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臆病者の恋
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「俺にしとけよ」
平沢は俺の両の二の腕を掴み、珍しく真剣な顔でそう言った。いつも機嫌良さそうににこにことした表情は影を潜めていた。大学図書館前で何やら揉めている二人の男の姿は、否が応にも周囲の耳目を集めてしまう。俺は平沢の手を振りほどくと、彼に目配せして歩き出した。おとなしく隣についてくる。
「……何の話?」
今日は授業の予定ももうないので、これから繁華街の例のバーに行くつもりだった。昨日から何だかもやもやして、とにかく誰かに抱かれたかったのだ。正直なところ、わざわざ電車に乗って、気に入った人を探して、ホテルに行ってセックスするのは面倒臭い。アナニーで満足できればそれに越したことはないのだけれど、一度他人の味を覚えてしまうと、自分では満足できなくなってしまったのだから仕方がない。
「――だからさ、俺にしとけよ」
俺はぴたりと足を止めた。まさかこいつ、セックス相手のことを言ってるのか。平沢の顔を見上げると、顔を真っ赤にして俺のことを泣きそうな顔で睨んでいた。
昨日、酔って少し気が緩んでいらぬ告白をしてしまった。それに対して平沢は真剣に心配し、怒っていたように思う。正直なところ、ありがた迷惑かつ大きなお世話でしかない。俺はセックスが――男に抱かれるのが好きなのだ。
それなら俺が相手になってやる、というのが平沢の出した解決策らしい。馬鹿げている。
「……冗談」
「本気だ」
「お前には無理だろ」
「無理じゃない」
埒があかない。大学構内を抜けて近隣の駅に着くまでずっと、できる・できないの押し問答が続いた。平沢はどこまでついてくるつもりだろう。そもそもこいつはバイク通学なのに、学校に置いてきてしまってどうする気なのか。
「お前、どこまでついてくる気だ」
「お前が了承するまで」
「だから……」
実のない問答を延々と続けたせいか、何だか急激にどうでもよくなってきた。それならば、できないという証拠を突きつけるまでだ。今までヘテロとしてのびのびと思い悩むこともなく暮らしてきた奴が、急に男を抱くことなんてできやしないはずだ。まあ、完全な異性愛者はいないと言われているし、俺だってアナニー好きが高じて本物を挿れてみたくなっただけのただの淫乱なのだから、同性愛者の苦悩も知らずにコイツ、などと言える立場ではないのだが。
そもそも、自分が本当に同性「愛」者と言えるのかどうかすらよく分からない。何故なら、今まで人を好きになったことがないからだ。別に、恋愛なんてくだらない、などとしたり顔で嘯くつもりはない。できるのならすれば良い。だが、幾ら知識として恋愛感情がどんな作用を脳に起こすかを知っていたところで、その気にならないのだから仕方がないではないか。まず他人に対する興味が薄いのが駄目なのだろう。まともな友達――少なくとも学外でも話したり遊んだりするような友達ですら平沢ぐらいしかいないのに、況や恋愛に於いてをや、である。
――そんな唯一とも言える友人とセックスだって?
全く冗談じゃない。本当に冗談じゃない。そんなことは考えるのも厭だが、現実を突きつけなければこいつは納得しないだろう。思い立ったら壁に突き当たるまで諦めない粘り強さは平沢の美点だと思っていたが、こうなってみるとなかなかに面倒くさい。
「――だったら、うちに来い」
平沢はごくりと喉を鳴らし、赤い顔で黙って頷いた。俺なんかのためにご苦労なことだ。普通に可愛い彼女を作って俺の分まで真っ当で幸せな家庭を築いていける奴なのに、わざわざ好んで自ら傷を負おうとするのだから、見た目通りのとんだお人好しだ。
二人して黙り込んだまま電車に揺られている間、俺は車窓を流れる景色を見つめたまま、ずっと平沢の視線を頰に感じていた。それにしても、家が近くにつれ、俺の気分は落ち込んでいく一方だった。あまりにも話を聞かないものだからつい投げやりになってしまったが、冷静になってみると俺は何てことをしでかしてしまったのだろう。既に後悔の気持ちでいっぱいだった。
せっかく気の合う友達ができたと言うのに、もしかしたら今日でそれも終わるかもしれないのだ。
