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第5章崩れゆく世界
70出陣
しおりを挟む「地下鉄構内じゃ」
石黒大将の放った言葉に俺達は固まっていた。
だって信じられないだろう……。ダンジョン以外にまで化け物が現れるなんて。
しかも一般人が化け物達に囲まれているなんて。
◇◆◇◆◇◆◇
「……」
石黒大将の言葉の後には暫(しば)しの沈黙が訪れた。
俺だけじゃない。
後ろにいる氷華や火憐にグリーシャさん……。それに隣にいる西園寺も驚いている様子だ。
「ふむ」
それを見た石黒大将は自ら会話を再開させた。
先程の演説時に見せた柔らかな表情ではない。気迫に迫るような真剣な瞳で。
「本来なら王である彼女のみに頼むじゃろうが先程の戦闘を見て分かった。蓮君や西園寺君にも是非、救出作戦を手伝って欲しい」
「石黒大将」
俺は石黒の誘いを素直に受け入れるつもりであった。
どのみちダンジョンに入るなら、この救出作戦に入れてもらった方がいいに決まっている。
それに気になることがひとつあった。
「何だね? 蓮君」
「どのくらいの人数で突入するつもりですか?」
「ほぅ……」
驚く石黒大将の顔。俺が断るとでも思っているのだろうか?
全く俺の心は、もう決まっているんだ。
救出作戦へ参加するに決まってるじゃないか……。自衛官の力を侮(あなど)っているわけじゃないけどさ。
多分……大勢死ぬだろう。
俺はそれを見て見ぬ振りなんかできないんだ。
そう。俺はクラスメイトとは違う。
俺が虐められている所をただ黙って見ていたクラスメイトとは。
俺は決意を秘めた目で石黒大将を見つめていた。
すると、その思いが彼にも伝わったようだ。少し微笑(ほほえ)むと質問に答えてくれた。
「恐らくじゃが、儂を含めて10人程度で行こうかと思っとる。場所が狭いでな。戦車も入らんじゃろう」
「なるほど。ありがとうございます……。で、どうする? 氷華と西園寺は参加するのか?」
俺と石黒大将が会話をしている間、氷華と西園寺は口を挟んでこなかったんだ。
この救出作戦に参加するのかまだ悩んでいるんじゃないかな?
そう思って2人の方に目を向けると思わず笑ってしまったんだ。
氷華も西園寺にもそんな事をいちいち聞く必要なんてなかったんだ。
「ははっ……何だよお前ら……」
俺は2人の顔を見て確信した。もう既に決意が固まっている。と
氷華も西園寺も、しっかりと石黒大将の顔を見つめていたんだ。
そしてそのまま2人とも口を開けた。
「私も行くわよ! 王としての役割を果たさないとね」
「ふふっ。やはりそうですか……氷華様が行くところ……僕がお供いたします」
西園寺の言葉に俺は少し呆れていた。
「カッコつけてるとこ悪いんだけどさ。西園寺……お前、その刀で行くの?」
「あっ!」
俺が言うべき事じゃないと思うけどさ。西園寺の刀はまだ折れたままなんだ。
俺との戦闘中に折れたやつね。
西園寺は折れた刀を悲しそうに眺めていたよ。
「僕は……ついていけないのか……」
「安心しろ。さっきの約束は必ず守る。氷華を危険な目に合わせないからさ」
俺と西園寺が話していると横から氷華が顔を出してきた。
なぜだろうか。不満そうな顔をしている。
「蓮と西園寺君? 石黒大将が来る前から聞いてたけど、私そんなに弱くないわよ?」
「「……」」
氷華は腕を組んでニッコリとしていた。
たしかに改めて見てみると、大剣を背中に装備して鎧もしっかりとしている。
むしろこちらの方が助けられそうだ。
(なにも言い返せねぇ……)
俺と西園寺が何も言い返せないでいると石黒大将が西園寺に話しかけてきた。
グリーシャさんを指差しながらね。
「西園寺君。刀は彼女が用意してくれると思うのじゃが。なぁ、グリーシャさん?」
