニャ様はお元気になさっていらして?」
「ええ、あのような事がありましても当家は父も兄も王宮の騎士として勤めていますわ。フォレスター家の方々は爵位も返上されてしまったとか……領地運営が大変だったそうですわね」
そう言いながらターニャは目を三日月のように細めて薄らと笑った。
フォレスター家の爵位返上の件は王都に戻ってきてからローゼリアの耳に入っていた。ローゼリアの中では予定通りに事が進んでいるのだが、貴族たちにとっては名門貴族家の凋落は格好の話のタネになるのだろう。
ローゼリアは彼女を招いて失敗したと思った。
自分が公爵令嬢だった時のターニャは、大人しくてしおらしい騎士の家門の真面目な令嬢というイメージだったので、あのイアンにも辛抱強く付き合ってくれそうだと思ったから選んだ。しかし今のターニャはローゼリアが思っていた以上に自分からよく話し、会話の主導権を握ろうとする。しかも会話に嫌味を混ぜて話すような棘のある喋り方をする令嬢だった。
おそらく彼女がこのお茶会に来てくれたのは落ちぶれたローゼリアを見る為であって、不幸に見舞われたローゼリアを慰めようなんていう優しい気持ちは少しも感じられなかった。
「伯爵さまは確か30歳ほど年上の方でしたわよね。年上の男性ですと甘えさせて下さるから、夫人とはお似合いですわね。私は兄から同僚の騎士さまを紹介していただこうかと思っているところですの。兄の同僚ですから我が家と同じ男爵や子爵家のご令息もいらっしゃるってお話ですのよ」
「まあ、そうでしたの。良いご縁に恵まれていらっしゃるのね」
ターニャの自慢話に合わせてローゼリアはにっこりと笑う。
「ええ、私の兄は5歳年上なのですが、兄には私より7歳以上の年上の方は絶対に紹介しないでねって言っておりますのよ。一生を共に過ごすお相手は近い年齢の方がよろしいでしょう、ふふふ」
「………」
ターニャの年齢は16歳で、家令に聞いてみたらイアンの年齢は25歳だと聞いている。次期伯爵と男爵令嬢という点を考えればターニャとは充分につり合うはずだし、イアンだったら多少年上でもターニャは納得するのだろうが、彼女からの嫌味の応酬にローゼリアはターニャをイアンに紹介したくなくなっていた。
しかし、侍女にはお茶会の途中にイアンを呼ぶように伝えてある。お手洗いへ行くフリをして侍女に指示をし直そうと思っているところに、応接間のドアをノックする音がしてイアンが入室してきた。
今日のイアンは珍しく彼にとっての外行きの格好、つまり護衛騎士のような服を着ていた。
「失礼します。――奥様、こちらをお持ちしました」
そう言ってイアンはローゼリアに紅茶の入った包みを差し出すと護衛騎士のように、椅子に座るローゼリアの後ろへ控えた。
「ターニャ様、こちらは先日私が取り寄せましたお茶ですの。よろしかったらお土産にいかがかしらと思って」
「あら、そちらの方は伯爵家の騎士さまですの?」
ターニャはローゼリアが用意した茶葉よりも、突然現れたイアンの方が気になるようだった。
「こちらはイアン様とおっしゃって……」
「一年ほど前からこちらでお世話になっています」
伯爵令息を蔑ろにする事は出来ないと思い、ローゼリアはイアンを正直に紹介しようとしたのだが、言葉の途中でイアンに遮られてしまった。
「まあ、そうですの。どちらのお家の方ですの?」
「オルコット家に縁がある家ですが、父は騎士爵をしております」
「あら……騎士爵ですと土地無しで一代限りですわね。伯爵家程度の騎士さまではあなたまで騎士爵を頂くのも難しそうだわ。実は私の父と兄は王宮勤めをしておりますの。もしよろしかったら王宮でのお仕事をご紹介できましてよ」
「申し訳ございませんが、今はこちらでの仕事を覚えるのに手いっぱいですので、ご遠慮させていただきます」
イアンの幾分穏やかに受け答えする様子は、普段の彼を知っているローゼリアには慇懃に見えた。しかし、そんな事に少しも気付かないターニャの言葉は止まらない。
「そうですの。王宮勤めでしたらいずれは騎士爵を頂ける方も多いのに残念ですわ」
イアンは笑顔を張りつけたままターニャの言葉は聞き流す。そしてドアの前まで進むと振り返ってローゼリアとターニャに軽く会釈をする。
「奥様、私はこれで失礼致します。ご友人とごゆっくりご歓談下さい」
そう言い残してイアンは応接間を去って行った。
「あの護衛、素敵な方ですのに残念ですわね。我が家は貴族である事に誇りを持っておりますの。騎士爵の子でいずれは平民ではきっと私のお父様も許して下さいませんわ。素敵な方なのに本当に残念」
紹介もしていないのに自分から食らいついていくターニャの様子にローゼリアは驚いていた。生まれた時から王太子の婚約者候補であったローゼリアは、自分から結婚相手を探した事がなかったし、令嬢たちが令息たちの噂話をしているのを聞いているだけだったから、政略としても旨みの無い低位貴族令嬢たちの結婚相手を探す苦労を知らずにいたのだった。
