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第一章 悪役令嬢っていいな
02:悪役令嬢と大きな窓とメイド。
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―――と言う、夢を見たのさ…。
そんなオチだったらどうしよう。目が覚めて、ふっかふかのお布団と枕をぼんぼん叩きながら、私は考えていた。
ついさっきまでの自分、日雇い派遣しか働き口がないフリーター、35歳、頼りになる親戚なし、才能なし、財産なし、ともだち少ない、どん詰まりの人生だった自分の記憶と、いまの、この体…。
天蓋ベッドのふかふかの羽毛布団、さらさらの絹のネグリジェを着ている自分が持っている記憶を、出したり引っ込めたりする。
手を頬にやると、さらっと長い髪の毛が流れた。『元の私』の髪は、こんなに長くなかったはずだ。
ベッドを覆うカーテンを、思い切ってがばっと開けて、ベッドから降りてみる。
部屋、でっか!!!!!!
『元の私』がいたのは六畳間の1LDK、ユニットバス、ガスコンロは一つきり。バスタブは足を伸ばしきれない、そういうアパートだった。そのはずなのに、なんだこれ。ぱっと見渡した範囲だけで、私の部屋が5、6個入りそうなんですけど?
あと、窓がでかい。天井が高い。子供の可能性を伸ばすには天井を高く…とか、建築会社のCMで言っていたような気がする。
自分の背よりも1.5倍は縦幅の長い窓際に駆け寄り、カーテンを開ける。まぶしい!外に庭園が見える!綺麗なバラが咲いた植木がたくさん見える!なんじゃこりゃ!窓の外に植物が見えるとか何年ぶり?!
たったそれだけのことに呆然として、へなへなとその場に座り込んで、十分ほどたった頃。寝室のドアを開けて、メイドと思しき老婦人が駆け込んできた。
「お嬢様、ご自分でカーテンを開けられたのですか!?お目覚めに気づかず、申し訳ございません。お許しください!」
額を真っ青にして固い大理石の床に膝をつく老婦人が何を言っているのか、最初は分からなかった。
カーテンを自分で開けた、それを私にさせた。それだけで、このおばあちゃんは、こんなに真っ青になって謝っているの?
そう、疑問に思ったところで、『いまの私の記憶』がフラッシュバックした。
やれスープが熱い、カーテンに羽虫がいた、メイドの走り方が下品だ、などなど、ちっちゃなミスを見つけてはかんかんになり、メイドに怒鳴り散らしている、『いまの私』―――。
じわっと、目じりに涙が溢れた。
『元の私』がコンビニでバイトをしていたとき、ささいなことで怒鳴り散らす客がたくさんいた。バイトの語尾が気に入らない、急いでいるから俺の会計を先にしろ、タバコの略称くらい覚えておけ…。
そんなクレーマーとほぼ変わらない台詞を、天蓋付ベッドの羽毛布団に眠っているお嬢様が言っているなんて。
なんて、さびしい光景だ。
「おばあちゃん、目が覚めて自分でカーテンを開けるなんて、普通のことだよ。なんで謝るの?今日は寒いから、床は冷たいでしょ。腰を上げて」
膝をつく老婦人の肩に手をやり語りかけると、婦人は目を見開いて、
「ああ、お嬢様、お嬢様にそんな優しいお言葉をかけていただけるのは、何年振りでしょう。私、もう、このままこの世を去っても未練はございません…!」
そのまま卒倒しそうになったので、あわてて背中に手を回して支えて、遠慮するのを何とかなだめて、自分が眠っていたベッドの足元にあったソファに腰掛けさせた。
「お嬢様、ありがとうございます、ありがとうございます…」
感謝の涙を流す老婦人を見つめながら、私も涙をこらえた。老人を泣かせてしまった罪悪感もあったけれど、実のところ、感動していた。
これ、間違いなく、悪役令嬢転生だ!!!!
天蓋付ベッド、大きな部屋、広い庭園、メイド、極めつけに、『お嬢様にそんな優しい言葉を掛けられたのは何年振りでしょう』という老婦人の言葉…。
家は金持ち、元の性格はきつかった。悪役令嬢転生モノ、確定!
こんなことって、本当にあるんだ!神様ありがとう!私、いい子に生きて幸せになります!
