73 / 123
第5章崩れゆく世界
72制圧開始
しおりを挟む「無線……切れました」
隊員の言葉で戦車内は静まり返ったんだ。後に響くは戦車の走行音のみ。
キュララララララ……。
戦車内の一同は皆、顔を下に向けていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
この沈黙の中で俺は思っていたんだ。
もう……救出する人々はいないんじゃないか?
もう……化け物共に襲われているんじゃないか?ってさ。
恐らく、他の自衛官達もそう思っているんだと感じる。この沈黙はしばらく続いたんだ。
重苦しい……いやな沈黙が。
キュラララララ……。
戦車の走行音が響く中、数分間。誰も口を開かなかった。
そんな重苦しい雰囲気で最初に口を開いたのは石黒だったんだ。
その内容は世間話ではない……死地に着いたという報告だった。
キュラララ……ラ……。
「着いたぞ……帝都駅だ……」
この中で1番権限を有する石黒大将が先に動く。意気消沈する隊員達に手本を見せねば、そのような気概を感じる。
それどころか無理矢理、笑顔を作って俺に話しかけてくれた。
「蓮君。儂らは先に行こう。1番大きな帝都駅への出入り口が、集合場所になっとる」
「はい」
なんで戦車を降りた所で集合しないんだろう?俺は疑問を抱えながら重い腰を上げて戦車から出た。
でも、その理由はすぐ分かる事になる。
外に出た瞬間……。視界が真っ白になったんだ。
パシャッ!!パシャッ!!
(うっ……眩しい……)
外に出るとカメラの大量のフラッシュに襲われたよ。思わず手で顔を隠す程だ。
そのフラッシュの方向からは人の声が聞こえる。
特に大きな声を発しているのは記者かな?マイクのような物を持って叫んでいるんだ。
まるで、自衛官を責め立てるように。
「……政府が地下鉄全域や、建物の地下部分を立ち入り禁止にしましたよね! 何があったんですか! 答えてください!」
フラッシュに目が慣れると徐々に状況が分かってきた。
自衛隊や警察が壁を作り人々を近づけないようにしているが記者や野次馬で溢(あふ)れ返っている。
その異様な光景に呆気にとられていると、記者からの質問がまた聞こえた。
「……また、自衛隊が銃器(じゅうき)を使用しているとの噂がありますがどう思われますか? これは……違法行為だと思うのですが!?」
ワーワーワー……。
様々な人がバリケードを作っている自衛官や警察に詰めかけている。
10m以上も離れているはずなのに、こちらまで聞こえてくる程だ。
この光景を見て、石黒大将が戦車から降りた所を集合場所に選ばなかった理由が分かったよ。
こんな所じゃ集中できない。
早く地下鉄構内に行こう。
こんな所に居たくない。俺は止めた足を動かして、石黒大将に導かれるまま帝都駅の出入り口へと向かった。
コツコツ……コツ………。
俺が帝都駅へと通じる階段に足をかけた。その時だった。
「うるせぇ! お前ら好き勝手に書きやがって!」
え? この声ってもしかして……。
後ろから聞こえる怒鳴り声……それは、俺がいた戦車の方向から聞こえたんだ。
「お前らが書いた記事でなぁ!! 第一次ダンジョン探索時にはろくな装備も出来なかったんだぞ!」
シーン……。
怒りに震える声……。その声の主は妻をダンジョンで見失ったと発言した隊員だった。
その姿を見て記者達は、カメラを下ろしてその隊員を見つめている。
そう。魂の叫びのような声は、場を静寂にさせたんだりもしかして自衛官の思いが伝わったんだじゃないかな?
そんな甘い考えを俺は持っていた。
しかし……。
パシャ……パシャ……パシャ。
パシャパシャパシャ!!!