イアンが伯爵家に雇われている騎士のフリをしてくれたから、ターニャは勘違いしたままだが、ここでイアンを次期当主だと紹介したならどんな事になっていたか、考えただけでも恐ろしかった。
ターニャは貴族令嬢としてのマナーも悪かったし、平民落ちしたフォレスター家出身のローゼリアをすっかり下に見ているから、これではローゼリアがターニャに高位貴族としての礼儀やマナー、この家での家政を教えようとしても話を聞こうとしないだろう。
(ターニャ様では伯爵様に反対されますわね。私もこの方に何かを教えて差し上げるのは嫌ですわ)
自分の立場が変わってしまうと人とはこうも変わってしまうのだとローゼリアは痛感してお茶会は短時間でお開きとなった。
ローゼリアはターニャが帰ってから、侍女にどうしてイアンが服を着替えてから応接間に現れたのかを聞いてみた。
お茶会が始まってすぐに侍女から応接間に行くように言われたイアンは、自分がローゼリアの客へ挨拶に行くのはおかしいと言い、どうしてだと問い詰められた結果、このお茶会がイアンの見合いを兼ねたものだったと話してしまったと聞いたのだった。
「奥様、イアン様には話すなと言われておりましたのに申し訳ありませんでした」
「いいのよ、ターニャ様は私が思っていたような方ではなかったら話してくれて良かったわ。でもイアン様はきっと怒っていらっしゃるわよね?」
ローゼリアの問いに三人並んでいる侍女たちは顔を見合わせて気まずそうに苦笑いを浮かべるのだった。
そして、その日の夕食の時にローゼリアは今回の事でイアンがかなり怒っている事を悟った。
いつもなら伯爵が話しかければそれなりに答えていたのに、その日は相槌程度の返事しかせず、夕食をさっさと食べてしまうと自室へ戻ってしまったからだった。
「うまくいかなかったようだな」
メインの肉を切り分けながら伯爵がローゼリアに聞いてくる。
「はい、申し訳ありません。ご指摘頂いた通り、うまくいきませんでしたわ」
作戦が失敗に終わり、食の進まないローゼリアはスプーンでスープを掬う。
「イアンは弟に似て頑固だからな。最初の見合い相手はウエルチ子爵家の次女との見合いだった。そこで何かあったようなのだが、あいつは破談になった理由を話さない。先方の屋敷での顔合わせを一人で行かせたから何があったかのかは分からないんだ。以後は令嬢を当家に呼び、近くに侍女を控えさせて様子を報告させているのだが、イアンに好意的な令嬢が相手でもあいつはほとんど話さないらしい」
ウエルチ子爵といえば子爵家の中でも上位の家で、確か母親が侯爵家出身だったはずだ。ローゼリアよりも少し年上だが気位が高い事で有名で、本人は高位貴族でないと嫁がないと言っていたと令嬢たちが噂をしていた。
オルコット家に社交をしている女性がいれば事前に分かった事だったのだろうが、伯爵もイアンもほとんど社交をしていないので、釣書だけで判断をしたのだろう。
「なかなか良い方がいらっしゃらないですわね」
ローゼリアとイアンの信頼関係が築けないのならば、イアンの婚約者に任せてしまう事も考えていたローゼリアはイアンの婚約者探しも難航している事にため息をついた。
地位と容姿が多少良くても、高位貴族令嬢を探すとなるとやはりイアンの年齢がネックだ。せめて彼がギリギリ10代ならば、10代前半の気立ての良さそうな令嬢に話を持っていけるのだが、イアンの年齢とオルコット家の伯爵家の中では下位に当たる貴族の中での立ち位置を考えると、10歳以上の年の差では裕福な平民の娘くらいしか受け入れてもらえないだろう。高位貴族をオルコット家に迎えるなんて、とてもではないが現実的ではない。
成人している令嬢で、本人や家に問題が無く婚約者のいない令嬢はほとんどいない。タイミング良く婚約者が亡くなってしまうとか、不当な理由で家が没落するなんて事は滅多に無いのだから。
「はあ……」
食事時のマナーとしては減点ものだが、先行き不安なイアンの結婚の事を考えてローゼリアは、またため息を漏らしてしまった。
「一日でも早くイアン様に結婚していただかないと、私の離婚が遠のきますわ」
「ローゼリア、王都にいられるのもあと2日ほどだし、明日は気晴らしに買い物に出かけてみるか?」
「買い物……ですか。持参金も持てずに来てしまいましたので、買い物をしたくてもお金を持っていませんのよ」
「ワシを馬鹿にしているのか?公爵家のようにはいかないが、配偶者用の予算内であれば服や宝飾品を買っても良いのだぞ。こちらも支度金を渡さなかった上に、披露目のパーティーも行わなかった。この結婚には金がかからなかったからな」
沈み気味のローゼリアの瞳が輝く。
「よろしいの?お許しを頂けるのでしたら、ぜひ行きたいお店がありますの!」
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