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第5章崩れゆく世界
71届かぬ想い
しおりを挟む「戦車に乗り込むのじゃ」
石黒大将の言葉で俺達は戦車へと走った。地下鉄構内に残された人々を救出するために。
◆◇◆◇◆◇◆◇
キュララララララ……。
俺達は分かれて戦車の中へと入ったんだ。
そして、俺は1人で乗り込んだ車内の中座り込んで黙っていた。
そうすると聞こえてくるんだ。俺達以外にも戦車が多く出ていると。
石黒大将は10人程度で突入すると言っていたが、恐らく他の地下鉄内にも化け物達が出たんじゃないだろうか?
しばらくすると、外から聞こえる戦車の走行音は先程より遥かに大きなものへとなっていた。
キュラララララララ!!
これを聞いて思ったよ。これじゃあまるで戦争みたいじゃないかってさ。
〈ジジッ……〉
この音は無線で通話する時の音だ。
さっきから聞こえるが、どうやら他の救出作戦は上手くいってないらしい。
〈こちらチームα! 自衛官数名を残し……全滅……撤退もできません……どうか救援を………〉
〈ジジッ……〉
〈こちらチームβ! 先程から先遣部隊との連絡が……取れなくなっており……混乱しています………どうかご指示を……〉
戦車にいる一人の自衛官がその無線に答えていた。
その表情は冷静を装っているが、眉間にしわを寄せているようだった。
「了解! α、βじきに追加の部隊を投入する! 各自それまで身を隠せ!!」
〈プツッ……〉
そうやって無線を切ったのは受付で俺を馬鹿にした自衛官だった。
どうやら彼。ただの下っ端ではないようだ。
石黒大将に確認を取らず、自らの判断で応答していたからだ。
俺は近くにいた石黒大将に話しかけた。
「石黒大将……彼も指揮官なんですか?」
「ん? あぁそうじゃ。まだ若いんじゃがのう。優秀じゃよ。指揮官クラスで作戦に参加するのは、あいつと儂くらいじゃ」
「そうだったんですか」
俺がその男に目を向けると彼も気づいたようだ。前を向きながらだがこちらに話しかけてきた。
「まさか、君が救出作戦に加わるとはねぇ。受付であった時は思ってもみなかった」
「俺もですよ。まさかあなたと一緒に作戦を実行するなんて」
「ハハッ! 世の中何が起こるかなんて分からねぇなぁ」
「そうですね……。でも、なんで指揮官クラスのあなたが、作戦に参加するんですか?」
俺が質問をすると、戦車の中の雰囲気が一斉に凍りついた。
どうやら聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。
彼は言葉を詰まらせながら、答えてくれた。
「実はな……1回目のダンジョン突入の際には……自衛官である妻も加わっていたんだ……」
「もしかして……それで亡くなって……」
俺がそう言いかけると隊員が急いで否定した。
「いいや! あいつはそんな事で死ぬような奴じゃねぇ! 俺がダンジョンを這いずり回ってでも探してやる」
「……」
そうやって覇気を吐く隊員。しかしけ彼の背中はどこか寂しげだった。
彼も心の何処かで思っていたんじゃないかな。もう生きていないんじゃないかって。
俺が彼の背中を見つめていると落ち込んでいく気持ちに気付いたのか、石黒大将が話しかけてきた。
「蓮君。この救出作戦について、もうそろそろ説明してもよいかのう?」
「はい! お願いします」
「まず先程の無線で分かったと思うが、地下鉄の全ての区画で怪物が発生しておる。そして、各駅毎に自衛隊が突入しておるのじゃが、結果はご覧の通りじゃ」
「全ての駅でって事ですか。じゃあ、俺達はどの駅に向かうんですか?」
俺の質問に石黒大将はよくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに顔をニヤつかせた。
「儂らが突入するのは最も人の出入りが多い区域。帝都駅じゃ。幸(さいわ)いなことに数カ所の出入り口は、依然として自衛隊が制圧しとる」
「数カ所の出入り口?」
俺は全ての出入り口を制圧しないのはなぜかと思ったんだ。
でもそれは単純で、しない、のではなくて、出来ない、のであった。
石黒が答えにくそうに話し出す。
「制圧出来んかった駅の出入り口は爆破して封鎖したのじゃ」
「そんな事をしたら何も知らずに逃げようとした人が……」
「大丈夫じゃよ。まだ生きとる人間は、主要な駅しかおらんはずじゃ。警察に助けを求める電話はそれ以外からは来ておらんらしいからの」
石黒大将は悲しげな表情を見せた後も会話を続ける。
「とりあえず、帝都駅から突入するわけじゃが儂らの任務は帝都駅の奥……線路付近に逃げた者達の救出じゃ。現在、自衛隊は少しずつ制圧領域を広げる事で救出しようとしておるのじゃが……全く前に進まなくてのぅ」
「つまり……制圧部隊と救出部隊に分かれてるって事ですね」
石黒はその通りだ。と指でジェスチャーすると頭を抱えた。
「その通りじゃ。しかし、先程のチームαもβも救出部隊なのじゃが。ほとんど機能しとらん」
「……」
俺は言葉を失ってしまった。
想像以上に状況が悪い。まさか、地下鉄全域にまで化け物が現れたなんて。
そう思って俺が下を向いたその時だった。
〈ジジッ……〉
「石黒大将! チームαから無線です!!」
別の隊員の呼びかけに石黒はすぐに無線へと走った。しかし石黒が無線に出ても反応がない。
〈……〉
「こちら石黒! おい返事しろ! チームα!!!」
雑音が入り混じる無線に微かだが、人の息の音が聞こえる。
少しすると弱々しい声で隊員らしき人物の音声を拾ったり
〈……に……げ……て〉
「おい! どうしたんだ!!」
石黒が無線機に向かって怒鳴ったすぐ後だった。チームαからの無線から変な声が聞こえたんだ。
〈……ウゥゥゥゥゥ……ワォォォオオーン!〉
「何があったんだ! 答えろ!!! チームα!!!!」
〈ブツッ……〉
「何があった!?」
最後に聞こえたのは狼のような遠吠え。
それ以降は石黒の呼びかけに応答が無い。いや、それどころか無線が切れる音が俺にも聞こえた。
それでも呼びかける石黒に対して別の隊員が肩に手を乗せる。
「……無線……切れました」
隊員の言葉に我に帰った石黒は無線機を置くとゆっくりと座った。
そして静まり返る戦車内。
その後、チームαから連絡が来る事は無かった。
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