「おぉ……ずいぶんと明るいのぉ……」
「石黒大将?」
その後、焚(た)かれる大量のフラッシュ。それを見つめる石黒大将の目はひどく冷たかった。
彼もこんな場所からすぐにでも立ち去りたかったのだろう。
俺に声をかけると1人で階段を降りだした。
「蓮君。早く行こうかのぅ。他の隊員ももじきに来る……」
「分かりました」
コツ……コツ……。
階段を降りる足音が響く。
そんな中で俺は地下に向かっている間、周りを見ていた。
化け物が出てきたって事は地下鉄内もダンジョンみたいに変わっているんじゃないかな?
そう思いながら辺りを見回したが少なくとも改札口へ続く階段はいつもと変わらない。
どこにでもある地下鉄の階段だ。
それに……。
ヴィヴィヴィ………。
この地点までは電気が通っているようだ。
多少暗くなったり明るくなったりと安定はしていないが視界は確保されている。
コツ……。
階段を降りきると俺と石黒大将は改札口に通じる大きな一本道を歩いていた。
そんな時に石黒大将は俺に声をかけてきたんだ。
コツコツコツ……。
「蓮君。一言、言っておきたいことがある……」
「どうしたんですか?」
「すまないな……」
「え?」
突然俺に向けて謝る石黒大将……。歩きながらだが確かに謝っていたんだ。
この作戦に誘った事を謝っているのかな?危険すぎるって事で。
俺は首を傾げながら石黒大将の背中について行った。
すると。
帝都駅の改札口が見えてきたんだ。人っ子1人いない……駅の改札口が。
それを見て俺は気づいたんだ。
ここは本来、制圧されているはずで自衛官がいるはずだ。
しかし。
本当にみんな避難したんだな。え?
みんな?……
みんな避難したのか?……制圧している自衛官達は?……。
あたりを見回しても自衛官が見当たらないのだ。いくら探しても人っ子一人いない。
「ここら辺かのぅ」
俺が混乱している中、石黒大将は突然足を止めた。改札口から離れた場所で。
そして俺に謝った理由を話したんだ。
前を向きながら。
「すまない。先程の説明は嘘じゃ。グリーシャさん達は外で待たせておる。すぐには来ないじゃろう」
「え? なんでですか? 制圧領域で集合って……」
「いや……実はな……。この出入り口、制圧に失敗してのぉ。本来なら爆破して塞(ふさ)ぐべきなのじゃが。1番大きなここを封鎖すると作戦に支障が出るんじゃ」
「という事は……もしかして……」
俺は薄々気づいてしまった。
力量を認められた俺は、石黒大将とここを制圧しなければならないようだ。
少し驚く俺に向かって石黒は声をかけてくれた。心配してくれているのだろう。
「気づいたかのぅ? 蓮君。儂と2人で今からこの区間を制圧してもらうぞ。外に待たせておる者達は制圧後に入れるつもりじゃ」
「……」
「怖いか? なら地上へ戻ってくれても構わんぞ」
「いいえ。もう無理ですよ」
そう。もう戦わずして地上に戻るなんて不可能だ。俺は気づいていた。
先程から犬のような呻(うめ)き声が聞こえる事に。後方から……しかも大量に。
『ガルルルル』
俺がゆっくり後ろを振り向くとあいつらが居た。
大型犬のサイズに頭は3つ……。狼の体と頭を有して目を真っ赤に輝かせている。
その姿はまさにケルベロス。
しかも……。
「お前らどこから湧いてきたんだよ?」
俺の目の前にいるケルベロスは10体以上だ。さっき通ってきた道のはずなのにさ。
でもまぁいいか。もう戦うしかないんだ。
俺は覚悟を決め目を閉じて深呼吸をした。そして臨戦態勢へと入ったんだ。
【ALL CHANGE発動します……】
そう俺はスキルを発動した。これで大丈夫。
後はこいつらを駆逐するだけだ。俺はケルベロスを見つめてこう言ってやった。
「行くぞ。化け物ども」
と。
0
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる