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本編・アリスティア、新天地へ征く

アリスティアと女騎士

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時は少し遡る

ウーゼル王と王の目の前で膝をついて
首を垂れる紫髪のショートヘアの頭髪。
黒曜鋼、アダマルムの黒色と
金剛鋼、オレイルム鋼の不思議な
虹彩を照らし出す黄銅色が混在した鎧を見に纏う
一人の女騎士がメリディエス王城の
王の間にて、王と何かを話している。

「アリスティアがイスト王家に嫁いだ
以上御主はこれからどうするのだ?
騎士団に戻るのか?」

「…私の忠誠は、全てアリスティア様に誓ったものです。忠誠を誓った方がこの国に居られぬ以上……これからは田舎にでも籠り、農作物でも育ててのんびり過ごそうかと思います。それに騎士団には弟が居ますから、何も問題は無いでしょう」

女騎士は顔を上げて笑顔でそう言う
迷いの無い良い表情だった。

「…御主程の実力者を手放すのは少々勿体無いが…止める権利は儂には無い…そうか、達者でな、ライザ・ストディウム」

「…もったいなきお言葉…国王陛下もお元気で」

ライザはスッと立ち上がり王の間を後にする、王城の廊下を歩くとふと昔の記憶が蘇る。
ライザがアリスティアの護衛騎士、つまり
プリンセスガードとなったのはアリスティアがナーティスの許婚となった8歳の時
当時ライザは12歳であった。
平民出のライザは特に爵位こそ
持たないものの一兵卒の頃から
突出した実力を持ち、特に槍術に関しては
現在においても彼女の右に並ぶ者は居ない
その類稀なる実力、アリスティアと
年齢が近いと言うのと
そして、女性である事から
ウーゼル王が彼女に勅命を出した

「ライザよ、これより御主はアリスティアに忠誠を誓い、彼女のプリンセスガードとして任を全うせよ
アリスティアを守護する御主の判断は
王命の次に優先され、儂が王である限り
何者にも侵害されぬものとする、よいな?」

「…ありがたき幸せ、この命に変えましても
アリスティア様の全てをお護りします。」

「頼んだぞ、ライザよ」

かくしてライザはアリスティア専属の
近衛騎士・プリンセスガードどなった
騎士団でも突出した実力者であったため
次期騎士団長とも噂されていたので
残念がる声も多かったもののライザは
騎士という職業に未練がなかった。
ただ一つ未練があったとすれば
アリスティアの花嫁姿をその目で見るのが出来なかった事だろう。

(…アリスティア様の花嫁姿はさぞ美しい事だろう…それにしても聡明なジークハルト王子と結婚とは…まさしくお似合いではないか…少し羨ましくもあるな…)

アリスティアの護衛についていた頃は
イスト王国の王子をよく見かけた
頭の回転が早く何より色々な事によく気付く
話では文武両道の完璧な王子と聞くが
アリスティアを遠くから見ている
ジークハルト王子は何処と無く
恋する乙女?の様な表情で見ている気がした。

何よりあの宴席の時、自分よりも先に
ナーティスからアリスティアを護った
人物であり、そのままプロポーズすると言う大胆な行動も起こしたのだから
これは認められるべきだ、そうだろう
と、ライザはうんうんと頷きながら
王城の廊下を歩く。

この、廊下を歩っていると少し昔を思い出すそうあの時の事件だ

─ライザがアリスティアを探して廊下を
歩っていると前方で何やら叫ぶ声が
聞こえる、使用人達がその状況を
どうしていいか分からずに困惑し
しどろもどろしているのが見えた
これは、ただ事ではない
ライザは走り騒動を確認する
するとアリスティアの叫び声が聞こえた

「やめてください!!」

アリスティアを無理矢理
引き寄せようとするナーティスの姿
ライザはその光景を目の当たりにした瞬間、顔に怒りを露わにしざわざわと髪の毛が逆立つ、人混みを掻き分けて前を目指す。

「早く来い!お前は俺の婚約者だろうが!!」

「嫌です!!私は貴方の様な無礼な人と
寝室を共にするつもりはございません!!」

ナーティスはアリスティアのドレスを無理矢理引っ張り、自分の部屋へと連れ入ろうとしていた、強引な力に少し痛がるアリスティア

「いいから黙って来い!俺は次期国王なんだぞ!!」

「絶対に嫌です!!」

怒りの限界点を超えたライザは
鬼神の形相で物凄い勢いを付けて
ナーティスに飛び掛かる
それは物語の伝説に聞く
鬼の力をその身に宿した
オウガニクスを彷彿とさせた。

「その汚い手でアリスティア様に触れるなァッッ!!」

炸裂する激しい殴打の音
ライーザの右の鉄拳が
ナーティスの顔面を捉え
ナーティスを勢い良く殴り飛ばす
鼻血を流しながら打たれた頬を
左手で抑えながら
ライザを睨み付けるナーティス
しかし、ライザはナーティスを
穢れた汚物でも見る様な
鋭く凍った視線で彼を見下ろす。

「き!…貴様!!騎士の分際で…王子の俺に手を上げるのか!?」

「…私の忠誠はアリスティア様に捧げたものだ!そして私は王の勅命で動いている!!
何か文句があるならば
国王陛下の目の前にて申されよ!!」

「…ちっ!覚えてろ!!」

ナーティスはそう吐き捨てて
何処かへと逃げていった
後にも先にもメリディエス王国で
王族をぶん殴った騎士は
ライザ・ストディウムだけである

情け無い、アレがこの国の第一王子と
言うのだから、この国の未来も
少し不安になる
ウーゼル王もそう言った悩みが
あったからこそ自分をアリスティアの
プリンセスガードにしたのだろう
とライザは逃げるナーティスを
見つめてそう思った。

「アリスティア様、お怪我はございませんか?」

「…うっ…うっ…。ありがとう…ライザ」

アリスティアは土足で尊厳を踏み躙られ
そうになった恐怖で泣き崩れていた
それを見てライザは決意する
この方の全てを己の命を懸けて守り通すと

その後、ナーティスはアリスティアに
近づく事はなくなり、ナーティスは
少しまともになったと。

(…そう思っていたのだがな…。変わらぬ者は一生変わらぬか。)

ライザやアリスティアの心遣い虚しく
ナーティスは自身の不徳を正す事なく
放蕩生活は拍車をかけて酷さを増した
結果アリスティアの心は完全に
ナーティスと交わる事なく現在に至る。
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