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本編・アリスティアの学園生活

ルプスハート家の事情

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後日、レオンが何故あの集団と喧嘩を
していたのか、その理由が生徒会長シリウスの調べでわかった。

どうやら何人かの、学園の女子生徒が
彼等に難癖を付けられていたようで
それを見かねたレオンが集団に対して
無謀にも一人で闘いを挑んだようだ。

女子高生を逃した後に、一体多数の殴り合いの喧嘩をして、そして彼等を撃退した事が分かった。

あの騒動の後、直接女子生徒達がシリウスに、レオンが自分達を助けてくれたので彼の事を罰しないで欲しいとの進言もあった。
ローゼリアはレオンの事を信じては居たものの、やはり昔と変わらない彼にホッと胸を撫で下ろしている様だった。

「レオン様にお咎め無しで良かったですね、ロゼ」

「…ええ…そうね…ですが、レオンがあのままの生活を続ければ、いずれは自分の身を滅ぼす事になりかねません、わたくしは、それが心配なのです。」

胸に手を当てて、瞳を閉じるローゼリア。

「レオン様はいつからあの様に?」

「…それは…。」

「アリスティア様には、僕から説明するよ」

ローゼリアに代わりシリウスが丁寧に状況の説明をアリスティアしてくれた。

─ルプスハート公爵家の令息である僕の下には二人の兄妹がいてね。
一人は今、問題の人物でもある、僕の弟レオン、そして、もう一人は僕とレオンの妹である、未子の長女アトラ
レオンとアトラの二人は特に仲が良くてね。
ところが…数ヶ月前に原因不明の病に犯されたんだ。
治癒魔導師総動員でアトラの治療に臨んだのだけれど、その治療も虚しく、アトラの体力は日に日に落ちて行って、今では殆ど立ち上がる事も出来ないんだ…。
治療魔導師達の見立てでは"呪い"の一種だと言う事らしいけれど、今でもアトラの治療は出来ていないんだ。

「そんな事が…。」

「治療魔法の発展により外傷や大抵の病気ならば、魔法で何とかなりますが…」

アリスティアとジークハルトはルプスハート家に注がれた災厄を不憫に思う。

「逆に、呪術による呪いの類は聖霊魔法や女神の魔法、あるいは伝説の聖女でし
解く事が出来ないと言われているからね。その様な伝説、すぐに見つかる訳もないし…。
アトラに対して、何も出来ないレオンは
自暴自棄になり現在の荒れた性格になってしまったんだ。」

シリウスは俯きながら話を続ける。

「…僕の方でも治療法を探しているのだけれど、イスト王国内では全く見つからないんだ。風の噂では、西にあるルーンヴェル王国の何処かに、治癒の聖女が居たとも話があったのだけれど、他国を探すには時間が足りないんだ…」

「…私もアナスタシアから、アトラ公爵令嬢の件は聴いています、生徒会長…聖霊の力なら、もしかすると彼女が治る可能性があるのではないですか?」

「…うん、ああ、確かにそうかもだけど、残念ながら僕には、その使い手が見つけられなかったんだよ。」

「…アリス…もしかすると…頼んでも良いかい?」

「…ええ、ジーク…シリウス様、上手くいくか解りませんが…試してみる価値はあると思います。」

訊ねるジークハルトに静かに返事をするアリスティア。
彼女の瞳には意思の強い決意の光が宿っている。

「…わかった、家に案内しよう。」

アリスティア達一行はシリウスの案内により
ルプスハート公爵家へと向かうことになった。
外はすっかり真っ暗である
ルプスハート公爵家の当主夫妻は近隣諸国との外交の為不在で、ここ一ヶ月は
兄妹三人で暮らしていた。

シリウスは妹の面倒を見る為に使用人を伴い、妻を一人寮に残し、実家に滞在していた。シリウスの案内の元一行は部屋の一室で立ち止まる。シリウスは部屋の扉をコンコンと軽くノックする。

「アトラ…部屋に入るよ」

「…シリウス兄様…どうぞお入り下さい」

シリウスが部屋の扉を開けるとほろ暗い部屋の中で一人の少女が寝台の上に座っている、とても物静かな少女だ。

「灯りをつけるよ?」

「ええ、どうぞ…。」

シリウスの問いに、少女は弱々しく答えた
部屋が明るくなると長い栗毛の碧眼の少女がベッドに座っているのが見えた。
顔は蒼白く、表情はとてもダルそうに見える、その陰鬱な表情の視線は窓の外を見つめていた。
シリウスを先頭に、一行はアトラの部屋へと入る、フィルとライザは部屋の外で待機していた。