だって、知り合いとのセックスなんて気まずいに決まってる。あんなものは匿名で行きずりだからこそ没頭し、箍を外すことができるのだ。俺には「佐藤涼介」という、こいつには「平沢圭」という呪いにも似た枷が常にはまっている。それにはこれまでに生きる過程で所属し、作り上げたものが全てぶら下がっていて、普段は気づきもしないが、それらは押し潰されそうなほどに重い。たまにそれを外して、身一つで快楽に溺れるのは、すごく気持ちが良かった。
それなのに。と、俺は平沢の方を一瞥した。顔を赤くした平沢が弾かれたように目線を彷徨わせ、俯いた。今度は俺が平沢の横顔をじっと観察する。凛々しい眉にくっきりとした二重。長い睫毛が目元に影を落としている。男臭く、どちらかというとバタ臭い顔立ちだ。いつもは人好きのする明るい微笑を湛えているのだが、今はこれから行うことに緊張しているのか口元は固く引き結ばれていた。
性格的に男子とも女子とも苦もなく仲良くやっていけるような奴が、なぜ俺などにこだわるのか、全くもって理解に苦しむ。だが、あの図書館での一件以来、平沢は俺とつるむようになった。平沢がよく机の上に置いていたあの古いSF小説。俺は乱読派で何でも読むから、図書館で見かけて借りてみたのだが、一番賢い生物はネズミであるとか、「生命、宇宙、そして万物についての究極の答え」は42であるとか、突拍子もなくてスラップスティックでなかなか面白かった。
しかし何より、あの本を俺が持っていたことに気付いた時の平沢のぱっと晴れ渡ったような表情が一瞬にして心に焼きついた。そして自分の好きなものを何の屈託もなく好きだと言える素直さに、俺は感心したのだ。ああ、こいつはいい奴なんだなあ、と少し話してみてすぐに分かった。
とにかく平沢は人の意見を頭から否定しない。全部受け入れる付和雷同な人間という意味ではない。お前はお前、俺は俺でちゃんと整理した上で、その差異を面白いと受け入れられる寛容さがあった。今回のことだってそうだ。平沢なら俺の妙な性的嗜好だって受け入れてくれるだろうと、そういう甘えがあった。実際、嗜好に関して言えば否定はされてはいない。誰とでも、という部分に関しては――まあ常識的な人間なら止めるだろう。そこは仕方がない。
しかしまさかこんな事になるとはなあ――。
平沢を伴って帰宅し、取り敢えず荷物を下ろす。時計を見ると午後三時を少し過ぎたところだった。平沢は俺の方をちらちらと見ながら所在なげに立ち尽くしている。何だか可哀想になってきた。
「……やめるなら今のうちだけど」
そう声をかけると首を振り、ベッドと小さなローテーブルの間に座り込む。俺はその頑なな肩の線を見つめ、小さく溜め息をつくと冷蔵庫を指差した。
「飲み物、勝手に飲んでくれていいから。……俺、シャワー浴びてくる」
「ん」
カーテンも開けないままの薄暗い部屋の中、平沢の耳が赤く染まっているのが分かった。もう一度、小さく溜め息をついて洗面所へと向かう。手早く服を脱ぎ、慣れた手順で直腸の中を綺麗にし始める。
ああ、厭だな。平沢とセックスの真似事をするなんて厭だ。自らの精神的にも物理的にも汚らしくいやらしいところを唯一の友人の前で晒すなんて厭だ。何より、俺に反応できないことを真面目に気に病むであろう平沢の顔を見るのが厭だ。それが当然なんだ、と言ったところで駄目だろう。平沢とは――屈託のないただ友達でいたかった。
いっそ部屋に戻ったらいなくなっていればいいのに。そう思いながら俺は新しいボクサーパンツをに足を通し、迷った末にさっきまで着ていたシャツを素肌に羽織った。裸足で床に降り立つ。部屋には、試合に臨む剣士のようにぴんと背筋を伸ばし、蹠を立てた正座の平沢の背中が見えた。俺はその悲しくなるほど綺麗な姿勢から目を逸らせた。傍らのテーブルの上には何も乗っていなかった。
「……何でも飲んでくれて良かったのに」
平沢は音もなくしなやかに立ち上がった。振り向いて、俺の姿に少し動揺した後、こちらを見つめたまま一歩踏み出した。
「チューハイしかなかったから。……俺は、これからのことを酒の勢いとかにしたくない」
真っ直ぐな目が突き刺さり、胸が痛んだ。本当に、いい奴なのだ。それを俺はこれから壊さなくてはならない。俺は小さく溜め息をつくと、棚の上にあったリモコンを手に取り、エアコンの温度を上げた。どうせ体温は上がることなく終わる。シャツを羽織っただけでは肌寒かった。
