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本編・アリスティアの新学期

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騒動が去ったにも関わらず、あの広告の文章は生徒達の頭から離れる事はなかった。
それよりもあの広告は、有りもしない虚言におひれせひれと、どんどん有る事無い事を装飾していったのである。

生徒達はアリスティアとジークハルトが在学している為なのか、表では何も言わないものの、皆それぞれが陰であーではないか、こーではないかと、本人達の気持ちや現状にも関係ないまま、一種の娯楽として好き勝手に噂していている様であった。

それは、狙っていたのかそれとも極自然的な流れなのか、ふとしたきっかけで学園内だけでは留まらず、イストの国中に波及していく事となった。

その結果、状況を重く見た現国王のレオルスと王妃ルビアーナが、アリスティアとジークハルトが生活する同棲寮へと、血相を変えて乗り込んでくる始末であったのだ。

再開したルビアーナの胸元には、アリスティアがプレゼントしたネックレスが輝いていた。
その為、正直な所、騒動などそっちのけでアリスティアは内心喜んでいたのだった。

「ジークハルト、事を軽く見過ぎた様だな。」

レオルスはジークハルトを叱るわけでもなく、静かにそう言った。

「はい、その通りです、まさかこの様になるとは…面目もございません。」

全面的に非を認め、大分落ち込んでいるようであった、ジークハルトにしては珍しい。
アリスティアにはそう思えた。

「…今回の件でアリスにまで迷惑を掛けてしまった事は、重く受け止めねばなりませんよ?」

ルビアーナは諭す様に言う。
アリスティアにはジークハルトが、両親から責められている様な気がして、少し悲しい気持ちになっていた。

「…義母様…私は今回の件を迷惑などと思っていません…。」

「…アリス…学園内で留めるつもりが国中に広まってしまいました。これは私の落ち度です、あの時に手を打っていればこの様な事には…。」

それでもジークハルトには、一切の落ち度が無いと、アリスティアはそう思っていた。

「ジークは私を助ける為に、その様な対応をする時間など、無かったではないですか!それに私は根も葉もない噂などに負けたりしません…!」

アリスティアの言葉にレオルスもルビアーナも、そして、俯いていたジークハルトも微笑む。

「…噂を意図的に流した者が居た」

「…えっ!?」

レオルスの言葉にアリスティアは驚いた。流言は国内に意図的にばら撒かれたのだ。

「学園敷地内に出入りしている者でな、その者はイストの騎士団が既に捕らえた。だが、流された出鱈目な噂を消し去る為にはより衝撃のある状況を作る事が必要なのだ。」

レオルスの言葉に静寂が流れる。
一体どうすれば良いのだろう…?そうやってアリスティアとジークハルトが思い悩んでいた時である。
ルビアーナが満面の笑顔で提案をした。

「簡単ですよ、アリス、それにジークハルト。」

「義母様…どうすれば良いのですか?」
 
アリスティアがルビアーナに尋ねると、彼女は片目で弾ける様なまばたきをした。

「国中の貴族達を招待し、イスト王城にて晩餐会を開くのです。二人の結婚報告を大々的に発表した晩餐会を、ね。」

「実に名案だ。国が公の場で大々的に道を示せば、下手な流言は全て封殺できる。娯楽以上のことをすればどうなるか、と見せしめも行えよう!」

レオルスは豪快に笑っていた。
しかし、その反面ルビアーナは冷静な表情である。

「…これを行えば、品性下劣な流言など一気に消し飛ぶでしょう。しかし…」

「何か問題でも…?」

何処か言葉に迷いのあるルビアーナに、アリスティアは恐る恐る尋ねた。

「…これを行えばもう後には引けません。晩餐会を開けばアリス…貴女はその日から、名目上ジークハルトの妻、そしてイストの王族と言うことになります。それは即ち…今後はイストの公務にも参加してもらいますし、私が何よりも不安に思うのは、国内でジークハルトを良く思わない者達から、生命を狙われる事になるかもしれません。」

ルビアーナはアリスティアの事を気にかけている様であった。イスト王国での立場が客人から王族に変わる、もとよりアリスティアが望んでいた事である。
改めて言われると気持ちが引き締まる思いのアリスティアであった。

「…実際にアリスが生命を狙われたと言う話も聞きました、ですから…貴女達二人が在学中の身で、この件を無理強いをするつもりはありません…。」

ルビアーナはそう言うものの、アリスティアとジークハルトの決意は既に固まっていた。
ジークハルトと共に手を握り、アリスティアは決意の眼差しをルビアーナに向けていた。

「義母様、私は既にイスト王国…ジークの元に嫁いだ身です。今更、私に降りかかる災厄などに恐れはしません。」

「母上、私もアリスと同じ気持ちです。何よりアリスにその様な火の粉が降りかかる様であれば、私が全力を持って振り払いましょう。」

二人のその言葉を聞いて、レオルスもルビアーナも、満足した様な表情でお互いの視線を合わせあった。
アリスティア自身、イストに来てからこの意思が変わった事など一回もなかった。

「…流石、我が息子だ。ならば己の言う通りに実行してみせよ。必ずアリスティアをその手で護るのだぞ。」

「二人も乗り気な様ですし、今回は王国内向けの晩餐会ですが…イストの総力を持って、是非とも楽しい会にしましょうね。」

レオルスとルビアーナは二人に微笑む。
この先の未来で何があるか、まだわからない。
確かに不安な要素や、まだ解決してない事も多々あるのは事実だ。
しかし、今、アリスティアの隣にいるジークハルトや、目の前にいる国王レオルス、王妃ルビアーナ、そしてイストに住む、他の様々な人たち。
皆と協力していけば自ずと未来はひらけて行くのでは無いだろうか。
そう思うアリスティアの瞳には力強い覇気が宿っていた。
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