石黒大将の言葉にグリーシャさんはひどく驚いていた。
どうやら二人には面識がないようだ。
「……あ……あなた。なぜ私の名前を知っているのデスカ?」
「君の上司と話は通(とお)しているからのう。自衛隊に協力すると聞いておる、お主はロシア軍の諜報部隊におるんじゃろ? 期待しておるぞ」
石黒の話を聞いていたグリーシャさんは苦い顔をした後に、地団駄を踏んでいた。
上司に騙されたようである。
「あの上司! 何、勝手に決めてるんデスカ!!」
グリーシャさんは顔を引きつらせていた。恐らく休暇で日本に来たつもりが、実は仕事もしなければならないと分かったからだろう。
石黒大将は笑いながら会話を続ける。
「ははは。まぁグリーシャさんには救出作戦を手伝ってもらうつもりじゃよ。あと、西園寺君に新しい装備を与えてくれないかのう? スキルの事は上司から聞いたんじゃ」
「……Oh……。救出作戦は分かりマシタが……流石に、装備をロシア軍の倉庫から持っていくのは危険デース」
あのグリーシャさんが困惑した顔で後ずさりをしている。
アイテムならまだしも、装備を勝手に持っていくと、バレた場合が相当マズいらしい。
しかし石黒大将は引かなかった。
「確か日本にいる間の滞在費は自衛隊が負担する事になっているんじゃが。西園寺君に装備を貸してくれれば、渡せる金額が増えるかもしれんのぅ~」
石黒がニヤリとした顔でグリーシャさんを見つめていると、彼女は腕を組んで下を向いてしまった。
「私もなめられたものデスネ……。お金でつろうとするナンテ」
そう言うとグリーシャさんはこちらに背を向けた。
流石の彼女も危険を冒してまではスキルを発動しないという事なのだろう。
俺はその背中を見てなんだか不安になったんだ。
日本人は金で物事を解決する、なんて思われたから嫌だからね。
「グリーシャさん。嫌なら無理しなくていいですよ。西園寺も大人しく帰るでしょうし」
そんな心配もつかの間。
彼女は何食わぬ顔でこちらをまた振り向いた。心配したのは損だったよ。
「ん? 何言ってるんデスカ?」
「……」
カチャッ……。
振り向いたグリーシャさんを見て俺は絶句したよ。彼女の手は刀があったんだ。
要するにスキルを使って装備を取り出したって事さ。
ロシア軍の倉庫からね。
グリーシャさんは笑いながら石黒大将に声をかけていた。
「HAHAHA! この事は上司に秘密デスヨ!」
「もちろんじゃグリーシャさん! 救出作戦後にしっかりとお礼をするからの!」
「ありがとうございマース!」
カチャ……。
「どうゾ」
グリーシャさんは石黒大将に向かって微笑(ほほえ)むと、その刀を西園寺に渡した。
「大事に使ってくだサイネ! さっきのと似たのを選んでキマシタカラ!」
「ありがとうございます。これで僕も戦える……」
チャキッ!
西園寺は刀身を鞘(さや)から抜いて眺めている。これでとりあえず決まったんだ。
俺と氷華、西園寺にグリーシャさん。
そして石黒大将。
この5人にあと数人の自衛官を加えたチームで救出作戦を実行する。
しかしもう一人を忘れていた。火憐である。
彼女は足を負傷していて連れて行くには危険すぎる。
でも、彼女は行く気らしい。
「蓮。私がヤバくなったら助けてよね」
「本当についてくるの?」
「もちろんよ。もしダメそうなら地下鉄の入り口で待ってるから」
火憐の顔を見て俺は頷くことしか出来なかった。
そのセリフを言いながら俺の袖口を掴んできたのだ。断りようが無かった。
さて、俺達の会話が終わり、西園寺に刀が渡った所を見ると石黒は戦車を指差してこう言った。
「では戦車に乗り込むのじゃ! 詳しい事は現場で説明する!」
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