「……お前も脱げよ」
俺はベッドに腰を下ろし、立ったままの平沢を見上げた。平沢は頰を上気させたまま、いたく真面目な顔で着ていたTシャツに手をかけた。背中からたくし上げ、首を抜く。薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から射す一本の細い陽光が、剣道で鍛えたというギリシャ彫刻のような身体に複雑なラインを描いた。見惚れるほどに引き締まった綺麗な肉体だった。カーゴパンツを脱ぐか脱ぐまいか悩んで、結局上半身だけ裸の姿で平沢は俺の隣に座った。だが俺は入れ替わるように狭いベッドにさっさと寝転がる。
視界いっぱいの見慣れた天井。俺の体臭が染みついた引きっぱなしの敷布団。顔を横に向ければ、実家からわざわざ持ち込んだお気に入りのものや、入学してから増やした本が詰め込まれた大きな本棚。それらは紛れもなく俺にとっての日常で、この非現実的な時間が現実と地続きであることを否応なく突きつけられ、息が詰まった。
ぎしり、とスプリングが軋んだ。脇の下辺りが重みで沈む。見上げると、俺の上に覆い被さった上半身裸の平沢が、熱っぽい目で俺を見つめていて――俺は急激に死にたくなるほど恥ずかしくなった。耳まで真っ赤になった自分の顔を上げた両腕で隠す。
考えてみれば、俺は今まで、自分のテリトリー内でセックスしたことがなかったのだ。自分の家で、互いに互いをよく知る人間相手に、本来秘するべき精神的・肉体的恥部を晒す。俺という情報の全てが紐付けられたまま、「佐藤涼介」として「平沢圭」と相対する――。
「や、やっぱやめよ、平沢……」
額や顎の下、脇腹の辺りから変な汗を吹き出しながら、羞恥に炙られた顔を隠し、蚊の鳴くような声で言った。半泣きと言っていい。俺はもう、ただただ今の状況が恥ずかしくて、情けなくて、消えてしまいたい気持ちでいっぱいだった。煽るべきではなかった。試すべきではなかった。完全に拒絶して、一線越えるための足すら上げさせてはならなかったのだ。
「厭だね。俺は涼介を抱くんだ」
それなのに、平沢は隠した腕の隙間から覗く耳元に、いつもはソフトな声を艶めかせてそう囁いたのだった。思わず変な声が漏れそうになるのをかろうじて堪える。まるで頭の中に心臓があるかのようにどくどくと耳の奥で拍動が谺した。腕が掴まれ、閉じた瞼の上から薄明るい光が射した。涼介にはきっと、真っ赤に染まった俺の顔が見えているのだろう。そう思うと更に羞恥が深まり、じわりと汗が吹き出す。それを隠そうと俺は腕を上げようとしたが、容易く平沢の腕に阻まれてしまった。
「涼介」
せめてもと横を向いたままの俺のこめかみに柔らかなものが押し付けられた。それから、まるであやすように、固く閉じた瞼に、熱を持った頰に、強張った口元に、ちゅ、ちゅ、と湿った音を立てて吸い付いた。たまにふわりと漂ってくる平沢の体臭がふと鼻腔をくすぐり、現実が俺を打ちのめす。俺はもう耐えきれなくなって正面を向いた。
「平沢っ……も、やめ――」
触れ合う額。擦れ合う鼻先。至近距離で覗き合う瞳。俺の腕を押さえ込んでいた平沢の掌がゆっくりと這い上がり、指の間に平沢の無骨な指が次々と滑り込んでくる。その手の繋ぎ方に、俺は平沢の意図をやっと察した。
こいつは俺を恋人のように抱こうとしている――。
「平沢……ん、っ……」
柔らかい唇が重ねられた。俺は口付けというものがどうも嫌いだった。よく知りもしない奴に顔を触られるのが厭なのだ。頭部というのは五感の集合体であり、内部にも外部にも情報が集積する器官だ。謂わば急所と言っていい。見知らぬ男に身を任せられるくせに、頭部にだけはやけにこだわりがあった。下手に傷などつけられても隠せないからだ。
だから、いつも抱かれる時は大きな伊達眼鏡をかけて、顔を覚えられないように、顔に触れにくいようにしていた。それでも何度か口付けられたことはあったが、気持ち悪くて仕方がなかった。けれど、平沢はもちろん俺の顔を知っているし、酷いことをするような奴ではない、ということを俺は知っている――。
平沢は何度も唇を啄ばみ、下唇を甘噛みし、時折舌先で舐めた。ぞくぞくと背筋を甘いものが走っていく。気持ち悪いはずの口付けは、唇が性感帯であることを教えるばかりで俺は困惑した。時折、平沢の前髪が皮膚を掠めるだけで、くすぐったさの中に甘さを感じて身をすくめた。口付けながら、平沢が片手で俺の頰や耳を撫で、髪に指を差し入れ、優しくまさぐる。自由になった手で口付けを止めさせるために平沢の肩口に触れたが、その肌の熱さに指先が、じん、と痺れた。
「涼介……」
興奮に掠れた囁きに目を開けると、間近で平沢の茶色い瞳とぶつかり、思わずぎゅっと強く目を閉じた。ふ、と平沢が息だけで笑う。格好の悪いところを見られていると思うと余計に熱が上がっていく。再度唇が押し付けられ、熱い舌が唇を割り込み、内側を舐めた。髪に差し入れられた指の腹で優しく地肌を撫でられ、さざ波のように甘さが全身に伝播していく。力の抜けた口内に熱い舌が侵入した。
「んっ……」
舌先同士が触れ合う。ぬめりとざらつき。舌の裏を舐められ、誰のものとも知れないとろりとした唾液が舌を伝い落ちていく。かすかにミントの味がする。くちゅくちゅといやらしくくぐもった音が、激しく脈打つ鼓動とともに脳を掻き回す。どこかスパイシーで、シャンプーか何かと混ざってかすかに甘い平沢の嗅ぎ慣れた体臭。震える瞼を開くと、こちらをじっと観察する興奮に濡れた平沢の瞳と視線が絡む。
酸欠のようにぼんやりとした頭で思う。五感の全てが揃った頭部で粘膜同士を絡ませ合う口付けというものは、もしかすると最もいやらしい行為なのではないだろうか。何しろ、頭部というのは性感を生み出す脳髄が仕舞われている部位なのだから。
唇がようやく離れ、いつの間にか名残惜しそうに飛び出していた舌先を慌てて口内に引き込んだ。何度も擦れ合った唇はびりびりと痺れていた。恥ずかしさに横を向き、恋人繋ぎをされたままの自分の手に鼻先を擦り付けるようにして顔を隠す。また、ふ、と平沢が息だけで笑った。
「……っ」
顔を背けたことで露わになった首筋に唇が押し付けられた。熱い舌が首筋を辿り、胸板に口付け、ふと離れた。薄く横目で見ると、つんと勃ち上がった胸の尖りを観察しているようだった。アナニーのついでに乳首も触っていたから、小さいながらもそこは今では立派な性感帯となっている。熱い息に、敏感な皮膚が震える。
「……舐めていい?」
今更それを訊くのか。
「……勝手にすれば」
つっけんどんにそう言うと、笑みを含んだ目でこちらを見つめたまま、平沢は赤い舌を出した。……あ、触れる。触れてしまう。俺はその舌の動きから目が離せない。
「……、ぅ」
小さな肉の粒を平沢の舌先が捉えた。くにくにと舌先で弾かれ、切ない疼きが身体を駆け巡る。繋いでいた指に力がこもり、応えるように平沢の親指が俺の親指の付け根を撫でた。それだけで俺は思わず身体を揺らしてしまう。
「っ、……っ」
気を良くしたのか、平沢はむしゃぶりつくように乳首にかじりついた。吸い立てられ、甘噛みされ、舐められる度に走る切ない感覚に腹筋がわななく。脇腹を撫でる平沢の手には俺の反応は逐一フィードバックされているのだろうと思うと何だか悔しく、腹立ち紛れに口を開いた。
「……そんなとこ、舐めて楽しいか? お前の好きな大きいおっぱいじゃないから、……っ、やりづらいだろ……?」
だからもうやめよう。言外にそう滲ませた俺の言葉に平沢は目を細め、胸板に鼻先を埋めるようにして強く吸った。痛みと快感が綯交ぜになった強い痺れに、思わず平沢の額を掌で押した。
「涼介が気持ちよさそうだから、すごく楽しいよ」
額に押し当てた俺の掌を掴み、平沢はその手に唇を押し当てた。指の股の間を舌先がぬるりと滑り、俺は身体を震わせる。羞恥に泣きそうな顔で睨みつける俺に目を細めて笑うと、今度はその手を自分の頭へと滑らせた。ワックスでかすかにごわついたコシのある髪が指の間をすり抜けていく。髪に差し入れたままの俺の手の甲をぽんぽんと叩いた後、平沢はまた目に前の乳首にしゃぶりついた。
「……っ、おい、あんま、吸うな……、っ」
「ごめん、痛い?」
指に絡めた髪を少し引っ張ると、平沢は眉を八の字に下げ、神妙な顔をした。その口元には強く吸われて赤く充血し、山型にひしゃげた胸の尖りがぬらぬらと濡れ光っていて、俺はいやらしく変形したそこから思わず目を逸らす。
「……吸引すると肥大するらしいから、やなんだよ……」
「……そっか」
もごもごと言い訳をすると、平沢は安堵したように笑い、そこに軽く口付けてから反対側に頭を移動させた。指の間から髪がすり抜け、手持ち無沙汰になった手をシーツへと落とした。指先にあったぬくもりがみるみるうちに失われていくのが何だか寂しかった。
