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本編・アリスティアの新学期
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時刻は昼食時、女子生徒達の調理実習で作った料理が全て出揃う頃である。
学園の庭に設置された長テーブルに置かれた大量の料理は、食事だけを取り揃えた大宴会そのものである。
中には不出来な物もあるのだが、それもご愛嬌と言ったところだろう。
男子生徒の中には、興味のある女子生徒が作った料理であるならば、多少不出来でも誉めてしまう物なのである。
また、女子生徒は素っ気なくするものの、彼女達にとっては、気のある男子生徒に振る舞いたいと言う感情がある物だ。
程なくして男子生徒達の実戦授業も終わると学園の庭にはほぼ全校生徒で埋め尽くされ、立食パーティーの様な状況になっていた。
「人が、いっぱい居ますね…」
「アリス、わたくし達は下手に移動せず、ここでレオンやジークハルトを待つのが得策です、辛いでしょうがこれも妻の役目です」
「そ、そう言うものなのですか…?」
アリスティアとローゼリアの作った料理は結局、長テーブル一個を使うぐらいの量になっていた。
他のグループが三品から四品の料理に対して、アリスティア達のテーブルにはおよそ20~30品目の多彩な料理が並んでいた。
量こそは程々であるものの、二人がそれぞれ想う人に食べてもらいたいから、
だからこそ、ここまで作る事が出来たのだと思うと、アリーシャは胃から砂糖を吐きそうになるぐらいに胸焼けを起こしていた。
数刻してジークハルト、レオン、ヴァルハイトの三人が姿を現すと、アリスティアはジークハルトの頬の傷を見て目の色を変える。
「ジーク…!?その傷、一体どうしたのですか!?」
ジークハルトの元へと血相変えて駆け寄るアリスティア。
彼の頬には、今朝アリスティアが見た時には、そこになかった深い傷が出来ていた。
(ちょっと、なんで仕掛けてんの!?)
(…これは、ただの事故だ)
(…全く、しっかりしてよね…。)
アリーシャはヴァルハイトを小声で小突く、バツの悪そうな彼の顔と、アリスティアと話すジークハルトの表情を見て、それ以上は言う事はしなかった。
だが、アリーシャは少し納得出来ない様な表情であった。
「…アリス、心配かけてしまい申し訳ありません、少しはしゃぎ過ぎてしまいまして…ご覧の有様です」
ジークハルトは心配するアリスティアに苦笑いで微笑んだ。
アリーシャに小突かれたヴァルハイトは顔を背け俯いている様であった。
「わかりました、ジーク…今はそのまま動かないで…」
アリスティアはジークハルトの頬の傷に手を添えて、祈りを込めた。
─癒しを。
アリスティアが呟くと彼女の掌からジークハルトの頬へと伝わる、慈悲深き暖かな光。
それを目の当たりにしたヴァルハイトとアリーシャ。
(…あれは…治療魔法…いや…あの光は聖霊魔法か…?…王子妃は聖霊の加護を受けている…?)
