10 / 12
パスタを持っていく
しおりを挟む
お題:君と孤島 必須要素:パスタ 制限時間:1時間
「孤島に一つ持っていくならなにがいい?」
「パスタ」
イタリアン好きはこれだから。呆れ顔でため息をついた彼に、なんで孤島?とたずねたら、別に、と答えた。会話が弾まないときの定番のネタでしょ、という横顔には、「それだけではない」と書いてあった。分かりやすい男である。
「パスタだけあっても、食えないのに」
「保存が利くのが最大の理由かな。無人島でも、大き目の葉っぱを丸めるか、木の実があればくり抜いてボウルを作って、海水を汲んでパスタをしばらく浸けてから、焚き火のそばにおいておけば、そこそこ柔らかくなって食べられるでしょう。塩味は海水でつくし、具は魚でも肉でも木の実でも合うし」
意外と現実的な答えだ、と驚く彼。
焚き火が問題だと思うけどなあ、と言うのに、ライターがあれば確かに便利だけど、落ちた枝さえあれば、折って、鋭角を作って、木屑を作ってそれを火種にして、縄代わりの蔓状の植物と枝と板で火起こし器を作って…。パスタよりは代用品がありそうだ。
ナイフは?と聞かれたけれど、それも木や石で代用できる。翻って、腐りにくい、長期保存に向いた食料と言うのは、孤島ではなかなか手に入りづらいのではないか。缶詰は、缶切りがないとお話にならない。うん、やはり完璧だ。我が愛すべきパスタ、最高。
「米は?」
「そうだなあ…虫が湧きやすいイメージあるけど、パスタとどっちがそうかは、わからないな」
「小麦粉は?」
「そっちも虫湧きそう。袋の口の開いた小麦粉を常温保存して、使ってなんか作って食べたら食中毒になった、って事件あった気がする」
「じゃあ、コメか、パスタが最強だな」
「だね。」
チェーンの珈琲ショップの一角で、テーブル席に向かい合いながら座る私と彼。パスタかあ、とつぶやいて頭をかきながら、彼は両手を組んで、頭上に上げて、うーん、と背伸びをした。
「俺だったら、」
ぼそっと言ってから、元々合っていなかった目線を更にあさっての方向に飛ばす。左サイドの大窓の向こうに何かあるのかと目をやったが、通行人以外に特にめぼしいものはない。
「俺だったら…おまえ、連れていくけど」
「へっ」
降ってきた台詞に、窓の向こうから正面に視線を戻す。くちをひん曲げて、薄笑いする、ちょっと気持ち悪い表情。頬が赤い。
「一緒にいれば、心強いし、パスタ持ってきてくれるし…好き、だし」
えええ~~~~~~。
それか~~~~~~。
告白、しようとしてたんだ。そうか。言われてみれば、会話しながらそわそわ肩を揺らしてたり、きょろきょろと辺りを見回したり、挙動不審だったのは、それか。
「どう?俺と孤島…行って見る?」
「いや、いかないけど…そういう話じゃないんだよね?」
現状に不満があるでもなし、孤島に行く理由がないのできっぱり返すと、がっくりとうなだれる黒髪のあたま。
そうだなあ、彼には、不満がないとは言わないけれど、好きかどうかと聞かれれば…。
「孤島には行かないけど、遊園地とか、映画なら行ってもいいよ。食事でも、買い物でも…」
知らず早口になる。鼓動が高鳴って、頬が熱くなっていた。
黒髪がばさっと持ち上がって、眉の下には、きらきらと輝く瞳があった。
「孤島に一つ持っていくならなにがいい?」
「パスタ」
イタリアン好きはこれだから。呆れ顔でため息をついた彼に、なんで孤島?とたずねたら、別に、と答えた。会話が弾まないときの定番のネタでしょ、という横顔には、「それだけではない」と書いてあった。分かりやすい男である。
「パスタだけあっても、食えないのに」
「保存が利くのが最大の理由かな。無人島でも、大き目の葉っぱを丸めるか、木の実があればくり抜いてボウルを作って、海水を汲んでパスタをしばらく浸けてから、焚き火のそばにおいておけば、そこそこ柔らかくなって食べられるでしょう。塩味は海水でつくし、具は魚でも肉でも木の実でも合うし」
意外と現実的な答えだ、と驚く彼。
焚き火が問題だと思うけどなあ、と言うのに、ライターがあれば確かに便利だけど、落ちた枝さえあれば、折って、鋭角を作って、木屑を作ってそれを火種にして、縄代わりの蔓状の植物と枝と板で火起こし器を作って…。パスタよりは代用品がありそうだ。
ナイフは?と聞かれたけれど、それも木や石で代用できる。翻って、腐りにくい、長期保存に向いた食料と言うのは、孤島ではなかなか手に入りづらいのではないか。缶詰は、缶切りがないとお話にならない。うん、やはり完璧だ。我が愛すべきパスタ、最高。
「米は?」
「そうだなあ…虫が湧きやすいイメージあるけど、パスタとどっちがそうかは、わからないな」
「小麦粉は?」
「そっちも虫湧きそう。袋の口の開いた小麦粉を常温保存して、使ってなんか作って食べたら食中毒になった、って事件あった気がする」
「じゃあ、コメか、パスタが最強だな」
「だね。」
チェーンの珈琲ショップの一角で、テーブル席に向かい合いながら座る私と彼。パスタかあ、とつぶやいて頭をかきながら、彼は両手を組んで、頭上に上げて、うーん、と背伸びをした。
「俺だったら、」
ぼそっと言ってから、元々合っていなかった目線を更にあさっての方向に飛ばす。左サイドの大窓の向こうに何かあるのかと目をやったが、通行人以外に特にめぼしいものはない。
「俺だったら…おまえ、連れていくけど」
「へっ」
降ってきた台詞に、窓の向こうから正面に視線を戻す。くちをひん曲げて、薄笑いする、ちょっと気持ち悪い表情。頬が赤い。
「一緒にいれば、心強いし、パスタ持ってきてくれるし…好き、だし」
えええ~~~~~~。
それか~~~~~~。
告白、しようとしてたんだ。そうか。言われてみれば、会話しながらそわそわ肩を揺らしてたり、きょろきょろと辺りを見回したり、挙動不審だったのは、それか。
「どう?俺と孤島…行って見る?」
「いや、いかないけど…そういう話じゃないんだよね?」
現状に不満があるでもなし、孤島に行く理由がないのできっぱり返すと、がっくりとうなだれる黒髪のあたま。
そうだなあ、彼には、不満がないとは言わないけれど、好きかどうかと聞かれれば…。
「孤島には行かないけど、遊園地とか、映画なら行ってもいいよ。食事でも、買い物でも…」
知らず早口になる。鼓動が高鳴って、頬が熱くなっていた。
黒髪がばさっと持ち上がって、眉の下には、きらきらと輝く瞳があった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる