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第5章崩れゆく世界
67演説
しおりを挟む「死なない覚悟はあるか?」
グラウンドを一望できる高所から石黒大将はその言葉を放った。
巨大な十字架の横部分に立ち、優しい表情を向けて。
◆◇◆◇◆◇◆
一気にざわつく会場。参加者達は口々に石川の言葉の意図を探ろうとしていた。
「おい。なんだよあの自衛官」
「……死なない覚悟?」
「ダンジョンって。そんなに危険な所なの」
「気になる。どういう意味なんだろ?」
グラウンド中から聞こえる雑音。ダンジョン攻略部隊の為に集まってきた人達の声だ。
突然現れた高齢の自衛官に、死なない覚悟はあるか?、と聞かれたのだから無理はない。
混乱しているのだろう。
辺りを見回すと他の自衛官はビシッと石黒に敬礼をしていた。
「すごいな。石黒大将は…」
俺は周りの光景を見てそう思ったんだ。
自衛官に敬礼されているとか、そういう意味じゃないよ。
全員だ。
この場にいる全員が石黒大将を凝視していたんだ。
彼の言葉には人を惹きつける力がある。そう、確信したね。
全員が彼を見上げて次の言葉を期待して待っている。
そんな彼らに向かってもう一度微笑(ほほえ)むと石黒は言葉を続けた。
「死なない覚悟……。諸君らはこの言葉の意味をどう思うだろうな。勘違いして欲しくないのじゃが、優しい心遣いや、ただの偽善を意味するのではないぞ!」
「「「イエッサー!」」」
周りの自衛官達が石黒大将に向かって応(こた)えている。
それを見た石黒は笑っていた。
「ははは。ダンジョン攻略部隊へ応募した者は、やらなくていいからな? さて少し昔話をしようか。部下を大勢死なせた無能な指揮官のな」
無能な指揮官の話。この話をする時、彼の表情は真剣なモノへと変わっていったんだ。
無能な指揮官。つまり石黒の事を話している時に。
「あれはダンジョンが出現した直後じゃった。政府から指令が通達されたんじゃ。自衛隊をダンジョンへと派遣せよ、とな」
石黒が話し出すと会場はまた静かになった。異様な雰囲気だ。
そして。
「「うぐっ」」
石黒が話し出すと敬礼していた自衛官が涙を流し始めたのだ。
よく見ると、受付で俺を馬鹿にしていた男も泣いている。
何があったんだろうか?疑問に思った俺は、さらに石黒の話に集中した。
いや、俺だけじゃない。
この場にいる全員が彼を見入っている。その中で石黒は話を続けた。
「ダンジョンへ派遣せよ、との指令。それは到底受け入れられるモノでは無かった。然るべき準備をして、未知なる地域へと入るべきだったのだ……しかし儂は」
石黒が言葉に少し詰まると一人の若い自衛官が話しに割って入った。
「あれは……大将のせいじゃありません! あんなの誰にも予想が……」
自衛官の1人が石黒大将の言葉を遮ったのだ。
それを見て石黒は、その自衛官に向かってゆっくりと掌(てのひら)を向ける。
やめろ、という意味なのだろう。
その自衛官は悔しそうに地面を見つめて、拳を震わせていた。その中でも石黒は話し続ける。
「その無能な指揮官はじゃな。人員と武器を揃えて未知なる空間へと部下を出陣させたんじゃ。結果は全滅。1度の投入で数百人規模の犠牲者を出してしまった」
石黒の言葉にグラウンドは静まり返る。
ニュースではこんな事報道していない。多くの自衛官が犠牲になったという事は知っていたが、まさか全滅なんて。
自衛官以外の人は地面を見つめていた。
己の選択は正しかったのか?と。
しかし、これで石黒の話が終わるわけではなかった。
「全滅はした……。だが、無駄死にではないのじゃ。部下は自らの命を顧みず、限界までダンジョンを進んだ。そのおかげで各ダンジョンは、ある一定の区域まで化け物は出てこない。部下達は化け物達を地上に出さないよう、尽力したのじゃ……」
バッ!……。
石黒は突然、俺達に向かって敬礼をする。そして、こう叫んだんだ。
「儂の死んだ部下達は、諸君らが死ぬ事を望んでいない! 自らの命をかけて切り拓いたダンジョンが、諸君らの命を切り刻む事を望んでない!!!」
スー……。
石黒は深呼吸をすると最後の言葉を放った。
「諸君らを死なせると、儂は死んだ部下達に顔向けが出来なくなるのじゃ。死なない覚悟がある者のみ、この場に残ってくれ!」
石黒の言葉にグラウンドは再び静まりかえる。しかし、今回は失望が原因じゃない。
この場にいる全員が、石黒大将を燃える瞳で見つめていた。
俺達は絶対に死なない、自衛官達の意思を継ぐ。
と。
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