ヴァルハイトはジークハルトの頬に触れるアリスティアのほのかに輝く掌を見て、少し驚いていた。
(…聖霊の加護は絶対に闇を介さない。特定の人間達にのみ、その力を与えると聞く…。ならば、王子や王子妃達は…)
(それって…もしかしなくても…)
(ああ…。ただ、もう少し二人の事を知る必要がある。…何故、サーリャが二人を執拗に狙うのか…。)
ヴァルハルトとアリーシャは二人の動向を真剣な眼差しで見守る。
アリスティアの手が離れると、ジークハルトの頬の傷は、血の跡を残して綺麗さっぱり消えていたのだ。
「これで大丈夫、ジーク、痛みはない?」
「…アリス、いつも、ありがとうございます」
ジークハルトはアリスティアの手を包む様に握り、穏やかに微笑んでいた。
その後、皆で談笑しながら、料理に舌鼓を打つ。
アリスティアとローゼリア、二人の作った料理は甲乙つけ難く、どちらの料理も他の生徒達にも好評のまま、菓子以外の全ての皿が綺麗になっていた。
アリスティアはあらかじめ用意していた包装袋を取り出して、クッキーを丁寧に中に入れて行く。
仕上げにピンクのリボンで閉じると彼女は満足した表情を見せた。
「おや、アリス…それは…」
ジークハルトが小包みに気がつくと、アリスティアは彼に微笑む。
「はい、ステラ様に渡しに行こうかと思いまして約束しといてお待たせし過ぎた感じですが…。」
「では、今日の授業の後に一緒に行きませんか?ローゼンスフィア公爵夫妻が営む魔法商店は、現在学園敷地内にありますし、護衛も要りませんから。」
二人の話ひヴァルハイトは静かに耳を傾けていた。
ジークハルトは以前、学園敷地内で空いているスペースを父王に断りを入れる事なく、彼の独断でバーンとステラに無償提供した。
そこに魔導鉱石や特製魔法薬等、ステラが製造した商品を販売する魔法商店を建てたのだった。
更に、その魔法商店の周辺には、生徒達が護衛を付けて街に出なくても良い様に、ジークハルトが特権と気を利かせると。
青果店をはじめ色々な店を誘致し、様々な店が立ち並ぶ学園内商店街が出来上がっていたのだ。
「ジークも無茶しますね…」
「王族の特権を有意義に使ったまでです、それに、学園の皆も喜んでいるでしょう?」
「ええ、私も凄く助かってます」
アリスティアもマリエルやライザ達を連れて食材を買いに行く。
物価も街で買うよりは安く設定されている為、少し得した気分だ。
ただ、販売されている酒類は料理酒しかない為、男性護衛者の中には、酒類等の嗜好品の導入を求める声も上がっているようだった。
「導入から数ヶ月で、利用者もだいぶ多いみたいですし。先生方や従者や護衛者の要望が大きくなれば、成年対象の嗜好品とかも販売も考えましょうか…まあ、規制は必要ですが。」
「凄いですね、学園の中に街が出来ちゃいます」
「その分、治安も考えねばなりません。イスト王国の魔導師団や騎士団による警備、あるいは学園内専門の警備部隊が必要になるかも知れませんね…と、着いたようですよ」
バーンとステラが経営する魔法商店は迷路の様にとても入り組んだ道の先にある。
商店街で一番最初に出来た店、と言うわけではないのだが、バーンとステラが気に入ったスペースがたまたまそこだったと言う話だ。
扉のガラス窓から店内が覗ける、カウンター越しに白金の長い髪が煌めく女性が座っていた。
アリスティアは扉を開けるとカランコロンと歓迎するかの様に音が響く。
アリスティアが店へと入るとカウンター越しのステラは笑顔で出迎えた。
「ステラ様」
「あら姫様、それに王子様もいらっしゃい、お久しぶりね」
「ローゼンスフィア公爵夫人、お久しぶりです。」
ステラは二人を見て微笑む。
「あら、暫く見ないうちに…二人とも…うふふ。」
