チートスキルと無限HP!〜いじめられっ子は最弱職業だが、実は地上最強〜

ボルメテウス

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第5章崩れゆく世界

69緊急事態

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「え?」


 俺と氷華と火憐はグリーシャさんの顔を見つめていた。
 だってそうだろ? ロシアの保管庫から勝手にアイテムを出すなんて正気じゃない。
 特に火憐なんて汚物を見るような視線をグリーシャさんに浴びせていた。


 ◆◇◆◇◆◇


「グリーシャさん。本当に大丈夫なの? 別の意味で蓮の命が危ないんじゃない?」

  
 耐えかねて火憐は俺達の心を代弁してくれた。
 さらに、俺と氷華の困惑する顔を見てグリーシャさんは首を傾げていた。
 全く危機感がないようだ。


「ん? どうかしまシタカ?」


 こちらの気持ちが伝わってないみたいだから、俺から直接聞いたよ。
 でも治療してくれた事に変わりはないからね。優しく丁寧に質問をした。
 言葉は恐怖で震えていたかもしれないけれども。


「グリーシャさん。勝手にって聞こえたんだけど。まさか俺の手にかけたのって」
「YES !ロシア軍の倉庫から拝借してきたんデス!」


 俺の頭は真っ白になった。
 バレたら殺される、いや、国際問題に発展するんじゃないか。ってビクビクしていたよ。
 でも思い出したんだ。グリーシャさんがさっき言っていた言葉を。
 俺は一縷の望みを持って彼女に再度訪ねた。


「でもさっき、グリーシャさんは自分で探索してきたって言ってませんでしたっけ?」


 そうだ。もし個人で取ったなら問題ない。
 ロシアの保管庫っていうのはロシアジョークなんだ。きっとそうだよ。ははは。


 そうやって何とか気持ちを落ち着かせようとしてるんだけど、血の気が引いていくのが分かる。
 俺の顔だんだん白くなっているのかなって思ってた。


 だって軍隊。しかも外国の軍隊だぞ。
 そんな所から勝手に取ったら俺、犯罪者になるんじゃないかって不安なんだよ。
 でも俺のひきつる表情を見ても、グリーシャさんは笑っていたんだ。


「HAHAHA! ジャパニーズは心配性デスネ! 確かに私がアイテムを取ってきましたけど、所有権は軍隊にありマス。私、ロシア軍に所属してますカラ!」


 この発言を聞いて俺達三人はみな同じことを思ったであろう。
 所有権は軍隊にあります、て、じゃあダメじゃん!と。
 でもそれ以外に分かったことがある。


「……って事はグリーシャさん……。あなた軍人なんですか!?」


 俺は思わず声をあげてしまった。グリーシャさんが軍人とは思えなかったんだ。
 勝手なイメージだけど、筋肉ムキムキの厳(いか)つい男のイメージが強いんだよな。


 俺はひどく驚いたが、同時に心の何処かで微かな希望を抱いていた。
 何でかって?それは彼女が軍人だからさ。
 自らが所属している軍隊からアイテムを取るなら、もしかしたら何とかなると思ったんだ。
 恐る恐る聞いてみたよ。


「なんだ。じゃあ特に問題はないんですね」
「イエ~ス! バレなければ何も問題ないデス!!」
「……」


 やっぱりダメだった。グリーシャさんの答えに言葉の詰まる俺。
 そんな俺に向かって氷華が肩を叩いてきたんだ。


「ま……まぁ、よかったじゃない。傷も治ったことだし」
「え。俺ロシアから命狙われないよね?」


 一瞬会話が凍りついた。
 みんな、なんて言おうか考えているのだ。そんな中で火憐が言ってくれた。
 みんなが思うであろう無責任な感想を。


「多分ね……」
「まぁ最悪。スキルを使って逃げるよ」


 俺達三人の空気とはグリーシャさんは全く違っていた。


「HAHAHA! 大丈夫大丈夫! どうせ気づきまセーン!」


 高らかに笑うグリーシャさん。彼女はずいぶんとポジティブな性格のようだ。
 表情が一切曇っていない。
 俺には真似できないな……と歪んだ顔で彼女を見ていると後ろから足音が聞こえた。


 ザッザッザッ……。



「おい! 氷華様の幼馴染!!」


 この声は西園寺の声だ。後ろから聞いていても分かる。
 恐らく石黒大将の治療が終わったんだろう。元気な声だったんだ。
 それを聞いて一安心した俺は、ゆっくりと振り向いて会話を続けた。