「…シリウス兄様、お友達ですか?
ベッドの上で失礼します…」

無理に笑顔を作ろうとするアトラの表情が痛々しく、アリスティアは少し胸が痛くなった。そして同時にこの娘の手助けがしたいとそう思っていた。

「ルプスハート公爵令嬢、我々がシリウス様に無理を言って紹介させて頂いたのでそのままで、私はジークハルト・エリシオン、こちらは妻のアリスティア、顔を合わせるのは初めてでしたね」

「アナスタシアのお兄様…ジークハルト王子と…アリスティア…姫様が、何故ここに…?それにロゼ姉様まで…」

アトラは少し驚いていた様だった、ローゼリアは穏やかに微笑む。

「皆アトラの話を聞いてお見舞いに来て下さったのです、皆、事情を知っております故、無理せず横になっていても大丈夫ですのよ」

「…ごめんなさいロゼ姉様、お言葉に甘えます…。」

ローゼリアは甲斐甲斐しくアトラを優しく支え、ベッドへと寝かしつけた。そして静かにカーテンを閉めて、アトラに布団を被せてあげた。

「では、アリス…」

「はい」

「…僕は少し、外にいるよ、ごめんね」

「わたくしとジークハルトでアリスをサポートしますので、生徒会長も少し休んでいてくださいませ」

アリスは一歩前に出て、アトラが眠る寝台の前でゆっくりと跪いた。

「アトラ様、御手…失礼します」

静かに眠るアトラの手を優しく包む様に握り、アリスティアは静かに目を閉じる
アトラの全身を黒いモヤの様な物が
包んでいるのを感じ取れた

(…まさか…これが呪い…?…何故、私に感じられるの…?)

以前アルクスが言った"精霊の類と関わった事"に起因するのかどうかは判らない。
しかし、自分に出来ることを精一杯やるだけだ、アリスティアは幼少の頃、かつて精霊に対し、癒しの祈りを捧げた様に
自分の奥底に眠る魔力に祈りを込めて
念じ唱える。

(…アトラ様にまとわりつく陰が呪いと言うのなら…お願い、聖霊さん達…どうか私に力を貸して下さい…)

アリスティアが握るアトラの手が七色の光に包まれた。

「…とっても…暖かい光…」

アトラは心地良さそうに微笑む。

「…この光は…」

ジークハルトにはこの光に見憶えがあった
つい先日、アリスティアが自分を看病してくれていた時に、包まれた癒しの光と全く同じ物だ。
やがて七色の光は眠るアトラの全身を包む、輝きはジークハルトとローゼリアが
目を瞑ってしまうくらいに強くなった
扉の隙間から力強く、優しい光が漏れ出す

(…本当に…とても…暖かい…)

アトラに纏わり付いていた影は
七色の光に流されてアトラから引き剥がされた。そして掻き消されるように消滅していく。
アトラの辛そうだった表情は徐々に和らいでいき、彼女の青ざめた顔に血色が戻ってきた。

「…ふぅ…こんなところでしょうか…?」

「…アリス…貴女、もしかしなくても伝説の聖女様…ですの?わたくし、媒体無しで魔法を使える人、魔導師以外で初めてみましたわ!」

「ロゼ…私は、そう言うのじゃ有りませんよ?」

「…まあ、アリスは他の人よりも遥かに強い魔力を持ってはいますがね」

無事に事が運んで、安心したのか
互いに微笑みあった、その後でシリウスが部屋にやってきて、涙を流しながら笑顔でアリスティアとジークハルトに
お礼を述べていたのだった。



薄暗い部屋で灰色の長髪の赤い目をした少女が窓から外を眺めていた。

「…ルプスハートの女にかけた、死道への呪いが解かれた…?イスト王国には、聖女も聖霊も居ないのに何故…?一体誰…?」

ブツブツと少女は呟く。

「…ムカつく…誰が一体、邪魔をしたの…?誰が私の邪魔をしたの…?幸せそうな連中をぶち壊してやろうとしたのに。」

少女の紅蓮の瞳には怒りと殺意が宿る
親指の爪をガリガリと噛み、指先から
赤い雫が滲む。

「…ゆっくりじわじわと、この国を破壊してやろうとしたのに…邪魔した奴は一体誰…?何処の誰?」

薄暗い部屋で呪いの言霊がこだました。
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