ニコニコと微笑むステラの考えを察したアリスティアは赤面していた。
「そ、それより。ステラ様、約束のものを持って来ました」
アリスティアは小包みをカウンターのテーブルへと置く。それを見たステラは目をキラキラと輝かせた。
「まあ!これは新しいお茶の準備が必要ね、ほら、姫様も王子様も、その席で座って待っててね」
「はい、わかりました」
アリスティアとジークハルトはステラに言われたまま椅子へと座る。
ステラは小包みを持って店の奥へと行くと、数刻後皿の上に並べられた、クッキーと紅茶のセット一式を持ってアリスティア達の座るテーブルへと置いた。
ステラも椅子に座ると、ティーポットに入った紅茶を注いでいく。
熱々の湯気が立ち上ると芳醇な紅茶の香りが漂い始め、それはなんとも落ち着く香りだった。
「お茶の間、二人のお話聞かせてね。」
「はい、喜んで」
アリスティア達は手作りのクッキーと、ステラの淹れてくれた紅茶を楽しみながら、一時の談笑を楽しんでいた。
学園の庭に設置された長テーブルに置かれた大量の料理は、食事だけを取り揃えた大宴会そのものである。
中には不出来な物もあるのだが、それもご愛嬌と言ったところだろう。
男子生徒の中には、興味のある女子生徒が作った料理であるならば、多少不出来でも誉めてしまう物なのである。
また、女子生徒は素っ気なくするものの、彼女達にとっては、気のある男子生徒に振る舞いたいと言う感情がある物だ。
程なくして男子生徒達の実戦授業も終わると学園の庭にはほぼ全校生徒で埋め尽くされ、立食パーティーの様な状況になっていた。
「人が、いっぱい居ますね…」
「アリス、わたくし達は下手に移動せず、ここでレオンやジークハルトを待つのが得策です、辛いでしょうがこれも妻の役目です」
「そ、そう言うものなのですか…?」
アリスティアとローゼリアの作った料理は結局、長テーブル一個を使うぐらいの量になっていた。
他のグループが三品から四品の料理に対して、アリスティア達のテーブルにはおよそ20~30品目の多彩な料理が並んでいた。
量こそは程々であるものの、二人がそれぞれ想う人に食べてもらいたいから、
だからこそ、ここまで作る事が出来たのだと思うと、アリーシャは胃から砂糖を吐きそうになるぐらいに胸焼けを起こしていた。
数刻してジークハルト、レオン、ヴァルハイトの三人が姿を現すと、アリスティアはジークハルトの頬の傷を見て目の色を変える。
「ジーク…!?その傷、一体どうしたのですか!?」
ジークハルトの元へと血相変えて駆け寄るアリスティア。
彼の頬には、今朝アリスティアが見た時には、そこになかった深い傷が出来ていた。
(ちょっと、なんで仕掛けてんの!?)
(…これは、ただの事故だ)
(…全く、しっかりしてよね…。)
アリーシャはヴァルハイトを小声で小突く、バツの悪そうな彼の顔と、アリスティアと話すジークハルトの表情を見て、それ以上は言う事はしなかった。
だが、アリーシャは少し納得出来ない様な表情であった。
「…アリス、心配かけてしまい申し訳ありません、少しはしゃぎ過ぎてしまいまして…ご覧の有様です」
ジークハルトは心配するアリスティアに苦笑いで微笑んだ。
アリーシャに小突かれたヴァルハイトは顔を背け俯いている様であった。
「わかりました、ジーク…今はそのまま動かないで…」
アリスティアはジークハルトの頬の傷に手を添えて、祈りを込めた。
─癒しを。
アリスティアが呟くと彼女の掌からジークハルトの頬へと伝わる、慈悲深き暖かな光。
それを目の当たりにしたヴァルハイトとアリーシャ。
(…あれは…治療魔法…いや…あの光は聖霊魔法か…?…王子妃は聖霊の加護を受けている…?)