「……っ、ふ……」
舌と指の両方が、敏感な乳首を捏ね回す。俺の上で頭だけ下げた四つん這い姿勢になっている平沢はまだ気づいていないだろうが、乳首を弄られる度に俺の腰は跳ね、下着の中で肉竿は既に勃ち上がり始めていた。乳首からの甘い刺激は、何故か腰の奥を切なく疼かせる。平沢の丹念な愛撫が容赦なく俺を追い上げていく。俺はなるべく変な声を聞かせないように、余裕あるように見せかけることに必死だった。
だって、俺はすっかりできあがりつつあるのに、平沢にその可能性はないのだから。
俺の角度からは見えないが、こんなことをしたところで勃つわけがないのだ。俺がしゃぶればワンチャンあるかもしれないが、平沢が男の身体を触ったところで欲情する要素がない。「ほらな、そう言っただろ。だから気にすんなって」と、俺は平沢に言わなければならない。自分だけ燃え上がった身体を隠して。
俺たちは元の、ただの気の合う友人に戻れるのだろうか。
まだ、今なら――。
「っ、平沢ぁ……」
俺は覆い被さっていた平沢の身体を力づくで押しのけると、脚を抱え込んで横向きの胎児のように丸くなった。鼻の奥がツンと痛んで、じわりと涙腺が緩んだのが分かり、俺は枕に顔を埋めた。
「……やっぱやめよう。お前とは、厭だ……」
平沢は俺の両の二の腕を掴み、珍しく真剣な顔でそう言った。いつも機嫌良さそうににこにことした表情は影を潜めていた。大学図書館前で何やら揉めている二人の男の姿は、否が応にも周囲の耳目を集めてしまう。俺は平沢の手を振りほどくと、彼に目配せして歩き出した。おとなしく隣についてくる。
「……何の話?」
今日は授業の予定ももうないので、これから繁華街の例のバーに行くつもりだった。昨日から何だかもやもやして、とにかく誰かに抱かれたかったのだ。正直なところ、わざわざ電車に乗って、気に入った人を探して、ホテルに行ってセックスするのは面倒臭い。アナニーで満足できればそれに越したことはないのだけれど、一度他人の味を覚えてしまうと、自分では満足できなくなってしまったのだから仕方がない。
「――だからさ、俺にしとけよ」
俺はぴたりと足を止めた。まさかこいつ、セックス相手のことを言ってるのか。平沢の顔を見上げると、顔を真っ赤にして俺のことを泣きそうな顔で睨んでいた。
昨日、酔って少し気が緩んでいらぬ告白をしてしまった。それに対して平沢は真剣に心配し、怒っていたように思う。正直なところ、ありがた迷惑かつ大きなお世話でしかない。俺はセックスが――男に抱かれるのが好きなのだ。
それなら俺が相手になってやる、というのが平沢の出した解決策らしい。馬鹿げている。
「……冗談」
「本気だ」
「お前には無理だろ」
「無理じゃない」
埒があかない。大学構内を抜けて近隣の駅に着くまでずっと、できる・できないの押し問答が続いた。平沢はどこまでついてくるつもりだろう。そもそもこいつはバイク通学なのに、学校に置いてきてしまってどうする気なのか。
「お前、どこまでついてくる気だ」
「お前が了承するまで」
「だから……」
実のない問答を延々と続けたせいか、何だか急激にどうでもよくなってきた。それならば、できないという証拠を突きつけるまでだ。今までヘテロとしてのびのびと思い悩むこともなく暮らしてきた奴が、急に男を抱くことなんてできやしないはずだ。まあ、完全な異性愛者はいないと言われているし、俺だってアナニー好きが高じて本物を挿れてみたくなっただけのただの淫乱なのだから、同性愛者の苦悩も知らずにコイツ、などと言える立場ではないのだが。
そもそも、自分が本当に同性「愛」者と言えるのかどうかすらよく分からない。何故なら、今まで人を好きになったことがないからだ。別に、恋愛なんてくだらない、などとしたり顔で嘯くつもりはない。できるのならすれば良い。だが、幾ら知識として恋愛感情がどんな作用を脳に起こすかを知っていたところで、その気にならないのだから仕方がないではないか。まず他人に対する興味が薄いのが駄目なのだろう。まともな友達――少なくとも学外でも話したり遊んだりするような友達ですら平沢ぐらいしかいないのに、況や恋愛に於いてをや、である。
――そんな唯一とも言える友人とセックスだって?