「回復したみたいだな。西園寺」
「あぁ。自衛官の方に治療していただいたよ」
「全く。もうこれに懲りて氷華にはつきまとうなよ」


「分かった。今回は僕の負けだ。氷華様……ファンクラブは解散させて頂きます」
「は……はい」


 西園寺は氷華に向かってお辞儀をすると、悔しそうに拳を握りしめていた。
 想像していたよりもあっさりと負けを認めたので、氷華は驚いていたよ。


 俺もさ。
 そんな姿を見ていると少しやりすぎたかなって感情が湧いてきたんだ。
 でもそんな心配する必要なかった。
 西園寺は勢いよく上半身を上げるとまた勝手に約束を作ったんだ。


「ただし! 僕は、またきみに戦いを挑むだろう。その時に勝てばファンクラブを復活させていただきます!」


 俺は呆れた表情で西園寺に言ったよ。


「西園寺。お前やっぱ懲りてないだろ」
「ははは。懲りているさ! 次に戦うまでにレベルを上げておくよ。ちなみに僕は第2班の班長だ。よろしく!」
「へぇ……。班長なんてあるんだな」


 西園寺は不思議そうな顔をして、この班の事を教えてくれた。
 どうやら番号には意味があるようだ。


「君……受付で聞いてないのかい? 班の番号が低ければ低いほど、その班全体の戦力が大きくなるんだ」
「え? てことは俺らの班が1番強いのか……」


「それはもちろんさ、キングである氷華様がいるからね。でも……君も相当強いね」
「ありがとう」


 西園寺は俺の力を認めてくれたようだ。
 俺のことを強い、と初めて言ってくれたんだ。少し照れくさくなったよ。
 そして、あいつは俺にも頭を下げてきたんだ。


「ダンジョンで何かあったら氷華様を頼むよ。僕も近くにいたら援護するけどさ」


 でもさ。そんな心配いらないよ、だって氷華はもともと強いんだから。
 西園寺の心配を俺は笑い飛ばした。


「ははは。氷華がピンチになる場面なんてないだろ!」
「うん。そうだと思うんだけどね。氷華様を慕う身としては心配なんだよ」
「安心しろって! 大丈夫だ。何かあったら西園寺おまえを倒したスキルで氷華を守るからさ」


 さっきの戦闘でお互いの事を知った俺たちは仲良くなっていた。
 言葉の掛け合いもさっきあったようには思えない。
 俺の冗談にも西園寺は笑顔で返してくれた。


「ははは。君も言うねえ!」
「悪かったよ。まぁ、でも大丈夫だろ。今回はダンジョンで装備を見つける事が目的なんだし」
「それもそうだな。もうそろそろかな? ダンジョン探索が始まるのは」


 西園寺がそう言って腕を組んだ。その瞬間だった。
 拡声器を使って1人の自衛官が驚くべき事を口にしたのだ。 


〈えー。皆様、申し訳ございません。本日は中止とさせていただきます〉
〈えー。繰り返します……〉


 突然の中止の報告に会場全体がどよめく。もちろん俺達も動揺していた。
 先程あれだけの演説をしておいてなぜ中止するのか? 
 俺には理解出来なかった。


 確かに会場全体で異変は感じていた。
 自衛官達が無線で慌ただしく何かを話している。顔つきもさっきまでとは全く違うのだ。
 一人一人が険しい表情で慌ただしく移動している。


「何が起きているんだ?」


 そんな状況に困惑する俺達の前に石黒大将が歩いてきたんだ。
 悲しそうな顔をしながら手を後ろに組んで。


 ザッザッザッ……。


「どうしたんですか! なぜ中止に……」


 近づいてくる石黒に対して俺は声を荒げた。
 でも、言葉を言い終える前に石黒大将が軽く頭を下げてきたんだ。


 君達の力を貸して欲しい、と。


「どうしたんですか一体……」


 俺の質問に石黒はゆっくりと悲しい険しい表情で答えてくれた。
 どうやら、緊急事態のようだ。


「実はな。今しがた政府から連絡があってな……。一般市民が怪物達に囲まれたらしいのじゃ。今の所は身を潜めておるらしいが、早く救出せねばならん」
「まさか」


 石黒大将の言葉に俺は血の気が引いていくのを感じた。
 一般市民が怪物達に囲まれるという事はつまり、ダンジョンの外へ怪物が出てきたという事だ。


(遅かったか……ダンフォールさんが言ってたみたいに、怪物達が地上に出始めたのか……)


 俺は地面を見つめながら石黒大将に確認した。もう手遅れなのかと。


「そんな……怪物達が地上に出たって事ですか?」


 俺の質問に対して石黒大将は即答しなかったんだ。しかし少しの間を置いて答えてくれた。



「いいや違う。儂らが向かうのは……」


 地下鉄構内じゃ。
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