私に対して感謝の涙を流す老婦人をなだめつつ、私は私で、神に向かって感謝の涙を流した。そして、夢じゃないと確かめるために頬をつねってみたりした。
「いっっっったい!!!!」
頬は痛くて、老婦人が今度は心配の涙を流して、わたしはまた彼女を時間を掛けてなだめたのだった。
そんなオチだったらどうしよう。目が覚めて、ふっかふかのお布団と枕をぼんぼん叩きながら、私は考えていた。
ついさっきまでの自分、日雇い派遣しか働き口がないフリーター、35歳、頼りになる親戚なし、才能なし、財産なし、ともだち少ない、どん詰まりの人生だった自分の記憶と、いまの、この体…。
天蓋ベッドのふかふかの羽毛布団、さらさらの絹のネグリジェを着ている自分が持っている記憶を、出したり引っ込めたりする。
手を頬にやると、さらっと長い髪の毛が流れた。『元の私』の髪は、こんなに長くなかったはずだ。
ベッドを覆うカーテンを、思い切ってがばっと開けて、ベッドから降りてみる。
部屋、でっか!!!!!!
『元の私』がいたのは六畳間の1LDK、ユニットバス、ガスコンロは一つきり。バスタブは足を伸ばしきれない、そういうアパートだった。そのはずなのに、なんだこれ。ぱっと見渡した範囲だけで、私の部屋が5、6個入りそうなんですけど?
あと、窓がでかい。天井が高い。子供の可能性を伸ばすには天井を高く…とか、建築会社のCMで言っていたような気がする。
自分の背よりも1.5倍は縦幅の長い窓際に駆け寄り、カーテンを開ける。まぶしい!外に庭園が見える!綺麗なバラが咲いた植木がたくさん見える!なんじゃこりゃ!窓の外に植物が見えるとか何年ぶり?!
たったそれだけのことに呆然として、へなへなとその場に座り込んで、十分ほどたった頃。寝室のドアを開けて、メイドと思しき老婦人が駆け込んできた。
「お嬢様、ご自分でカーテンを開けられたのですか!?お目覚めに気づかず、申し訳ございません。お許しください!」
額を真っ青にして固い大理石の床に膝をつく老婦人が何を言っているのか、最初は分からなかった。
カーテンを自分で開けた、それを私にさせた。それだけで、このおばあちゃんは、こんなに真っ青になって謝っているの?
そう、疑問に思ったところで、『いまの私の記憶』がフラッシュバックした。
やれスープが熱い、カーテンに羽虫がいた、メイドの走り方が下品だ、などなど、ちっちゃなミスを見つけてはかんかんになり、メイドに怒鳴り散らしている、『いまの私』―――。
じわっと、目じりに涙が溢れた。
『元の私』がコンビニでバイトをしていたとき、ささいなことで怒鳴り散らす客がたくさんいた。バイトの語尾が気に入らない、急いでいるから俺の会計を先にしろ、タバコの略称くらい覚えておけ…。
そんなクレーマーとほぼ変わらない台詞を、天蓋付ベッドの羽毛布団に眠っているお嬢様が言っているなんて。
なんて、さびしい光景だ。
「おばあちゃん、目が覚めて自分でカーテンを開けるなんて、普通のことだよ。なんで謝るの?今日は寒いから、床は冷たいでしょ。腰を上げて」
膝をつく老婦人の肩に手をやり語りかけると、婦人は目を見開いて、
「ああ、お嬢様、お嬢様にそんな優しいお言葉をかけていただけるのは、何年振りでしょう。私、もう、このままこの世を去っても未練はございません…!」
そのまま卒倒しそうになったので、あわてて背中に手を回して支えて、遠慮するのを何とかなだめて、自分が眠っていたベッドの足元にあったソファに腰掛けさせた。
「お嬢様、ありがとうございます、ありがとうございます…」
感謝の涙を流す老婦人を見つめながら、私も涙をこらえた。老人を泣かせてしまった罪悪感もあったけれど、実のところ、感動していた。
これ、間違いなく、悪役令嬢転生だ!!!!
天蓋付ベッド、大きな部屋、広い庭園、メイド、極めつけに、『お嬢様にそんな優しい言葉を掛けられたのは何年振りでしょう』という老婦人の言葉…。
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こんなことって、本当にあるんだ!神様ありがとう!私、いい子に生きて幸せになります!
私に対して感謝の涙を流す老婦人をなだめつつ、私は私で、神に向かって感謝の涙を流した。そして、夢じゃないと確かめるために頬をつねってみたりした。
「いっっっったい!!!!」
頬は痛くて、老婦人が今度は心配の涙を流して、わたしはまた彼女を時間を掛けてなだめたのだった。
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