全く冗談じゃない。本当に冗談じゃない。そんなことは考えるのも厭だが、現実を突きつけなければこいつは納得しないだろう。思い立ったら壁に突き当たるまで諦めない粘り強さは平沢の美点だと思っていたが、こうなってみるとなかなかに面倒くさい。
「――だったら、うちに来い」
平沢はごくりと喉を鳴らし、赤い顔で黙って頷いた。俺なんかのためにご苦労なことだ。普通に可愛い彼女を作って俺の分まで真っ当で幸せな家庭を築いていける奴なのに、わざわざ好んで自ら傷を負おうとするのだから、見た目通りのとんだお人好しだ。
二人して黙り込んだまま電車に揺られている間、俺は車窓を流れる景色を見つめたまま、ずっと平沢の視線を頰に感じていた。それにしても、家が近くにつれ、俺の気分は落ち込んでいく一方だった。あまりにも話を聞かないものだからつい投げやりになってしまったが、冷静になってみると俺は何てことをしでかしてしまったのだろう。既に後悔の気持ちでいっぱいだった。
せっかく気の合う友達ができたと言うのに、もしかしたら今日でそれも終わるかもしれないのだ。
だって、知り合いとのセックスなんて気まずいに決まってる。あんなものは匿名で行きずりだからこそ没頭し、箍を外すことができるのだ。俺には「佐藤涼介」という、こいつには「平沢圭」という呪いにも似た枷が常にはまっている。それにはこれまでに生きる過程で所属し、作り上げたものが全てぶら下がっていて、普段は気づきもしないが、それらは押し潰されそうなほどに重い。たまにそれを外して、身一つで快楽に溺れるのは、すごく気持ちが良かった。
それなのに。と、俺は平沢の方を一瞥した。顔を赤くした平沢が弾かれたように目線を彷徨わせ、俯いた。今度は俺が平沢の横顔をじっと観察する。凛々しい眉にくっきりとした二重。長い睫毛が目元に影を落としている。男臭く、どちらかというとバタ臭い顔立ちだ。いつもは人好きのする明るい微笑を湛えているのだが、今はこれから行うことに緊張しているのか口元は固く引き結ばれていた。
性格的に男子とも女子とも苦もなく仲良くやっていけるような奴が、なぜ俺などにこだわるのか、全くもって理解に苦しむ。だが、あの図書館での一件以来、平沢は俺とつるむようになった。平沢がよく机の上に置いていたあの古いSF小説。俺は乱読派で何でも読むから、図書館で見かけて借りてみたのだが、一番賢い生物はネズミであるとか、「生命、宇宙、そして万物についての究極の答え」は42であるとか、突拍子もなくてスラップスティックでなかなか面白かった。
しかし何より、あの本を俺が持っていたことに気付いた時の平沢のぱっと晴れ渡ったような表情が一瞬にして心に焼きついた。そして自分の好きなものを何の屈託もなく好きだと言える素直さに、俺は感心したのだ。ああ、こいつはいい奴なんだなあ、と少し話してみてすぐに分かった。
とにかく平沢は人の意見を頭から否定しない。全部受け入れる付和雷同な人間という意味ではない。お前はお前、俺は俺でちゃんと整理した上で、その差異を面白いと受け入れられる寛容さがあった。今回のことだってそうだ。平沢なら俺の妙な性的嗜好だって受け入れてくれるだろうと、そういう甘えがあった。実際、嗜好に関して言えば否定はされてはいない。誰とでも、という部分に関しては――まあ常識的な人間なら止めるだろう。そこは仕方がない。
しかしまさかこんな事になるとはなあ――。
平沢を伴って帰宅し、取り敢えず荷物を下ろす。時計を見ると午後三時を少し過ぎたところだった。平沢は俺の方をちらちらと見ながら所在なげに立ち尽くしている。何だか可哀想になってきた。
「……やめるなら今のうちだけど」
そう声をかけると首を振り、ベッドと小さなローテーブルの間に座り込む。俺はその頑なな肩の線を見つめ、小さく溜め息をつくと冷蔵庫を指差した。
「飲み物、勝手に飲んでくれていいから。……俺、シャワー浴びてくる」
「ん」
カーテンも開けないままの薄暗い部屋の中、平沢の耳が赤く染まっているのが分かった。もう一度、小さく溜め息をついて洗面所へと向かう。手早く服を脱ぎ、慣れた手順で直腸の中を綺麗にし始める。
ああ、厭だな。平沢とセックスの真似事をするなんて厭だ。自らの精神的にも物理的にも汚らしくいやらしいところを唯一の友人の前で晒すなんて厭だ。何より、俺に反応できないことを真面目に気に病むであろう平沢の顔を見るのが厭だ。それが当然なんだ、と言ったところで駄目だろう。平沢とは――屈託のないただ友達でいたかった。
いっそ部屋に戻ったらいなくなっていればいいのに。そう思いながら俺は新しいボクサーパンツをに足を通し、迷った末にさっきまで着ていたシャツを素肌に羽織った。裸足で床に降り立つ。部屋には、試合に臨む剣士のようにぴんと背筋を伸ばし、蹠を立てた正座の平沢の背中が見えた。俺はその悲しくなるほど綺麗な姿勢から目を逸らせた。傍らのテーブルの上には何も乗っていなかった。