ヴァルハイトはジークハルトの頬に触れるアリスティアのほのかに輝く掌を見て、少し驚いていた。
(…聖霊の加護は絶対に闇を介さない。特定の人間達にのみ、その力を与えると聞く…。ならば、王子や王子妃達は…)
(それって…もしかしなくても…)
(ああ…。ただ、もう少し二人の事を知る必要がある。…何故、サーリャが二人を執拗に狙うのか…。)
ヴァルハルトとアリーシャは二人の動向を真剣な眼差しで見守る。
アリスティアの手が離れると、ジークハルトの頬の傷は、血の跡を残して綺麗さっぱり消えていたのだ。
「これで大丈夫、ジーク、痛みはない?」
「…アリス、いつも、ありがとうございます」
ジークハルトはアリスティアの手を包む様に握り、穏やかに微笑んでいた。
その後、皆で談笑しながら、料理に舌鼓を打つ。
アリスティアとローゼリア、二人の作った料理は甲乙つけ難く、どちらの料理も他の生徒達にも好評のまま、菓子以外の全ての皿が綺麗になっていた。
アリスティアはあらかじめ用意していた包装袋を取り出して、クッキーを丁寧に中に入れて行く。
仕上げにピンクのリボンで閉じると彼女は満足した表情を見せた。
「おや、アリス…それは…」
ジークハルトが小包みに気がつくと、アリスティアは彼に微笑む。
「はい、ステラ様に渡しに行こうかと思いまして約束しといてお待たせし過ぎた感じですが…。」
「では、今日の授業の後に一緒に行きませんか?ローゼンスフィア公爵夫妻が営む魔法商店は、現在学園敷地内にありますし、護衛も要りませんから。」
二人の話ひヴァルハイトは静かに耳を傾けていた。
ジークハルトは以前、学園敷地内で空いているスペースを父王に断りを入れる事なく、彼の独断でバーンとステラに無償提供した。
そこに魔導鉱石や特製魔法薬等、ステラが製造した商品を販売する魔法商店を建てたのだった。
更に、その魔法商店の周辺には、生徒達が護衛を付けて街に出なくても良い様に、ジークハルトが特権と気を利かせると。
青果店をはじめ色々な店を誘致し、様々な店が立ち並ぶ学園内商店街が出来上がっていたのだ。
「ジークも無茶しますね…」
「王族の特権を有意義に使ったまでです、それに、学園の皆も喜んでいるでしょう?」
「ええ、私も凄く助かってます」
アリスティアもマリエルやライザ達を連れて食材を買いに行く。
物価も街で買うよりは安く設定されている為、少し得した気分だ。
ただ、販売されている酒類は料理酒しかない為、男性護衛者の中には、酒類等の嗜好品の導入を求める声も上がっているようだった。
「導入から数ヶ月で、利用者もだいぶ多いみたいですし。先生方や従者や護衛者の要望が大きくなれば、成年対象の嗜好品とかも販売も考えましょうか…まあ、規制は必要ですが。」
「凄いですね、学園の中に街が出来ちゃいます」
「その分、治安も考えねばなりません。イスト王国の魔導師団や騎士団による警備、あるいは学園内専門の警備部隊が必要になるかも知れませんね…と、着いたようですよ」
バーンとステラが経営する魔法商店は迷路の様にとても入り組んだ道の先にある。
商店街で一番最初に出来た店、と言うわけではないのだが、バーンとステラが気に入ったスペースがたまたまそこだったと言う話だ。
扉のガラス窓から店内が覗ける、カウンター越しに白金の長い髪が煌めく女性が座っていた。
アリスティアは扉を開けるとカランコロンと歓迎するかの様に音が響く。
アリスティアが店へと入るとカウンター越しのステラは笑顔で出迎えた。
「ステラ様」
「あら姫様、それに王子様もいらっしゃい、お久しぶりね」
「ローゼンスフィア公爵夫人、お久しぶりです。」
ステラは二人を見て微笑む。
「あら、暫く見ないうちに…二人とも…うふふ。」
ニコニコと微笑むステラの考えを察したアリスティアは赤面していた。
「そ、それより。ステラ様、約束のものを持って来ました」
アリスティアは小包みをカウンターのテーブルへと置く。それを見たステラは目をキラキラと輝かせた。
「まあ!これは新しいお茶の準備が必要ね、ほら、姫様も王子様も、その席で座って待っててね」
「はい、わかりました」
アリスティアとジークハルトはステラに言われたまま椅子へと座る。
ステラは小包みを持って店の奥へと行くと、数刻後皿の上に並べられた、クッキーと紅茶のセット一式を持ってアリスティア達の座るテーブルへと置いた。
ステラも椅子に座ると、ティーポットに入った紅茶を注いでいく。
熱々の湯気が立ち上ると芳醇な紅茶の香りが漂い始め、それはなんとも落ち着く香りだった。
「お茶の間、二人のお話聞かせてね。」
「はい、喜んで」
アリスティア達は手作りのクッキーと、ステラの淹れてくれた紅茶を楽しみながら、一時の談笑を楽しんでいた。
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