隣の席の一条くん。

中小路かほ

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教室で

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「ひらりが、一条くんのことが気になってることくらい、わかってるんだから~♪」


『白状しなさい!』と言わんばかりに、彩奈に脇腹をくすぐられる。

止まらないくすぐり攻撃に、お腹が痛くなるまで笑ってしまう。


わたしが観念しない限り、やめてくれそうにない。


「…わかった!わかったから~…!」


笑いすぎて、息もまともにできない。


そもそも、今まで恋をしたことがなかったから、そんな話も彩奈にしたことがなかった。

それに、わたしが恋をすることは事務所が許してくれない。


だから、だれかに打ち明けることすらないと思っていたけど――。


わたしのわずかな気持ちの変化にも気づいた…親友の彩奈になら。

…話してもいいかもしれない。



「このことは、絶対周りには秘密してほしいんだけど…」

「うん、わかってるよ。“恋愛禁止”のアイドルだもんね。ってか、それ言ってる時点で、ひらりの気持ちは決まってるじゃんっ」


彩奈にそう言われて、ハッとした。


ほんとだっ。

恋なんかしてなかったら、こんな念押しすることもないもんね。


「好きなんだ?一条くんのことっ」


口元が緩む彩奈の問いに、わたしはゆっくりと頷いた。


わたしの反応を見て、彩奈がニヤニヤと笑うものだから、なんだかこっちが恥ずかしくなってきた。


「いいんじゃな~い?一条くん。こわそうな見た目だけど、実は優しいっぽいし」

「そうなんだよね。一条くんって、みんなに優しいよね。わたしに勉強だって教えてくれるんだし」


自分の時間を割いてまで、放課後わたしに付き合ってくれるんだから。


わたしがそう言うと、急に彩奈の表情が真顔に変わった。


「ああ、それは違うよ」


顔の前で、手を左右にブンブンと振る彩奈。


「一条くん、だれにでも勉強教えるわけじゃないみたいだよ」

「どうして?」

「だってアタシ、断られたもんっ」

「…えっ!?」


一条くんが、彩奈を断った…!?

さっきは、あんなにすんなりオッケーしてくれたのに?


「先週、一条くんにわからないところを教えてって言ったんだけど、『俺じゃなくて爽太に聞けば?』って言われて~」

「まぁ、爽太くんも勉強できるもんね。それに、爽太くんは彩奈の彼氏だからじゃないの?」


きっと、一条くんも気を遣ったんじゃないのかな?


「ん~…。それはそうかもしれないけど、ひらりがいない間にも、一条くんに話しかけにきた女子が何人もいたけど、どれも相手にしてなかったよ?」


一条くんが…女の子を無視?


一条くんのことを知らないままだったら、そんな場面もなんとなく想像がつく。


だけど、本当は話しかけたらしゃべってくれるのに、なんで一条くん…そんなこと。


わたしが不思議に思っていると、彩奈がやれやれというふうにため息をつく。


「ひらり、わからないの~?」

「…わからないよっ。だって一条くん、わたしのときは――」

「そう、それだよ!一条くんは、ひらりにだけ優しいのっ」


…え?

わたしにだけ…?


「フツー、気づくでしょ!一条くんの態度見てたらっ」

「…いやいや、全然気づかないから!だって、わたしが一方的に好きなだけで――」

「なに言ってんの?あんたたち、両想いだからっ」


彩奈の『両想い』という言葉に反応して、顔がぽっと熱くなる。


わたしは、一条くんのことが好き。

一条くんも、わたしのことが……?


…なんてことを考えたら。

やばい……、なんか緊張してきたっ。


で…でも、まだ彩奈の勘違いって可能性も否定できない。


――と、そこへ。


「…まだ?」


わたしと彩奈だけしかいない教室に、ドアを開けて一条くんが顔を出した。

先に図書室に行った一条くんだったけど、わたしが遅いから様子を見にきたんだ。


「ごめんごめん!ひらりと話し込んじゃって」

「島田さんとしゃべってるんだろうなとは思ったけど…。そんなに長くなるような話?」

「うん、まぁ~ねっ。ひらりが、一条くんのことを好きって話…♪」


そうそう。

わたしが、一条くんのことを好きって話――。


「…えぇっ!?」


びっくりしすぎて、思わず変な声を漏らしてしまった。


ちょ…ちょちょちょちょ、彩奈…!

一条くん本人に、なに言っちゃってるの…!?


彩奈の突然の暴露に、開いた口が塞がらなかった。


こんなの…告白したようなもの。

わたし、どんな顔して一条くんを見ればいいのかっ……。


それに、一条くんだって返事に困るに決まってる。


この間が……なんかいやだ。


一条くんは、今なにを思っているのだろうか…。


彩奈の言葉を本気にしてる?

それとも、冗談と思って流す…?


一条くんは、なんて返してくるのかと思っていると――。


「ふ~ん。そうなんだ」


…だけだった!


「そんなことより、あんまり時間ないんだから行くよ」


…拍子抜けたっ。


一条くんのことが好きというわたしの気持ちは、『そんなこと』で片付けられてしまい、まるで何事もなかったかのような振る舞い。


この…、あっさりとした対応…。


やっぱり、一条くんもわたしのことが好きというのは、彩奈の勘違いだったみたい。


少しだけ…。

ほんの少しだけ期待してしまっていたから、天国から地獄へ突き落とされた気分だ。


だから、勝手に振られた気になってしまった。



「じゃあ島田さん、また明日」

「うん、また明日!ひらり、一条くんっ」


彩奈に見送られながら、わたしは重い足取りで図書室へと向かうのだった。
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