「……何でも飲んでくれて良かったのに」
平沢は音もなくしなやかに立ち上がった。振り向いて、俺の姿に少し動揺した後、こちらを見つめたまま一歩踏み出した。
「チューハイしかなかったから。……俺は、これからのことを酒の勢いとかにしたくない」
真っ直ぐな目が突き刺さり、胸が痛んだ。本当に、いい奴なのだ。それを俺はこれから壊さなくてはならない。俺は小さく溜め息をつくと、棚の上にあったリモコンを手に取り、エアコンの温度を上げた。どうせ体温は上がることなく終わる。シャツを羽織っただけでは肌寒かった。
「……お前も脱げよ」
俺はベッドに腰を下ろし、立ったままの平沢を見上げた。平沢は頰を上気させたまま、いたく真面目な顔で着ていたTシャツに手をかけた。背中からたくし上げ、首を抜く。薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から射す一本の細い陽光が、剣道で鍛えたというギリシャ彫刻のような身体に複雑なラインを描いた。見惚れるほどに引き締まった綺麗な肉体だった。カーゴパンツを脱ぐか脱ぐまいか悩んで、結局上半身だけ裸の姿で平沢は俺の隣に座った。だが俺は入れ替わるように狭いベッドにさっさと寝転がる。
視界いっぱいの見慣れた天井。俺の体臭が染みついた引きっぱなしの敷布団。顔を横に向ければ、実家からわざわざ持ち込んだお気に入りのものや、入学してから増やした本が詰め込まれた大きな本棚。それらは紛れもなく俺にとっての日常で、この非現実的な時間が現実と地続きであることを否応なく突きつけられ、息が詰まった。
ぎしり、とスプリングが軋んだ。脇の下辺りが重みで沈む。見上げると、俺の上に覆い被さった上半身裸の平沢が、熱っぽい目で俺を見つめていて――俺は急激に死にたくなるほど恥ずかしくなった。耳まで真っ赤になった自分の顔を上げた両腕で隠す。
考えてみれば、俺は今まで、自分のテリトリー内でセックスしたことがなかったのだ。自分の家で、互いに互いをよく知る人間相手に、本来秘するべき精神的・肉体的恥部を晒す。俺という情報の全てが紐付けられたまま、「佐藤涼介」として「平沢圭」と相対する――。
「や、やっぱやめよ、平沢……」
額や顎の下、脇腹の辺りから変な汗を吹き出しながら、羞恥に炙られた顔を隠し、蚊の鳴くような声で言った。半泣きと言っていい。俺はもう、ただただ今の状況が恥ずかしくて、情けなくて、消えてしまいたい気持ちでいっぱいだった。煽るべきではなかった。試すべきではなかった。完全に拒絶して、一線越えるための足すら上げさせてはならなかったのだ。
「厭だね。俺は涼介を抱くんだ」
それなのに、平沢は隠した腕の隙間から覗く耳元に、いつもはソフトな声を艶めかせてそう囁いたのだった。思わず変な声が漏れそうになるのをかろうじて堪える。まるで頭の中に心臓があるかのようにどくどくと耳の奥で拍動が谺した。腕が掴まれ、閉じた瞼の上から薄明るい光が射した。涼介にはきっと、真っ赤に染まった俺の顔が見えているのだろう。そう思うと更に羞恥が深まり、じわりと汗が吹き出す。それを隠そうと俺は腕を上げようとしたが、容易く平沢の腕に阻まれてしまった。
「涼介」
せめてもと横を向いたままの俺のこめかみに柔らかなものが押し付けられた。それから、まるであやすように、固く閉じた瞼に、熱を持った頰に、強張った口元に、ちゅ、ちゅ、と湿った音を立てて吸い付いた。たまにふわりと漂ってくる平沢の体臭がふと鼻腔をくすぐり、現実が俺を打ちのめす。俺はもう耐えきれなくなって正面を向いた。
「平沢っ……も、やめ――」
触れ合う額。擦れ合う鼻先。至近距離で覗き合う瞳。俺の腕を押さえ込んでいた平沢の掌がゆっくりと這い上がり、指の間に平沢の無骨な指が次々と滑り込んでくる。その手の繋ぎ方に、俺は平沢の意図をやっと察した。
こいつは俺を恋人のように抱こうとしている――。
「平沢……ん、っ……」
柔らかい唇が重ねられた。俺は口付けというものがどうも嫌いだった。よく知りもしない奴に顔を触られるのが厭なのだ。頭部というのは五感の集合体であり、内部にも外部にも情報が集積する器官だ。謂わば急所と言っていい。見知らぬ男に身を任せられるくせに、頭部にだけはやけにこだわりがあった。下手に傷などつけられても隠せないからだ。
だから、いつも抱かれる時は大きな伊達眼鏡をかけて、顔を覚えられないように、顔に触れにくいようにしていた。それでも何度か口付けられたことはあったが、気持ち悪くて仕方がなかった。けれど、平沢はもちろん俺の顔を知っているし、酷いことをするような奴ではない、ということを俺は知っている――。
平沢は何度も唇を啄ばみ、下唇を甘噛みし、時折舌先で舐めた。ぞくぞくと背筋を甘いものが走っていく。気持ち悪いはずの口付けは、唇が性感帯であることを教えるばかりで俺は困惑した。時折、平沢の前髪が皮膚を掠めるだけで、くすぐったさの中に甘さを感じて身をすくめた。口付けながら、平沢が片手で俺の頰や耳を撫で、髪に指を差し入れ、優しくまさぐる。自由になった手で口付けを止めさせるために平沢の肩口に触れたが、その肌の熱さに指先が、じん、と痺れた。
「涼介……」
興奮に掠れた囁きに目を開けると、間近で平沢の茶色い瞳とぶつかり、思わずぎゅっと強く目を閉じた。ふ、と平沢が息だけで笑う。格好の悪いところを見られていると思うと余計に熱が上がっていく。再度唇が押し付けられ、熱い舌が唇を割り込み、内側を舐めた。髪に差し入れられた指の腹で優しく地肌を撫でられ、さざ波のように甘さが全身に伝播していく。力の抜けた口内に熱い舌が侵入した。
「んっ……」
舌先同士が触れ合う。ぬめりとざらつき。舌の裏を舐められ、誰のものとも知れないとろりとした唾液が舌を伝い落ちていく。かすかにミントの味がする。くちゅくちゅといやらしくくぐもった音が、激しく脈打つ鼓動とともに脳を掻き回す。どこかスパイシーで、シャンプーか何かと混ざってかすかに甘い平沢の嗅ぎ慣れた体臭。震える瞼を開くと、こちらをじっと観察する興奮に濡れた平沢の瞳と視線が絡む。
酸欠のようにぼんやりとした頭で思う。五感の全てが揃った頭部で粘膜同士を絡ませ合う口付けというものは、もしかすると最もいやらしい行為なのではないだろうか。何しろ、頭部というのは性感を生み出す脳髄が仕舞われている部位なのだから。
唇がようやく離れ、いつの間にか名残惜しそうに飛び出していた舌先を慌てて口内に引き込んだ。何度も擦れ合った唇はびりびりと痺れていた。恥ずかしさに横を向き、恋人繋ぎをされたままの自分の手に鼻先を擦り付けるようにして顔を隠す。また、ふ、と平沢が息だけで笑った。
「……っ」
顔を背けたことで露わになった首筋に唇が押し付けられた。熱い舌が首筋を辿り、胸板に口付け、ふと離れた。薄く横目で見ると、つんと勃ち上がった胸の尖りを観察しているようだった。アナニーのついでに乳首も触っていたから、小さいながらもそこは今では立派な性感帯となっている。熱い息に、敏感な皮膚が震える。
「……舐めていい?」
今更それを訊くのか。
「……勝手にすれば」
つっけんどんにそう言うと、笑みを含んだ目でこちらを見つめたまま、平沢は赤い舌を出した。……あ、触れる。触れてしまう。俺はその舌の動きから目が離せない。
「……、ぅ」
小さな肉の粒を平沢の舌先が捉えた。くにくにと舌先で弾かれ、切ない疼きが身体を駆け巡る。繋いでいた指に力がこもり、応えるように平沢の親指が俺の親指の付け根を撫でた。それだけで俺は思わず身体を揺らしてしまう。
「っ、……っ」
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「……そんなとこ、舐めて楽しいか? お前の好きな大きいおっぱいじゃないから、……っ、やりづらいだろ……?」
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「涼介が気持ちよさそうだから、すごく楽しいよ」
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「……っ、おい、あんま、吸うな……、っ」
「ごめん、痛い?」
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「……吸引すると肥大するらしいから、やなんだよ……」
「……そっか」
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「……っ、ふ……」
舌と指の両方が、敏感な乳首を捏ね回す。俺の上で頭だけ下げた四つん這い姿勢になっている平沢はまだ気づいていないだろうが、乳首を弄られる度に俺の腰は跳ね、下着の中で肉竿は既に勃ち上がり始めていた。乳首からの甘い刺激は、何故か腰の奥を切なく疼かせる。平沢の丹念な愛撫が容赦なく俺を追い上げていく。俺はなるべく変な声を聞かせないように、余裕あるように見せかけることに必死だった。
だって、俺はすっかりできあがりつつあるのに、平沢にその可能性はないのだから。
俺の角度からは見えないが、こんなことをしたところで勃つわけがないのだ。俺がしゃぶればワンチャンあるかもしれないが、平沢が男の身体を触ったところで欲情する要素がない。「ほらな、そう言っただろ。だから気にすんなって」と、俺は平沢に言わなければならない。自分だけ燃え上がった身体を隠して。
俺たちは元の、ただの気の合う友人に戻れるのだろうか。
まだ、今なら――。
「っ、平沢ぁ……」
俺は覆い被さっていた平沢の身体を力づくで押しのけると、脚を抱え込んで横向きの胎児のように丸くなった。鼻の奥がツンと痛んで、じわりと涙腺が緩んだのが分かり、俺は枕に顔を埋めた。
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